突入!大迷宮ヴォルゴス──1
古代ヴレインディア帝国時代、「大魔導師ヴォルゴス」が巨大な地下迷宮を作り上げた。はっきりとした目的は定かではないが、当時の皇帝「アジャイ」が不老不死の秘薬の研究をヴォルゴスに命じ、その不老不死の研究を行うための施設であったと言われている。ヴォルゴスが不老不死の秘薬を作ることに成功し、アジャイが不老不死を得ることが出来たのかは伝えられていないが、地下迷宮が魔法事故で崩壊し、地脈の流れに飲み込まれたという事は記録に残っている。
地下迷宮は崩壊し、その断片がエーテルダンジョンとなって地脈の交接点に現れる。エーテルダンジョンは地下迷宮の細かな末端であるため、不安定で突入毎にその姿を変える。しかし全くその姿を変えず、ヴォルゴスが研究施設として使用していた重要なエリアは、事故前とほぼそのままに地脈の流れを漂っていた。
それが「大迷宮ヴォルゴス」である。
近年、大迷宮ヴォルゴスへの入り口が発見された。場所はエレデイアにある精霊樹海の奥深くにそびえ立つ大樹の根元である。古い遺跡の入り口と思われる石造りの門が、大樹の根元に埋もれていたのをとある冒険者が見つけたのだ。各国の冒険者ギルドはただちに調査隊を編成し派遣した。
言い伝えによるヴォルゴスの大迷宮ならば、もしかすれば不老不死の秘薬が眠っているかもしれない。しかし、大迷宮と思われる遺跡に突入した調査隊はことごとく戻って来なかった。かろうじて第二次調査で突入した冒険者の数名が遺跡から生きて戻ってきた……が、彼らが口々に発したのは
「悪魔が……」
ただそれだけだった──
かくして再び、数々の難題を突破してきた冒険者であるソーマへ今度は大迷宮ヴォルゴスの探索依頼が舞い込んできた。少数精鋭の冒険者部隊を指揮し、大迷宮ヴォルゴスを調査して欲しいと。
「ソーマさん、準備はいいですか?1層から順に行くので、よければマッチングからそのまま承諾を」
クラウスがソーマへ促す。すでにパーティは組まれており、ソーマと、クラウス以下7人はガントレットのメンバーである。今回の高難易度レイド「大迷宮ヴォルゴス」への挑戦は一ヶ月先に迫った次期アップデートを前に、ソーマが高難易度レイドへ慣れておくためのモノで、ソーマにとっては大迷宮ヴォルゴスへの挑戦は初めてとなったが、この際……という事でクラウスがガントレットのメンバーを伴って企画したものである。
「りょ……了解。一応予習はしてきたんで大丈夫です!」
ソーマはそういうと目の前にあるマッチング待機画面を見つめ承諾の意を示す。するといつものように画面が暗くなり専用のインスタンエリアへ飛ばされる。
──大迷宮ヴォルゴス──探索編──
飛ばされた先はエーテルダンジョンに似た雰囲気で、通路の両側がソーマたち8人全員が横に並んでもまだ壁に手が届かないほどの幅があり、石壁と石畳に囲まれた通路の天井は、見上げてもどれほどの高さがあるのかわからないほど上に続いていた。マップを確認すると先へ進めば巨大な円形の広間があるのが確認でき、ともあれ進むしかないようであった。
「MTはアリス、ソーマさんがST、雑魚はいつも通りに」
「……うん」
「あいよ!」
「はーい」
クラウスが指示し、それぞれが戦闘態勢を執る。アリスが巨大な盾を軽々と掲げながら先頭を行く。すると冒険者の気配を察したのか、通路の壁から黒い靄がジワジワとしみ出してくる。「ガストゴースト」低級な悪霊型モンスターである。数体ずつグループで現れるガストゴーストをアリスがタウントスキルで注視させDPS陣に処理させる。
雑魚処理自体は簡単なものでありそれを何度か繰り返すと、やがて通路を抜け円形の大広間にたどり着いた。円形に切り取られた広間の周りは床が無く、底が見えなくなるまで深い穴になっていて、広間の真ん中にはなにやら魔法陣のよな模様が描かれていた。
広間の入り口には赤い半透明な仕切りにゆらゆらと漂っており、この先がボスバトルのフィールドである事を示していた。
ズズズッ──ドスンッ
全員がマーカーを跨ぐと、その魔法陣から巨大な腕が突然飛び出してきた。その後その腕から別にまた腕が飛び出し、次は頭と……最終的にはヤギのような巨大な角と顔を持った頭に、青い胴体からは4本の腕を広げ下半身は太く黒い毛に覆われ熊のような脚を持った魔物が現れた。
「盟約により……迷宮へと侵入する者を排除する……!」
──ヴォオォオオオン!!
そう言い放つと魔物は天を仰ぎ咆哮した。おおよそ2階建てのマンション……6メートルほどはあろうかという大きさのデーモン型モンスター、これが大迷宮ヴォルゴス1層のボス「グランドデーモン」である。
「あれが1層ボス……それにもしかしてこのフィールド……」
ソーマが予想している事を察してか、クラウスがすぐさま答える。
「はい、落ちます。落ちれば死亡扱いなので気を付けてください」
「これなー、初見だと絶対落ちるんだよなー」
「わたしもぉ、何度落ちたか……」
ボルフントがニヤニヤしながらソーマへプレッシャーを与える。メリアディは手に持った杖を胸に当て、天を仰ぎ見る。1層ボスのグランドデーモンは特定の攻撃にノックバック効果があり、それを食らうと位置が悪ければフィールド外へ盛大に吹き飛ばされ死亡してしまう。かつてこのグランドデーモンは実装直後に猛威を振るい、まだギミックに慣れていなかったプレイヤーを容赦なく落下死させる「1層ストッパー『デーモン先生』」という二つ名をプレイヤーから貰っていたほどだった。
「準備おーけー、いつでもどうぞぉ」
メリアディが防御スキルである「ソウルウォール」を唱え、メンバーひとりひとりが光りの壁に包まれる。これは物理、魔法攻撃を軽減するもので、戦闘前に掛ける習わしになっていた。
「アリス、いつでもいいぞ」
「了解……行くね」
アリスは全員の準備が整ったのを確認すると、グランドデーモンへ向け走り出す。そしてタウントスキルであるハウリングブレードを放つ。と同時にボスの正面をマップで言う上、いわゆる北へ向けグランドデーモンを固定する。その他の7人はほぼボスの真後ろに陣取る。
ドゴォ!ドゴォ!
