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あのスタバの死神の姪が、おじさんのヨレヨレのコートを羽織って二代目探偵になる  作者: ルツ


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7/12

二代目のハメ手(手柄の譲渡)

 白熱電球の光の下、気絶した半グレたちの無呼吸の喘ぎ声だけが、雨音に混ざって事務所内に冷たく響いていた。 

腕時計の文字盤を見つめる。冴子さんが開けてくれた『三分間の空白』の砂時計は、いま、最後の一粒を落とそうとしていた。

「メイリン。……始めるよ。指紋と痕跡、一つ残さず完璧に消して」

「了解アル、二代目! わたしがドラム缶で引っ叩いた床の擦り傷も、スタバのダスターみたいに綺麗にワックスがけしてあげるネ!」 

メイリンはお団子頭シニヨンを揺らしながら、油まみれのウエスを手際よく掴み、私たちがこの場所に立ち入った物理的な証拠を消し去っていった。

彼女の怪力と大須のジャンク街で培った小器用な隠密の立ち回りが、この夜、完璧な『透明な舞台』を作り上げようとしていた。 

私は、泣きじゃくる人質の女子高生を事務椅子の陰へと優しく座らせ、その視線を遮るようにして、気絶している半グレのボスの前に膝を突いた。 

おじさんの遺した古いシステム手帳。その革のカバーの裏から、何枚もの古いスタバのレシートを引き出す。

そのレシートの裏面には、感熱紙の熱で歪んだ独特の文字列の中に、おじさんが命がけで掴んでいた「上層部(キャリア組)の過去の捜査隠蔽の内部データ」が、びっしりと微細な暗号で書き残されていた。 

数年前、当時の上層部が出世と保身のために握り潰し、結果としてこの誘拐犯たちの野放しを許してしまった、絶対に表に出てはならない組織の歪み。

おじさんは、その隠蔽された本物の捜査資料の原本が、まさにこの織物廃工場の古い耐火金庫の奥に眠っていることを、泥臭いお節介の果てに突き止めていたのだ。 私は、おじさんのレシートに刻まれた暗号を頼りに、事務所の隅にある赤錆びた古い金庫のダイヤルを静かに回した。 

カチャリ、と重重しい金属音が響き、扉が開く。そこには、茶封筒に収められた、当時の公印が押された「本物の未解決事件の捜査資料」が、手つかずのまま眠っていた。 

私はその本物の捜査資料の束を引っ張り出すと、気絶している半グレのボスの、だらしなく開いたマウンテンパーカーの懐のポケットへと、無造作に、しかし完璧な位置へと滑り込ませた。 

これで、チェス盤のハメ手(仕返し)は完成だ。 

桐生冴子が単独でこのアジトに突入し、被害者の女子高生を無傷で救出し、なおかつ、この誘拐犯のボスの懐から、上層部が数年間にわたって隠し続けてきた未解決事件の『本物の証拠』を同時に押さえて公に発表してしまったら、どうなるか。 

身内の不祥事を白日の下に晒された当時のキャリア組は大ダメージを負い、出世街道から引きずり下ろされる。だが、冴子さん自身は「身内の汚職や隠蔽を断固として正し、その本物の証拠をベースにして凶悪な誘拐犯を現行犯で挙げた、非の打ち所がない正義の警察官」として、新聞や世論から絶賛を浴びることになるのだ。 

そうなれば、組織の上層部は彼女を処分するどころか、世間の怒りを鎮めるために、刑事課長の椅子を用意して彼女に平伏するしかなくなる。 

誰も法を犯していない。

冴子さんは、ただ私に騙されたフリをして無線を回し、私はただおじさんの残した本物の証拠を犯人の懐に戻しただけ。

ルールの死角を突いた、完璧な合法の仮面を被った裏工作だった。 

俺は、おじさんの大きなトレンチコートのポケットから、自分のスマートフォンを取り出した。

そして、桐生冴子個人のプライベートな端末へ向けて、一件の短いメッセージだけを送信した。

『チェックイン完了。万松寺のオーダーを通してください』

「行くよ、メイリン。……お姉さんの、お出迎えの時間だ」

「了解アル、おじさん! パトカーのサイレンの音が、遠くからご馳走の匂いみたいに近づいてくるネ!」 

私は、怯える女子高生に「もうすぐ、すごく格好いいお姉さんのお巡りさんが助けに来てくれるからね」と優しく微笑みかけ、彼女の視線が届かない非常扉の闇の中へと、静かに姿を消した。 

二十四時ちょうど。 

おじさんの遺した哀しいすれ違いの絆を、私が最高のトッピング(恩返し)に変えるための仕掛けが、稲沢の激しい雨のなかで、静かに、しかし完璧に完成のトリガーを引き抜こうとしていた。

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