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突入!大迷宮ヴォルゴス──2

  なんとか一人の落下者も出さずグランドデーモンのグランドスプラッシュを凌いだソーマたちは、再び態勢を立て直すとアリスがボスを定位置(マップ北側)に固定する。そしてメレー(近接)がボスの真後ろ、レンジ(遠隔)がその少し後ろ、ヒーラーもレンジの近くという布陣に落ち着いた。この布陣ならばヒーラーの全体範囲回復が全てのメンバーに届くため、自然とこの位置に収まっていた。この辺は固定の妙と言える。


ソーマはアリスへ防御スキルのフォローを入れつつも、ボスから定期的に繰り出されるダークハンマーと呼ばれる強攻撃を防御スキルと自身の装備で耐え凌ぐ姿に感心していた。


(師匠すげぇな……あんな華奢な体でダークハンマーにビクともしてない)


 アバターとしての容姿はともかく、シールドガードがMT(メインタンク)に適しているクラスというのもあるが、アリスの防御力の高さは「装備の質」も少なからず影響していた。まだ半年そこらのプレイ経験しかないソーマに対し、アリスはサービス開始時からプレイしており、なおかつ大迷宮ヴォルゴスも何度もクリアしている。そのため大迷宮ヴォルゴスでドロップする、現バージョンで最上位のアイテムレベルを誇る装備で全身を固めていた。

まだマーケットで買える装備が半分を占めるソーマとはアイテムレベルはもとより、防御力や装備に付随するプロパティ(装備特典)(※1)やエンチャント(装備強化)(※2)によるステータス補正に雲泥の差があった。


※1…装備に元からある特性。「STR+25」や「INT+25」といったもの

※2…あとから付け足せる特性。主にそのクラスの性質を特化させるもので「ヘイト値アップ」や「回復魔法威力アップ」などさまざま


 ブレオンにおいて、キャラクターのレベルというのはメインクエストにおけるクエスト進行の目安以外にさしたる意味はない。結局レベルを50までカンストさせるのは当たり前であって、レベル上げ自体がコンテンツとして位置付けられていないため、どんなライトプレイヤーでもメインクエストを追っていけば簡単にレベルはカンストする。

レベル上げの為に何時間もフィールドでモンスターを倒し続け、微々たる量しか貰えない経験値を稼ぐ必要はない。メインクエストや、メインクエストを進めていく過程で指示される他のコンテンツをつまんで行けば自然にレベルは上がるようになっていた。


カンストまでは容易い、そうなればプレイヤーのレベルによる差は無くなるため、ブレオンではプレイヤーが身に付ける装備品でカンスト後のステータスの差が付くように設計されている。そこで装備自体にもレベルを設定し、厳格な序列を作った。それが「アイテムレベル」である。


 アイテムレベルの差は絶対的で、同一レベル内の装備ならともかく、レベル差がある場合はレベルが下の装備はレベルが上の装備には性能では絶対勝てないようになっている。

 

ソーマ達は順調にグランドデーモンのHPを減らしてゆくが……


ドスンッ!ドスンッ!ドスンッ!


 グランドデーモンが熊のような毛むくじゃらの足を持ち上げ、そのまま勢いよく地面を踏みつける。「ヘヴィスタンプ」と呼ばれる全体攻撃である。ヘヴィスタンプ1回ごとに地面が激しく揺れる……メリアディがあらかじめ張っておいた全体バリア(女神の抱擁)とドワイトの全体回復(ロードキュア)によりいくらかは軽減されたが、それでもHPの3割ほどを削られる。


MTへのダークハンマーに全体攻撃のヘヴィスタンプ、後方へのホーンスライドに加え必殺のグランドスプラッシュなど、それまでのコンテンツとは比べ物にならないほど“プレイヤーを殺しに来ている”攻撃のラッシュを捌きつつ、一行はボスのHPを半分近くまで減らしていた。すると……


「我が眷属よ……この者たちを闇に引きずり込め……」


という声と共に、グランドデーモンがなにやら詠唱を始める。するとフィールドの両側かに黒い靄が立ち込め、そこから姿形はグランドデーモンそのままで、サイズだけ縮小したようなモンスター「デスデーモン」が2体現れた。それでもガドドルであるボルフントくらいの背丈はある。


「ソーマ……きたよ」


「了解!」


「こっちを向けぇえ!」

 

 アリスがソーマへ合図した。ボス以外に雑魚が出現すればSTの出番である。待ってましたとばかりにソーマはすぐさまそれぞれのデスデーモンへタウントスキルである「スライパーショット」を放つ。ソーマの剣から放たれたオレンジ色の波動がまずは右側、そして左側のデスデーモンへ命中し、2体のデスデーモンはソーマめがけて突進する。そこへ「サークルブロワー」を放ち完全にデスデーモンのヘイトを固定する。ソーマがそのままボスの近くまで2体にデスデーモンを引っ張る。こうすることで、ボスと雑魚を同時に範囲攻撃に収める事が出来る。


「いきますよレイジ、デスデーモンに集中」


「ほいよぉ!」


クラウスは「フレアブラスト(爆熱魔法)」てボスを巻き込みながらデスデーモンへダメージを与えてゆく。レイジも同様に範囲攻撃の「アローレイン」でクラウスに続く。デスデーモン自体の攻撃はそこまで強烈ではなく、ソーマは自身の防御よりもデスデーモンへの攻撃の割合を高めていた。デスデーモンのHPを6割以上減らしたところで再びグランドスプラッシュの予兆が来る。

