弱肉強食!フィッシュ・マーケット ◆ 10 ◆
◇ ◇ ◇
「すっぱいぃ……きもちわる、い……うぷっ」
「これは……エナジー酔い? 出力が強すぎましたか」
「めがまわるぅ」
「かわいそうに」
口だけそう言って、ファウストは青い顔のエレナをしげしげと眺めた。
すると橋の向こうから、ボボボボッと近づいてくる不穏な音が、ファウストの耳に届く。
「あっちはあっちで汚いですね」
滑空するデカ鷲が巨体から落とすソレは、橋にめり込みながら絨毯爆撃のようにふたりに迫る。
やれやれ、とファウストは、ふらつくエレナを背負うと駆け出した。追撃を避けながら橋の上を矢のように進んでいくふたり。
「うぷ……ゆらさないでぇ……」
朦朧とするエレナは、爆音のすき間にキーッというブレーキ音や、クラクション、悲鳴などを聞いた。うわごとのような声を絞り出す。
「どくたー……わしをやっつけないと……あたしのみらいのおきゃくさんがたいへん」
そう言う間もエレナの肌は何のせいか、湯気のような光を放ち、それは虹のように色を次々変えていく。
「…………モルナ君」
彼女の訴えに対する返答としては少々妙なその声音。エレナは足音と共に振動するファウストの横顔をぼんやり覗き見た。
「なんですかこのレインボーは……どうしましょう私……貴女をこのままいじくり倒したくなってきちゃいました……!」
アハハハと高笑いする顔はまさに恍惚。
「今すぐ副作用を解明して次の実験に役立てるべきですよ。そうだここをラボとしましょう! 今ここは――」
ギッ、と首に緑の光が巻き付き、走る悪寒に彼は口を閉じた。
「……」
手綱のように光のリボンを握る手の主が、ファウストの耳に低い声を吹き込む。
「約束しただろう、ファウスト」
◇ ◇ ◇
――みんなを助けて。なんでもするから。あたしに力を貸して。
◇ ◇ ◇
「ぅおえ……っ」
フラッシュバックを遮るようにエレナがえずいた。緑の光は散るように消え、彼女はすっかり元の調子だ。悪い方だが。
「……まったく」
ファウストはひりついた顔に笑みを滲ませた。足を止めぬまま、エレナをよっと背負いなおす。
「悪魔とむやみに言葉を交わすものではありませんね」
バサッと頭上でする羽音と同時に、ファウストはキュッと急ブレーキをかけた。鷲も天高く一時停止している。
「ほら」
エレナの腕を支え、天に向ける。
「エイムは任せなさい。パワーは十分のはずです」
「うう……」
急降下をはじめる鷲。その鋭いくちばし。
エレナは目をつぶって必死に頭を働かせる。イメージ。イメージ。ふぁって感じで、カッとやって……。二本の指に熱が集まる。
「アジ・ビーム!!」
どーん。光の柱が巨影を貫いた。




