戦いの檻
バトルが開始されると、お互いのチームがフィールドのスポーン位置から一斉に移動を開始する。レイジ率いるチームブルーはタンク、レンジ、ヒーラー。一方グレイダー率いるチームレッドはタンク、メレー、ヒーラーと、大よそ両者共に平均的な構成になっていた。
「ハッハッハー、先に中央は頂くぜ!」
グレイダーが赤い甲冑に身を包んだ巨体を揺らし、まるで闘牛の牛がマタドールへ突進するようにフィールドを疾走する。タンクの場合なるべく前進し、相手チームへプレッシャーをかけるのが定石であるからだ。
「ソーマさんも中央に出て圧力をかけてください。おそらく、向こうもタンクを先頭にしてその隙にメレーとヒーラーで裏取りに来るはずです」
「了解!」
ドワイトが指示を出しながら自身も一通りの防御魔法をメンバーに掛け、混戦になった場合の回復作業に備える。
グラナイド城塞は四方を城壁に囲まれたフィールドで、その内部は中世の街並みのような家がひしめいていた。フィールド中央部は開けた場所となっており、中央の噴水のある広場をいかに制圧できるかがその後の展開を左右する。
「うぉおおおお!」
ソーマも中央の広場へと突入した。そのまますでに中央へ陣取っていたグレイダーへ突進する。
ガシィインンン──
お互いの着ている甲冑が音を立てて軋む。ガドドルのグレイダーへ果敢にタックルをかけるソーマ、弾き飛ばされる事なくグレイダーの盾へソーマも勢いよく盾をぶつける。そのまましばらく硬直が続くが、すぐさまグレイダーが後ろへ飛び、すかさず攻撃スキル「ヘヴィブレード」を放つ。グレイダーはソーマへ突進し、手に持った剣を勢いはそのままにソーマへ振り降ろした。
ソーマはすかさず盾で凌ぐが、ダメージを全て防御することが出来ずHPが3割ほど減る。その後もソーマとグレイダーは中央で打ち合いを続ける。激しい金属がぶつかる音が周囲に響く。
「ほらほら、どーした!」
「ぐっ……」
「ソーマさんもう少し頑張ってください!」
それを遥か後方で見ていたドワイトはソーマへ耐えるよう叫ぶ。バトルボックスもFPSと同様に時間内であれば何度もリスポーンが可能である。しかしHPが0にされダウンした場合、その場に「コア」と呼ばれるアイテムを落としてしまう。
このコアを奪えばポイントが加算されるため、過度のダウンは負けに繋がる。レイジも建物の屋根へ陣取り、相手側のメレーを警戒する。おそらくこちらのヒーラーを狙ってくるに違いなかったからだ。
(きた……)
レイジの予想通り、建物の路地を隠れ蓑にしながらチームレッドのメレーとヒーラーがお互いをカバーし合い、ドワイトの側面へ接近する。レイジが建物の屋根に陣取っているのを知ってか知らずか、レイジを無視してまずは相手のヒーラーであるドワイトを落とす作戦である。
お互いのチームにレンジDPSがいれば高所を取っての遠距離による撃ち合いになるが、チームレッドにはレンジDPSがいないため無視するより他無く、半ば正しい判断であるといえる。
「レイジさん、相手のメレーをお願いします!」
「おぅ」
レイジは相手チームのメレーを、路地から出た瞬間を狙う先撃ちによりスタンさせて足止めすることに成功した。その間に、ドワイトがチームレッドのヒーラーへ攻撃スキルを放ちヒールを妨害する。グレイダーはいまだソーマに付きっきりなためこちらへは来れない。すかさずレイジはチームレッドのヒーラーとメレーへ「アローレイン」を浴びせる。
レイジとドワイトの連携でチームレッドのヒーラーは1キルさせられてしまい、コアを落としチームブルーはポイントを稼ぐ。
「クソッ……」
チームレッドのメレーがそれを見て態勢を整えるためリスポーン位置まで下がろうとするが、追い打ちをかけるように、ドワイトの攻撃魔法でメレーは再びスタンして身動きが取れなくなってしまった。そこへレイジの攻撃スキルが再び決まり、チームブルーは着実にキルを重ねてゆく。
「レッドの方は初手で躓いた感じだな……」
「タンク同士がああなっちゃなぁ」
「しっかし、あのグレイダーをよく抑えてるなブルーのタンク」
バトルの様子を外部で観戦しているプレイヤーがそれぞれ感想を漏らす。ブルー有利なのはポイントだけでなく、バトルの状況を見てもわかった。序盤の接触はブルーにやや分があったが、中央でのタンクのせめぎ合いはチームレッドの勝利に終わり、ソーマをキルしてフリーになったグレイダーが、リスポーンしたメレーとヒーラーを庇いながらラインを上げてきた。こうなると厄介で、レイジとドワイトはいったん距離を取るしかなかった。
