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グランバール防衛戦──1

「タンクとDPSはもっと前に出ろ!ただし“3門”から先へは行くなよ!」


「第二城壁はもういい、捨てろ!その近くにいるヤツらは下がれ下がれ!」


「第三城壁西側、ヒーラー足りません!あと5、6人来れますか?」


「こっち3人行けます!」


「西側……数が薄いです、2、3パーティほど支援お願いします!」


「座標送ります!ロトワゥ新民区(23.4 33.5)リカバリ(蘇生魔法)お願いします!」


()()はまだ沸いてないよな?沸いたら全員下がれよ!」


 プレイヤーたちの怒号や状況報告、要請が次々とアライアンスチャット(広域会話)に響く。プレイヤーたちは迷路のような市街地を走り回り、続々と侵入してくる帝国兵を撃退していく。そこらじゅうで魔法スキルや近接スキルのエフェクトが爆発のように大きな音を上げ、市街地の至る所から黒煙が柱のように立ち上っている。

帝国兵の一体一体は大したことは無いが、数で押してくる帝国兵に冒険者による義勇部隊……プレイヤーたちは防衛線を後退させるしかなかった。


エレデイアの西側に位置する城塞都市「ロトワゥ」。3重の城壁に囲まれた城塞都市の2層目までもが突破され、次々と蒼黒い樹脂製の甲冑に身を包んだ帝国兵や魔導兵器が都市内へなだれ込んできた。都市内は石で造られた家屋が重なり、その間にある通路がさながら迷路のようになっているが、帝国軍はその迷路のような通路を巧みに縫って第三城壁とよばれる城壁へ取りついていた。


「今回は数が多いな……」


帝国軍が次々と市街地へ侵攻してくる様子を城壁の上からプレイヤーたちが遠巻きに眺めている。一人のプレイヤーが額を拭う仕草をしながら呟く……。それに続き他のプレイヤーも次々と堰を切ったように口にする。


「なんせ前哨戦でやらかしてるからな」


「ここを抜かれたらもう後はねーぞ!」


「でも、何とか押し戻さないと……」


()()()()()()に頼るしかない。ここが落ちたらまた奪還戦になる」


「奪還戦かぁ……めんどいよね……」


 魔導要塞アーレデインを陥落させたエレデイア、レクテナント、ロムダールの三大軍事同盟は、エレデイアへの侵攻を食い止め、その後ガルドス帝国軍をかつてのデラドラ領土内まで推し戻すことに成功した。しかし──


──グランバール絶対防衛線──


デラドラとエレデイアの国境線にある緩衝地である。帝国軍のエレデイア領内への侵攻を阻むため、古代エレデイア時代の遺構を流用した長大な防壁「グランバール防壁」が築かれた。その長さは防壁の末端がレクテナント領内へも食い込むほど長大である。


デラドラ陥落後、ガルドス帝国は次の目標をエレデイアを目標に定めた。エレデイアへの侵攻当初は高さ30メルト(約30メートル)を誇る防壁が領内への帝国軍の侵入を防いでいた。

しかし3年による帝国軍の度重なる防壁への攻撃により、現在は長大な防壁の数か所が破壊されその綻びから帝国軍の小部隊が漏れ出し、エレデイアの領内を脅かしていた。


 中でも防壁と隣接する城塞都市ロトワゥは「精霊障壁塔」をその都市内に有しており、帝国飛行艦隊の侵入を阻害する精霊障壁塔の破壊は帝国軍にとって最重要目標であるため、帝国軍が度々グランバール防壁を越えロトワゥへ侵攻してきていた。ロトワゥは元々精霊障壁を守るために作られた都市であったが、現在はエレデイアの西半分を統治する副首都として機能している。

精霊樹海に守られたラーファムとは違い、ロトワゥは樹海からは外れている。大陸中央の……レクテナントのアレッソ大草原から続く“グローン平原”に築かれたロトワゥの街は、デラドラの国境とも接していたため巨大な城壁で囲まれていた。


 そのロトワゥを舞台に繰り広げられるのが「グランバール戦役」である。ブレオンにおける最大規模のプレイヤー参加型の大規模PvEコンテンツとして実装され、グランバール戦役はサーバーごとに発生するかどうかが決まっており、今回はメンテ直後だったこともありソーマがプレイしているサーバー含め、複数のサーバーで同時に発生した。


グランバール戦役は三つのフェーズによって行われる。


◆前哨戦……帝国軍前線拠点での妨害活動。ここで十分に完遂率を上げておくと帝国軍の侵攻度が弱まる。


◆侵攻戦……帝国軍の侵攻ゲージがMAXになると侵攻が開始される。侵攻軍への防衛行動により侵攻軍の脅威度が増減する。


◆防衛戦……帝国軍の侵攻がグランバール絶対防衛線を突破しロトワゥへ到達した時点で行われる。


今回開始された“グランバール防衛戦”は、前哨戦で発生する偵察クエスト「前線偵察任務」の完遂率が不十分であったため、帝国軍にかなり食い込まれた状態での開始となってしまった。

