14 勇者リリアはかばわれる
そろそろ展開も一段落しそうです。
リリアたちは、目的地につくと、すぐに任務に取り掛かった。
動くのは、勇者パーティの面々のみ。兵士たちは、馬と荷物の見張り役だ。
今、リリアはマクシミリアン、アリッサの二人を連れて、荒涼とした大地を見回していた。
木も、草もない。見渡す限り、乾いた地面と、転がった岩が見える程度。風景としては最悪だった。
それでも、任務は任務である。頭の中に、若干の頭痛を覚えながら、リリアたちは魔獣の到来を待っていた。
――最近、なんか眠れてないな。
魔獣が来るまで、リリアはぼんやりとここ二日ほどの生活を思いだしていた。
昼はアリッサがいるので大して気が抜けず、そのせいか夜は気絶するように眠る。しかし嫌な夢ばかり見て、頻繁に目を覚ましていた。
リリアが夢で見るのは、いつも昔のことばかり。命を狙われ、怯えていた日々のことだ。
殺されそうな場面を思いだしては目を覚まし、目の前にいる青年に抱き着いていた。
大丈夫ですよ、と言ってもらって、また目を閉じる。それでいくらか安心できる。抱きしめられて、ようやくリリアは落ち着けるのだった。
――眠い。
マクシミリアンに聞いたところ、昨日、リリアは馬車の中で眠ってしまったそうだ。マクシミリアンがいたとはいえ、人前で寝てしまったのは失敗だと思う。
――油断したかなあ。
アリッサには、今のところ敵意が感じられない。今も、メイドとしてリリアの身の安全のためにつき従っている。
その顔は強張っており、いかにも緊張しているという様子だった。
アリッサ曰く、武術の心得があるそうだが、魔獣相手にどこまで戦えるのかは分からない。マクシミリアンがいれば何の問題もないだろうが、黒衣の青年は、リリア以外の者を守るだろうか。
ラミやミツルギとは違い、アリッサにはそれほど力量を感じられない。魔獣一匹を相手にできればいいくらいではないだろうか。
ちらりとマクシミリアンを見る。こちらは緊張など全く感じられず、リリアの横で、何もない大地を眺めていた。
「マックス、どんな感じだ?」
「今は何も、ですね」
今のところ、気配は感じられない。魔獣というのがどれほどのものか分からないが、いつになったら現れてくれるのだろう。
待っていることに飽き始めた頃、リリアの右前方で爆発が起きた。
ラミの火の精霊だ。
――来たか?
リリアは聖剣を抜き、マクシミリアンが魔法陣を展開させる。
やがて、大地から震動が伝わってきた。遠く、土ぼこりが立ち上がっているのが見える。
結構な数、というよりも、また大軍だ。マクシミリアンが、けん制の一撃を放った。
巨大な魔法陣から、黒い炎が生み出される。炎は一直線に魔獣の群れに向かい、黒煙を上げた。
「マックス、手ごたえは!?」
「ありますが、これはまた多いですね。報告以上じゃないですか?」
「うへえ、マジかよ。んじゃ、適当にやっちゃってくれ!」
「はいはい」
気楽な口調とは真逆に、連続で炎が撃ちだされた。爆発の中に、吹き飛ぶ影がある。マクシミリアンの攻撃は、当然ながら魔獣を焼き払っている。
「それじゃ、漆黒炎弾幕っと」
中空に、いくつもの黒い球体が浮かび上がる。それはすぐさま炎の弾丸となって、魔獣たちの頭上から降り注いだ。
魔獣の叫びが聞こえてくる。と、同時に、
「……っ!」
アリッサが息を飲んで、目の前で繰り広げられる戦いを見つめていた。
アリッサが勇者パーティの戦いを見るのは初めてだ。それに加えて、マクシミリアンの魔法は強烈である。
――想像以上だったか?
最初、リリアにはアリッサと戦いに出すつもりはなかった。兵士たちと、荷物番でもしていてくれてよかったのだが、何故かマクシミリアンが連れてきた。
勇者パーティの実力を見せつけるためだろうか。しかし、それ以上に何か企んでいるようにも見えた。
――まあた何か思いついたのか?
