8 シャーマン・ラミは買い物に出る
昨日、初のレビューをいただきました。
それと同時にアクセス数がとんでもないことになりました。
ありがとうございます。
ラミとミツルギは、まず道具屋へと向かった。
先日ミツルギが見つけたという店は、王都の端の方にあった。歩いて行くだけで、それなりに時間がかかる。
ミツルギは着の身着のままだったが、ラミはマクシミリアンに買い与えられたローブをまとっている。精霊使いの装束は肌の露出が多いからと、普段、街を歩く際は必ず身に着けている。
ラミとしては精霊使いの正装を気にしたことはないのだが、部族と王都の人々は感性が違うらしい。部族の中では、みんながラミと似たような恰好をしていたものだが。
それはともかく。
道具屋に到着したのは、昼を過ぎた頃だった。
「ここ?」
「……ここ」
ラミが見上げた看板には、確かに道具屋と書かれている。しかし、その外見はどうにもボロボロだ。ミツルギが利用するからにはそれなりの店なのだろうが、言われなければただの廃屋として通り過ぎていたかもしれない。
ミツルギと共に、中に入る。扉をくぐった途端、強烈な臭いが鼻を突いた。思わず顔をしかめてしまう。
「凄い臭いね……」
「……そう?」
ミツルギは、気にした様子もない。感覚が鈍いのではなく、慣れているのだろう。普段から様々な道具を使いこなしているミツルギだ。いちいち気にするものではないのかもしれない。
「ん? いらっしゃい」
店の奥から、女性の声がした。
「こんな寂れた店に来るなんて、ずいぶんな物好きだね、全く」
――自覚はあるのね。
なんとなく感心しつつ、声の主を待つ。ミツルギは既に道具を物色しており、声を気にしている様子はない。
奥から出てきたのは、背の低い女性だった。眼鏡をかけ、髪は長いもののボサボサ。見たところ、かなり若い。ラミよりも年下に見える。
そんな少女は、気だるげな表情で出迎えてくれた。ラミを見て、ミツルギを見て、
「……どうも」
「ああ、なんだ、あんたかい、全く。こんな店に通うなんて、通か阿呆かのどっちかだっていうのに」
ミツルギが自分から挨拶をするのは珍しい。店主、だろうか、少女の反応からして、常連になっているようだ。
「そっちのあんたは……?」
「あ、こんにちは。同じパーティを組んでいる……」
「ああ、ラミって子かい? 全く。そこの小娘から聞いてるよ」
見た目のわりに、どことなく声には落ち着きがある。さらに、ほとんどミツルギと歳は変わらないだろうに、小娘扱いとは。
もしかして年上なのだろうか。
「……ファンデリカさんは、あれでもう三十三歳」
「うそっ!?」
ラミの戸惑いに気づいたミツルギが、教えてくれた。しかし、少女、ファンデリカという店主はラミの倍近い年齢だというのか。
「そんなに若く見えるかねえ、全く。あたしにゃ、自覚はないんだけどねえ」
「……しかも、子持ち」
「ええっ!?」
人間、見た目にはよらないものだ。
ファンデリカはカウンターの椅子に腰かけて、ぼんやりとこちらを見ていた。ラミにもミツルギにも興味がないように見える。
対するこちらは、ミツルギが熱心に道具を漁っている。あれこれと手にとっては抱えていた。ラミには、使い方がさっぱり分からないものを、ふむふむとうなずきながら見定めている。
ラミはなんとなく手持ち無沙汰になり、店の中を見回してみた。
外から見た通り、大きな店ではない。しかし、棚には道具や薬らしくものが詰め込むように置かれており、種類だけならばそこいらの道具屋よりも豊富そうだ。
――ホント、見た目によらないわ。
そんな感想を抱きつつ、ラミは近くにあった道具を手に取ろうとして、
「……ラミ、それは触ると危ない」
「えっ?」
「……少し揺らすと、爆発する」
「少しで……?」
「……店が吹き飛ぶ」
「そんなもの置いてあるのっ!?」
「店にはいろいろあるからねえ、全く。素人は触らないで見てな」
危険物から離れ、素直にミツルギの買い物が終わるまで待った。
一時間くらいはかかっただろうか。ミツルギは両手いっぱいの道具を抱え、
「……ファンデリカさん、これ」
「はいはい。あんたのおかげで、うちは潰れなくてすんでるよ、全く」
感謝なのか呆れなのか分からない態度で、清算をしてくれた。
