9 マックスは懐かしむ
GW、皆さまはどうお過ごしでしょうか?
私はない知恵を絞りながら文章を書いております。
少しばかり気まずいティータイムを過ごした私たち三人は、特に寄る場所もなく、王城への帰り道にいた。
勇者さまはいつも通りに振る舞い、私はそんな勇者さまの相手をする。ただ、アリッサは落ち込んでいるように見えた。
気にするな、とは言っても、アリッサからすれば初めての襲撃だった。私がつい怒りかけたのも含めて、あまりよい気分ではなさそうだ。
――気にするな、なんて言っても難しいんですかねえ。
一般人からすれば、自分狙いの襲撃に遭うなんてことは一生に一度あるかないか。驚かせ、怯えさせてしまったろうか。
「大丈夫かー? アリッサー」
「あ、はいっ、何も問題は、ありません」
「そうは見えないけどなー」
「だ、大丈夫です」
勇者さまがツッコミを入れても、強がるだけ。これは、懐柔派云々以前の問題だ。
勇者さまが襲われることは珍しくない。それに一回一回怯えていては、心がもつまい。
――それを理由に追い出しましょうか?
そう考えつくも、懐柔派の行動力からして、成果は見込めそうになかった。よしんばアリッサを追い出せても、別の誰かがすぐにやってくるだろう。
――やはり、面倒ですが、アリッサには慣れてもらうしかありませんか。
襲撃にも、私にも。今の様子では、いざという時どころか、日常の家事にも支障をきたしそうだ。
「なー、マックスー? 果物買って行ってもいい?」
「ダメです」
「即答かよ!」
「昼間、アリッサに買ってもらったのを食べていたでしょうが」
「あれはわたしのお小遣いで買ったんですー。わたしのものですー」
「関係ありませんよ。あまり食べ過ぎると、食事が入りませんよ」
「そこまでお子様じゃないっ!」
「はいはい。勇者さまは大きいですねー。偉いですねー」
「むがーっ!」
ポコポコと殴り掛かってくる勇者さまには、慣れたもの。頭を撫でてやりながら、気晴らしさせてあげる。
勇者さまも、アリッサのことで色々と考えを巡らせているだろう。こちらもこちらで気にしないで欲しいのだが、勇者さまは意外と繊細だ。
――賢い子ですしね。
あえて、そこは指摘しない。言うと、恥ずかしがって、別の意味で怒る。
「はいはい、勇者さまそれくらいにしてください。買い物は許しませんけど、夕飯はきちんと用意してもらいますから。ねえ、アリッサ?」
私たちの身の回りの世話、今までは王城の侍女たちにやってもらっていた家事などは、今はアリッサが全て行っている。食事もまた、である。
アリッサは勇者さまの好みを把握するのが早かった。最初は苦手な物を全く出してこなかった。
ただ、好きな物ばかり出すのは食育上よろしくないので、私がきちんと好き嫌いしないようにと食材をいくつか指定している。ちなみに、毒見の段階は過ぎており、料理の腕は信用はしている。
「はいっ。今日も美味しいものをご用意します!」
自分の得意分野だからか、アリッサはいくらか調子を取り戻したように、はっきりと答えた。
「あ、わたしの嫌いなものは……」
「出しますので。出させますので」
「やっぱりマックスの仕業かー! 最初はニンジン出てこなかったのに、最近は!」
「好き嫌いはよくありませんので。嫌いでもなんでも、きちんと食べてください。大きくなれませんよ」
「ふぐっ!」
こんな、私たちのやりとりを見てか、アリッサがくすりと笑う。
「あ、す、すみません」
「別に構いませんよ。笑うな、なんて命令はしていませんし」
「……ありがとうございます」
アリッサは律儀に一礼して、
「勇者様とマックス様は、本当に仲が良いのですね」
「んあ? まあ、マックスとは付き合い長いしなあ」
「そうですねえ。勇者さまの人生半分は、私と一緒に過ごしてますし」
思いだすのは、勇者さまが、まだまだ幼かった頃。私と出会った時は、ぴーぴーと泣いてばかりだった。
「なんか、余計なことまで思いだしてないだろうな?」
「いえ、それは全然」
「ホントかー?」
胡散臭そうに見られたが、私は勇者さまの頭を撫でて、誤魔化す。
