エレナと逆さま博士 ◆ 18 ◆
◇ ◇ ◇
「ひっく……っ、ぅう……わぁぁああん」
L.E.の片隅、アパートの一室からエレナの嗚咽が聞こえる。期末試験から数日たった今日、彼女は自室のベッドの上でパジャマのまま一升瓶を抱えていた。この際、彼女の外見的な年齢には触れないでおくが、そのやけ酒の理由は傍らに放られた手紙。寿司アカデミーの退学処分を知らせるものだ。SAKEとラベルの張られたボトルを抱きしめて頬ずりするようにエレナはボロボロ涙を流した。
「どうせあたしはスシ・マスターになれないし、スシもあたしのこと嫌いなんだぁ……ぐすっ。どうせ神様もあたしのことが嫌いなんだぁあああ!」
「みっともないですねぇ、『そんなことないよ~』待ちの姿勢は」
自分の部屋から聞こえるはずがないその声に、エレナはハタっと少しだけ泣き止んで顔をあげた。天井から逆さ吊りになっているのは、もちろんあのドクター・ファウストだ。
「ど、どこから」
鼻をすすりながらファウストを恨めしげに見上げるエレナ。ファウストはモノクルを白衣の裾で拭いてかけ直すと、わざとらしくエレナの顔を覗き込んだ。
「貴女、泣くとブスになって愉快です。よろしい、もっと醜態をさらせ」
「うるさい。レディの部屋にノックもなしに入ってこないでよ」
エレナの恨み節を右から左にして、ファウストは黒い糸が巻き付いた足で天井を歩き回りながら早口で独り言を垂れ流す。
「エナジーの効果が切れたら逆さまになってしまいました。こんな結果とは物足りませんね。いや、結果は結果で受け止めるのが研究者というもの。次は別の仮説を立てて……」
「聞いてんの!? 帰ってよ!」
「あ~そうだ貴女、ちょっとツラ貸しなさい」
飄々としたファウストの態度に、エレナは諦めてため息をついた。




