表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/34

近づく気持ち

 ヴレインディア大陸において数あるクラスの中で、アークナイトの歴史は他のクラスに比べまだ浅い。元々シールドガードから枝分かれした経緯を持つアークナイトは、エレデイアで近衛騎士を務めていたルーダン・ガスロウによって高地都市デラドラで発展した。

ルーダンは近衛騎士だった経験を活かし、デラドラにそれまで無かった護衛騎士の概念を根付かせ、ルーダンは自身の名を冠した「ルーダン騎士団」を創設する。彼はデラドラ王家の要請で、騎士の育成を行い同時にデラドラ独自のクラス“アークナイト”を作り上げた。


 初期のアークナイトはエレデイアのシールドガードをベースにしていたため、起伏の激しい山岳地帯が国土を占めるデラドラでは、重装騎士であるシールドガードでは機動力に問題があった。そこでルーダンはデラドラの地形でも機動力を損なわず戦える、シールドガードに代わるクラスを新たに作り上げた。

シールドガードの特徴である大型の盾を廃し、山岳地での機動力を求めより軽装にシフトしながらも、攻撃力と防御力も維持するために、アークナイトの装備は小ぶりな盾と片手剣という装備に落ち着いた。


剣と盾による攻防一体と言うスタイルはアークナイトが使用するスキル(戦技)にも表れる。エレデイアのシールドガードや、レクテナントが発祥のルーンガードが防御力に重きを置いているのに対し、アークナイトは標準装備とする片手剣による剣技にも重きを置き、攻撃力と防御力を兼ね備えたクラスへ昇華した。


以降アークナイトはデラドラにおいて王家を守る近衛騎士団として、また有事の際は独立した遊軍として投入される文字通り「デラドラの剣と盾」となった、それが今日におけるアークナイトの基礎である。


 そしてアークナイトの真価が発揮される時が来た。大陸暦1849年に始まったガルドス帝国のデラドラ侵攻である。領土内に侵攻してきたガルドス帝国軍の強力な軍事力に対し、デラドラ国軍は瞬く間に劣勢に立たされる。そんな中アークナイトで構成された「ルーダン騎士団」だけはガルドス帝国軍に対し優勢を誇っていた。


その軽快な機動力を以てガルドス帝国軍の戦線を突破し、縦深突撃により何度もガルドス帝国軍本陣を脅かした。しかし、騎士団の奮戦も虚しく大勢はデラドラ王家による無条件降伏によりガルドス帝国の勝利に終わる。


 戦後、アークナイトの反抗を恐れたガルドス帝国は、占領地政策で何をおいてもまずルーダン騎士団の解体を真っ先に行ったほどである。解体され、総長以下将校であった者は牢獄に捕らえられ処刑を待つばかりであったが、当時のルーダン騎士団総長であった“ブリック・ガスロウ”が、部下の助命と引き換えに自ら進んで処刑されたと言われている。


しかしブリック・ガスロウの死には不可解な点があり、墓もなく埋葬された形跡もないことから、後に属国化されたデラドラにおいて、民衆の間にデラドラ解放戦線の首魁が元ルーダン騎士団総長ブリック・ガスロウではないか……という噂が広がる事となる。


──「グライユの街」──


 ソーマはグライユの街にある宿屋でジンベイから貰った新たな装備を試着していた。武器は以前から使っていた剣龍討伐で手に入れた片手剣から、なけなしのギルドトークンをはたいて交換した片手剣へ新たに更新した。


マーケットで流通している量産された刀身が真っすぐな、いかにも簡素な造りの片手剣とは違い薄く作られた刀身は三日月状に湾曲し鈍い光を放っていた。

柄の中央に赤い豪奢な宝石がはめ込まれ、その柄の先は刀身の曲がりとは逆にカーブしている。いわゆる「シャムシール」と呼ばれるもので、ヴレインディアではロムダールでよくみられる造りである。


冒険者ギルドによると「とある有名な刀工」が造った逸品で、めったに出回ってないらしい。そのようなモノをどうやって冒険者ギルドが仕入れているのかは謎だが……。


ヒュンヒュンヒュン──


剣の軌道が残像となってソーマの周りを舞う。目の前で剣を数回振り、馴染むかどうか確かめる。


「よし、いい感じだ。もっと早めに交換しておくべきだったか……」


ソーマはそういって、剣を鞘に納め目の前のベッドへ置いた。今度は防具の確認をする。胴以外はジンベイによって新たにエンチャントが施された兜に籠手、脛当て、大腿部を保護する草摺……などである。


