愛です
「で、こっから先の話……聞きたい?」
「いや……あまり他人の過去を詮索するような話は……マナーに悖るっていうか……」
「いいじゃんいいじゃん、直接会いに来ないでこんな回りくどいことするアイツが悪い!」
会ったばかりの人間にこの人は何を言い出すんだ……とソーマは訝しったが、とりあえず素直に話を聞くことにした。
話はこうだ、以前ジンベイはラムレイとフレンド同士でありよく一緒にプレイしていた、そのジンベイが次第にラムレイに対しフレンド以上の感情を抱くようになった……ということである。お互いの顔が見えず、ゲーム内のアバターで判断するしかないMMORPGではよくある話ではあるのだが、ソーマはMMORPGに関してはまだ日が浅く、そのような話には疎かった。
ソーマは改めてラムレイをまじまじと見つめる。ラムレイはその視線を気にせず話を進めた。
「そんな驚くことじゃないでしょ。このゲーム音声だってアバターの性別通りに変換してくれるし、まぁ女性キャラ使ってて中身男ってのはあんまいないけどね」
ブレオンではリアルでの性別通りにゲーム内のプレイヤーキャラが再現されるわけでは無いため、男性プレイヤーが女性キャラを、女性プレイヤーがその逆を……という場合もままある。また、ゲーム内のキャラが発する音声も高度なボイスチェンジャーによる変換で違和感ないものになっていた。そのため、プレイヤー自身が自分からバラさない限りは外見から中の人の性別を判断することはほぼ不可能である。
ただし仕草までは補正されない為、よく観察すると違和感から性別の不一致を疑われる場合はある。ラムレイは話をつづけた。
「でも向こうはそんなの気にしないからさ、完全に女として見てたみたいで……」
ラムレイによると、ジンベイとはサービス開始直後にたまたまメインクエストの進行具合がお互い重なり、インスタンスダンジョンやフィールドでお互い良くすれちがっていた。それで名前をなんとなく憶えており、ある日、たまたま同じクエストを進行中にクエスト受注NPCの前でばったり出会って意気投合したのだという。そのあとは初期の手探り段階だったクラフティングやギャザリングの情報交換を行っていくうちに、ジンベイの方がその気になってしまったというのだ。
ラムレイの方は当初ジンベイの気持ちに気付かなかったみたいだが、だんだん態度に表れてくるようになったという。
「あぁ……成る程、でもわかる気がします」
ソーマも疑うことなくギルドの女性陣を女性として見ていた。そこへ同じようなことを言われたらどう反応しただろうか……。
「まぁ、その気にさせたわたしも悪かったんだろーな、とは思うけど」
ラムレイはカウンターへ片肘をつき、カウンターの縁を指でなぞりながらソーマへ振り向き少し苦笑する。さきほどからラムレイの仕草は女性そのものであり、男であると言われなければ異性として意識してしまうのは無理もなかった。
「悪い気はしなかったけど、さすがにこれ以上いたらもっと勘違いさせると思って……」
「本当の事を言った……んですか?」
「うん」
ジンベイの気持ちに気付いたラムレイは、それとなく手遅れになる前に自分が男であることをジンベイに伝え、ただのフレンドとして接してもらえるようにジンベイに頼んだという。ラムレイはその時の事を思い出しながら言葉を選んだ。ソーマは固唾をのんでラムレイの話に聞き入る。
「ごめん、わたし実は男だからって、その時はアイツ何も言わなかったけど……その後しばらくはダイレクトチャットにも反応無かったし、やっぱショックだったんだね」
好意を持った女性プレイヤーが実は男だった……それは本気にしてた本人にとっては、相当なショックだっただろうとソーマは想像した。例えラムレイが意図して女性の振りをしていたワケではないにせよ、やはり男だと言われたときのジンベイの心境は相当なものだっただろう。
「まぁでも、その後もなんだかんだで色んなコンテンツ行ったりしたけどね。アイツはまだ根に持ってるようだけど……ま、昔話さ、じゃはいこれ」
ラムレイは鞄からなにやらアイテムを取り出しカウンターへ置く。シンボル化されたそれはスタックされたインゴットの集まりであった。
◆剛霊鋼×100……剛霊鉱石から精錬されたインゴット。非常に高い魔導伝導率を有する
