16 空を覆い尽くす炎
町の上空では、旋鬼に支配された來華が周囲に目を向けながら、濃い霧のような雲の中を飛んでいた。
「この魔物の嬢ちゃんの目は遠くのものまでハッキリ見えるのに、こんなに視界が悪い雲の中に逃げ込むなんて、ムカつくねぇ! さすがのこの目でも、よく見えないじゃないか」
旋鬼に支配された來華は静止すると、両掌を左と右に向けた。
「邪魔な雲は吹き飛ばしてしまうよ!」
旋鬼に支配された來華の左右の掌からつむじ風が発生し、その周りの雲を渦巻き状に巻き込みながら、雲の中に大きなトンネルをつくって伸びていった。旋鬼に支配された來華が掌からつむじ風を放ちながら、その場でゆっくり回転して降下していくと、雲は旋鬼に支配された來華の頭上に広がる層と足の下に広がる層に分断された。
「旋鬼ーっ! 覚悟しろーっ!」
上方からまふゆの声が響き、旋鬼に支配された來華が顔を上げると、頭上の雲の層から五本のつららが飛び出した。旋鬼に支配された來華はニヤリと笑い、両手を咒靈力の塊で覆うと、長く伸びてくる五本のつららを両手の拳で粉砕した。
「こんな氷くらいで、あたしにダメージを与えられると思ったのかい? ナメてくれたもんだねぇ!」
続けて、上の雲の層から、先ほど砕かれた五本のつららが生えていた一辺が二メートルの立方体の氷塊が落下してきた。
旋鬼に支配された來華が咒靈力で包まれた右拳を叩き込むと、氷塊は粉々に粉砕され、その中心にあったコアちゃんの竹節鋼鞭が姿を現して落下していき、途中で消え去った。
その様子を見下ろしていた旋鬼に支配された來華は、冷たい笑みを浮かべた。
「あの得物に術をかけて、つららが伸びる氷塊を出したのかい? 何か物がなければかけられない術なんて、不便で不憫なものだねぇ」
再び五本のつららが伸びる氷塊が落下して旋鬼に支配された來華を狙い、旋鬼に支配された來華は咒靈力で包まれた拳でつららと氷塊を粉砕した。その氷塊の中にあったもう一本の竹節鋼鞭は、落下する途中で消滅した。
もう一度、五本のつららが伸びる氷塊が、旋鬼に支配された來華に向かって落ちてきた。
「こんな攻撃何度やっても無駄なんだよ!」
旋鬼に支配された來華がつららをかわしながら、咒靈力で包まれた拳で氷塊を粉砕すると、中からコアラのぬいぐるみの姿のコアちゃんが飛び出した。
「な、何っ?」
驚愕する旋鬼に支配された來華の頭のすぐ上で、コアちゃんは巨大化して戦闘モードになり、同時に旋鬼に支配された來華を後ろから羽交い締めにした。
「は、離すんだよ!」
旋鬼に支配された來華は、羽交い締めを外そうとして藻掻いたが、コアちゃんは渾身の力を込めて腕を離そうとはしなかった。
「離しやがれええええええええええええええええっ!」
旋鬼に支配された來華の全身から咒靈力が放射されてコアちゃんを包み、黒い雷がコアちゃんの全身を駆け巡り、コアちゃんは全身を襲う激痛で絶叫した。
「があああああああああああああああああああああああああああっ!」
「離せ! 離すんだよ!」
「絶対に離すもんかああああああああああああああああああああっ!」
コアちゃんは苦しみに耐えて叫び声を上げながら、必死に旋鬼に支配された來華を羽交い締めにし続けた。
旋鬼に支配された來華とコアちゃんの上方から、ドーム状の夜の空間が降ってきて周囲が夜空に変わった。
「この夜の空間は、あの魂の嬢ちゃんの周囲にある空間だねぇ? 上から来ることがバレバレなんだよ!」
旋鬼に支配された來華が上の雲の層を見上げると、雲の層から五本のつららが飛び出し、旋鬼に支配された來華とコアちゃんに向かって伸びてきた。旋鬼に支配された來華は、愕然として自分に向かって迫るつららを見つめた。
「こ、この魔物の嬢ちゃんの体を串刺しにする気なのかい?」