 ジンベイの()()使()()を終え、以前から装備していたものからジンベイに貰った装備で更新したことによって、IL(アイテムレベル)は以前の“188”から“195”にまで上がっていた。

防具のエンチャントも確認する。以前の装備とはILやステータスほぼ変わらないが、エンチャントによる強化での追加プロパティ(装備特典)やクラス特性が以前よりステータスも数段上がっていた。とくに籠手つけられたクリティカル率アップのエンチャントや、草摺に付けられたスマイト効果(※)アップなどはアークナイト向けであると言えよう。


(※)スマイト(smite)は打つ、強打するという意味。スマイトの効果は盾でブロックした際に攻撃力が上がるというもの。


「これなら……3層も行けそうだ」


ソーマは新たな装備に満足し、宿屋を後にする。外へ寄るところがあったため徒歩で城壁の外へ出ることにした。大通りから門を通りフィールドへと出る。鉄で囲まれた門を通る際に門番であるNPCに声を掛けられた。


「お、ソーマ殿、どこかへ行かれるのですか?この先はお気を付けを……と言ってもいらぬ心配でしたな!」


門番はソーマへNPCお決まりの挨拶を交わし、元の門番としての姿勢に戻る。ただ違っていたのは、グライユの街の門番も今ではソーマをノービスではなく熟練の冒険者として扱うようになっていた。

もう初めてヴレインディアへ降り立ったころのソーマではない、その経験がNPCにも「名声」として態度に変化を生じさせていた。ソーマはレクテナントの中央平原で用事を済まし、リプレース(転移魔法)でギルドハウスのあるラーファムへ飛んだ。


 ギルドハウスの扉を開け中へ入ると、エントランスにある横長のソファーに座って読書をしていたアリスがいた。ブレオンではゲーム内の端末からネットへ接続することが可能であり、それを介しアリスはブレオン内で電子書籍を読むことを楽しみとしていた。

ソーマがギルドハウスへ入って来たのに気づくと、ソーマの方を一瞬見て興味がないのかすぐに顔をそらす。いつもの重厚な甲冑で全身を固め巨大な盾を持った姿ではなく、部屋着とでもいうべき薄いベージュのワンピースを纏いソファーへ腰かけていた。


ミルディであると一発でわかる特徴的な頭から突き出た大きな耳、前髪を切り揃え腰まである黒髪とは対照的な色白の顔。人形のようなアリスの容姿は、同じミルディであるミクとは全くキャラメイクの方向性が違っていた。


「あ、師匠いたんですね」


「……うん、ちょっと時間あったからインした」


そう答えたままファンタジーな世界には似つかわしくないタブレット型の端末を見つめる。わざわざブレオン内でこのようなことをするのはVR空間にいる方が落ち着くためだ。ソーマはその姿に見惚れじっとその場に立ち尽くしていた。


しばらく無言の間が続く──


「ソーマはなんでアークナイトを選んだの……?」


先に静寂を破ったのはアリスであった。タブレットに目をやりながらアリスはソーマへ聞いた。場の空気を変えようと思案した結果であるが、以前にも同じ質問をした……ふとそう思ったが()()言葉が出てしまった。


「あ?え……なんでかって、剣と盾持ってて一番カッコよさそうだったから……なんですよね。あとからアークナイトがタンクって知ったんですけど」


 ソーマから発せられた答えに()()()するアリス。ソーマは左腕に構えた盾をさすりながらそう答える。ソーマとしては忌憚のない本心から出た答えであった。

事実ソーマはノービスの試練を終えクラスチェンジできるようになると、迷うことなくアークナイトを選んだ。後にアークナイトがタンクロールであると知るのだが、ソーマはそのままタンクをメインクラスとすることを選んだ、そして現在に至る。


「……そっか……」


アリスはソーマの答えを聞き少し微笑んだ……ソーマにはそう見えた、でもそれは自分ではない違う誰かに向けられていたような気がした。


「……でも、『師匠』って呼ぶのはもうやめて……」


「え?……ダメですか」


「……アリスでいい」


「アリス……さん……」


ソーマは恥ずかしくなり、アリスから顔をそらし下を向く……。それを見たアリスは再び微笑む。


「次からはちゃんと“アリス”って呼んでね……」


そういってソファーから立ち上がりなにやら詠唱する。リプレースだったらしく、淡い光の粒子がアリスの体を包む、そしてふわりと黒髪をなびかせてどこかへと転移していった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