一攫千金──前編
──ヴァズロード砂漠──
「すまんな、わざわざ付き合ってもらってよ」
「いやいや、おっさんの頼みなら断れねーよ」
「お手伝いするです!」
ソーマが所属しているトリンシックのメンバーであるジンベイに「手伝ってくれ」と誘われたソーマは、ロムダールの北側にあるヴァズロード砂漠まで来ていた。一面照りつける様な太陽の光と、見渡す限りの砂漠しかない風景。ジンベイによると、とあるレアアイテムを手に入れるために「エーテルダンジョン」と呼ばれるダンジョンを攻略するのに手を貸して欲しいのだという。
その為に集まったメンバーはジンベイを筆頭にソーマ、アリス、ミク、レイジ、リーサの計6人。エーテルダンジョンの参加上限はフルパーティとなる8人であるが、エーテルダンジョンはそれほどシビアな難易度ではないため8人集めなくとも気軽に攻略できるようになっていた。そのため、空いた時間の金策や、ちょっとしたギルドの交流会として使われていた。
無論、エーテルダンジョンでしか手に入らないアイテムもあるため、それを必要とする場合はこうやってメンバーを募りエーテルダンジョンに挑むことになる。
「やーん、肌が焼けちゃうー」
「こんな砂漠のど真ん中で探せってのか?」
ミクはそう言いながら手で顔を仰ぐ仕草をする、が……ブレオン内の天候でプレイヤーキャラが日焼けすることは無い。一方レイジは呆れ顔で砂漠にへたり込みながら呟く。
「その為の地図はちゃんと持ってきてる、心配すんな!」
ジンベイはその地図を広げながら「任せろ」と言わんばかりに念押しした。
──エーテルダンジョン──
ヴレインディア大陸では、時折地面から木の芽が芽吹くように、ガドドルよりも大きな、鋼鉄のようなものでできた門が突き出てるのに出くわす。これは「エーテルダンジョン」と呼ばれるダンジョンの入り口であり、古代……高名な大魔導師がとある都市の地下に広大なダンジョンを建設し、その深部で魔導の研究を行っていたという。
しかし、ある日魔法による事故でダンジョンは崩壊し、残った部屋や通路などの建造物は散り散りになって地脈の流れに消えてしまった。月日が経ち、地脈に消えた筈のダンジョンの遺構への入り口が突然、地面に扉となって現れるのだという。
魔導師が残したダンジョンなぞ、普通の人間は恐ろしくて立ち入ろうなどと思わない。だが、冒険者にとってはダンジョンとは格好の金策場所であり、一攫千金を狙おうとエーテルダンジョンの門を探して回る冒険者が多い。ダンジョンの入り口は地下を流れる地脈の交接点に多く発生するらしく、そのような場所を意図的に探し当てる地図がのちに魔導師ギルドによって開発された。
ソーマたちが地図に浮かび上がる光点を頼りに砂漠を彷徨いながら目的の場所へ着くと、砂漠から突き出た門らしき物体が見える。何もない砂漠に門だけが突き出ているのは非常に奇妙な光景であったが、ともあれここからダンジョンへ進入するようだ。
「よし、これだな……」
「これが……エーテルダンジョン?」
「そう、この門から入っていくんだ。中の様子はマップには表示されない。しかも、入るたびに構造は自動生成されるときたもんだ」
「はー……なかなか凝ってますね」
一行が門を開きダンジョンへ進入する。門からすぐに階段が下へ伸びており、どうやらこのダンジョンは下へ下へ……と降りていく構造のようだった。階段を下りると少し広い部屋にたどり着く。かろうじて暗がりから分かるダンジョン内は、石が積み上げられた石壁と石畳でできていた。壁や床は苔むしており、さっきまでの地上の暑さとは比べ物にならないほどひんやりとしていた。
「わ!ホントだマップに何も表示されてない……。ていうか全体的に暗い!」
「辺りを照らすアイテムを使うです。そうすると明るくなるです」
ソーマが悲鳴をあげるが、リーサがすぐさまダンジョン内を明るく照らすアイテム「索敵照明」を使用した。ぱぁっと辺りに光が走り、石壁の目地が見えるほど明るくなるがそれでも1フロア半(1フロアは約4メートル四方ほど)の範囲しか明るくならず、ソーマの足が前に出なかった。それを余所にアリスがソーマへ命令する。
「ソーマ……あんたが先頭だから」
「そうですよ、まずはタンクが先に進まないと」
「ま、後ろは任しといてよ……ヒヒヒ」
ガドドルであるジンベイの後ろ完全に隠れているミクとレイジがソーマをさらに急かす。
