5 マックスは迎撃する
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戻って来た勇者さまに話を聞いたところ、やはり次の任務は魔族との戦いであった。
魔族の大軍が、また襲撃に来るらしい。王国の占い師が予言したとの話だ。
場所は、また『エルテル城塞』だ。魔族との戦いが、一番激しい場所。数か月前に行った際には、散々な目に遭った。
――今度は道中、穏やかに行きたいものです。
とりあえずは、『エルテル城塞』に近い街、『都市エステカ』までは何事もなく着けるだろう。
行軍の準備を済ませ、出発したのは、国王から話を告げられた翌日。何の問題もなく、王都を旅立った。
今は、勇者さまと一緒に馬車でのんびりとしている。今回、メイド・アリッサは別の馬車に乗った。
二人きりで、他愛ない話をしている。スウィーツ屋がどうした、おやつがどうの。いつ通りの結界内で、私と勇者さまはヒマを潰していた。
「また途中で魔族に襲われたりしないよなあ?」
「可能性は低いですよ。今回は、まあ、問題ないかと」
――内通者はいないでしょうし。
とは口には出さなかった。
前回『エルテル城塞』に行った時は、勇者パーティ内に内通者がいたため行軍途中でイヤというほど煮え湯を飲まされた。
今回は国王とその側近が選んだ兵たちのみだ。裏切り者はいない。
兵を率いるのも、実績のある禿頭の部隊長だ。あれでかなり人望があるらしく、兵たちの士気も高い。
途中の村で休憩を挟みつつ進むこと二日。私の予想通り、何もなく『都市エステカ』に到着した。
さらにここから『エルテル城塞』までは、約三日。『都市エステカ』を治めるリースマン卿への挨拶もそこそに、私たちはまた出発する。
「ホント、何もないな」
「一応、この前、結界も張りましたし。せいぜいで出てくるのは獣くらいなものですよ」
「まあ、あんなことが何回もあったら、疲れるしなあ」
「疲れるのは、主に私でしょうが。勇者さまは見ているだけですし」
「うっせ! わたしだって、戦ってるっぽくしなきゃいけないんだぞ!」
「情けないことを叫ばないでください」
無駄話が、だらだらと続く。
途中、結界の点検などもしたが、問題いなく効果を発揮していた。
これを破れるのは、上級の魔族くらいなものだ。物資の運搬にも、問題があったとは聞いていない。
私たちは、予定通りの日程で『エルテル城塞』に着いた。
「お久しぶりです、勇者様」
「おう、えーっと……、あ、カーライル卿! 元気だったか!」
「多少の小競り合いはありましたが、先日のような大きな襲撃はございませぬ。ですが、また魔族どもが集結しているようでしてな」
――占い師の予言通りですか。
「ですが、今回はこちらの兵もおります。我々も戦えますぞ」
「それは心強いな!」
――今回は楽ができそうですね。
前回の戦いは、勇者パーティのみで片付けたようなものだ。辛くはなかったが、手間だった。任せられるなら、『エルテル城塞』の皆にも頑張ってもらいたい。
ただ、集まった魔族を束ねているのは、また上級魔族だろう。それだけは勇者パーティで対処する必要がある。
「カーライル卿、よろしいですか?」
「おお、なんですかな、魔法使い殿?」
「指揮官は分かります?」
「それらしい者、という程度ですが、分かっております。狼人族のようですな」
「なるほど……」
狼人族は、血の気が多い、好戦的な種族だ。準備が整ったらすぐにでも攻めてくるだろう。
それは、カーライル卿も承知しているようで、
「兵たちには、いつでも戦えるよう、準備させております。ご安心くだされ」
長い白ひげを撫でながら、穏やかに老騎士は言った。
「魔族どもの数も、集まっているとはいえ、そう多くありませぬ。勇者パーティの皆さまにご出陣願うのは、指揮官が現れてからですな」
「ふぅん……。じゃあ、出番が来たら教えてくれ!」