「アイツがわたしに依頼してた素材。もう次のレイドの準備してんだね。なんだかんだいってわたしに頼ってくるとは」
「うちのギルドで作ったやつだから品質は折り紙付きだよ、それにクラウスのレイドチームのフォローしてるって知れたらうちも箔が付くしね」
ラムレイがマスターを務めているギルドは、生産クラスと採集クラスをメインとしているプレイヤーのためのギルドで、生産に必要な中間素材を融通し合ったり、ギャザリングによる一次素材の円滑な大量確保などを目的としている。そのような目的で設立されたギルドはサーバー内にいくつか存在するが、その中でラムレイのギルド「ハンズメーカー」が規模としては最大手であった。
ソーマはここでやっと本来の目的、ジンベイの依頼であるラムレイが用意していた素材を受け取る。それを鞄へ仕舞いながらふと気づいてソーマはラムレイへ尋ねた。
「これ、メールで送るとかすればわざわざ受け取りに来なくても……」
「ダメダメ、アイツとわたしもうフレンドじゃないから!フレンドメールでアイテム送れないし、だからいつも誰かに直接取りに来させるの」
「あと最後に……この話、他の誰かにも?」
「あぁ、アンタのギルドの人間ならみんな知ってる……かな……」
「ひっでぇ……」
「フフフ、じゃ、今後とも御贔屓に」
そう言ってニコニコした顔で手を振り送り出してくれたラムレイと別れ、ソーマはレンクテナントの商館を後にする。
ともあれ、ジンベイの使いは済んだ。思わぬジンベイの過去を知ってしまったが……。
──エレデイア──ラーファムにあるギルドハウス──
「ご苦労様、こっちも出来てるぜ」
ギルドハウスで合流したソーマへ装備品を渡すためジンベイが待っていた。すでに完成していたようで、ジンベイによって仕上げられた装備はどれも極限までエンチャントで強化されていた。もしマーケットで買うとなると、とてもではないがソーマの手持ちのゴルダで買える額では出品されていなかったであろうことはソーマにもわかる。
「こっちの籠手はCTの短縮で、こっちのグリーヴにはクリティカルの発動を上げるようにしてみた。で、アクセサリーだが……」
装備をテーブルにずらっと並べ装備のエンチャントによる強化具合をジンベイが説明する。どの部位も的確にタンク向けの強化がなされており、ジンベイの仕事ぶりがよくわかった。生産クラスとしては装備の質はもとより、装備するクラスの特性を伸ばすか、もしくは欠点を補う強化をどのように行うかが腕の見せ所であった。
ブレオンではエンチャントによってステータスビルドの要素を持たせており、同じクラス、装備でもエンチャントによる強化でプレイヤー間のビルドの差は生まれるようになっていた。
「ありがとうございます!助かりました、これで……」
「いいって、こっちの用事を代わりにやって貰ったしな……それより、アイツ何か言ってた?」
ジンベイは小声でソーマへ訪ねるが、ソーマはさすがにラムレイが暴露したことをそのまま伝える訳にはいかなかった。
「い……いぇ、特には……」
「そっかそっか、いやならいいんだ」
ソーマの目は泳いでいたが、それを聞いたジンベイはとくに気にする様子もなくラムレイからの素材を受け取り、ソーマの方の使いも終わった。無論、ラムレイによってすべてバラされていたのだが、ソーマも他人事では無かったため……あのことはジンベイの名誉のためにずっと黙っておこう……ソーマは男としてそう誓った──
「ふぅ……」
とあるプレイヤーがブレオンからログアウトし、VRヘッドセットを外す。目をゆっくりと開けると視界に広がるのはどこにでもある、一般家庭のリビングであった。そのプレイヤーはしばらく現実世界へ自分を慣れさせるようにため息をつくと、さっきまで座っていたソファから立ち上がり二階へと向かう。二階にある部屋のドアをノックしながら──
「明日からテストあるんでしょ?中間考査だからって……ちゃんと試験勉強しとかないと」
「わかってるー、お母さんだってVRのネトゲしてたじゃん!」
部屋から少女の声で返事が返ってくる。
「わたしはいいの!……じゃあねお休み」
ブレオン内では──Lumley──と呼ばれるプレイヤーがログアウト済であることの証として、キャラネームがグレーアウトしていた。




