弱肉強食!フィッシュ・マーケット ◆ 2 ◆
◇ ◇ ◇
夜。オッシャル・ストリートの一角に建つ〝寿司処めふぃすと〟――〝め〟にヒビの入った看板をからっ風が吹きつける。
無人の店内でエレナは、密かに巡らせていた輝かしい妄想が打ち砕かれ、オープンキッチンにがっくりと突っ伏していた。
「今日もお客さん来なかったね……」
エレナがめそめそと寿司下駄にのせた一貫のマグロを、ひょいと上から伸びた手が取る。マグロは、ファウストの口に吸い込まれていった。ジト目で咀嚼するファウストは当然のごとく天井に立っている。
「来なくて正解ですよ。酷いマリアージュです。見た目がマトモなのがまた頂けない」
「マトモ!?」
1ワードに反応したエレナがガバッと顔をあげ、目に光を戻す。間髪入れずペッとおしぼりが飛んでくる。ファウストが指を拭いて投げたものだ。
「褒めてませんよ。素材から何から何まで落第点です」
ウッ、と苦い顔をするエレナ。
「目利きもできないんですか、エレナ君」
「ぐっ、目利きは苦手なんだもん」
「も、だろ」
「あーあ、お魚の方からあたしを選んでくれればいいのに」
ふたたびシンクに頭をこすりつけ出すエレナ。ファウストは呆れ顔。
「なおさら選ばれませんよ貴女なんて。馬鹿なこと言ってないで帰りましょう。子供は寝る時間ですよ」
コツコツと天井を鳴らして出入口に向かう彼はこう続けた。
「明日は仕入れに私もいきます」
「ドクター……」
え、やさしい……! エレナは感激の顔で彼の背中を見つめた。
「廃業なんてされたら私の計画が台無しです」
「えへへ」
ファウストの冷たい口調も意に介さず、エレナは無邪気に笑い、彼の後に続こうと歩き出した。




