エレナと逆さま博士 ◆ 13 ◆
◇ ◇ ◇
振り落とされないように、エレナは泣きながら必死にファウストにしがみついた。
「なんでもするからぁ! 研究? のお手伝いもするからぁ!」
「小娘に何ができるんですか」
「わかんないけどお掃除とか! 買い出しとか! お医者さんなら注射の練習もさせてあげるからぁ!」
「あのねぇ貴女、どこまで無知なんですか。私の〝ドクター〟は医師ではなく博士。注射なん……」
ファウストは突然言葉を切って、己の白衣をまさぐりはじめた。
「ぎゃー! 急に手ぇ離さないでよぉおお!」
細身のシルエットを作る白衣のどこにそんなに入っていたのか、飛び出した大量のガラクタが地上へ落ちていく。エレナが自力でファウストにひっついていなかったら同じようになっていただろう。対してファウストはしれ~っと、何か探り当てた様子でチャキンと取り出した。シリンジだ。
「ぐすっ……なにその青いの……」
ファウストの手の中で、シリンジの中の青い液体がとぷんと跳ねた。
「研究中にたまたま生み出された悪魔祓いエナジーです。これを注入されたモルモットは祓魔の力を短時間発揮しました。一方、魔界生物に注入した場合、実験体は消し飛びました」
「! じゃあ、それをタコに……」
ブスッ。
「何言ってんですか。練習させてくれるんでしょう?」
鈍い音と共に、エレナの首の後ろに痛みが広がる。
「魔力ナシの悪魔は試していませんでした」
き、もちわるい……。冷たいものが体に入ってくる感覚がして、ぐにゃっと視界がゆらぐ。エレナは回らない口をはくはく動かした。
「あた、し、死んじゃったらダディとの契約破ることになるんじゃ」
「ああ、うっかりうっかりィ」
エレナの目にはファウストの口が耳まで裂けていくように映り、背景はマーブルに。そして声が反響して――
新 淵 を
た な 深 前 て
知 の に し
自 抑 え
分 を ら せ ん
れ ま で
し た
ぁ
は は は ぁ
あ は は
は
ゆ い は
わ の い て ん
た し つ け っ
の
と さ が え
あ き ん な
か い
こ
と
カッと天から白い光が四方に放たれ、暗澹たる雲が晴れた。




