エレナと逆さま博士 ◆ 14 ◆
◇ ◇ ◇
眩しさの中、ファウストは自分を縛る糸がぶつりと切れたのを感じた。緑色の光に包まれて緩やかに落下する中、同時に別の何かがファウストの全身を縛る。それはエレナの髪を束ねていたリボンに似ていた。ファウストの顔をバサバサと打つのはほどけたエレナの髪だ。
どーん、と地鳴りと共にファウストは地面に足を着いた。しばらくぶりに大地を踏む感覚、そして緑色の煙の中でゆらりと立ち上がる人影。目の前の光景に興奮を隠せず、モノクルの奥はギラついた光を放つ。
「は……はは……」
ファウストの口から笑みがこぼれた。
「戯れが過ぎるぞファウスト」
凛とした声が辺り一面に響く。ファウストの背にぞくりとした高揚が走る。瞬間、彼は緑の光の紐で声の主の元に引き寄せられた。正面から彼女――豹変したエレナの陰のある目がファウストをとらえた。
「わたしに力を貸せ」
長い髪の束が風を受けてはためく。
「ファーーーー!! スバラシイ!!!! 父親の契約を塗り替えるほどの圧倒的パワー!! 〝人間界で〟というアドバンテージはあるがしかし……」
ファウストの独特の早口の途中で、エレナはハッと我に返り、元の丸くかわいらしい目に光を戻した。ファウストを縛る緑の光がふわっと消える。
「あれっ、あたし何を……」
ファウストの襟首をつかんでいる自分の手を見て、すっとんきょうな顔をするエレナ。そこへヒュオオと鋭い風の音が迫る。しぶとくエレナを狙う吸盤。
「モルモッ……エレナ君ッ!!」
エレナが身構えた瞬間、ファウストが彼女を抱えてタコ足の鞭の間を走りだす。今度こそ大地の上で。
「突然気を抜かないでください」
呆れた視線をエレナに向け、しっかり傲慢さを取り戻したファウスト。
「あたし、どうなっちゃったの? 生きてる?」
「エクソシズムエナジーが貴女に祓魔の力を授けたのです。いや、それだけではない。メフィストフェレスの強大な魔力に対抗しうる何か別の……」
「何でもいいけどあたし、あのタコをやっつけられるってこと!?」
「さぁ? 実験してみないと」
ついさっきの注射の件もあり、げろ……と疑いの目を向けるエレナ。しかし、すぐに無い頭をひねって考えこむ。
「……聖書の一節でも唱えればいいのかな」
「ふーむ、悪魔にとっての毒は神の愛といいますが……特別サービスで貴女に寄り添った説明をしましょう」
ごくっ、とエレナは次の言葉を待った。




