エレナと逆さま博士 ◆ 11 ◆
◇ ◇ ◇
ミヒャエルは数分前の衝撃で挟まっていた瓦礫ごと吹き飛んだのか、今はうつ伏せに倒れていた。
「貴女を餌にしてここで振り回しておけば、この小僧はタコの下敷きですよ。次はその辺の市民です」
ファウストの声に合わせて遠くの影が動いた。エレナの目には、巨大ダコがるんるんと近づいてくるように映った。
「やだぁぁああ!」
馬鹿力で暴れたエレナはすぽっと靴が脱げ、ファウストの手を逃れた。
「あ、こら!」
瓦礫に頭をぶつけ、「ぎゃっ」と声を上げるエレナ。大した高さではなかったのが幸いだ。
「まったく手間のかかる……」
ファウストの声を背に、立ち上がったエレナはぐすっと鼻をすすりながらミヒャエルの元に駆ける。彼の手がわずかに動いたのがエレナに勇気を与えた。
ザッとミヒャエルを庇うように立ったエレナは、途中でかすめ取った自分のクーラーボックスを抱えた。もうタコはそこまで迫っている。
たしかファウスト、悪魔は憑依した体に引っ張られてるって言ってた。ならば、とエレナの手はクーラーボックスを手探る。むんずと掴みだしたエビ。
「これでも……」
腕を振り上げ、体のひねりを使って、一歩踏み出す。勇ましいエレナの瞳。
「おあがり!」
手を離れたエビが、巨大タコ目がけて勢いよく飛んで……いけばよかったが、べしゃっと虚しく墜落する。
「……」
しばしの沈黙のあと、俯いたエレナの肩が震えだす。
「フッフッフッ……あたしはスシ・マスターになる女」
バッとかばんをひっつかみ、チャキっと取り出した包丁で目の前のタコに狙いを定める。タコの方も空気を読んだのかハタと止まった。
「タコが相手なら今ここで……」
額にじっとりと汗が浮かぶ。刃を振り上げ、
「〆る!」
ぱきん。
タコの脚にぷにっと弾かれたエレナの包丁は、あっけなく折れた。
「はぅわ」
あたしの愛刀が!! 絶望の声をあげたエレナをタコが間髪入れずブンと足払いする。