五本のつららを伸ばしながら上の雲の層の中を落下する一辺が二メートルの氷塊の中には、天女姿のさくらの魂がおり、必死に氷塊を回転させようとしていた。
『まふゆさんの立てた作戦で、短くなった領巾にまふゆさんの術をかけてもらったけど、この氷の塊、重過ぎて回転させられない!』
氷塊から伸びるつららの中の一本の先端が、上を見上げる旋鬼に支配された來華の顔に向かって真っ直ぐ伸びていき、その左目のすぐ手前にまで到達した。
「絶対に、絶対に回転させるんだあああああああああああああああああああっ!」
さくらの魂が叫びながら、渾身の力を込めて自分の体を回転させると、物質化している領巾を覆う氷塊がゆっくりと回転を始め、氷塊から伸びるつららの軌道が旋鬼に支配された來華から逸れ、つららの先端は次第に上を向いて上の雲の層の中に姿を消した。
雲の中でゆっくり回転していく氷塊の上面には、氷塊に突き立てた氷結之薙刀を右手でつかんだまふゆが屈み込んでいた。氷塊の上面の傾きが垂直に近づいた時、まふゆは氷結之薙刀から手を離し、両手を足元の氷塊に当てて叫んだ。
「古より時節の移ろいを司りし青朱白玄之尊よ! その御力を宿し給え! 氷樹之幹枝!」
まふゆが両手を当てた箇所が白く輝き、その瞬間、氷塊の上面が垂直を超えて下を向き始め、まふゆは宙に放り出された。
『届けえええええええええええええっ!』
まふゆは空中で必死に氷結之薙刀に向かって右手を伸ばし、ぎりぎりで氷結之薙刀を掴んだ。
その時、全身を包む咒靈力の苦しみに耐えながら羽交い締めを続けるコアちゃんと、旋鬼に支配された來華の頭上に、ゆっくりと回転する氷塊が雲の層の中から姿を現した。間もなく氷塊の底面になろうとしている面には、氷結之薙刀に両手でぶら下がるまふゆと、白く輝く箇所から伸びていく氷の樹があった。氷の樹は旋鬼に支配された來華の真上に来ると、旋鬼に支配された來華に向かって枝を伸ばし始め、旋鬼に支配された來華は目を剥いた。
「こ、これは温羅様の魂を凍らせた術!」
伸びていく氷の枝が、旋鬼に支配された來華に触れようとした瞬間、コアちゃんは旋鬼に支配された來華を解放し、その場から離れようとした。
「離さないよぉ!」
旋鬼に支配された來華が、離脱のために飛行を始めたコアちゃんの右足を右手で掴み、そのままコアちゃんに引っ張られて迫る氷の枝から二メートル離れ、氷塊はコアちゃんの目の前を通過して落下し、下の雲の層に突入した。
コアちゃんは慌てて旋鬼に支配された來華の右手首を両手で掴むと、氷塊を追って下の雲の層に飛び込んだ。
旋鬼に支配された來華はコアちゃんの手を振り払おうとして、右手から咒靈力を送り、コアちゃんの体中に咒靈力の塊で覆われた左の拳と左右の足を連続して叩き込んだ。
「離せ! 離すんだよ!」
「離してたまるかーっ! コアちゃん様が、絶対にお前を魂まで凍らせてやるぜええええええええっ!」
コアちゃんは咒靈力の激痛と打撃に耐えながら、旋鬼に支配された來華を引っ張って氷塊の下の氷の樹の真下まで降下し、氷の幹と枝は旋鬼に支配された來華とコアちゃんに向かって伸びていった。
「氷の樹を破壊してやるよ!」
旋鬼に支配された來華は左掌を氷の樹に向けた。
その様子を見たまふゆは目を丸くした。
『今、旋鬼を逃したら、もう打つ手がない! こうなったら……』
まふゆは次にとる行動の覚悟を固めると、氷結之薙刀に掴まったまま体を振り、旋鬼に支配された來華に向かって思い切り飛んだ。
「だあああああああああああああああああああああっ!」
まふゆは伸びる氷の枝に左足を伸ばしながら、両手で旋鬼に支配された來華の左手首を上から押さえ、その左掌を下に向けた。
「な、何ーっ?」