「そんなぁ?」
ソーマはぎょっとするが、それもそのはずアリスはヒーラー、プリーストとして参加しておりいつものタンクではない。今のパーティでタンクはソーマただ一人であった。
「取りあえず慎重に先へ進め。1フロアづつマップに表示されるから確認しながら行くぞ」
「りょ……了解」
そう言ってジンベイとミクがソーマのすぐ後ろに付き、いつでも不意のモンスターの襲撃に対処できるよう警戒してた。その後ろをヒーラーのアリスとリーサ、そして最後尾を警戒するようにレイジが続く。
「あ、なんかいる……ひぃふぅみぃ……6体かな、向こうにもいるな」
先頭を行くソーマが通路を徘徊す骸骨の兵士、ボーンソルジャーの集団を見つけた。ダンジョンではこのようなモンスターがフロアを徘徊しており、冒険者を見かけると問答無用で襲ってくる。そのため、エーテルダンジョンへはよほど腕に自信が無い限り、“ソロ”での突入は自殺行為といえ、少なくとも4人以上のパーティで挑むのが常となっていた。
「よし、グループごとにやるぞ。リンクされると厄介だからな」
ソーマはボーンソルジャーの1体にザッパーブロウを打ち込む。
ガチャガチャガチャ……
ソーマのザッパーブロウにより敵意を露わにしたボーンソルジャーたちは、骨を軋ませながら距離を詰めてきた。一斉に手に持った剣を振りかざしソーマたちに襲い掛かる。
「うわ、キモッ……」
ミクは一瞬たじろぐが、範囲攻撃である「地雷掌」を発動し近付いてきたグループごとダメージを与える。ジンベイもミクと同じグラップラーであるため同様のスキルでこちらも同じようにボーンソルジャーをなぎ倒していく。
「リーサ……回復はまかせる……」
「はい!任せるです」
アリスはまだ敵の攻撃がそれほど激しくないため回復はリーサに任せ、自分は攻撃に集中することにした。そうやって一行はダンジョン内を徘徊するモンスターを処理しながら地下2階へと慎重に、だが確実にマップを開示していきながら進む。階段を降りると地下1階と同じような景色が続く。苔むした石畳をゆっくりと進んでいく。
「これ、だいたい何階くらいまであるんですか?」
ソーマが手探りで一歩一歩進みながら質問する。
「だいたい地下10階前後くらいか?少なくとも5階までは毎回ある感じだ」
「今、地下2階ですよね……先は長いな」
「まぁ地下10階まで行ければお宝は手に入ったようなもんでしょ」
「行けるといいですねー」
一行は地下1階と同じく、慎重に1フロアづつ進み地下3階へと降りる階段を探す。すると……
カチッ──
「ん?」
「あ……」
ソーマが何かに気付きジンベイが察した声を漏らすが、すでに遅かった。ソーマの足元の石畳が沈み、同時に何かが起動する音がした。その瞬間……。
シュゥウウウウウ──
「ゴホッ……なんだこれ?」
「きゃああああ」
「クソッ罠だ!これは……ブラッドサカー!……HPがどんどん削られるぞ!」
「ブラッドサカー」と呼ばれるトラップは、ソーマが踏んだ石畳から勢いよく紫色の煙霧を吹き出し、しばらくその場に滞留し続けた。ソーマたちのHPはみるみる減ってゆき、とうとう一桁台にまで減ってしまった。
「落ち着け!まずはHPを戻すんだ」
「……リーサ!」
「はい!『全体回復魔法』!」
白い光の粒が辺り一面を舞う。アリスとリーサが全体回復スキルを数度唱え、全員のHPを戻していく。危機が去って全員が深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
「ふぅー、危なかったです」
「あっぶねー、ソーマちゃん気をつけてよー」
「すんません、でもこんなトラップがあるなら先に言ってくれれば……」
「トラップは可視できんからな……気を付けてても無駄だから言わなかった」
エーテルダンジョンには、誰が仕掛けたのかはわからないがフロアの至る所にトラップが存在した。まるで侵入者の行く手を阻むように……。トラップの種類も、石壁の間から棘のようなものが飛び出して来たり、先ほどの毒の霧や石畳が突然落とし穴になったり、果てはパーティ全員を別のフロアへ転移させるモノまで……様々である。
一行はそうしたトラップ、果ては徘徊するモンスターにも気をつけながら次の階へ降りていった。
ダンジョンの攻略はまだまだ続く──




