9 勇者リリアは抱きしめる
ご覧いただきありがとうございます。
リリアは、なんとも気まずい雰囲気の中、王都の自室にいた。
マクシミリアンが、暗い。誰がどう見ても、落ち込んでいる。今はリリアと二人きりなのもあって、遠慮なく肩を落としている。
一週間前、魔族を仕留めそこない、逃げられてからずっとこうだ。ラミたちにこそ明るく振舞っていたが、リリアと二人きりになると、ずーん、と空気を重くする。
――元気出してくれよお、マックスー。
先日の戦いで、『エルテル城塞』自体には、あまり被害が出なかった。城壁は崩されたが、復旧には時間がかからないとのことだ。
問題は、本気を出したというのに、魔族を仕留められなかったこと。さらには、
「次に会った時は、必ずわたくしのペットにしてあげる」
こんなセリフまでよこされた。
リリアは、怒りたい。大切な友達をペット扱いしようとするあの子供魔族を、聖剣でぶん殴りたい。聖剣ならば、魔王だって斬れる。
しかし、マクシミリアンは本気を出したのに仕留めそこなった。それで、プライドに大きなヒビを入れられてしまった。
怒るよりも落ち込んだマクシミリアンの方が、リリアは気になってどうしようもない。
リリアでも初めてかもしれないこの状況。どうしてやれば、マクシミリアンが元気を取り戻してくれるのか、リリアにも分からなかった。
一応、手は打った。いつも通りに菓子をせがんだり、チョコレートの新作スウィーツを買ってきたり。
それでも、マクシミリアンの調子は戻らない。ベッドに腰掛け、背中を向けたままうつむいている。
「な、なあ、マックスー」
「……なんだ?」
いつもの猫かぶりも忘れている状態だった。
「いつもの店に行かないか? またなんか新しいチョコがあるかもしれないしさあ」
「……わりぃ。気分じゃねえ」
あっさりと断られてしまった。
――ぐ、ぐぬぬ……。
リリアは考えた。考えて考えて、考え抜いたあげく。
「元気出してくれってばあ」
マクシミリアンオ背に抱き着いた。
いつもならば頼りがいのある背中も、今は小さくなっている。それを全身で包むように、しっかりと抱きしめた。
「あんな魔族、次にぶっ潰してやればいいだけじゃんか。ガチになったマックスなら楽勝だろー?」
「……」
「木っ端みじんにしてやろうぜ。あのふざけた口ごとさあ」
「……」
「だから、な? 今はその、英気を養うとか、そんな感じで! 辛いなら、わたしの胸を貸してやんよ」
「……おう」
――お、反応あった!?
「んじゃ、貸してくれ」
「へっ?」
マクシミリアンが振り向いた。そう思ったら、ベッドに押し倒された。
――お? おお? おおおおおー!?
本当に胸の上に覆いかぶさって来た。いつもリリアが抱き着くのとは、逆の構図である。
――や、ヤバい! まさか本当に来るとは思わなかったー!?
自分でも分かるくらいに、顔が熱くなる。胸の鼓動はいつもより大きいし、マクシミリアンはリリアの胸に、本当に顔をうずめている。
――えあっ、ちょっ! あんまり大きくないんだから、そんなに抱きしめるなよ! 恥ずかしいだろバカぁ!
リリアの胸の大きさはともかく。
恥ずかしさのあまり、思考回路が鈍くなる。勢いで言った一言で、リリアは自爆してしまった。
マクシミリアンに抱きつくのはいい。リリアがこの漆黒龍に甘えるのは、当然の権利だ。
それが逆になると、途端に何も考えられなくなった。
――えーっと、あーっと。こ、これどうしたらいい!?
とりあえず、抱き返してみる。いつもマクシミリアンがしてくれるように、黒い髪を優しく撫でてみた。
――うっわー、はっずかしいなあー!
甘えられる感覚とは、こうもくすぐったいものなのだろうか。
抱き着いてきた漆黒龍は、何も言わない。愚痴を言うわけでもなく、まさか泣くはずもなく、リリアの腕の中でじっとしている。
それでも、胸を掻きむしりたくなる恥ずかしさに耐えていると、マクシミリアンから別の反応があった。
ぐー、とか、すー、とか聞こえてくる。
――え? まさか?
そっと様子をうかがうと、マクシミリアンは寝ていた。寝る必要がない体だというのに。
疲れていたのだろうか。それとも、安らいでくれたのだろうか。
――そういやあ、マックスが寝てるとこ、見たことないや。
一緒に寝たことはあっても、マクシミリアンは一睡もしたことがない。何があってもいいように、いつも朝まで起きていた。
寝たふりは見たことがある。だが、ここまではっきりと寝息を聞かせたことはない。
いつもは心強い存在だというのに、今はなんとも頼りない。おそらく、事件が起きればすぐに覚醒するのだろうけれど、
――まあ、たまにはいいよな。
さきほどまでの恥ずかしさはどこへやら。リリアの気分も落ち着いて、腕の中で眠る青年を抱きしめながら、リリアもゆっくりとまぶたを閉じた。
ブックマーク、評価、ご感想、お待ちしております。