なんだかんだ、勇者さまとは過ごした期間は長い。人間基準では。
私自身の感覚で言えば、一瞬にも等しいが。しかし、満足はしている。
漆黒龍であることを忘れてはいないが、それでも人間として過ごすのも楽しいものだ。勇者さまと出会ってからは。
――勇者さまに出会えたからなんでしょうけどね、この感覚は。
それまで、人間の興味を持ったことはなかった。そこいらを飛び回る、虫や獣と同じくらいどうでもよかった。
もし、出会ったのが勇者さま、リリアでなければ、私は結局人間に興味を持たなかったかもしれない。本当に勇者として振舞える人間に出会っていたなら、やはり興味など湧かず、寝ていただろう。今まで通りに。
我ながら、奇妙なものに、心惹かれるものである。しかし、それも楽しい。
「さて、では夕食のためにも真っすぐ帰りますよ」
「うーい」
まだ何か言いたそうな勇者さまの手を取って、私たちは歩きだす。アリッサもいくらか調子を取り戻せたのか、うつむいていた顔が少し明るくなった。
王城は、大通りを一直線。迷うこともない。
歩いていると、また声をかけられた。街の人々に、勇者さまは親しまれている。
残念だが、今は寄り道ができない。勇者さまと二人で丁重に断りつつ、城へと向かう。
その途中で、見覚えのある後姿を見つけた。
「あれっ、ラミとミツルギじゃね?」
「そのようですね」
買い物にでも出たのか、ミツルギは大荷物を背負っていた。
「おーい、ラミー、ミツルギ―」
勇者さまが声をかけると、二人はすぐに振り向いた。
「勇者様に、マクシミリアン様?」
「……奇遇、ですね」
二人と並ぶ。ちょうど帰り道が一緒になったらしい。
ラミとミツルギは、リンゴをかじっていた。それに勇者さまが反応するのを制しつつ、
「買い物でしたか、二人は」
「はい。マクシミリアン様たちは、確か……」
「気分転換に、お茶を。二人が出かけると知っていたなら、声をかけたのですが」
「ありがとうございます。でも、アタシたちは、これがあって」
と、ラミが指さすのは、ミツルギの背負った大荷物。よほど買い込んだらしく、パンパンに膨れていた。
「……なんか、ラミとミツルギ、変な臭いがするぞ」
「あはは……。それもあって、アタシたちはこれにしたんです」
勇者さまに指摘されて、ラミは苦笑いをした。道具屋で何かあったのだろう。かじりかけのリンゴを見せて、ミツルギもうなずいていた。
「帰ったら洗濯します。マクシミリアン様に頂いた、大切なローブですから」
「ああ、ではアリッサに頼みましょう。いいですか? アリッサ」
呼びかけると、アリッサは顔を明るくした。
「お、お仕事ですか?」
「ええ、洗濯ですが」
「やります、いくらでも!」
よほどヒマを持て余していたのか、アリッサは仕事を振られて嬉しそうに顔を輝かせていた。先ほどまでの暗い表情が、一変している。
「ラミ様のローブ、それに、ミツルギ様のお召し物ですね!」
「え、アタシは自分で……」
「……オレも」
「まあまあ、二人共そう言わず。アリッサなら、綺麗にやってくれますよ」
せっかく明るくなったのだ。少し戸惑う二人を説得、という程でもないが、仕事をアリッサに与えるよう話をした。
「お城に帰ったら、すぐにやります!」
とまで意気込んでいるのだ。二人も理解してくれたらしく、了承してくれた。
――まあ、アリッサにかかったら、すぐに終わる仕事でしょうが。
家事の腕は一流のメイド。二人分の洗濯物くらい、すぐさま終わらせてしまうだろう。それでもアリッサは嬉しいらしい。
「お食事とお洗濯、全部、私にお任せください!」
「よろしくお願いします」
「はいっ!」
この様子ならば、もうフォローは不要だろう。仕事が嬉しいというのは、メイドとしてのさがだろうか。
私としては、アリッサの腕前に文句はない。勇者さまたちはアリッサの変化に驚いていたが、まあ、いきなり張り切られても戸惑うだろう。
そんな三人を連れつつ、喜んでいるアリッサを付き従えつつ、私たちは、城まで帰っていった。
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