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白き星に祈りを込めて  作者: ななしとせ
第7章 スコルプ異形体討伐作戦
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第61話 高みへと(中編)

 始まりはライフォの言霊だった。

「爆ぜよ」

 静かな言霊に応え、上空に巨大な無数の火の玉が現れる。

 そして間髪入れず、火の玉は凄まじい速度で一点に降り注いだ。


()は我、我は刃、故、()く踊れ」

 アレフが唱えた。それもまた言霊だった。しかし彼は人、神ではない。

 所詮は人の言霊、世界に事象は起こさない。

 それは心の追い風となり、力とするもの。つまりは自己暗示のようなもの。

 しかし確実に肉体に作用し、時に限界すら凌駕させる。


無明細雪(むみょうささめゆき)

 言霊が紡がれ、幾千もの斬撃がほとばしる。

 神速すら超えた不可視の斬撃

 刃は消え、その姿は光の残滓に瞬くのみ


 結果は先程と同様、全ての火球は斬り刻まれ消滅した。


 時を置かずにアレフが二歩、三歩と後ずさる。

 その直後、先程まで彼が立っていた位置を、地面から生えた巨体な杭が突き上げた。


 退かなければ、巨大な杭に貫かれていただろう。

 アレフは発動前に動き退けた。予知ではない、種も仕掛けもあるある。

 彼は足元に感じた僅かな振動を攻撃と察して、先んじて回避したに過ぎない。

 常人には可能な技ではない。

 しかし彼の三千年に及ぶ戦いの経験が、それを可能にさせた。


 アレフが動き続け、その足跡を巨大な杭が何度も貫き続ける。

 その全てが不発に終わり、閃く白刃により斬り刻まれ、土塊へと砕け落ちる。

 それが何十を越え何百へと迫るも、全てが空を切り、土塊へと還る。


 攻撃が止み、土埃だけが舞う。

 雪原は再び静寂に包まれた。


 ・


「肉体強化なし、魔力がほぼ尽きてるから当然な。それどころか魔力欠乏症でまともに動けない。なのによくもここまで動ける」

 静かに呼吸を整えるアレフを見下ろしながら、ライファは不思議そうに首を傾げた。


「この強さは才能じゃないわね。単になる鍛錬と経験の成果、ただ積み重ねた時間と量が桁違いなだけ」

 ライファが笑った、本当に嬉しそうに。

「万全のあなたを見てみたかった。それが残念」

 僅かに笑顔を崩したライファが新たな言霊を紡いだ。


 大気に真空の刃が編まれる。

 それは幾百もの不可視の刃で、一斉にアレフへと注がれる。


 結果は変わらず。全て一瞬で消滅した。


 アレフには見えない事など関係ない。

 大気の僅かな歪みから察し、切り裂く刃を逆に切り裂いた。


「妬ましい。あなたの星の分神が心底」

 肩を震わせるライファが、再び言霊を紡ぎ始める。

「煉獄の業火よ、漆黒の光よあれ」

 アレフの周囲を青白い炎の壁が囲み、次の彼の頭上を何百もの光の玉を覆い尽くした。


「戯れよ」

 ライファが右手を振り下ろし、光の玉が一斉に降り注ぎ始めた。


 ・


 アレフの頭上から、光の凶器が隙間なく降り注ぐ。その周囲は炎の壁、動いて避けることは出来ない。

 光の球を切り裂くのは可能だろう。しかし周りは燃え盛る炎の輪、その場にいればいずれ酸欠で力尽きる。

 生き残るには脱出が必須になる。


