エレナと逆さま博士 ◆ 12 ◆
◇ ◇ ◇
「…………」
吹っ飛んだ先で黙り込むエレナ。例のごとくファウストにキャッチされたようだ。静観していたファウストは彼女の無様さに呆れ、しかしほんの少しだけ心からの憐みをもって、その背中をぽんとさすった。
エレナは彼の腕の中、力なく口を開く。
「……わかった。スシは諦める」
砂っぽい風がエレナの髪をゆるくなびかせる。エレナは髪の泳ぐ隙間から地上にいるミヒャエルの姿を見つめた。
「このままじゃ未来のスシ・マスターも、未来のお客さんも巻き込んじゃう……あたしの夢の世界に一番いらないのはあたしなんだ」
「はいはい、そうです。行きますよ」
エレナの感傷を雑に遮って、ファウストは脚に巻き付いた糸にしたがってクモのように上昇しはじめた。「悪魔でないと魔界の扉を開けられないのは不便ですねぇ、カスタマーセンターにDoS攻撃しかけてやろう」などとぶつぶつ言っているファウストの声を聞きながら、人間界ともお別れか、と項垂れるエレナ。しかし、ドゴォォォン、ドゴォォォン、と激しい音が耳に入り、目下を見おろす。
「えっ、ねぇタコは!? やっつけてくれるんじゃないの?」
吸盤だらけの足がエレナたちに届かず、巨大ダコは地団太を踏んでいる。
「あのまま暴れさせておくの!? みんなは!?」
タコと連動するかのように腕の中でジタバタするエレナを見て、ファウストは憎々しげに口を歪めた。
「はいぃ? 私に下った命は貴女の護衛。契約外労働はしません。他の市民なんて知ったことか」
「うそつき! 言うこと聞いたのに!」
「『市民をタコから助けてやる』なんて正確には言ってないでしょう」
「じゃーあたしも『帰る』とは言ってない!」
「無駄です。貴女の言葉で魔界の扉は手配できましたから」
「やだやだ! L.E.を見捨てるならやっぱ帰らない! だめ! ひどい! このうそつき!」
「うるせーこのガキャーー!! 今度こそ頭カチ割るぞ!」
「やだぁぁああ! おっきい声ださないでよ、こわいぃぃいい! みんなを助けてぇぇええ!」




