空中上段回し蹴りと、職人の意地
「がはっ……! ガキどもが、舐めるなよ……!」
千影さんに右肘の関節を冷徹に砕かれた窃盗グループのリーダーは、激しい苦悶に顔を歪ませながらも、執念で床に転がったナイフへ左手を伸ばそうとした。
男の背後では、海外への密輸用に手配されていた大型コンテナトラックのディーゼルエンジンが、アイドリングの重低音を響かせ、排気ダクトを熱く震わせている。 私はおじさんの大きすぎるトレンチコートの裾を雨風に激しく翻し、倉庫の天井を支える木製の頑丈な梁の上へと、猛烈な跳躍で駆け上がった。
フルコンタクト空手の修行で培った、空中でも軸をミリ単位すらぶらさない圧倒的な体幹。
梁の端を強く蹴り上げ、私はあま市の薄暗い倉庫の空へと高く跳ね上がった。
黒いトレンチコートが、まるで夜霧を割る巨大な番犬の翼のように鮮烈に広がる。その空中からの落下重力を、すべて私の右足へと乗せた。
――チェストォォォッ!!
私の放った電光石火の空中上段後ろ回し蹴りが、ナイフを拾い上げようとした男の顎の先端を、最高打点から完璧な破壊力で打ち抜いた。
バキィィィン! という激しい肉体の激突音が木造倉庫の内部に木霊し、男の巨体は放り投げられた泥人形のように、路上に積まれた空の出荷用木箱の山の中へと、派手な音を立てて逆さまに突き刺さった。
一撃での失神。男のポケットから舞い上がった密輸ルートの通信端末を、私は着地と同時に空中で鮮やかにキャッチし、トレンチコートのポケットへと滑り込ませた。
「……ふぅ。やっぱり、おじさんのコートは空中で回るにはちょっと重いな」
私は乱れた息を整えながら、大きすぎるコートの袖をきつく捲り上げた。
「ハハハ! よくやった二代目! 旦那の形見のトレンチコート、最高にイカしてるぜ!」
その時、倉庫の古い引き戸が勢いよく開き、工具や彫刻刀を手にした職人たちが一斉に姿を現した。
おじさんの古い手帳に名前が書かれていた、あま市七宝町の老職人――源三さんたちだった。
彼らはかつて、不当な闇金トラブルにハメられて伝統の窯元を奪われかけた際、おじさんが「お節介」で命がけで裏の帳簿を暴いて救ってやった、あの日の『人情の種』の職人たちだった。
「源三さん……!」
「旦那の姪っ子だな! 無線はユタカのハゲから聴いてたぜ。……窃盗犯どもが本物の絵皿を隠匿していたこの倉庫のログデータと、サツの鑑定マニュアルを逆手に取った『本物の証明資料』なら、俺たちがとっくに全部揃えてあるぜ!」
源三さんは不敵に笑い、特製のジュラルミンケースを開けて、明治時代の幻の『七宝工芸絵皿』を無傷で私たちの前へと提示してくれた。
朝七時に更新されるシーズン1(おじさん編)で「おじさんが職人の意地を守るために泥水を被った過去」のあま市が、夕方更新のこのシーズン2で、私の能動的な正義を運ぶ最強の『人情の証拠』となって、あま市の夜を完璧に制圧した瞬間だった。




