エレナと逆さま博士 ◆ 10 ◆
◇ ◇ ◇
時計台の上。長台詞を受け、ファウストの本性を知ったエレナ。彼女のきゅっと閉じた唇は今、小刻みに震えている。
「ぅ……うぅ……」
目尻が潤んで、
「わぁぁあああん!!」
もう限界だ。タコ怖いし、ホントはずっと体痛いし、なんか、ずっと難しい言葉使ってくるし。大人の人に怒られた。みんなそんなにバカバカ言わなくたっていいじゃん。
「えふ……っ、えふらんでごめんなさいぃぃい! ぐすっ……ッおうちヤダっ、しけん、いきたいぃぃいい、うっ、うぅ、すしぃぃぃいいい!!!!」
「泣き落としですか。通じませんよ。むしろあの男を踏みにじっているようで気分爽快です、もっと泣け」
ケッとあしらうファウスト。
「さぁ、帰ると貴女の口から言いなさい」
ファウストは天井からコツコツと足音をさせて、空を仰いでわんわん泣くエレナの後ろに回りこんだ。
「さもないと……」
ぐいっとエレナの首根っこを掴み、ファウストは軽々と彼女を放り投げた。時計台の外に。
「いやぁぁぁああああ」
エレナの叫び声が遠ざかる中、ファウストは「あ」と間抜けな声を出した。彼はヒュンと、どうやってか宙吊りでワープして、落下する彼女を見事キャッチした。雑にエレナを抱えながら、
「護衛対象を殺っちまうところでした」
やれやれと息を吐く。対してエレナはファウストの腕の中、息も絶え絶えとしている。こいつ! 何考えてんの……! 睨みつけたエレナは、視野の残りでここが最初にファウストが現れた場所の近くであることを確かめた。彼女の様子を気にも止めず、ファウストは芝居がかって考える仕草を見せる。
「うーむ、帰らないなら……」
地上を見渡したファウストはひらめいた。彼はエレナを抱えていた手を持ち替え、彼女の足を汚いもののようにつまみあげた。自分もろとも彼女を逆さ吊りにしたのだ。
「なにするのぉ!」
ぶらっとエレナが連れていかれた先、瓦礫の中から赤い光がちらっと見える。あのプラチナブロンドの反射だ。
「ミヒャエル……!」




