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少女の夢

 インスタンスダンジョンの攻略を終え、アイテム整理のついでにエレデイアの冒険者ギルドで休息を取っていたアリスが、突然目をしかめた。視線の先には頭の先からつま先まで、赤い甲冑で固めた大柄なガドドルの男性が、後ろに数人を引き連れながら冒険者ギルドに入ってきたのだ。


ドスッ……という音と共に冒険者ギルドの一階広間に並べられたテーブル席のひとつに荒々しく腰を下ろす。と同時に、先ほどから背中に背負っていた大型の盾を脇に置く。取り巻きであろうエレシンやヒュース、ミルディなど数人のプレイヤーはその脇に立ったままであった。


「はー……使えねぇぜ全く」


そういってガドドルの男性は椅子にもたれかけ、その赤黒いヒゲで覆われた顔を天井へ向ける。


「そうッスね、グレイダーさんほどなら、あんなのとダンジョン行くだけ無駄ッスよね」


「だろ?このオレがわざわざタンク出してやってんのによ。ラスボスまでに4回もペロりやがって……あやまりゃいいってもんじゃねーぞ」


「ですよねー、せめて最低限の仕事はしろって話ッスよねー」


 先ほどから、取り巻きは()()()()()と呼ばれたプレイヤーの愚痴に相槌しか打ってない。グレイダーから発せられる愚痴の内容から、おそらくインスタンスダンジョンでの出来事だろう。マッチングで出会ったパーティメンバーへの不満であろうことは容易に想像できた。


ドンッ──


グレイダーは突然テーブルを叩き、周囲を怯えさせる。


「あぁ……何見てんだ?」


グレイダーは辺りを見回すが、周りにいたプレイヤーは誰も目を合わせようとしなかった。ここまで横柄な態度を取れるのは、グレイダー自身が前回バージョン1.2で実装されていた高難易度レイド「大迷宮ヴォルゴス」で、グレイダーのレイドチームが早期攻略を達成していたからである。

ワールドファースト争いのトップ10までとはいかないまでも、このサーバーでは一番最初に踏破を成し遂げておりその名は知れ渡っていた。この成果により気が大きくなった為であろう。


「でもグレイダーさん、あんまりきつく言うとその……ハラスメントでGMに報告されないですか?」


別のエレシンの取り巻きが、恐れずグレイダーに意見する。


「べっつに、そんくらいでGMから警告来るわきゃねーっての。あくまでもアドバイスだよ、()()()()()


「ハハハ……そっすね」


当の本人にそういわれては最早言葉もなく、エレシンの取り巻きはそれ以上は口にしなかった。グレイダー自身はさきほど見回した時に見つけた顔見知りに興味が移っており、あれだけ愚痴っていたダンジョンでの出来事はきれいさっぱり忘れていた。

グレイダーは立ち上がり、広場の隅の方に座っていたミルディの方へ歩いてゆく。アリスはそれに気づいたのか、席を立ってこの場から去ろうとアリスが腰を上げたたその瞬間……。


「よぉ、アリスじゃねぇか。まぁ座れよ、サーバーファースト取れなくてずっと捻くれてんのか?ん?」


挑発的な物言いを投げかけ、アリスが席を立とうとしたテーブルに近づき向かい側へ座る。アリスは観念したのか、再び腰を下ろし座り直した。ここで帰ろうとしたらコイツが何をするかわかったもんじゃない……。アリスは面倒なことになるくらいなら、このガドドルの話を適当に流して帰らせようと思った。


「……そんなんじゃない……から」


「あれから替わりのタンクは見つかったかよ?ダメそうならオレんとこの2軍にお前を引き抜いてやってもいいんだぜ?」

「まぁ、お前ほどなら直接オレのSTにしてやってもいいが……どうする?リアルでもな!」


「!!」


そう言いながらグレイダーはアリスに視線を向ける。アリスはその言葉に過剰に反応し、すぐさまグレイダーを睨みつける。グレイダーはアリスの反応を楽しむかのように、その視線は明らかに別の何か……を見据えるような不快なものであった。アリスを一瞥(いちべつ)したあと、グレイダーは立ち上がり「ま、気が向いたら直接会話くれや」と言い残し、取り巻きを引き連れて冒険者ギルドから出て行った。


