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13 マックスは企む

これとは別に文章を書いております。

近々投稿するかもしれません。

 ――少し、強く言い過ぎましたかね。


 明らかに落ち込んだアリッサを見て、しかし同情はせずに、私は考えた。


 ――とはいえ、甘やかすのも違いますし。早めに言っておいた方がいいでしょうし。


 勇者さまがある程度信用したからこそ、私は警戒しておかなければならない。どんな相手であれ、私が油断するわけにはいかない。

 なにせ、寝首をかかれるなどしょっちゅうだ。こちらにすり寄って来た者が裏切るなど、少し前では日常茶飯事だった。

 私が撃退したとしても、勇者さまの心は傷つく。表面には出さなくても、勇者さまの心にはとげが刺さっている。


 今、ここで勇者さまが眠ってしまったのは、疲れ八割、信用二割といったところだ。新たな派閥が心労となり、最近の勇者さまは眠りが浅い。寝ても寝た気になれていないだろう。

 あと一日もしないうちに、目的地に着く。着けば、休みたいなどとは言っていられない。すぐさま仕事にかからなければならない。

 それは、任務への使命感からではなく、義務感から。小さな女の子の苦労を、少しでも早く取り除くためだ。


 魔獣討伐など、とっとと片付けてしまおう。目についたものを片っ端から燃やしてしまおう。それで仕事は終わる。

 今回の私は少しばかり気が立っている。ラミやミツルギには悪いが、手柄は私が貰ってしまおう。

 最近は書類仕事などという慣れない作業ばかりで、ストレスも溜まっていた。多少、派手になっても勘弁してもらいたい。


 人間の事情に慣れてはきた。かといって、やはり私は気が短い方だ。ストレスはとっとと発散させなければならない。勇者さまがいつも冗談めかして言っているが、そうそう簡単にキレるわけにはいかない。


 ――キレたら自分でも何をするか分かりませんからねえ。


 誰も見ていないところならばともかく、魔族の大軍が相手ならばともかく、屍龍族(ドラゴンゾンビ)が相手ならばともかく。魔獣程度で堪忍袋の緒が切れようものなら、些細な問題を大問題にしかねない。


 ――それでは本末転倒ですからね。気を付けないと。


 改めて考えると、先ほどのアリッサへの言葉は、溜まったストレスの一端かもしれない。いつも、任務の時は馬車で他愛もない話をしながらのんびりしていた。だが、今回はアリッサがいるので、あまり気が抜けない。


 おかげで、昨日の夜は、おしゃべりで寝不足気味である。私ではなく、勇者さまが。

 私のように寝ないでもすむ体ならばいいだろうが、貧弱な勇者さまでは、寝不足には敵わない。故に、今、このような状態になっている。

 勇者さまの、頭を撫でる。勇者さまの自慢らしい銀髪が、淡く輝いている。


 ――いつか、勇者さまと、ダラダラと過ごすだけの日々を送りたいものです。


 任務のことなど、勇者という天職のことなどを考えずに、リリアの気の向くまま日々を過ごさせてやりたい。

 そのためには魔族の王とやらを、すぐにでも倒す必要があるのだが、


 ――私が力を使いすぎると、同僚たちが怒るでしょうし。


 元より、何かに加担してはいけない身。六大属性龍などという大仰な名前を持っているものだから、私自身も、それほど自由には暮らせない。


 ――そこいらの魔族ならばともかく、同僚と戦うとなると、分が悪いですからねえ。


 頭の固い連中ばかりなので、私が勇者さまに力を貸していると分かれば、すぐさま怒って飛んでくるに違いない。

 内心でため息。しかし、すぐに、それはともかくと気を取り直す。


 ――人間はよくもまあ考えつくものです。こんな面倒なことを。


 擁護したり、廃絶を狙ったり、懐柔せんと企んだり。たった一人の少女のために、よく知恵を働かせる。

 目の前のメイド、アリッサが懐柔派から送られてきたのは間違いない。本人がそれを知らされているかまでは分からないが、今のところ不審な動きはない。

 それどころか、私の一言で落ち込んでいたりもする。もしかすると、狙いを聞かされないままに送り込まれたか。


 ――と、なると、彼女も可哀そうな立場なんですが。


 派閥問題を抜けば、アリッサは優秀なメイドだ。本気で勇者さまに仕えてくれるならば、私の苦労もいくらか減ってくれる。

 ふむ、と考える。


 ――懐柔派をさらに懐柔する?


 アリッサに懐柔派としての自覚がなければ、その手もある。事情を知らないままに送られてきたならば、いくらでも説得できよう。

 なんとなく思いついた案だったが、悪くない考えだ。


 さすがに魔法で洗脳はできないが、アリッサは真面目な少女だ。説得する相手としては、難しくない。

 こちらに引き込めば、もし懐柔派が何かしらアプローチをかけてきたとしても、勇者パーティの一員だからと跳ねのけることもできる。となれば、引き込むべきなのか。


 ――ほうほう……。


 思考を巡らせ、得と損について計算する。


 ――……お得ですね。


 一人の人間について損得を計算するのは派閥連中と変わらない気もするが、私にとっては勇者さまが最優先。勇者さまのためならば、悪知恵でもなんでもひねり出してみせよう。


 おそらく、今の私を勇者さまに見られたら、良くないことを考えている、と言われるだろう。顔ではなく、雰囲気で察せられる。

 しかし、勇者さまはお昼寝中。何を考えていてもバレることはない。


 ――たまには、別の方法で一矢報いてみるのもいいですね。


 アリッサに顔を見られぬよう、勇者さまの顔を見下ろすように顔を伏せて、私は口の端を歪める。


「うぅ、マックス……。変なこと、考え……」


 という勇者さまの寝言を聞きつつも、私はよろしくない考えをまとめていた。

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