旋鬼に支配された來華が驚愕してまふゆに目を向けると、その視線の先では、自分の左手首を掴むまふゆが見る見る氷の枝に覆われており、不敵な笑みを自分に向けながら凍りついていった。氷の枝は、そのまま旋鬼に支配された來華の左手首から全身に広がり、その体をも凍らせていった。
「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ! お前も道連れだぁああああああああああああっ!」
旋鬼に支配された來華は叫び声を上げながら、コアちゃんの右足を掴んでいる右手に渾身の力を込め、氷の枝はコアちゃんの体にも広がっていった。
旋鬼に支配された來華の叫び声が雲の中に消えた直後、氷塊は雲を突き抜けて夜空に飛び出した。その氷塊の底面から下に向かって長く伸びた氷の樹には、氷の枝に覆われて凍りついたまふゆと旋鬼に支配された來華、コアちゃんの姿があった。
「まずい! このままじゃあ、みんなが凍ったまま地面に激突する!」
氷塊の中にいた天女姿のさくらは、変身を解いて制服姿の魂になり、氷塊を通り抜けて氷塊の下へ移動した。さくらが変身を解くのと同時に、周囲の夜の空間が消え去り、氷塊は青空を落下していった。
さくらは氷塊と一緒に降下しながら、凍りついたまふゆたちを捕らえている氷の樹を見つめて狼狽していた。
『コアちゃんがいないと、みんなを助けられない……。でも、まふゆさんがいないと、術を解く方法がわからない……』
氷塊は五本のつららを尾のように長く伸ばしたまま、六千メートル下の町に向かって次第に加速しながら落下していった。
町中では、悪霊と化した鋼鬼と重鬼が、仰向けで倒れて気を失っているナツを見下ろし、残酷な笑みを浮かべていた。
「重鬼よ、こいつ動かなくなったぜ。死んだか?」
「魂が出てこねぇ。呪いの力で魂も消滅したのか?」
その時、ナツの左腕がピクリと動き、鋼鬼が驚愕した。
「こ、こいつ、まだ生きてやがる!」
突然、ナツの体から黒いオーラが滲み出て全身を覆い、ナツの閉じた両目から黒い涙が流れると、涙の流れた跡が黒い模様となった。ナツは目を閉じたまま、楽しそうな声を出した。
「ああ……、いい咒靈力だ……。お前たちが放った咒靈力は、全部俺がいただいた」
瞼を開いたナツの両目は、眼球が黒くなって瞳が赤く光り、目尻が吊り上がっていた。ナツが上体を起こすと、頭の後ろで一本に束ねた髪が逆立っており、闇でできた炎のように黒く揺らめいていた。ナツが左腕を前に突き出すと、その腕は闇のような漆黒になり、そこに浮き出た縞が赤い光を放った。
重鬼と鋼鬼はナツの変貌に驚愕し、言いようのない恐怖を感じて後退りを始めた。
「な、な、何なんだーっ、お前はーっ?」
重鬼は大きな緊張と不安に襲われて叫び声を上げ、その隣では鋼鬼も目を見開いて慄然としていた。
『な、何なんだ、こいつは? 怖いものなんてないはずの悪霊であるこの俺が、こいつに恐怖を感じている……。俺の本能が、こいつに言い知れぬ恐怖を感じている……』
鋼鬼は冷や汗を流し、その体は震え出していた。
ナツは重鬼と鋼鬼に顔を向けるとニヤリと笑った。その瞳は、炎のように赤い光を放っていた。
「俺はこいつの中の咒いの心、咒いの淚尽だ。お前たちが俺に力を与えてくれたから、俺は再びこの体を支配することができた。ついでに、お前たちの咒靈力は全部俺がいただくことにする」
咒いの淚尽の左腕が赤と黒のまだらの炎になって燃え上がり、長く伸びて空中をうねると、赤と黒のまだらの炎でできた鋭い角と左腕があるドラゴンに変わった。
赤と黒の炎のドラゴンは空中をうねりながらますます長く伸び、重鬼と鋼鬼の体に巻きつくと、重鬼と鋼鬼は赤と黒のまだらの炎に包まれた。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああっ!」