 それを知ってか、アレフはゆっくりと白刃を鞘へと納めた。

「去ね、(なれ)は牙に落つ。火追桜(ひをうざくら)!」

 抜刀からの気合裂帛の横一閃が放たれる。

 その速度は神速すら遥かに凌ぎ、刃が全てを薙ぎ払う。

 立ち塞がる炎の壁も例外ではなく、一部が吹き飛ばされ消えた。


 アレフはその隙間にすかさず身を投じて脱出する。

 その直後、後方では、降り注ぐ光球による激しい爆発を起きていた。


 雪原に爆音が響き、続き黒煙が広ぎりアレフの姿を覆う。

 次の瞬間、幾重にも瞬く白刃が爆煙を跡形もなく消し飛ばした。


 ・


 黒煙が消え視界が晴れる。

 しかしその先の光景を見つめたアレフは、僅かに目を細めた。


 そこに、岩で出来た巨大な巨人が何体もそびえるように立っていた。

 大きさは人間の軽く10倍以上、数は20を超える。


 それはライファの言霊で作られた、意志を持つ巨大な操り人形だった。

「踊れ踊れ、偽りの命よ。小さき(あくた)と舞い踊れ」

 ライファが命じ、忠実な岩巨人達が動き出す。


 その動きは巨体とは思えぬほど敏捷で、驚くほどの速さで駆け出していた。


 正面にいる巨人が巨大な拳を振り下ろす。

 当たれば即死、掠っても骨ごと肉を削れる。


 それを前に、アレフは左右には避けず、ただ前へと疾走した。


 巨大な拳が頭にぶつかる寸前、アレフは身を捻って躱すと、滑るように岩巨人の股下をくぐり抜けた。

 その瞬間、幾重もの光が駆け抜ける。

 アレフが身を起こすと、足を失った岩巨人が崩れ落ちた。

 彼はくぐり抜けた瞬間、不可視の斬撃が岩巨人の両足を切り裂いていたのだった。

 止めたばかりに、振り返るアレフから白刃が幾重にも振り下ろされる。

 かくして岩巨人は粉微塵へと切り刻まれ、元の瓦礫へと還った。


「ぬるい」

 アレフがつまなさそうに吐き捨てた。

 人の10倍はある岩巨人でさえも歯応えを感じないのか、その表情は不満に満ちていた。


 構え直すアレフに他の岩巨人達が迫る。

 次は前後左右からの4体が一斉にだった。

 前から拳、右から蹴り、左からは掴み手、そして後ろから投石

 全てが一撃必殺、桁違いの巨大な攻撃だった。


「遅い!」

 アレフが獰猛に笑い、後ろから迫る投石へと振り返ると、両脚を大地へと叩きつけた。


 震脚からの発勁

 両脚から始まる力は、腰、胸、腕と伝わるごとに増幅され、巨大な力となり掌へと続く。

礫破(れきは)!」

 気合いの声と共に、増幅された力が掌底へと集中し、巨大な岩石へと放たれる。


 全霊の力を込めた一点突破により、巨大な岩石の拳は粉砕した。


 続く後方からの巨大な蹴りを、アレフは僅かに屈んで躱す。そして同時に、巨人の足を切り飛ばした。

 そのまま間髪入れずに斬撃が放たれ、切り刻まれた巨人は瓦礫と果てた。


 直後、巨大な拳が頭上に打ち下ろされる。

 アレフは僅かに脇に動いて避けると、返す白刃でやはり瓦礫へと斬り刻んだ。


 最後に摑みかかる手も同様、避けると同時に十文字へと斬り裂いた。


 アレフが深いため息を吐く。

「舐めてるのか?肩慣らしにもならん」

 そう言い取りと、取り囲む岩巨人達を睨みつけた。


 自律する岩巨人達はなく、恐怖を感じる機能もない。

 それなのに、睨み付けられた巨人達は恐怖に固まるように動きを止めた。

 

