エレナと逆さま博士 ◆ 17 ◆
◇ ◇ ◇
「……?」
「もう運んであげられないから。這ってでも試験に行って。あと、あなたのタコだめにしちゃったからそのエビ全部あげる」
「な……」
謝る必要ないだろ、と言いかけたが、エレナがやさしく笑うのでミヒャエルは言葉を飲んでしまった。
「あたしの分まで頑張って、ね」
そう言って、エレナはアカデミーに背を向けた。進級できなければ、二度とここを訪れることはないかもしれない。思い出したかのように体が痛みだし、おまけに土やら墨やらでみすぼらしい恰好の自分にも情けなくなってきた。歩く足元を見る視界が滲む。
「ッ、え」
妙な発声がエレナの耳に届く。
「エレナ!」
ぎこちなく呼ばれた名前にエレナは振り向いた。門の向こうで柵を握りしめているミヒャエルと目が合う。彼は急に身をこわばらせ、視線を迷わせた。
「……役に立たないなんて言って悪かったな。すげー助かった」
言い終えたとき、ミヒャエルはようやくエレナの目をまっすぐ見ることができた。
「でしょう?」
えへへ、と泣き笑いする彼女の瞳がきらっと光るのを見て、どくっと動悸がしたミヒャエルは急いで校舎に足を向けた。
「き、気を付けて帰れよ」
彼の背中を見送るエレナの髪に、ふわりと木漏れ日が光と影のベールをかぶせた。