重鬼と鋼鬼は炎で灼かれて絶叫し、その全身から黒い咒靈力が放出されると、炎のドラゴンがそれを口から吸い取っていった。
やがて、咒靈力が出なくなると、炎のドラゴンは一気に重鬼と鋼鬼を締めつけ、重鬼と鋼鬼の魂は小さな光の破片になって飛び散った。
「お前たちには魂すら存在する価値はない。魔物め!」
咒いの淚尽は、重鬼と鋼鬼の魂が消え去った場所に赤く光る瞳を向け、吐き捨てるように言った。
咒いの淚尽は、自分の大腿の傷に目を向けた。
「こんな傷、咒靈力を物質化すれば、簡単に再生できるのさ」
咒いの淚尽の大腿の傷口から半透明の黒いものが滲み出てきて傷口を塞ぐと、皮膚と同じ色になって傷が消え去り、咒いの淚尽は傷などなかったかのように立ち上がった。
その時、上空に雲のように集まっていた数万人のヴァンパイアになった住民たちが、咒いの淚尽の存在に気づき、叫び声を上げながら一斉に迫ってきた。
「人間だーっ! 人間がいるぞーっ!」
「あの人間の生き血は、俺がもらうぞーっ!」
「俺は腹ペコなんだーっ! あいつの生き血を飲ませろーっ!」
咒いの淚尽は冷たい表情を空に向け、赤く光る瞳でヴァンパイアの大群を見上げた。
「魔物どもめ!」
咒いの淚尽の頭上は、降下してくるヴァンパイアの大群で覆い尽くされた。
先頭のヴァンパイアたちが地上五十メートルに到達した時、咒いの淚尽の左腕の炎のドラゴンが、ヴァンパイアたちに向けて赤と黒のまだらの炎を放射し、その炎はヴァンパイアたちを次々と包んでいった。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
ヴァンパイアたちが赤と黒のまだらの炎に灼かれて苦しみながら絶叫し続けても、咒いの淚尽は顔色ひとつ変えることなく、次々とヴァンパイアたちに炎を放射し続けた。空が赤と黒のまだらの炎で覆い尽くされ、その中で数万体のヴァンパイアたちが炎で苦しみながら断末魔の悲鳴を上げている様子は、まさに地獄のようだった。その光景を咒いの淚尽は赤い瞳を光らせながら、冷たい表情で見つめていた。
やがて、炎で灼かれて丸焦げになったヴァンパイアたちの死体は、赤と黒のまだらの炎の中から次々と地面に落下していき、夥しい数のヴァンパイアたちの丸焦げの遺体が、道路や周辺の建物を覆い尽くしていった。
地面に転がる黒焦げのヴァンパイアの死体から、二つの白い光の粒が飛び出すと、ゆっくりと空に向かって上昇を始めた。
咒いの淚尽は、その様子を残酷な笑みを浮かべて見つめていた。
「一つの体に、人間の魂と魔物の魂が入っていたということか。面白い。人間も魔物もみんな消えていくがいい」
一面に広がるヴァンパイアの焼死体から飛び出した十数万もの白い光の粒は、星雲のように集まると、ゆっくりと空を上へと上昇していった。
咒いの淚尽は、近くで気を失って倒れているヴァンパイアとなった河童とじーさんに目を向けた。
「お前たちも消えろ。魔物め!」
咒いの淚尽の左腕から伸びる炎のドラゴンは、河童とじーさんに向けて赤と黒のまだらの炎を吐き出し、河童とじーさんは黒焦げとなり、その体から白い光の粒が二つずつ飛び出し、ゆっくり上昇していった。
「燃やすべきゴミどもが、まだ残っているな」
咒いの淚尽は、町を覆いつくす焼死体の中で、立ったまま固まって動かない人々に赤く光る目を向けた。その人々は、まふゆの術で凍りついていた無数のヴァンパイアになった住民たちだった。
「お前たちも一匹残らず灼き尽くしてやる。ゴミどもめ」
咒いの淚尽は炎のドラゴンと化した左腕をうねらせながら、凍りついた人々に向かって歩いて行った。
