弱肉強食!フィッシュ・マーケット ◆ 9 ◆
◇ ◇ ◇
ベェェェエエエエ!
デカ鷲のくちばしから噴き出すエレナと鶴。
ひゅーんと放物線を描いた先で、エレナはバシッと腕に包まれた。空中でエレナを受け止めたファウストは涼しい顔で、鉄筋のアーチに脚をひっかけぶら下がっている。ロケーションはエレナがデカ鷲の腹の中にいたうちに、車が行きかう陸橋の上に移っていた。
「おかえりなさいエレナ君。もっとゆっくりしていてもよかったのに」
ヘトヘトのエレナは肩で息しつつ、無言でファウストを睨みあげた。エレナの視界の端をよろよろと動く何か。
「あ、鶴」
今度は本物の海を泳ぐ鶴の姿だった。翼は力なく水をかくが、ひとまず無事なようだ。
「待ってよ、まだ……」
アジが頭をよぎり、エレナはファウストの腕を逃れて追いかけようと手を伸ばす。
「待つのは貴女ですよ」
ブスッ。
「実験のお時間です」
覚えのある首の痛みと共に、エレナの視界がゆらいだ。ファウストの手が握る青がマーブルの渦を描いていく。
カッと空に閃光が走った。
ファウストは再びぶつりと切れる脚の糸の感覚に内心安堵した。実験は再度成功したようだ。
トッ、と大地に足を着けたファウストは緑の煙の中から人影が現れるのを待った。ふわりとほどけた髪をなびかせ、ジト目のエレナがむくりと立ち上がる。
「……不意打ちは勘弁してよォ」
「善処します」
おや、不遜モードは前回だけですか……ファウストは胸の内で残念に思った。それを悟らせぬ顔で、彼は白衣を脱ぎながら彼女に歩み寄る。エレナは自分の恰好にまで気が回っていない様子だが、彼女は今、溶けた布が体に引っかかっているだけなのである。ファウストは白衣を彼女の肩にかけながら何気なく口を開いた。
「それより身体はどうですか。エクソシズムエナジーに微調整を加えたのです」
素直に白衣に腕を通すエレナを横目に、ファウストは次第に早口になる。
「そのハイパワーでお父上と私の契約を未来永劫破棄できれば儲けものなんですけどねぇ。ま、研究そのものに比べればさほど重要ではありません。さぁ、さっさとビームでもなんでも撃ってデータを取らせてください、モル……」
失礼な呼び名を言い切る前に、エレナが「ウッ」と口を押える。
「おろろろろろ」
「わ、汚ねぇ」
さんざん鳥どもに吐かせようとした罰が当たったのだろうか。エレナは橋の上に思いっきり胃液をぶちまけた。