荷袋は道具でいっぱいになり、満足したらしいミツルギと共に、外に出た。
街の空気が、少しずつラミの鼻を癒してくれる。ただ、代わりに臭いが染みついたのか、ローブが少し臭かった。
――洗濯しないとダメね。
このままだと、スウィーツ屋に行くと他の客に迷惑がかかる。ラミは予定を変更して、
「ミツルギ、今日はどこかで買って帰りましょ」
「……うん。それでいいよ」
荷物を抱えたままぶらつくのも大変だろう。ラミたちは、大通りに出て、適当な露店がないか探してみる。
「お、精霊使いの姉ちゃんじゃないか」
「あ、こんにちは」
「そっちのちみっこいのは……勇者様じゃねえな。お仲間かい?」
「そうよ。同じパーティなの」
声をかけてきたのは、果物屋の主人だった。リリアに付いて王都に出た時は、必ず寄る店だ。
「ほお、まだ若いのに大したもんだ。精霊使いの姉ちゃんも若いと思ってたが、それ以上に子供じゃねえか」
「……子供じゃない」
「ははは、悪い悪い。おっと、そうだ、お詫びと言っちゃなんだが、少しまけてやるよ。何か買わないかい?」
せっかくなので、厚意に甘えることにする。リリアが通う店だけあって、種類が豊富、どれも鮮度がいい。
リリアはいつも干した果物を買うが、今日は普通に買おうと思い、並べられた品々を見る。
「ミツルギは、何か欲しいのある?」
「……ラミが選んで」
「そう? じゃあ、定番かもしれないけど。リンゴくださいな」
選んだリンゴを四つ。店主は二割ほどまけてくれた。さらにオマケで、
「勇者様に、これ持ってってくれ。今日もなんかあったみたいだしな」
と、干しブドウを小さな袋に詰めてくれた。
それを受け取りつつ、ラミは店主の言葉が気になり、
「何か? また騒ぎでもあったの?」
「ああ。勇者様が襲われたって話が、さっき聞こえてな。まだちいせえってのに、大変だよなあ。あんな子を狙うなんて、どこのどいつだってんだか」
リリアが貴族の手下に狙われるのは、今に始まったことではない。おそらくマクシミリアンと一緒だろうから、心配しなくてもいいはずだが、気にはなる。
「そんなわけだ。差し入れってほどでもねえが、持ってってくれ」
「ありがとう。必ず渡すわ」
「おうよ。じゃ、またな!」
手を振る主人と別れ、ラミたちは大通りを歩く。買ったリンゴを早速かじりつつ、店主の言葉を考えた。
――また、か。最近は落ち着いて来たと思ったのに。
ラミが勇者パーティに入ってからも、リリアは何度か刺客に襲われている。最近は数が減っていたが、それでも貴族はしつこく狙っているようだ。
――懐柔派っていうのができて、焦っているのかしら?
派閥のことを思いだして、ラミは軽くため息を吐いた。勇者という天職は、国政を担う貴族にとって問題らしい。
貴族は、支持したり、廃絶を企んだり、懐柔を目論んだり。ラミよりも小さな少女が背負うには、大きすぎる重荷だ。
ラミまで落ち込みたくなる。それに気づいたのか、ミツルギは声音に心配を乗せて、
「……大丈夫?」
と、小さく訪ねてきた。
「え? 大丈夫よ、大丈夫。ただ、やっぱり、ね」
「……勇者様が襲われるって珍しくないの?」
「まあ、ね。勇者っていうのは、簡単なものじゃないから」
「……あのメイドのせい?」
「そこまでは分からないわよ。でも、無関係、ってことはないのかも」
「……やっぱり、オレが始末しようか?」
「そこまで焦らなくていいってば」
仕事熱心なミツルギに苦笑して見せる。
確かに新しく来たメイド、アリッサは勇者襲撃の理由の一つかもしれない。かといって、すぐさま排除するだけの根拠もない。
――何かあれば、マクシミリアン様が、対処なさるだろうし。
勇者リリアにとって、最も信頼できる存在。リリアのためならば、魔族の大軍にすら突っ込む最強の魔法使い。
ラミもまた、マクシミリアンを信じている。ラミやミツルギの手が必要ならば、すぐに声をかけてくれるだろう。
――でも、頼り過ぎないようにしないと。
そのために、ラミはクエストを受けて腕を磨いているのだから。
改めて、覚悟を固める。自分もいつか、頼られるだけの存在になろうと。
リリア、マクシミリアン、ミツルギ。頼れる仲間を守れるべく、強くなろうとラミは改めて決意した。
ブックマーク、評価、ご感想、令和初の反応をお待ちしております。