「阿呆が、殺し合いで気を抜くな」

 苛立ちの声を上げ、アレフがアレフが動かぬ岩巨人へと疾走する。

 白刃が幾重もの光の弧を描いて岩巨人達を切り刻み、一体、また一体と屠っていった。


 ・


 この岩巨人とは、魔法術式による操られる人形である。

 その性質上、斬撃で倒す事は難しい、普通なら。

 何故ならこの人形は、魔力で編まれた糸、魔糸がこんなかの代わりとして全身に張り巡らされている。

 人形を倒すには、これらを切断するか、心臓となる核を破壊しなけれならない。

 単純に切ったところで何度でも再生していまうのだ。


 ところが魔糸は非常に強靭で、切断するには何らかの魔法術式で強引に断ち切るのが定石で、物理的に切ることは不可能に近い。


 それなのに・・・

 何故かアレフは切れないはずの魔糸を物理的に切断し。岩人形達をいとも容易く倒し続けていた。


「特別な剣、特別な腕の成せる技?いずれにせよ非常識ね」

 驚くことに飽きたライファは、もはや呆れるしかなかった。


 ・


 約2セクタ程(約3分)で、20体もの人形達は完全に破壊された。

 静かな雪原の中、息を整えるアレフが空のライファを睨んでいる。

「反応に困る・・・かなり想定外」

 鋭い視線を涼しい顔で受け流し、ライファは呆れ顔で薄く笑った。


「いいわ、それなら心の強さも見せてもらいましょう」

 ライファは新たな言霊を紡ぎ始めた。


 突然、空に異変が生じた、

 上空に数多の雷の剣、氷の槍とが生まれ、その中心には炎の翼を持つ巨大な獅子が現れた。

「踊りなさい」

 雷の剣と氷の槍が降り注ぎ、畳みかけるように幻獣が炎の息を浴びる。


 突き刺す剣と槍のと雨が、白刃の乱舞で撃ち落とされる。

 続き、炎の吐息が押し寄せる。


「偽りよ、天地(あまつち)を分かて。虚華霧(うつほかぎり)