すでにボスから距離を取っていた4人に先ほどと同様にAoEが発生する、4人はフィールドの南側へAoEを置きその後のノックバックに備える。前回と同じ処理を行えば失敗することは無い……ただし今回はソーマが雑魚をホールドしたままであることが違っていた。


 クラウスらレンジクラスは攻撃を止め、ソーマもデスデーモンへの攻撃を控える。これはグランドスプラッシュへ意識を回すためでもあるが、実はデスデーモンのとあるギミックを警戒してのモノであった。再びグランドデーモンの4本の腕が伸び、先ほどのAoEへ打ち込まれノックバックが発生する。8人全員が南側から北側へ吹き飛ばされ、また元の位置へ戻り攻撃を続行する。


「よし、今だ!」


ここまでは同じ流れであったが、グランドスプラッシュ前から雑魚をホールドしていたソーマは、今度はボスから距離を取る……ボスから、というよりはパーティメンバーから離れる様にフィールドの南側へ走り、フィールドの南側ギリギリへ位置取る。それを確認したクラウスとレイジはありったけの火力をデスデーモンに浴びせかけた。デスデーモンのHPがみるみる減っていき、ついにデスデーモンのHPが0になった、その瞬間──


ブシュァアアアア!!


 デスデーモンが倒れるとその場から血が噴き出すように、勢いよく黒い液体のようなものが廻りに飛び散る。ソーマはそれをまともに浴び、そして同時にソーマへ「ダークペイン」と呼ばれるデバフが付与される。このデバフは「被ダメージ増加」の効果を持ち、デスデーモンを倒した瞬間に範囲内にいるプレイヤーへデバフを撒き散らすギミックである。

このギミックにより、デスデーモンを倒す瞬間はダークペインを浴びないように他のプレイヤーから離さねばならない。また倒すタイミングも考えねばならず、例えばグランドスプラッシュを受けた先で倒してしまうと、最悪パーティ全員へダークペインが付与されてしまう。

大迷宮ヴォルゴスの初見攻略時にはここで壊滅してしまうパーティが後を絶たなかった。しかし先人の知恵は後続へ継承される……。今や攻略動画や攻略サイトによって、大迷宮ヴォルゴスのボスギミックは解析され、それらであらかじめギミックを理解し、ある程度は初見でも対処できるようになっていた。ちなみに、ソーマ以外の7人は完全初見でギミックを解析しながら攻略していったいわゆる「早期組」である。


ドスンッ!ドスンッ!ドスンッ!ドスンッ!ドスンッ!


ダークペインがソーマへ付与されるとすぐに、グランドデーモンがヘヴィスタンプを放ってきた。先ほどは3回であったが今回は5回、ダークペインを受けた状態であればタンク以外はとても耐えられる攻撃では無い。


「く……耐えられるか……」


「ソーマ君頑張ってぇ、ほら『キュアブレス(単体強回復)』!えいえい!」


ソーマは防御バフを重ね掛けしてなんとかヘヴィスタンプの連打に耐えることが出来た。無論、メリアディやドワイトが支援してこそである。

デスデーモン処理中でもボスにずっと張り付いていたボルフントとミクのお蔭により、グランドデーモンのHPはすでに3割を切っていた。

相変わらずダークハンマーを定期的に打ち込まれ、アリスのHPは一気に3割ほど減る。その度にHPを戻し、全体攻撃への対処も忘れない。おそらくこのコンテンツで一番忙しいのはヒーラーであろう。しかしそれを難なくこなし冗談まで飛ばすメリアディ、そしてギリギリのヒールワークで攻撃もこなすドワイト。間違いなくこの二人のプレイヤースキルは相当なものである。


「そろそろ沈め…えぇ!」


「いきますよぉおおお!」


最後の削りフェーズに入り、ボルフントは「スピンストライク」、「ボーパルスラッシュ」、「破月連衝撃」と攻撃スキルを続けていき、最大限のDPS(火力)を出そうとする。ミクも同様に渾身の打撃をグランドデーモンへ打ち込んでいく。グランドデーモンは最後の足掻きのようにヘヴィスタンプを連発するだけになった為、タンク、レンジも加わり全員がありったけの攻撃スキルをグランドデーモンへぶち込む。HPもう1割もない……ボスのHPはパーセントでも標示されているため、あとどれくらいで落とせるかは見ればすぐわかる。


「いけぇ……いけぇ!」


「もうちょい、押せ押せ!」


「いける、いけるわぁ」


最早グランドデーモンのHPは数ミリを残すのみとなっていた。……2%……1%。ソーマはボスのHPバーから目を離さない……いや離せなかった。そうしながらも必死に攻撃スキルをボスへ撃ち込む。そして……


「っしゃあぁああああああああ!」


<<Congratulations!>> 


HPが0になった瞬間、グランドデーモンはフィールド全体が震えるほどの断末魔と共に、黒い粒子に分散し消滅した。


「おめでとうー!」


「おめぇええええええ!」


「やったー!」


「おめ……」


7人によるソーマへの祝福が響く。飛び跳ねるミクに振り回されるアリス。ソーマの肩を思い切り叩くボルフント、そそくさと出現した宝箱を開けるレイジとドワイト……お互いを見つめ合うクラウスとメリアディ……皆それぞれであったがソーマを祝福する心は一緒であった。

ソーマは腰を落とし拳を握りしめガッツポーズをする。この勝利の高揚感は高難易度レイドを突破した者しか味わえない、なんとも言えない感覚である。


ソーマは大迷宮ヴォルゴス1層を踏破した──



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