勇者さまが言うと、カーライル卿はうなずいた。
作戦会議が終わると、私たちは用意された部屋へと通された。
ラミ、ミツルギに準備を頼みつつ、対して、やることのない私と勇者さまは休むことにした。
「楽できそうだなー」
「そうですねえ」
指揮官の存在は気になるものの、下級魔族ならば『エルテル城塞』の兵士たちでも充分に相手できる。
出番が来るとすれば、戦いの終わり際か。
――狼人族なら、先陣切って現れるかもしれませんが。
そうなったらそうなったで、早々に指揮官を潰せばいい。統率の取れなくなった魔族ならば、やはり兵士たちに任せられる。
――前回のような大惨事にはならないでしょう。
そう考えて水でも飲もうとした瞬間、足元が震えた。それも、連続で。
「なんだ?」
私だけが感じているわけではないようだ。勇者さまも壁に寄りかかり部屋を見回している。
地震にしては異常。そればかりか、揺れは一揺れごとに大きくなっている。
「魔族か?」
「だとしたら、連絡が来るでしょうし……」
が、他に思いつく原因がない。
「勇者さまは、部屋にいてください。ラミとミツルギに声をかけてきます」
「お、おう」
勇者さまは、アリッサに頼もう。考えた私が、扉を開こうとしたところ、先に乱暴に開かれた。
「マクシミリアン様!」
ラミだ。ラミも、この揺れが異常だと気づいていた。
「今、ミツルギに外を見てもらってます! アタシもすぐに!」
「私も行きます。アリッサは近くにいますか?」
「は、はい、おります!」
ラミの後ろから、アリッサの声がした。
「私とラミは外に。アリッサは勇者さまをお願いします」
ラミを連れ、勇者さまとアリッサを部屋に残して、私は外へと向かった。
城塞内も混乱していた。兵士たちが走り回り、慌ててと飛び出している。
私たちも、それに続く。城壁へ続く階段を駆け上がり、空の下へと出たところで、いきなりの爆発に巻き込まれた。
「っ!」
「きゃっ!」
間一髪で、守護の結界を展開した。が、私とラミは無事だったものの、逃げ遅れた兵士たちが吹き飛ばされていた。
「し、風の精霊っ!」
城壁から落ちそうになっていた兵士を、ラミが風の精霊で受け止めた。
「……ラミ! マクシミリアン様!」
先に外に出ていたミツルギが走り込んできた。独特の口調にも、焦りが浮かんでいる。
「ミツルギ、状況は?」
兵士たちはラミに任せて、私は周囲をうかがう。
空は、先ほどまでと同じく真っ青。平原にも、魔族の軍は見当たらない。
「……あそこです!」
ミツルギが指さしたのは、空だった。
よく見れば、青い中に、小さな異物が見えた。点、それが光るたびに、城壁に穴が穿たれ、地響きが襲ってくる。
――一人で魔物も連れていないということは、指揮官ではなさそうですが。
この振動、攻撃は魔法によるもの。指揮官だという狼人族ならば、魔法ではなく物理攻撃で城門を狙ってくるだろう。
かといって、兵士とも違う。『エルテル城塞』を、ただの一匹で襲えるはずがない。
嫌な気配だ。
また魔法が飛んできたので、私は結界で弾き飛ばした。
「ちっ!」
跳ね返った火球が、平原に大穴を開ける。思わず素が出てしまうほどの威力だった。
連発されたら、結界が一気に崩される。ここは、私が出るしかないだろう。
「ミツルギ、ラミと一緒にケガ人をお願いします」
「……マクシミリアン様は?」
「あれの相手をしますよ」
「……そんなっ」
すぐさま飛翔の吐息を使い、矢のように飛ぶ。ミツルギの返事を聞いてやるヒマもなかった。
火球は止む様子がない。なので私も、漆黒炸裂玉で反撃する。
飛んでくる火球を相殺するように投げつけた。爆煙が視界を塞ぎ、腹の底まで音が響く。私は周囲に構わず、一直線に飛んだ。
黒煙を突き破ると、相手の姿が見えてきた。
全身真っ赤な魔族。見た目は小さいが、使う魔法からして、上級で間違いない。
