名誉のため
レイジとソーマの2人はデイリークエストのインスタンスダンジョンを終わらせ、レクテナントにあるグライユの街の冒険者ギルドに寄った。ダンジョンで得た戦利品をギルドで共通紙幣へ替えるためだ。
「共通紙幣」は、冒険者ギルドが独自に発行している紙幣である。ギルドトークンなどとも呼ばれ。ダンジョン内で得られる装備やアイテムを冒険者ギルドが引き取り、その代わりに冒険者へギルドの共通紙幣を渡し、冒険者ギルドが提供しているアイテムや装備などをその紙幣で購入できるシステムである。
直接的に冒険者が持ち寄ったアイテムとギルドが提供しているアイテムを交換をしないのは、ギルド自体がそれを必要としておらず、冒険者がギルドへ引き払った装備やアイテムを別のどこかへ流している……からだと云われている。
レイジが冒険者ギルドの扉を開け、ギルドの1階にある大広間へ入るなり舌打ちした。
「チッ、やな奴がいたぜ……」
「どうしたんですか?」
「グレイダーが居やがる……。あいつはウチの固定になにかと絡んで来てな」
「特にアリスを目の敵にしてんだ……」
「師匠を……?」
「目を合わせんなよ」
特定のインスタンスダンジョンはデイリークエストの対象になっており、毎日午前0時にリセットされる。リセットされるとすぐさまダンジョンを攻略し、プレイヤーがダンジョンで入手した戦利品を共通紙幣へ交換するため、冒険者ギルドの窓口へ殺到するこの時間は、お互い顔見知りに会う機会が多くなる。
それでも3都市にある冒険者ギルドに分散するはずで、ここグライユの街でグレイダーと、その取り巻きに会うのは運が悪かったといえる……。
「おーおー、これはこれは、あのガントレットのレイジじゃねーか、クラウスの金魚のフンがどうしたよ」
「……」
「クラウスもオメーらみたいなのをとっとと切って上手い奴で固めればいいのになぁ」
「ま……固定のメンツがレイド攻略の途中でいなくなるって事はリーダーにも問題あるって事・か・も・な!」
レイジは無視を決め込んでいたが、グレイダーは赤黒い顔を歪ませレイジに悪態をつく。しかしレイジ以外のメンバーの事に話が及ぶとレイジもさすがに我慢は出来きずに言い返す。
「だいたい……お前らだって3層まではウチの攻略動画見てトレースしてたじゃねぇか、ウチがああならなかったら……そのままウチがサーバーファースト取れてたっつーの」
「相変わらず口が減らねぇな、まぁいいや、そこまで言うんだったらじゃあひとつ勝負といこうじゃねぇか」
グレイダーはニヤリとしてレイジに不敵な笑みを見せる。
「どうよ『バトルボックス』で勝負ってのは。ウチから3人、そっちも3人……どっちがPS高けぇえか勝負と行こうじゃないか」
グレイダーの突然の申し出にレイジは面食らう。
「なんでそーなんだよ、そもそもバトルボックスとレイドは性質が違うだろ……」
「バトルボックス」とは、ブレオンに数多くあるコンテンツのひとつで、プレイヤー同士で戦う「PvP」コンテンツである。文字通り四角く生成されたフィールドの中で、3対3に分かれパーティプレイでの対人戦を行う。このバトルボックスではロール制限、いわゆるタンク、ヒーラー、DPSそれぞれの人数制限はなく、その気になれば3人とも同じロール、例えば全てDPSで構成することも可能になっていた。
またPvPであるため、タンククラスのタウントスキルはプレイヤー相手には効果が無く、反面、防御スキルと攻撃スキルによる味方の援護がより求められるなど、PvPに適した立ち回りが要求されるこのバトルボックスは、非常にプレイヤースキルの問われるコンテンツであるといえる。
バトルボックスに使用されるフィールドは、四角く城塞で囲まれた市街地の「グラナイド城塞」、巨大な岩石がそそり立つ起伏の激しい山の斜面「ドライア山道」、巨樹が所狭しとひしめきその間を草木が鬱蒼と覆い茂る「マリワー樹海」……この3つのプリセットエリアから選択が可能で、このフィールド選択も戦略のひとつとなっていた。
「いーんだよ、単に俺がお前らをボコりたいだけなんだから。それとも、クラウスがいねーとなーんも出来ねぇのか?やっぱ金魚のフンだな!」
