6 勇者リリアはお茶をする
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店先での捕り物はどこ吹く風で、リリアは目の前の新作イチゴスウィーツを楽しんでいた。
正面にいるマクシミリアンも、同じく新作のチョコレートに舌鼓をうっている。どちらも、哀れな下っ端のことなどどうでもよく、いつものこととして流していた。
この場でそれを気にして、暗い顔をしているのは、
「アリッサも座れってば。ここはマックスのオゴリだからな! 好きなものを頼め!」
「さりげなく人の財布を当てにしないでください」
「あ、あの、私はメイドですので、ご主人様と同席するわけには……」
「っても、そこで立ってるのも、なんだかなあ」
「では、私は外で……」
「そこまでしなくていいっての。早く座れよー。命令めいれーい」
「は、はい、では……」
アリッサを座らせようとして十分。やっとリリアが勝った。
「んなにさっきの気にしなくていいって。あんなの、いつものことだから」
暗い顔の原因は言わずもがな。おそらくは刺客の出現と、
「マックスがキレるなんて、珍しくないからなー。アリッサも慣れておけよー」
「簡単にはキレませんってば」
「沸点低いくせに」
「それは自覚しています。だから、気を付けていますよ」
いきなり見せた、マクシミリアンの凄みに怯えているのだろう。リリアも最初は怖かった。
マクシミリアンは敵に容赦がない。あの程度で困惑しては、これから先、マクシミリアンが本当にキレた時にどうなるか。
確かに、マクシミリアンは怒りやすい。だが、それはあくまにもリリアに危害を加えようとする相手にだけで、仲間には基本的に優しい。
――まあ、それも猫かぶりだけどな。
マクシミリアンの本性は、リリアしか受け入れられまい。怒ると怖いが、とても優しい漆黒龍の性根は。
今では、そこに、おかしな優越感すら感じている。マクシミリアンを受け入れる、というのがリリアに特別な関係性を持たせているようで、嬉しい。
もっとも、本気でキレられた時の怖さは、リリアでも振るえるほどだが。容赦ない時は、本当に容赦がない。
アリッサは、見ていて簡単に分かるほどに、マクシミリアンを気にしている。
――あー、これ、ドツボに入ったかなあ。
勇者パーティに加わって、まだ数日。不意に見せられたマクシミリアンの一面に、完全に怯えている。
なので、リリアはせめてこの場を和ませるべく、ウェイトレスに追加でケーキと紅茶を注文した。アリッサ用だ。
「ど、同席させていただくだけでも恐れ多いのに、一緒にお茶は……」
そう恐縮するアリッサに、半ば無理やりケーキと紅茶を勧めた。アリッサはずいぶんとためらったが、
「まあ、気にすんな。お詫びお詫び」
「そんな、勇者様、私はなにも……」
「わかってるからわかってるから。全部、コイツが悪いから」
「勇者さま、フォークで人を指すのは止めてください。行儀が悪いですよ」
こんなやり取りをしていると、アリッサの顔から緊張感が少しずつ抜けていった。
いただきます、とケーキを食べて、アリッサは一息ついたようだ。やはり、甘い物は心と体にいいらしい。リリアの持論だが。
「あの、勇者様、マックス様、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「いいぞー」
イチゴを突きながら、リリアは答える。程よい酸味と甘みで口を満たしつつ、次に来る、質問とやらを待った。
ちなみに、リリアたちの周りには、マクシミリアンによる沈黙の結界が張られている。必要な時以外は、声が外に漏れることはない。
「あのような襲撃は、いつものこと、なのですか?」
「さっきのか? そうだなあ、私がちっちゃい頃からよくあったぞ」
もっとも、今でこそ平然と話せるが、当時のリリアは怖くてたまらなく、マクシミリアンから離れられなかった。チョコレート好きの青年は、リリアにとって最も安心で安全な場所をくれる。
息を飲むアリッサに、リリアはやはり気楽に言う。
「あんなのがいるから、勇者パーティも困るんだよなあ。下手に人数増やせないし」
「メンバーに女性が多いのも、ですか?」
「あ、それはただの偶然」
そもそも、勇者パーティの面々は、リリアが選んだものではない。誰かの思惑か、個人の意志で加入している。
――アリッサだって、わたしの知らないところでなんだか話が決まったもんだしなあ。
隠しているのだろうが、アリッサも勇者懐柔派という派閥から送られてきている。リリアが頼んだわけでもないのに女性で、しかもメイドだ。
「あ、マックスが男だからって気にしなくていいぞ。こいつ、基本的にわたしのことしか見てないし」
「……なんだか、誤解を招くような言い方、止めていただけませんか?」
「事実じゃん」
「私は勇者さまを守るだけであって、それ以上に意味はありませんからね」
「……むー」
そっけない返事にむくれて見せても、今のマクシミリアンはチョコレートしか気にしていない風だった。
「……まあいいや。アリッサも気を付けてな」
「はいっ、いざとなれば、私は勇者様のために……」
「あー、違う違う。わたしじゃなくて、自分のことを気にしてくれ。わたしはマックスに守ってもらうから」
「ですが……」
アリッサはまだ何か言いたげだったが、リリアがスウィーツを食べ始めると、口を閉じた。
――懐柔派としては、なんとかわたしに取り入ろうとしてるんだろうけど。
こちらの身を案じるのは、人柄か策略か。アリッサの態度は、まだリリアには判断しかねる。
どちらにしても、アリッサが自分のために死なれると困るのまる。やはり人がいたずらに死ぬのは、見たくない。
――アリッサが本当に仲間だってんなら、マックスも守ってくれるかもしんないけどな。
対面している黒い青年は、特に何も言ってこない。今のところは静観しようということだろう。
ラミやミツルギのように、信頼できる相手ならばマクシミリアンも多少は気にしてくれる。アリッサがどうなるかは、今後次第だ。
リリアとしては、できれば敵にはなって欲しくないと思う。心を許したわけではない。ただ、近づいて来た相手が敵だと、少し悲しくなる。
スウィーツを食べ終わり、紅茶に手を伸ばす。口の中をさっぱりと洗い流し、ほっと一息。
マクシミリアンも食べ終わったようで、静かにコーヒーを飲んでいた。アリッサもリリアが勧めたからか、ケーキを食べ終えている。
――ホント、まあ、敵は作りたくないよなあ。
馴染みの喫茶店で、友達と気晴らしをしたかったのだが。
それぞれ色々と思いながら、リリアは紅茶の香りを楽しむ余裕もなく、すすっていた。
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