両手に漆黒炎剣を構える。近距離からすぐさま仕留めるつもりで、加速した。
「あら……?」
驚いたような声がした。それを真正面から受け止め、細い首を切り飛ばすように剣を振るう。
「ちょっとびっくりしましたわ。人族でも、それなりに戦える者がいるのね」
気楽な声だ。相手は、私の漆黒炎剣を、片手で難なく受け止めていた。
紅い髪に、紅いドレス。口元に鋭利な牙が見えるあたり、吸血族か。
――それにしては、昼間から元気ですね。
吸血族が活動するのは、主に夜。昼は棺桶で寝ているのが普通だ。通説通りに、陽光に弱い。
しかし、目の前の魔族は、陽光を浴びながらも弱る様子がかけらも見当たらない。
私は、漆黒炎剣をただの炎に戻して、炸裂させた。並み以上の魔族でも受け止めた腕を失うほどの威力はある。
「けほっけほっ。煙たいですわね」
だが、あちらは煙を気にする程度で、傷を負ったようには見えない。
――あー、これは面倒な類ですねえ。
勇者さまを置いてきて正解だった。
ため息が出る。相手は、いつぞやの最上級魔族と同じか、それを超える力がありそうだ。
「わたしくを見てため息なんて、失礼ですこと。人族の男性は、初めて出会った女性にそうするのが普通ですの?」
「あー、いえ、そういうわけではありません。ただ、めんどくさい相手が来たなーと思っただけです」
「失礼な。面倒、とはどういう意味かしら?」
「倒すのが面倒だな、と」
「倒す……。倒す? わたくしを」
再度のため息。すると相手は、くすくすと面白そうに笑った。
「人族の冗談というのは初めて聞きましたけれど、あまりセンスがないのね」
「冗談? 冗談ですか……」
かなり余裕がありそうだ。見た目は子供でも、実力とプライドはそこそこにあるらしい。
私の言葉を、ただの強がりだと思っているに違いない。この手の魔族は、人族をとにかく見下したがる。
「ああ、気分を悪くなさらないでちょうだい。実はわたくし、人族と会うのも初めてなの」
「なるほど。それで、出会ってみた感想は?」
「いまいちかしら。面白そうなのがいれば、飼ってみたいと思っていたのですけれど」
自信たっぷり、余裕たっぷり。やはり面倒な相手だ。鼻っ柱を叩き折らねばなるまい。
「ところで、一応、聞いておきたいのだけれど」
「何か?」
「あなたは、勇者とか、そーさらーというものを知らないかしら?」
いきなりの問いかけだった。
――勇者さまを、直接狙ってきましたか。
勇者、それと魔法使い。これをいっぺんに聞いてくるということは、
「私が魔法使いですよ。おそらく、あなたがお探しのね」
「あなたが……? では、勇者はどこにいるのかしら?」
「さて、どこでしょう? 私に勝てば、教えてあげてもいいですよ」
「あら……」
高慢な顔に、少しばかりのいら立ちが浮いて見えた。
「今の冗談は、不快だわ。まるで、わたくしがあなたに敵わないとでも言いたげね」
「まあ、そんな感じで。どこのどなたか知りませんけど、負けるはずがありませんから」
そう、と魔族がうつむいた。肩が震え、髪が炎のように揺らめきだす。それと同時に、相手から感じる魔力が膨れ上がった。
「怒りっぽいんですねえ」
私が言えたものでもないが、この魔族も沸点が低いようだ。
「勇者の居場所が分かれば、こんな小さな城くらい見逃してもいいと思っていたけれど……」
「どうするつもりです?」
「潰してあげましょう。まっ平らに」
「あなたの胸のように?」
この一言が、決め手になったらしい。勇者さまと同じく、体型にはこだわるタイプのようだ。
「ちりを払っても面白くありませんけれど、あなたを見逃すのはもっと面白くありませんわ」
魔族の瞳が、怒りの光を灯す。
「ちりはちりになりなさい」
呟かれると同時、特大級の爆発が私を襲った。
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