グランドデーモンの4つの剛腕から繰り出される打撃は、アリスの盾を以てしても防ぐのがやっとで防御スキルを使用しその攻撃に耐える。時折、腕を横薙ぎにして振り込む「ダークハンマー」と呼ばれる攻撃が来るが、アリスはその攻撃にインスタントの防御スキルを合わせ威力を軽減していく。防御スキルを合わせてもなおダークハンマーを受けるごとにHPが4割強も減るため、ヒーラーであるメリアディとドワイトはアリスのHPをすぐに戻せるよう逐次MTをフォーカスする。ソーマもアリスの横に陣取り、アリスのダメージを肩代わりする「シェアディフェンス」でフォローしつつ攻撃スキルを繰り出していく。ソーマの出番はまだ先であった……。
「よっし、オラオラオラ!」
「りゃ……!はっ……!」
バシュウウウン──ドドドッ──
ボルフントの「スピンストライク」でボスへ被ダメージアップのデバフを与え、その効果でミクの「双連撃」のダメージがより一層強化される。ボスの真後ろにぴったりと張り付いたミクとボルフントは一心不乱に攻撃スキルを繰り出しボスのHPを減らしてゆく。序盤数分はボスの攻撃もMTに集中するため、ここである程度DPSを稼いでおくのがメレーの見せ場であった。
「レイちゃん、MPちょうだい!」
「あいよぉ」
また、レイジとクラウスのレンジクラスは少し離れた位置に放射状に広がり攻撃する。レンジャーのレイジは攻撃しつつ、ヒーラーへMP消費を軽減するスキル「マナスタンス」を掛ける。レンジャーはいわゆる「バッファークラス」でもあるため、パーティの状況を観つつ適正なスキルで皆を支援しなければならない。
クラウスのようなキャスタークラスはこの後徐々にボスの攻撃が激しくなってくるため、いかに詠唱を中断せずにスキルを発動できるか腕の見せ所であった。グランドデーモンは時折後ろを振り返り、頭にある巨大な角を振りかざしメンバーに向け攻撃する。「ホーンスライド」とよばれる攻撃で、2本の帯状の衝撃波が走ると、それをあらかじめ巧みに避けていたクラウスは詠唱を中断される事なく魔法を当てていく。
序盤の位置取りからしばらくして、ボスのHPが3割ほど減った頃合いに例の攻撃が来た。
──グランドスプラッシュ──
これは「最も遠い位置にいる4人にAoEが発生し、そのAoEからノックバックが発生する」というギミックで、あらかじめヒーラー及びレンジが離れておきターゲットにされるとフィールド端へ誘導し、AoEを南のフィールド端に出現させノックバックを南で全員で受けて北側へ吹き飛ばされる……という処理が確立していた。AoEをフィールドの中心に近い場所へ置いてしまうとノックバックの距離によってはフィールドから落下してしまうため、この処理を行うプレイヤーの責任は非常に重大である。
「ほらおいでなすった、えっほえっほ」
「やーん…詠唱中断されちゃったぁ」
「ソーマさんはボスに張り付いて!」
あらかじめ放射状に距離を取っていたヒーラー2人とレンジ2人の足元に青い円状のAoEが出現する。すぐさまメリアディとドワイト、レイジとクラウスはマップの下である南へ向けて走り、フィールドぎりぎりにAoEを置く。そうすることでこの次に来るギミックに備える。ヒーラーとレンジが誘導役であるのは、メレーをボスから離すことなく攻撃に専念できるようにとの配慮である。
グランドスプラッシュの予兆が見えた為、アリス含めボスに張り付いていた4人も一気に南側へ走る。
「……今のうちに全体バリア」
「了解!」
アリスはソーマと並走しつつ指示する。ソーマが発動したアークナイトの全体バリア「聖なる加護」でパーティメンバー全員が緑色の球体に包まれる。
「グォオオオオ……吹き飛べ!!!」
グランドデーモンは4本の剛腕を同時に天高く掲げ、一瞬溜を作った後、その4本の腕を勢いよく振り下ろした。4つの拳がそれぞれ先ほどの青い円形のAoEに吸い込まれるように近付いていく。
ズォオオオオオオ──
フィールドが激しく揺れ、同時に南側に集合していた全員が北側に一気に吹き飛ばされる。距離と方向は十分であったため、ちょうどアリスがボスを固定していた辺りに全員が吹き飛ばされた。飛ばされた先で膝をついた8人は、すぐに周りを見回し誰一人落ちていないこと確認する。
「うっし……全員いる!」
「いいですよ、上手くできました」
最初のグランドスプラッシュを凌いだ一行は態勢を立て直す。再び削りフェーズに入ったためDPSは攻撃の手を一層強くする。ヒーラーもMTへのヒールを欠かさない。
そんな中STであるソーマの出番がもうすぐそこに迫っていた……




