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7 剣士ミツルギは思案する

平成最後の更新です(言いたかっただけ)

令和になってもよろしくお願いします。

 マクシミリアンとの相談を終えたミツルギは、自室に戻って悩んでいた。

 つい先日加わったというメイド・アリッサをどうしたものかと考えている。

 マクシミリアンは安心しろと言っていたが、恩義のある相手に危害が及びそうならばミツルギはためらわずに始末する。


 リリアとマクシミリアンは、長年苦しんでいた借金問題を解決してくれた恩人だ。守るためならば何でもしよう。

 ベッドに腰かけ、腕を組み、頭を働かせる。ラミから聞いた派閥問題。ミツルギには大きすぎる問題だが、せめて何かしら役に立ちたい。

 そんな漠然とした考えを巡らせている時、


「ミツルギー、入るわよー」


 ラミがノックもせずに入ってきた。

 まだ出会って日は浅いが、ミツルギにとって、ラミとはもう気安い仲になっている。私室の出入りなど互いに遠慮もなくなっていた。


「次、クエストどうしようかしら? 帰って来たばかりだから、少し間(あいだ)を置いてもいいと思うんだけど」

「……あ、うん」

「? どうかしたの?」


 歯切れの悪いミツルギに何かあったと、ラミはすぐさま見抜いたようだった。

 自分ではあまり感情を出しているつもりはないのだが、ラミはすぐにミツルギの変化に気づく。悩みを抱えているとは、一瞬で見抜かれた。


「お金のこと?」

「……違う」

「冗談よ、冗談」


 くすくすと笑われた。ラミはこうやってミツルギの緊張をほぐしてくれる。


「……この前からいる、メイドのこと」

「メイド……? ああ、あの人のことね」

「……うん」


 事情をすぐに察したらしいラミは、ミツルギの隣に座り、


「マクシミリアン様に相談でもしたの?」

「……した。安心しろって言われた」

「なら、気にしないでいいわよ。マクシミリアン様がそう言うなら問題はないわ」

「……そうなの?」

「そうなの。勇者様に何かあれば、マクシミリアン様が必ず守るもの」


 ラミは、気楽そうに、そう言い切った。ミツルギよりも長く共にいたからか、ラミのマクシミリアンへの信頼は厚いようだ。

 断定されてしまうと、ミツルギは戸惑ってしまう。万が一、と考えてしまうと、問題を早々に除去したくなる。


「……始末した方が、早くないか?」

「そうかもしれないけど、今はまだ何もしなくていいと思う」

「……なんで?」

「ちょうど、噂を聞いたところなの。新しい派閥について」

「……新しい?」

「うん、あのね」


 とラミが話してくれたのは、先日聞いた話とほぼ同じだった。しかし、それに加えて、


「勇者懐柔派は、支持派とはっきりと敵対しているわけじゃないのよ。なのに、敵かもしれないとはいえ、いきなり手を出したら支持派の立場が危なくなるわ」

「……うん」

「懐柔派も、勇者様を狙っているとはいえ、廃絶派とは敵対関係だもの。今、何か問題を起こしたら、懐柔派まで支持派の敵になるかもしれないわ」

「……」


 ラミの言うことを、ミツルギは静かに聞いていた。マクシミリアンも、ラミと同じ意見を持っているのかもしれない。だから、ミツルギを制したのか。

 詳しい話を聞いて、ミツルギは自分にできること少し落ち込んだ。


 ――みんな、色々考えてるんだな。


 冒険者として長く過ごしてきたからか、ミツルギはとにかく敵になりそうなものに遠慮することがなかった。ずっとソロだったため、なおさらだ。

 自分の身に危険が及びそうならば、原因をすぐに除去する。今まではそれだけで済んでいた。


 だが、勇者パーティというのは、想像以上に難しいものらしい。任務をこなすだけ、というわけではないのか。

 今になって、勇者パーティの影響力について考えてしまう。金のためだけに加入した自分が恥ずかしくなってきた。


「まあ、あんまり心配しすぎなくて大丈夫よ。マクシミリアン様だけじゃなくて、アタシもミツルギもいるんだから。勇者様に何かあれば、すぐに助ける。でしょ?」


 そう言って、ラミはミツルギの頭を撫でてくれた。

 髪をすく指に温かさを感じて、ミツルギは先ほどとは別の意味でうつむいてしまう。


 ――ラミは、なんでもお見通しなんだな。


 年上ということもあるだろうが、ラミは人の様子にすぐ気づく。ポンポンと頭を撫でてくるのは、まるで子供をあやすようだった。


「……子供扱いはしないで欲しい」

「ごめんごめん」


 ――まあ、いいけど。


 別に頭を撫でられるのが嫌なわけではない。ただ、なんとなく恥ずかしさを感じてしまう。


「借金のこと、マクシミリアン様には相談した?」

「……え? うん」

「大丈夫そう?」

「……大丈夫だった。全然」


 気持ちを改めるように、ラミが聞いて来た。なので、ミツルギもマクシミリアンに言われたことを、素直に話す。

 予想以上の給金のおかげで、ラミの借金は確実に減ってきているらしいと。


「……驚いた」

「まあ、勇者様と一緒の任務だから。危ないのもあるし、それだけじゃなくて、今みたいな問題もあるしね」

「……やっぱり、オレ、入っちゃダメだったかな?」

「いまさら言わないでよ。せっかく推薦してあげたんだから」

「……うん、ありがとう、ラミ」


 ラミと話していると、亡くした家族を思いだす。まるで姉のように振舞うラミが、心地よく、とてもありがたい。

 

「しばらく、クエストはお休みにしましょ」

「……えっ、でも……」

「今はクエストに集中できなさそうだし。まあ、一応私も、あのメイドのことは気にしてるし、ね」

「……分かった」


 確かに、今の派閥問題について聞いた今、クエストだけに注力はできない。


 ――なんか、考えることがたくさんだ。


 任務だけを淡々とこなすだけ、と思っていたのに、複雑な話が絡み合っている。今は、それらを学ぶ時かもしれない。


 ――今度、マクシミリアン様にも相談してみよ。


 ミツルギがうなずくと、ラミは立ち上がり、さらにミツルギの腕を引っ張った。


「ちょっと息抜きに外にでましょ。この前使った道具の補充もしなきゃだし」


 道具、とはミツルギがクエストで使う、武器のこと。連日のクエストで、確かに物と材料が減ってきている。

 もっとも、ラミからすれば、それはただの口実なのだろう。主な目的は、外の空気を吸って、落ち着くことだ。


「マクシミリアン様たちが行くスウィーツ屋も教えてあげる。ミツルギは、まだ行ったことなかったわよね?」

「……うん。知らない」

「じゃあ、ちょうどいいわ。それに、甘いものを食べたら、気分が楽になるわよ」


 楽しそうなラミの声に惹かれて、ミツルギは立ち上がった。甘いもの、というか食べ物のことには興味もある。


「……でも、まずは道具から」

「はいはい」


 引かれた手をそのままに、ミツルギはラミと手をつないで、部屋の扉を開けた。

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