コンテナ積込場の乱舞、不殺のドラム缶
警察の網が「合法的」に東側へと引き剥がされた瞬間、西側の広大なコンテナ積込場は、激しい雨音だけが支配する無機質な処刑場へと反転した。
フォークリフトやパレットが乱雑に立ち並ぶ闇の奥から、上着の内懐に手を忍ばせた男たちが、音もなく姿を現した。その数、五人。
彼らはキャリア組(上層部)と裏で繋がり、邪魔者になった桐生冴子を物理的に口封じするために雇われた、悪質な半グレグループの実行犯たちだった。
「チッ、内偵のサツどもが勝手に東へ動きやがった。……まぁいい、ここでまとめてあの女刑事を事故に見せかけて沈めるぞ」
リーダー格の男が、雨に濡れた特殊ナイフの刃をカチリと引き抜き、冷酷な殺意を冴子さんへと向けた。
冴子さんは微動だにせず、トレンチコートのポケットに両手を突っ込んだまま、その「氷壁」の瞳で男たちを冷たく見下ろしていた。だが、彼女の部下は誰もいない。完全な孤立無援。
「――そこまでだよ、悪党ども!」
私が叫ぶと同時に、おじさんの大きすぎるトレンチコートの裾を鮮烈に翻し、コンクリートの床を強く蹴り上げた。
「豊のおじさんの姪っ子、こいつらパバのマフィアの切り込み隊長と同じで、全然スタバの珈琲の味が分からない下品な目をしてるアル!」
私のすぐ横から、お団子頭を激しく揺らしたメイリンが、弾丸のような速度で前に躍り出た。
彼女はマフィアの長の娘でありながら、「絶対に殺しと破壊はしない」という誇り高い不殺の信条を胸に抱いている。
だからこそ、彼女が目をつけたのは、積込場の片隅に置かれていた、解体整備中の『鉄道貨物用の巨大な鉄製車輪(車軸付きの超重量物)』だった。
通常の人間なら数人がかりでもビクともしない、数百キロは優に超える鉄の塊。
それを、メイリンは不殺の怪力でガッシリと鷲掴みにすると、まるでベーゴマを回すかのように、コンクリートの床の上で強烈にブン回してみせた。
「野郎ども! 豊のおじさんのチェス盤の上で、冴子お姉さんに指一本触れるんじゃねえネーッ!!」
ブンゥゥゥゥンッ!!! という、積込場全体の空気を力任せに押し潰すような、破天荒な鉄の轟音。
メイリンが素手で独楽のように回転させた巨大な鉄製車輪の遠心力が、突っ込んでこようとした半グレ三人の足元を正面から強烈に薙ぎ払った。
「ぎゃあっ!?」「足が、足の骨がぁ!」
大人三人の身体が、まるで紙屑のように横のコンテナの壁へと弾き飛ばされ、激しい金属音と共に一撃で戦闘不能に陥る。
この一瞬の、大乱闘が巻き起こした視界の空白。
残されたリーダー格の男が、驚愕に目を見開きながらも、形振りの構えでナイフの刃を冴子さんの喉元へ向けて突き出そうとした。
「千影さん……っ!」「――我が家の番犬を、舐めるなと言ったはずだ」
闇の向こうから、黒い防水コートの裾を激しく翻した千影さんが、獲物を狙う豹のような速さで割って入った。
彼は右手一本の特殊警棒を、剃刀のような神速の軌道で一閃させた。キィィン! という高い金属音が雨音を切り裂き、男の持つナイフを鮮やかに宙へと弾き飛ばすと同時に、男の肘の関節を冷徹な打突で木っ端微塵に叩き折る。一切の無駄のない、完璧な守護だった。
朝七時に更新されるシーズン1(おじさん編)で「おじさんが玲那を逃がすために一人で血を流した過去」の愛知機関区が、夕方更新のこのシーズン2で、私の能動的な正義を支えるための最強の『トリプル・バディ』のアクションのカタルシスとなって、稲沢の夜を完璧に圧倒した瞬間だった。