アリスは即座にログアウトした──


五感が戻ったのを確認し、VRヘッドセットを外す。少女は立ち上がりそのままベッドへと倒れ込んだ。細くしなやかな四肢は下着しか着けていないため、よりいっそう際立つ。


「最悪……」


少女はさっきまでインしていたブレオンでのやりとりを思い出していた。はやく記憶から消し去りたかったが、それにはまだしばらく時間がかかるだろう……。ゲームのように、いらないものはすぐ捨てれたらいいのに……少女はそう思った。


「ザイド……なんで……」


そう呟くと、少女の眼から涙が零れ、頬を伝う。両手で顔を覆いながら少女はむせび泣いた。


その夜、少女は夢を見た──



「いいぞ、ボスの予兆を見逃さず防御スキルを発動しろよ」


「そうだな、ランダムな攻撃の中に一定の間隔で発動してくるのもある。それをよく見て覚えるんだ……できるさ、お前ならな!」


夢の中で男性の声が聞こえる。少女がブレオンの中で一番多く聞いていた声だ。


「ザイド……ザイドはなんでアークナイトを選んだの……?」


「ん?……なんでかって?みんなを守ることが出来るクラスだから……、ぶっちゃけ剣と盾持ってるから一番カッコよさそうに見えただけなんだがな」


そう言って()()()……と呼ばれたヒュースのプレイヤーは照れ臭そうに頭を掻いた。


「そういや、クラウスがレイドやるから固定(レイドチーム)作るつってたぞ、アリスも一緒にどうだ?シールドガードとアークナイトなら相性いいしな」


「うん……ザイドとなら……」


 ブレオンではロールとしてのタンククラスは4つ存在する。巨大な盾で文字通りすべての攻撃を防ぐ「シールドガード」、剣と盾を巧みに操り攻防一体の「アークナイト」、巨大な戦斧を駆り攻撃スキルが充実している「ウォーリアー」、錫杖を持ち魔法によってパーティを守護する「ルーンガード」である。

それぞれMT寄り、ST寄りの設計がなされており、MT寄りなのがシールドガードとウォーリアー、ST寄りなのがアークナイトとルーンガードであり、プレイヤーの研究により8人パーティでの理想的な組み合わせは、シールドガードとアークナイト、ウォーリアーとルーンガードである……と云われていた。


「決まりだ!どうせメリアディと()()ドワイトも一緒だろうし、面白い固定になりそうだぜ」


「うん……がんばろ……」


ザイドの横で少女が微笑む。彼女はどんな理由であれ、ザイドと一緒にブレオンをプレイできることが楽しかった……。


──少女はそこで目が覚めた。


枕の傍らにある時計に目をやると午前3時30分を指していた。涙で腫れた目をこする。


「なんで……あんな夢……」


少女はそう思ったが、まだ起きるには早すぎたので再び眠ることにした。目を閉じてあわよくばザイドとの思い出を夢の中で再現しようと試みる。


しかし、再びザイドが夢の中に現れることは無かった……。


ピピピピ──


目覚まし時計の音で目を覚ます。気分が重い……窓を見ると雨が降っていた。少女は髪の毛を自らの手で梳かしつつベッドから起き上がると、学校へ行く支度をするために部屋を出た。身支度を済ませ一階で家族と朝食をとる。


()()()、あなたまた夜遅くまでゲームしてたでしょ」


「まぁいいじゃないか、勉強と両立できていれば文句はないよ。ただ、勉強が疎かになるようじゃ父さんも考えなきゃならんな」


「わかってる……いってきます……」


家を出て学校への道すがらにあるコンビへと寄る、VRゲームを扱う情報誌「VRGAMES」が発売される水曜日の習慣であった。


少女が店内に入り、雑誌コーナーへ向かうと


「もしかして、VRGAMESですか?いま入ったばかりなんです、どうぞ」


そういって、男性店員がまだ荷ほどき中の雑誌の束からVRGEMSを抜き取り少女へ渡す。少女はそれを受け取る。


「……ありがと」


少女は少し気分が晴れた気がした。コンビニを出ると、雨は止み空には晴れ間が出ていた──


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