2 スケルトン・フェルナンドは苦労する
最近はもう片方に力を取られています。
「ワシ、死ねなかったんじゃが!? ~天国に行けるかと思ったら魔族に転生、って……説明長いわ!~」
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今日も魔王・ユーディトに適当にあしらわれながら、フェルナンドはとぼとぼと魔王城の廊下を歩いていた。
当世の魔王、ユーディトはとにかく戦争に興味がない。気にするのは自分の幼く見える容姿のみで、どこでどんな戦いが起きようとも玉座と寝室以外に行こうとしなかた。
――先代様は熱心なものだったが……。
先代の魔王、ユーディトの父にあたる吸血族は、とにかく好戦的だった。
それが、フェルナンドにはなんとも頼もしく見えたものである。病に倒れ、崩御する直前まで戦争の采配をしていた。その姿に、フェルナンドは感激の涙を禁じ得なかった。
先代が倒れてから百と数年。先代の娘であるユーディトが魔王の天職を得たのは、フェルナンドにとっては当然のこととも言えた。しかし、
――ユーディト様はどうしてあんなに無関心なのか……。
幼少時より先代に連れられ、いくつもの戦場を見てきたはず。フェルナンドも熱心に知識を与え、人族を打倒する方法をいくつも教えてきた。
見た目とは裏腹に、その力は先代をもしのぐかもしれない。指先一つで河を割り、腕の一振りで山を薙ぎ払う。どんな最上級魔族にさえ無理だと思える魔法をいくつも使うことができる。
先陣を切って戦ってくれれば、人族などものの数か月、いや、数週間で滅ぼせるだろう。そうすれば、魔族の天下。ユーディトは、大陸の覇者となる。
そうなるはずなのだが。
フェルナンドは、複雑に入り組んだ廊下を迷わず歩いて、自分の執務室へと戻った。
「おかえりなさいませ、フェルナンド様」
「うむ……」
首無族の侍女、ヘルタが出迎える。首を備え付けの台に乗せたまま、体だけが優雅に一礼していた。
長年仕事を手伝ってくれているヘルタは、すぐにフェルナンドの様子を察したらしい。無言で執務机に着いたフェルナンドに、紅茶を出してくれた。
と、いっても、フェルナンドは飲食をしない。紅茶は、単に香りを楽しむだけの香のようなものだ。
「そのご様子ですと、魔王様は……」
「うむぅ……」
フェルナンドが唸るだけで全てを理解したのか、ヘルタは一歩下がる。
「どうしたらいいのやら……」
誰にでもなく、呟く。毛の一本もない頭を抱えた。
――このままでは、先代様に合わせる顔がない……。
先代が亡くなる直前、フェルナンドは固く誓ったのだ。かならず人族を打倒し、大陸の全てを手に入れるのだと。そのために、自分は新しい魔王に仕え、全力を尽くすのだと。
が、誓ったはいいものの、今のところ目立った戦果はない。先日送りだした死四天・シュルケに人族の拠点を潰すよう命じたのだが、結果は予想をはるかに超える惨敗だった。
拠点を落とし、あわよくば勇者をも抹殺して欲しかった。シュルケの力ならば、それくらいはやって当然だと予想していた。
死四天が、死三天になってしまった。また新たな魔族を、選抜するところから始めなくてはならない。
「フェルナンド様、こちらに候補をまとめておきました」
「お、おお、分かった。見よう」
ヘルタが持ってきたのは、シュルケの代わりになる魔族をまとめた一覧である。
吸血族、人馬族、大鬼族に、はては小鬼族まで。有能だという噂があれば、とにかく候補として選んでおいた。
書類に目を通す。どれも部族の中では一番と言われる精鋭ばかりだ。
「うぅむ……」
しかし、どれもフェルナンドから見ると、二流であった。これならば、まだ自分が老骨に鞭打って戦場に出る方がマシである。
魔王ほどではないが、上級の魔族もまた数が少ない。可能な限りヘルタに情報を集めさせたが、力を持つ者はまだまだ見つからないようだ。
「すまんが、これでは話にならん。もっと優秀そうなのはおらんか?」
「申し訳ございません。各部族の者に調べさせ、候補を募ったのですがそれが全てでございます」
「そうか……」
ヘルタもフェルナンドの仕事を手伝い始めてからかなり経つ。その優秀さは、フェルナンド自信が一番知っている。
そんなヘルタでもこれ以上の情報が集められないとなるなら、死四天の補充は当分無理だろう。
人目がなければ、大きなため息を吐きたいところだ。
「フェルナンド様、次に向かわせる魔族について、よろしいですか?」
「あ、ああ、そうだったな」
先ほど、ユーディトに進言した軍勢についても、ヘルタに任せてあった。死四天候補とは別の書類を渡された。
「次の軍は、狼人族からゲオルギーネ様に率いていただく予定でございます」
狼人族のゲオルギーネ。これもまた、死四天の一人だ。
歴戦の女戦士で、仲間にすれば頼もしく、敵にするなら絶望すると言われる猛者である。
先代魔王時代からの忠臣だ。フェルナンドも信頼している。
「お許しをいただけるなら、すぐにでも発つと仰っています」
「うむ。では、それなりの軍を預けねばな。どれほど動かすか」
「巨人族から三百、屍人族からは四千、小鬼族から二千ほどの志願がございました」
「そうかそうか」
シュルケの件があっても、まだ魔族たちの戦意は衰えていないようだ。
「我ら首無族からも二十ほど参加したいとの要望がございます。たった二十ではどれほどのお役に立てるかも分かりませんが……」
ヘルタは謙虚に言うが、首無族は魔族の中でも特に屈強な戦士がいる。二十もいれば、並みの人族数百人分の働きをしてくれるだろう。
「よしよし。では、それらをゲオルギーネに任せる。今度こそ、戦果を挙げるようにと伝えておくのだ」
「かしこまりました」
ヘルタが一礼して、執務室を出ていく。
フェルナンドには、今度こそ、という思いがあった。
先代への誓いを果たし、ユーディトを覇王にする。そうすれば、
「先代の悲願が叶い、ユーディト様は争いのない世界で生きていける」
もう、ユーディトが戦争に悩まされることもなくなるはずだ。
側近としては、それが何よりの願いである。ユーディトを産んだ先代妃も、ユーディトが争いのない世界で生きていけるよう祈っていた。
「それができれば、このジジイめも、お役御免になれますからなあ」
一人、部屋で呟く。
フェルナンドは、物思いにふけりながら、戦争が早々と終わってくれるように祈った。
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