↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/78

15 メイド・アリッサは助けられる

そろそろまた一区切りつきます。

 死んだと思った。ただ、勇者を守るために跳びださざるをえなかった。

 初めて勇者パーティの戦いを目にして、想像以上の惨劇を目の前にして、アリッサは自分には何もできないとすぐに悟った。


 もし、自分が役に立てるのは、せめてリリアをかばうことくらい。ただそれだけを思って、リリアと魔獣の間に入った。

 即死だろうと思った。今まで自分を世話してくれた、メイド長・エイプリルの顔が、頭をよぎった。

 魔獣の叫びが聞こえる。爪に貫かれる痛みはない。もうそれで自分は死んだものと感じた。


「……?」


 だが、意識ははっきりとしている。怖くて目をつぶっていたので、自分に何が起きたのか分からない。

 恐る恐る、目を開ける。すると、黒い背中が眼前にあった。


「はいはい、そこまで」


 気が抜けるような声がした。


「ちょっと目を離しただけのつもりでしたが、やはりストレスが溜まりますねえ」


 最近になって、やっと聞き馴染んできた声だった。


「まあ、消えとけ」


 が、丁寧な口調が一変。いつもの穏やかな雰囲気がなくなり、剣呑な、冷たい声になり、


「失せろ、ザコども」


 爆音が、耳をつんざく。爆風がアリッサの体を揺らす。

 何がどうなったのかと把握するよりも、体が後ろに倒れていった。


「うおっと」


 後ろから、誰かに抱き止められた。それは、自分が守ろうとした勇者リリアのものであり、


「大丈夫か?」

「は、はい……」


 リリアの顔を見て、アリッサの体から完全に力が抜けた。膝は動かず、体はしびれており、辛うじて首を動かすことしかできない。

 

 ――生きて、る?


 てっきり、自分は死ぬものだと思った。どんな痛みでも耐え、少しくらいは役に立とうと勇気を振り絞って飛び出した。

 だが、生きている。黒い背中、黒衣の魔法使い(ソーサラー)が、アリッサを守ってくれた。


「マーックス! とっとと片付けろ!」

「あいよ」


 マクシミリアンが一歩進むと、魔獣の群れが一歩引いた。二歩進むと、魔獣たちは背を向けて逃げ出した。


 決着がついたのは、三歩目だった。先ほどよりも、ずっと大きな魔法陣が展開される。空中に複雑な文様が浮かび上がり、素人でも分かるくらいの強大な力があった。


「漆黒爆炎嵐(ダークネステンペスト)」


 視界が、黒い炎で染まる。しかし、一瞬でそれは消えて、辺りが一気に静かになった。


 ――何も、なくなった?


 魔獣が一匹残らず消えていた。黒炎(こくえん)が薙ぎ払ったのだと分かるのに、数分が必要だった。


「さて、片付きましたね」


 口調を戻したマクシミリアンが、こちらにやってきた。立ち上がろうと思うも、体は言うことを聞かず、身じろぎするくらいしかできない。


「ああ、大丈夫ですよ、アリッサ。しばらくそのままで」


 いつもの書類仕事を終え、これからお茶にする。そんな時の雰囲気だった。


「……終わったのか?」

「ええ、おしまいです。ラミたちの方も、もう落ち着いているころでしょう」

「……そっか」


 代わりに、リリアの声にはとげがある。マクシミリアンを責めるように。

 無我夢中だったので、アリッサには二人のやり取りが分からない。今、何があったのだろう。

 そんなアリッサを置き去りにするように、二人はしばらく何やら言い合っていた。


「あ、あの、マックス様……」

「はい? なんですか、アリッサ」


 なんで自分をかばってくれたのか、聞きたかった。震えていることしかできない自分など、守っても意味がないだろうに。

 アリッサの問いに、マクシミリアンは苦笑で返してきた。


「まあ、目の前で死なれると、あまり気分がよくありませんし」

「で、ですが、危険では……」

「大丈夫ですよ、大丈夫。私はそれなりに強いので」


 軽い口調は、自信の表れなのだろう。


「ありがとう、ございました」

「いえいえ」


 本当ならば、ひざまずいてでも礼を言いたかった。命の恩人相手ならばなおさらなのだが、腰が抜けて立ち上がれない。


「マックス。今は許す。アリッサを抱えていけ」

「待たなくてもいいんですか?」

「いいから早くしろっ!」


 頬を膨らませたリリアにも苦笑して、マクシミリアンがひょいとアリッサの体を持ち上げた。


「ま、マックス様!? 私は大丈夫ですからっ」

「勇者さまが言うのだから、仕方ありません。大丈夫ですよ、落としたりしませんから」

「当たり前だっ、バカっ!」


 リリアにすねを蹴られながらも、マクシミリアンは笑っていた。


「初めての戦いでしたから。あまり気にしなくていいですよ、アリッサ」

「ですが、私はなんのお役に立てず……」

「戦うばかりが仕事でもありませんし、人それぞれ、できることとできないことがありますよ」

「はい……」

「それに、今回は体を張って勇者さまを守ろうとしてくれたでしょう? それで充分ですよ」

「はい……」


 なぐさめてもらって、いくらから気分が晴れた。自分の至らなさを痛感し、泣きそうになってくる。

 なんとか涙をとどめつつ、うつむきながら、抱きかかえられていく。


 やがて、野営地に着くと、アリッサはすぐに自分の天幕へと運ばれた。マクシミリアンとリリアに、早めの休みを言い渡された。

 一人きりになると、またさっきのことを思いだす。


 ――戦いじゃ、私でお役に立てることはないのね。


 武術の心得などと言いながら、戦う心構えすらできていなかった自分を恥じる。

 でも、と思いだすのは、マクシミリアンの言葉。


 ――戦いでお役に立てないなら、いつものお仕事で、もっと頑張ろう。


 戦うことはできなくても、補佐くらいならばできる。いつも戦い帰ってくる勇者パーティの皆の疲れを癒(いや)すくらいは。


 ――私は私のできることを頑張らないと!


 新たな目標を胸に、アリッサは力いっぱい拳を握った。

ブックマーク、評価、ご感想、頂けますと励みになりますので、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。