「……ッ!いいぜ、やってやるよ、PSはウチのが上だって事分からせてやる!」
ドンッ……と、レイジはテーブルに勢いよく手をつきグレイダーの挑発に乗った。
(だが、リーダーやアリスを呼ぶわけにはいかねぇ……ボルフントのおっさんやミクもインしてねぇしどうするか……)
レイジはあそこまで啖呵を切った手前、ここでグレイダーからの挑戦を蹴り引き下がるわけにはいかなかった。
「レイジさん!俺も……ここまで言われて黙ってられないです!」
「なんだテメェ……?……なるほど、てめぇがアリスのアレって訳か、いいぜ勝負しようじゃねぇか」
「ソーマちゃん……」
ソーマが参加すると言い放つと、すぐさまグレイダーはソーマを睨みつけた。ソーマの申し出にレイジは驚くが、確かにソーマが手伝うと言ってくれたことは嬉しかった。あともう一人必要であったが、レイジはすでに心当たりがあり、そのもう一人へ直接会話を飛ばす。
「しょうがねぇ……あいつに頼むか」
しばらくすると、冒険者ギルドへ一人のエレシンが入ってきた。群青色で染められたゆったりとした法衣を纏い、いかにも聖職者といった出で立ちである。手には豪奢な錫杖を持ち、クラスはプリーストであることはすぐに分かった。
「レイジさんからお声を掛けて頂くとは……ともあれ、これで3人揃いましたね」
「すまねぇドワイト、こういう事になっちまってな。ま、オレもお前に借りを作りたくは無かったんだが…」
レイジは悔しそうにドワイトにそう答える。ここまで言うからには、余程のことがあるのだろうが、当のドワイトは意に介さず
「はい、無論レイジさんの為ではありません……『ガントレット』の為です。自分が所属するチームを侮辱されては、わたしも黙ってはいられません」
そのやり取りを見ていたグレイダーとその取り巻きが叫ぶ。
「チッ、やっぱり出てきやがったかドワイト……」
「ドワイトって…バトルボックスランキング上位の?あの、ドワイト・スライパーじゃねーか……!」
グレイダー側がざわついているのを不思議がったソーマはレイジに聞く。
「ドワイトさんって……有名なんですか?」
「まぁ、な……あいつはレイドやってるとき以外はほぼPvPやってるほどの変た……いやジャンキーだからな」
「へぇ……」
「ふふふ」
バトルボックスはランキングが設定されており、バトル終了後のリザルト(キル数やヒール数など様々)でポイントが付き、そのポイントでランキングの順位が決まる。ドワイトはそのランキング上位の常連であった。ドワイトがそんな人物だったとは……見た目は非常におとなしそうに見えるため、ソーマはドワイトがそれほどPvP好きだとは意外に思えた。
しかし、どことなく感情をあまり表さないドワイトには、以前から何か得体の知れないものを感じていたのも……確かではあった。
「まぁいい、準備が出来たならマッチングに申請しな。フィールドはこちらで選ばせてもらう」
「勝手にしな、サーバーファーストくらいで調子にノんなっての」
グライユの冒険者ギルドの広間で一部始終を見ていた他のプレイヤーが、頼んでもいないのにレイジとグレイダーのバトルを伝言ゲームのようにフレンドや外にいる他のプレイヤーへ伝えていく。そのせいで今回の騒動は瞬く間に知れ渡ってしまった。
「お…おい、あの『ガントレット』と『ハンマーヘッド』がバトルボックスでやりあうってよ!」
「マジか……トップ同士のバトルじゃん」
「観戦モードらしいから見に行こうぜ!」
バトルボックスはお互いのチームが承諾すれば、LIVEビューイングで街中に設置されている巨大なモニターから他のプレイヤーが観戦することが可能になっている。レイジ率いるガントレットとグレイダーのハンマーヘッド、お互いの準備が整い、両者バトルボックスのマッチングへ申請を入れた。すると、目の前の景色が暗くなり、インスタンスエリアへ飛ばされアナウンスが響き渡る──
《Play area 『Granide Citadel』》
《ready?battle start!》




