4話
―僕に聞きたいことがあるんだよね?
セレフィアは少し悩んだ。
「そうなんだけど、なんていうか……」
そう口ごもるセレフィアをみて彼が提案した。
「僕たちまだお互いの名前も知らないよね、自己紹介から始めようか」
ここにきて彼の名前を知らないことを、セレフィアはやっと思い出す。
「まず私から話すね。私はセレフィア・ルネア、3年生で、エルヴァ先生のクラスだよ」
セレフィアが伝えると、彼は少し緊張しながら口を開いた。
「僕はノイル。ノイル・ヴェイラ、3年生でカルディス先生のクラス」
彼の名前を聞いた時、セレフィアは何か暖かいものを感じていた。
用意していたお茶が喉を通ったからかもしれないし、彼の放つ言葉にそう感じたのかもしれない。
何かは分からないけれど、彼といるとセレフィアの表情は自然と緩んでいた。
「ノイルくんは、」
そうセレフィアが呼んだ時、ノイルが少し申し訳なさそうに口を開いた。
「ノイルでいいよ、ごめんね遮って」
それならばと、セレフィアは自分のこともセレフィアでいいと彼に告げてから話を続けた。
「ノイルは、この湖が好きなの?」
星の瞬く空を見上げてノイルは黙り込んでしまった。
「ごめん、言いたくなかったりするならいいの、気にしないで」
そういうとセレフィアは気まずさを隠すようにお茶を飲んでから、話題を変えようと何か言おうとした。
けれど彼のことをまだ何も知らないセレフィアはどんなことを話せば彼を困らせないのかが分からない。
一生懸命、話題を考えているセレフィアだが何も思いつかず、今日のお昼は何食べた?
なんて会話が頭を過よぎった時、ノイルが口を開いた。
「……自分でもよく分からないんだ」
予想外の返答にセレフィアは目を丸くして聞いた。
「なんとなくここが落ち着く、みたいなそんな感じ?」
「多分そうだと思う」
なんとなくこれ以上は踏み込んではいけないと思ったセレフィアはそっか、と一言だけいって彼と同じように空を見上げた。
二人でしばらくそうしていた時、突然セレフィアがぐぅ~と音を立てた。
「おなか、空いちゃった……」
そういってセレフィアは少し俯き、恥ずかしそうに笑った。
「今日は解散しようか」
ノイルはそう言うと残っていたお茶を飲み、ブランケットを丁寧に畳んでからセレフィアにありがとう、といって手渡した。
「また明日学校でね」
セレフィアがそういって立ち上がるとノイルも立ち上がってセレフィアを見送った。
―パタンとドアの閉まる音がして、辺りには静寂が訪れた。
「恥ずかしすぎる……」
玄関の扉を閉めて一人になったセレフィアは力なくそう呟く。
そして思い出したように顔を上げた。
「結局、聞けなかったなぁ……」
―星は何も言わないから。
その言葉がまたセレフィアの心を埋め尽くした。
静寂を切り裂くようにセレフィアのお腹が再びぐぅ~と音を立てる。
「ごはん食べよう」
それから手を洗い、昨晩のカレーを火にかけ温め、ご飯とともにお皿によそった。
「いただきます」
そう言って手を合わせると温かいカレーを口いっぱいに頬張った。
「おいしい、人参もすごく甘い」
今度買い物に行ったとき八百屋のおじさんに伝えよう、そう思いながら黙々と食べ進めた。
「ごちそうさまでした」
食器を水につけてからセレフィアはお風呂のお湯を沸かしに行き、キッチンに戻りお皿を洗った。
ソファに座りお風呂が溜まるのを待とうと思ったが、ふと気になって窓の外を見てみるとまだノイルの姿があった
「えっ……」
さっき持ち帰ったブランケットを手に再び外に出ようとしたセレフィアは、足を止めた。
ノイルは一人になりたくてまだあの場所にいるのかもしれない。
そう思ったセレフィアはブランケットを元の位置に戻し、ソファに腰かけお風呂が溜まるのをただ、待っていた。
数分後お湯が溜まり、頭や体の洗浄を済ませたセレフィアはお湯に浸かり体を温めながら、考え込んでいた。
「ノイルが落ち着ける場所なのに邪魔しちゃったかなぁ……」
ノイルがまだ湖で空を見上げていたことが気になっていた。
まだ彼のことを何も知らない。
なぜまだあの場所にいるのか、ノイルが何を考えているのか。
彼の気持ちを想像できない自分が、少しだけ寂しかった。
少し頭がぼーっとしてきてセレフィアはお風呂から上がった。
「少しのぼせちゃったかな」
そう言ってさっと髪の毛と体をタオルで拭いてパジャマを着てからキッチンへと向かい、コップに水を注ぎ飲み干した。
それから洗面所へ戻り髪を乾かし、自室へと向かい窓辺に腰かけ湖を見たが、もうノイルの姿はなかった。
「よかった、ノイルも帰ったんだ」
そう呟くと空に瞬く星を見つめた。
―
「明日も会えるといいな」
そう星に想いを馳せ、セレフィアはベッドに入り眠りについた。