シティホテル一階のエントランスでは、さくらの体を左肩に担ぐヴァンパイア、そのヴァンパイアの後ろに立つ三体のヴァンパイアの後方で、もみじがエスカレーターに乗っていた。もみじたちは間もなく二階のロビースペースに到着した。
「ジル様たちがお待ちなのは、ここだな」
さくらの体を肩に担ぐヴァンパイアは、エスカレーターを降りてすぐ右側にある宴会場に向かい、閉じられた扉の前に立ち、他のヴァンパイアともみじもその後ろに立った。
「ジル様、スノン様、ルージ様。お食事をお持ちしました」
さくらの体を肩に担ぐヴァンパイアが宴会場に向かってそう告げると、中からジルの声が聞こえた。
「やった〜っ! 生き血が届いたよぉ〜っ! ご飯だぁ〜っ! 入ってっ! 早く中に入って〜っ!」
さくらの体を肩に担ぐヴァンパイアが右手で扉を開いて宴会場の中に入り、もみじと他のヴァンパイアも後に続いた。
もみじは中に入ると、素早く周囲を見回した。千人以上を収容できる広い宴会場は伽藍としており、中央に白布を敷いた円卓が一つ置かれ、その円卓を三脚の椅子が囲み、ジルとスノンとルージが席についていた。スノンとルージは冷たい微笑みをもみじたちに向け、ジルはさくらの体を肩に担ぐヴァンパイアに向かって、満面の笑みで大きく手を振った。
「ジルちゃんはここだよぉ〜っ! 早くそのご飯をここのテーブルに置いてちょ〜だいっ!」
『あいつら!』
もみじがジルたちに鋭い目を向けながら心の中で叫んだ時、いつの間にかもみじの左後ろにルージが冷笑を浮かべて立っていた。
「『あいつら』ってオレたちのことかい?」
『こいつ、また瞬間移動で背後をとりやがった!』
もみじが慌ててルージと距離を取りながら背後を振り返ると、そこに立つルージは口元を歪ませてもみじに訊いた。
「『こいつ』ってオレのことかい? エリオット?」
もみじは動揺してルージに答えた。
「え? いや、ち、違います! こ、こいつってのは……」
ルージは残酷な笑みを浮かべた。
「へ〜、お前の名前はエリオスじゃなかったかい?」
もみじは、自分の正体がルージにバレていることを悟った。
「お前のことは、この部屋に入った瞬間から思考を読んで、人間だってことはわかってるんだよ。お前、どうやってヴァンパイアになった体の支配を取り戻した?」
『ちくしょう! こうなったら、今すぐ闘うしかねぇええええええええっ!』
もみじはルージに向かって右足を踏み出した瞬間、目を大きく見開いた。
前に立っていたはずのルージは、いつの間にかもみじの背後に立っており、その右手の五本の指先が、もみじの背中の左側に突き刺さり、腹部から突き出ていた。
ルージはもみじを蔑んだ目で見ながら、右手の指をもみじの背中から引き抜き、もみじは傷口から血を流しながら前のめりに倒れた。
ルージはもみじの血で赤く染まった右手を掲げながら、冷たい目でもみじを見下ろした。
「お前が人間であれば生き血をいただくところだが、ヴァンパイアになってしまった。オレたちは同じヴァンパイア族の血は飲まない。はっきり言って、お前には何の利用価値もない。お前には生きる価値など全くないのだ」
もみじは目を見開いて床にうつ伏せに倒れ、その体はピクピクと痙攣していた。
ジルが突然叫び声を上げた。
「そんな奴ど〜でもいいからぁ〜っ、早くジルちゃんのご飯をちょ〜だいっ! お腹ペコペコで、ジルちゃん激おこだよぉ〜っ! みんなバラバラにしちゃうよぉ〜っ!」
「は、はいーっ! ただ今お持ちしますーっ!」
さくらの体を肩に担いだヴァンパイアは、ルージともみじのやり取りを呆気にとられて見ていたが、ジルの声を聞くと顔面蒼白になって小走りでテーブルに向かい、他の三体のヴァンパイアも慌ててそれを追った。