反対意見も思いつかなかったので、リリアはマクシミリアンの判断を受け入れた。魔獣くらいが相手なら、と、大して危険も感じていなかった。
だが、魔獣の数は予想以上。マクシミリアンの攻撃は次第に苛烈さを増し、ラミたちの方も派手にやっているようだ。
それでも、地面から伝わる響きは減っていかない。下手をすれば、こちらまで到達されるだろう。
「一応、私から離れないでくださいね、勇者さま」
「ういうい。アリッサもこっち来い」
「えっ? で、ですが……」
「マックスの後ろが一番安全だぞ」
手招きすると、アリッサは恐る恐ると近づいてきた。顔は青ざめており、明らかに震えている。魔法が撃ちだされるたびに、小さい悲鳴を上げてもいた。
今ではリリアも慣れたものだが、初見ではマクシミリアンの力に圧倒されて当然だろう。
「大丈夫か?」
「は、はい。大丈夫、です……」
「なら、しばらくここで待機な。……マックス、調子は?」
「減っているような、減っていないような。こっちまで来られるかもしれませんね」
――マジか。
珍しく手こずっているらしい。そこで思いつくのは、
――ああ、本気出せないんだな。アリッサがいるし。
マクシミリアンが本気を出すと、かなり荒っぽくなる。リリア以外には、まだ見せたことのない姿だ。マクシミリアンはそこを気にしているようだが、
――なら、なんで連れてきたんだ?
先ほどの疑問を、また思いだす。リリアと二人きりだったならば、今頃業を煮やして、暴れ出しているころあいだ。
しかし、マクシミリアンはまだ普通の魔法を撃っているだけ。いら立つ気配すらない。
地響きが、もはや耳で聞こえてきた。リリアは、一応聖剣を構え、来るであろう魔獣を待つ。
「撃ち漏らしが来ます。用意を」
マクシミリアンが言うと同時に、魔獣の群れが襲い掛かってきた。
豚とも熊ともつかない、四足歩行の化け物たち。リリアは怯えるアリッサを守るように、前に立つ。
「あまり強がらないでくださいね」
「うっせ!」
魔法陣を解き、炎の剣を構えて、マクシミリアンが飛び出した。
剣と魔法が飛び交う。リリアはこちらに来そうな魔獣たちに聖剣を見せつけ、精一杯威嚇した。
魔獣の首が、四肢が飛ぶ。一気に辺りが血なまぐさくなり、大地に染みが広がっていく。
マクシミリアンは快調に魔獣を狩っていく。敵の懐に飛び込み、剣を振るっている。かと思えば一瞬で敵の背後に回って、魔法で敵を燃やしている。
一匹一匹と倒れていく魔獣。それでもまだ数が多い。その数に自信を得たのか、魔獣たちはリリアの聖剣に恐れを抱かなくなってきた。
――やっべ。
じりじりと近づかれる。リリアも少しずつ後ろに下がる。
マクシミリアンを呼びたかったが、タイミングの悪いことに、十歩ほど離れた場所にいた。たった十歩も、今のリリアには遠すぎる。
「アリッサ。わたしの後ろから動くなよ」
聖剣を構えて、見よう見真似で聖剣を振る。素人同然のリリアでは、間合いも何も分かったものではない。
やはり聖剣は届かず、魔獣の鼻先にも届かない。それでもリリアは、これ以上近づかれぬようにと、応戦する。
最初は様子見をしていた魔獣が、ついにリリアに襲い掛かってきた。
「うわっ、とっ!」
魔獣の爪では、聖鎧に傷一つ付けられない。反面、がむしゃらに振った聖剣が魔獣の腕を浅く裂いた。
怒りの咆哮が上がる。リリアの目の前には、何匹もの魔獣。このままでは、リリアどころかアリッサまで危ない。
マクシミリアンは、まだこちらに来ない。
――おかしいな。いつもなら、すぐに来てくれるんだけどな!
リリアのことには、人何倍も敏感なマクシミリアンが、まさかこちらの様子に気づかないはずがない。
そこでリリアは、ふと思いついた。
リリアは、聖鎧があるので簡単には傷つけられない。対して、
「あ、あ……」
アリッサは、魔獣の爪にかかれば一瞬で命を奪われる。
――マックスのやつ! わざとこっちに気づかないフリをしてやがるな!
考えが思いつくと同時に、魔獣が一気に飛びかかってきた。
聖剣を振るうが、遅い。魔獣の体当たりを食らって、リリアは吹っ飛ばされた。
「いっ、つぅ……」
それでも、リリアは尻を打った程度で、怪我も無い。さらに追加とばかりに魔獣がやってくる。
「やべっ!」
尻もちをついたまま、リリアは起き上がれない。急げと思うも、体が付いてこない。
今回はさすがに無傷とはいかないか。リリアはなんとか攻撃を防ごうと、聖剣を盾にする。そこへ、
「勇者様!」
人影が、リリアの視界を遮った。魔獣を隠すように、いや、リリアを魔獣から守るためにと。
「バカっ、アリッサ逃げろ!」
ただの人間が、魔獣に敵うわけがない。たやすく爪に切り裂かれ、真っ二つにされてしまう。
――さすがに趣味が悪すぎるぞ、マックス!
このままでは、アリッサが死ぬ。さすがにそれは、寝覚めが悪すぎる。
リリアは必死に手を伸ばしたが、届かない。魔獣の爪は、もはや止められないところにあった。
悲鳴が、上がった。
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