「オレがヒーラーをやるから、お前らはあのレンジをやれ。タンクが上がってきてもオレが引き付ける!」
「「了解」」
と、チームレッドのメレーとヒーラーはグレイダーに応え、建物を登りレイジへターゲットを定める。
「レイジさんを……?」
ドワイトは相手の意図に気付くが、グレイダーの目標はドワイトに向かっていた。こいつを抑えれば……グレイダーの目論見は成功するかに見えたが、リスポーンで飛び出てきたソーマが一気に距離を詰め、グレイダーへ体当たりする。ブルー側のリスポーン近くまでグレイダーが突出していたため、ソーマがグレイダーを捕捉するのが早かったのだ。
「しつけぇぞ!テメェ……」
「なんのぉおお!!」
ソーマはそのままグレイダーに張り付きグレイダーによるドワイトへの攻撃を封じた。グレイダーはソーマに終始張り付かれている為、前線はメレーとヒーラーに任せ自身はソーマをいち早くキルすることに腐心した。ドワイトはグレイダーから距離を取り、リスポーン近くにあった階段へ走る。
「ソーマさん助かりました!」
「クソ、こいつ……いい加減ウゼェっての!……こっちはいい、レンジとヒーラーを落とせ!」
タンク同士の打ち合いではどちらかが根負けするまで続くため、本来ならばメレーもソーマへ向かいグレイダーを支援すべきであった、しかしグレイダーはそれを許さずレイジとドワイトを処理するように指示した。並のプレイヤー同士ならば二対二で均衡していたのだが……。
PvPランカーのドワイトにそれは通用せず、チームレッドのヒーラーの攻撃を軽くあしらいながらレイジへ指示を飛ばし、レイジの攻撃は容赦なくチームレッド二人のHPを奪っていく。
「迂闊だぜ……『レイヤードショット』!」
二対一になっては相手も成すすべもなく、ヒーラーを落とされながらも向かってきたメレーへレイジは攻撃スキルを連続で叩き込む。何本もの光の筋がチームレッドのメレーへ突き刺さった。
「てめぇらで絶対そいつらを落とせ!」
リスポーンしては倒される……後半になると半ば作戦らしい作戦もなく、もはや単に手駒を敵にぶつけるだけになっていた。そのような状況では相手を倒すことが出来ず、チームレッドはいたずらにキルされコアを落すというのを繰り返していた。その後はチームレッドも何とか隙を見つけキルをもぎ取るなど、制限時間が迫るまでお互いのチームがキルし合いスコアを重ねていった。
そして──
《 Team blue Win ! 》
「うっし!」
「勝った……」
チームブルーの勝利を告げるファンファーレと共にリザルトウィンドウが目の前に表示され、同時に観戦用の大型モニターにも同様に映し出された。観戦していたプレイヤーたちがどよめく。敗因はチームレッド側のダウン数の多さであった。ダウンすればコアを落としポイントを持っていかれる。グレイダーのゴリ押しが招いた結果であったが、それを的確に処理したレイジの突出したキル数の多さもリザルトでは光っていた。
「なん……だと……」
自身の敗北が信じられないのか、バトルボックスのインスタンスから出るなり、グレイダーはさっきまで一緒だったメレーとヒーラーに怒鳴る。
「くっそぉおおおおおお!なんで落とせぇねんだ!」
グレイダーは怒りを露わにして、地団太を踏んだ。
「てめぇらサボりすぎたんじゃねぇのか!」
「そ……そんな無茶言わないでくださいよ」
「そうですよ……」
「うるせぇ!クソが……今回は負けといてやる。レイドじゃこうはいかねぇぞ」
そう吐き捨てると、グレイダーは取り巻きを連れそそくさとどこかへ去っていった。それを見ていたソーマとレイジは張っていた気が抜けたのか、近くの椅子へストンと腰を落とした。
「はぁー、なんとか勝てたが疲れたぜ。ソーマちゃん、いい動きだったよホント」
「そうですね、あのグレイダーを引き付けておいてくれたお蔭でこちらもやり易かったです」
「そんな……自分は無我夢中だっただけで……」
レイジとドワイトの評価に、ソーマは少し照れた様子で頭を掻く。レイジは膝を叩き、起き上がりながら提案した。
「ついでだし、気分転換と勝利祝い兼ねて何か食ってこうぜ!」
「いいですね!」
「ま、ここまできたら最後まで付き合いましょうか……」
ソーマとレイジ、ドワイトの3人はグライユの街にある露店へ消えていった。道すがら、ソーマはもうドワイトへの得体のしれない感情は消えいるのを感じていた。