前哨戦と侵攻戦はインスタンスエリアでは無くパブリックフィールドで行われる。防衛戦だけは、おおよそ1,000人ほどを収容可能なインスタンスバトルになっており、防衛戦専用のインスタンスエリアへ飛び、他のプレイヤーと協力し帝国軍を撃退していくことになる。


「うわぁ……なんか凄いことになってますね……」


今回のグランバール戦役へはソーマも参加していた。


「前哨戦で十分に帝国軍の侵攻を阻めなかったんだろうな」


「前哨戦あれだけ頑張ったのにぃ……」


「これはまずい……ですね……」


戦況表(インスタンス状況)を確認しましたが、脅威度が最大になってます」


ソーマを含めトリンシックのメンバーも参加しており、ソーマと共に第三城壁の胸壁(城壁に備えられた凸部)の隙間から帝国軍の様子を眺めていた。ミクとリーサは胸壁から身を乗り出し迷路のような通路で戦闘しているプレイヤーを眺めている。


「とりあえず、我々は固まって動きましょう」


「脅威度が最大になると不味いです?」


「脅威度のレベルによってはボスが出てくる……かなりやっかいなヤツがな」


「最大値だと……アレが……」


クラウスが全員へ指示する中、ソーマの問いにアリスとボルフントが神妙な面持ちで答える。それほどまでにヤバイ奴なのか──ソーマは動揺するが、このグランバール戦役の報酬は非常に美味しい、そのため初参加ではあるが是が非でも防衛を成功させ、最大限の報酬を得ねばならなかった。


「脅威度が低いと経験値稼ぎにはもってこいなんだけどな!今回はカンストクラスでないと厳しいな」


()()を得るにはこれしかありませんから……」


「しかし、さっきも言ったように脅威度が最大なのはキツイな……」


「クリスタルを奪われると、ここロトワゥ以外にラーファムにも影響がありますから厄介ですね……」


「あぁん……わたし(ソウルセージ)のギルドがぁあ!」


メリアディが身震いしながら胸の前で両手を握りながら天を仰ぐ。

ロトワゥ市街地の中央部にはひときわ目立つ“精霊障壁塔”がある。この精霊障壁塔へ帝国軍が到達してしまうと防衛戦は失敗、精霊障壁の“要”となる「バリアクリスタル」を奪われてしまう。そうなると、今度はプレイヤーによる「奪還戦」が行われる。バリアクリスタルを帝国軍から奪還するまでは、ロトワゥで一部NPCのショップやギルド施設への立ち入りが禁止となるなどの使用制限が掛かる。


ソウルセージのギルドはロトワゥにあるため、奪還戦時には使用できなくなる。このことがソウルセージをメインクラスとしているプレイヤーにとっては死活問題であった。ちなみにこれについて、ソウルセージのギルドをラーファムか他の都市へ移すよう要望が上がっているが、運営は「仕様」として修正は行わず、現在までそのままとなっている。


「とりま西側の帝国兵を片付けよう!」


「今来ましたたた!!状況お願いします!」


「2門まで抜かれてますー。3門死守らしいですが……数が足りてません!」


「終わってるこれ……(笑)」


「今回は無理かも……軍師がおらん」


「うへぇ……」


そうこうしているうちにも、アライアンスチャットからは悲痛な叫びが次々と聞こえて来る。状況は非常に悪い……というのは初心者のソーマであっても周りの雰囲気である程度は察することができた。


「パーティを2つ作る。まずはアリス、ボルフント、レイジ、ドワイト、メリアディ……そしてソーマ、リーサ、ミク、ジンベイ、自分……これでいこう。軍師が現れそうにないならドワイトとわたしで軍師を」


「了解です」


「ともかく西側の帝国兵を押し戻さなきゃ……」


「まだ始まって20分ちょっとでこれか……先が思いやられるな」


全員が頷き、パーティ編成作業が始まる。クラウスにより班分けされ、トキンシックのメンバーは2つのパーティへそれぞれ別れる。パーティを組んでいれば通常のインスタンスバトルと同様にタンクからの守護やヒーラーの回復や支援を受けられるため、なるべくパーティを組むことが望ましかった。


メリアディとリーサによりソウルウォール(全体防御魔法)などの事前に付与する防御スキルの詠唱を終え、いよいよソーマたちは帝国兵との戦闘に突入する。


後に「竜鯖10日間戦争」と呼ばれる壮絶な10日間の始まりである──

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