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あのスタバの死神の姪が、おじさんのヨレヨレのコートを羽織って二代目探偵になる  作者: ルツ


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工業用ドラム缶と、鮮烈な回し蹴り

 錆びついた鉄製の非常扉を音もなくこじ開け、私とメイリンは織物廃工場の内部へと滑り込んだ。  

外の激しい豪雨の音が、広い工場のスレート屋根を叩きつけ、巨大なドラムを鳴らすような重低音となって室内に反響している。

かつてガチャ万と謳われた栄華の跡地は、今は引き裂かれた古い織機の残骸と、埃まみれのブルーシートが散乱する、無機質な闇の吹き溜まりと化していた。 

奥の事務所スペースから、ぼんやりとした白熱電球の光が漏れ聞こえてくる。

同時に、下卑た男たちの笑い声と、縛られた少女の押し殺したような嗚咽が、不気味に闇を伝って届いた。 

腕時計の文字盤に目を走らせる。

冴子さんが無線をジャミングしてくれた三分間の空白。その死の秒針は、すでに残り『一分半』を告げて刻一刻と減り続けていた。

「豊のおじさんの姪っ子、奥に黒スーツの半グレが四人、ナイフと鉄パイプを持って油断してるネ」

 お団子頭シニヨンを激しく揺らしながら、メイリンがアウターの袖をたくし上げて不敵に笑った。

その両手には、日本のアニメで観た格闘ポーズさながらに、微かな野生的な熱量が漲っている。

「わたしはパパの組織を嫌ってスタバに入り浸るストリートガールアル。……だから、殺しと破壊は絶対にしないネ! でも、おじさんの遺した日常を守るためなら、あそこの悪党どもの骨をちょっとだけ不調和音にしてあげるアル!」

「うん。……残りは一分。一気に片付けるよ!」 

私が合図を送ると同時に、メイリンはその小柄な体躯からは想像もつかないような圧倒的な推進力で、廃工場のコンクリート床を強く蹴り上げた。 

彼女が突撃した先は、事務所の入り口の横に並べられていた、錆びついた特大の工業用スチールドラム缶だった。中に何が入っているかもわからない、重量100キロは優に超える鉄の塊。

それを、メイリンは「殺しはしないアル!」の信条を胸に抱いたまま、素手でガッシリと掴み取ると、頭上へと軽々と持ち上げてみせた。

「野郎ども! 豊のおじさんのチェス盤の邪魔をするんじゃねえネーッ!!」 

ブンッ! という、周囲の大気を強烈に押し潰すような破天荒な轟音。 

メイリンがブン回した巨大なドラム缶の鉄壁が、声を上げて振り返った半グレ二人の胴体を正面から強烈に薙ぎ払った。

「ごふっ!?」

「な、何だコラァ!」 

大人二人の身体が、まるで紙屑のように横の古い織機の山へと叩きつけられ、激しい金属音と共に一撃で戦闘不能に陥る。 

この一瞬の、大乱闘が巻き起こした視界の空白。 

残されたボス格の男が、驚愕に目を見開きながらも、懐から黒く輝くナイフの刃を抜き放ち、縛られた女子高生の喉元へ向けて突き出そうとした。

「させない……っ!!」 

私はおじさんの大きなトレンチコートの裾を雨風に激しく翻し、バラスト(砂利)の上での修行を思い出しながら、軸足を廃工場の硬いコンクリートへと深く踏み込んだ。フルコンタクト空手で骨の髄まで叩き込まれた、一切の迷いのない一歩。 

――チェストォォォッ!! 

私の放った電光石火の上段後ろ回し蹴りが、男の構えるナイフの刃を紙一重でかわし、その顎の先端を完璧な破壊力で捉えた。 

バキィィィン! という激しい肉体の激突音が工場内に木霊し、男の巨体は放り投げられた泥人形のように、数メートル先の事務デスクの上へと派手な音を立てて逆さまに突き刺さった。 わずか十五秒足らずの制圧。

 私は破れた制服の袖から覗く拳を固め、おじさんのコートの袖を少しだけ捲り上げた。

「……ふぅ。おじさんのコート、やっぱりちょっと動きにくいな」 

私は乱れた息を整えながら、恐怖に目を見開く人質の女子高生へと歩み寄り、その縄を優しく、丁寧に解いてやった。

「大丈夫。もう安全だよ。……冴子さん、お膳立ては完璧に整ったよ」 

私はおじさんの古い手帳をポケットの奥に確かめ、誰も犯罪者にならない、ルールと人情の境界線を綱渡りする二代目探偵の、次のハメ手(仕返し)へ向けて、静かに立ち回りを始めようとしていた。

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