 言霊が紡がれ、切り上げの一閃が放たれた。

 刃に空気が裂かれ、真空の牙となり空を駆ける。

 牙は幻獣の炎を裂き、そのまま幻獣すらも呆気なく両断した。

 絶命した幻獣の骸が大地へと落ちる最中、それすらも刃により念入りに切り刻まれた。


「次!」

 苛立つアレフが獲物を求めて辺りを見回した。

 すると、今度は100体以上の新たな巨人達が、いつの間にか取り囲む様に立っていた。


「ははっ、及第点一歩手前だ」

 アレフが目を見開き、そして獰猛に笑った。

 ゆっくりと切先を空に向け、八双の構えを取る。

「殺せ殺せ、やってみろ。どうか殺してくれ」

 くちびるを吊り上げたアレフが、出鱈目な速さで疾走した。


 その様子をライファは戸惑い気味に見ていた、

「何でここで笑うの?心折れないどころか、逆に喜ぶ?何?意味が分からない」

 彼女が見つめる先には、笑いながら岩巨人達を倒し続けるアレフがいた。


 あまりに出鱈目な光景だった。

 一体、また一体と巨人が瞬く間に斬り刻まれていく。

 ライファが新たに言霊を紡ぎ、岩巨人達を作り出すが、彼は疲れる様子も見せずに続々と刻んでいく。

 猛獣のように笑いながら・・・


「本当に人?」

 背筋に悪寒を感じたライファが、岩巨人を作る速度を上げた。

 すると岩巨人が倒される速さよりも、生まれる速さが勝り、その数が少しずつ増えていく。

 50を超え、100、200となり、やがて300を超える。

 あたり一面が岩巨人達に覆い尽くされ、アレフの姿が完全にかき消えた。


「まだまだいくわよ」

 ライファが更なる言霊を紡いだ。

 空に、数多の炎の剣、氷の巨塊、稲光る雷槍とが、空を隠さんばかりに頭上を覆い尽くした。


 地上を覆い尽くす巨大な巨人達と、空を覆い尽くす数多の凶刃

 それが全てアレフ一人に注ぎ込まれた。


 襲いくる巨人達と降り注ぐ凶器の下、それは絶望的な状況だった。

 そんな中、アレフは笑いながら刃を振り続けていた。


 頬を掠めた凶器で僅かに出血した。

「惜しい」

 アレフは口の端を更に吊り上げた。


 槍が額を切り、流れた血で両目が塞がる。

「良い塩梅だ。鍛錬には丁度良い」

 瞳を閉じたアレフが刃を八方へと振るう。

 するもまるで見えているかのように、降り注ぐ凶器が正確無比に撃ち落とされた。


 その直後、横から迫る巨大な張り手を吹っ飛ばされる。

「何故握り潰さない?詰めが甘い」

 飛ばされながらアレフは呟いた。

 飛ばされた先でひらりと着地し、何もなかったかように微笑んだ。

 当たる瞬間、衝撃の方向に合わせて飛んだので、対した衝撃は受けていない。

「あと一歩で殺せていたものを」

 本体もろとも砕ける張り手を見ながら、アレフは血では塞がった目を拭う。

 開かれた瞳は、飢えた野獣のように爛々と輝いていた。


 一呼吸の後、再び野獣が戦場を駆け始めた。


 ・


 目の前の光景にライファがため息を吐いた。

 善戦するとは予想していたが、ここまで粘るとは予想をすらしていなかった。

「意外ね、もっと理性的な御仁と思ってたのだけど。人間の本能なのかしら。おっと」

 言葉の途中らライファが突然首を傾けた。

 その瞬間、ア短剣が彼女の頬をかすめ過ぎた。

 地上からアルフが投げ付けた短剣を、紙一重で躱したのだった。


「ご忠告かしら?確かに油断は禁物ね」

 ライファは頬に滲む血を指先で拭うと、艶かしく舐めとった。


 地上では、相変わらずアレフが縦横無尽に暴れ回っていた。

 彼は際限なく増え続ける敵を、ただひたすらに笑いながら切り裂いていく。


 少し前から戦いは均衡していた。

 岩巨人達が生まれる速度と倒される速度が一致し、数はほぼ同等に保たれていた。

 それから少しして、その均衡が崩れ始めた。

 僅かずつだが、しかし着実に岩巨人達の数が減ってきたのだ。


 明らかにアレフが岩巨人を倒す速度が目に見えて上がっていた。そしてそれは時を超すこどに増していく。


 やがて均衡は完全に崩れた。

 岩巨人達の数が瞬く間に減っていった。

 400近くにまで増えたはずの岩巨人達は、今や半分を切るの100以下に減らされている。

 今や勝利の天秤は完全にアレフへと傾いていた。


「今知ったわ。呆れは、通り越すと逆に清々しくなるものね」

 困り顔で肩を竦めるライファ、しかしその瞳にはどこか喜びの色が浮かんでいた。

「何の天賦も才能もない。ただの凡人、その強さは高みを目指し続けた努力の賜物、敬意に値する」

 ライファは瞳を閉じ、右手を天へと掲げた。


 朝焼けに染まる空に、当然星が現れて煌々と輝き出した。

 遅れて空から轟音が響き渡り、星が輝きと大きさを増していく。


「それでもね、人は決して神には及ばないのよ、残念だけどね。人間のあなたでは、私達神のいる高みは至れないの」

 ライファが閉じていた瞳を開く、その奥に宿るのは慚愧の光。

 彼女は右手をゆっくりとおろすと、その人差し指を地上で戦うアレフへと指し示す。


「あなたは・・・いいえ私も・・・儚い希望を抱いていました。しかし叶わぬ夢とは、時に絶望よりも残酷なもの。だから傷付く前に砕いてしまいましょう、決して抗えない絶望で」

 まだ夜の暗さを残す空に、いつしか太陽よりも明るくなった流星が、その輝きと大きさとを更に増していく。


「これで終わりにします。でも、もし・・・もし貴方が立ち上がれたら」

 空より肥大化した星が降りてくる。

 それはライファの手により、宇宙から地表へと導かれた隕石だった。

 隕石は音速を超えた流れ星となり、アレフがいる地表へと突き刺さる。


 直後、閃光が世界を白く染めた。

 大地に巨大な爆発が巻き起こり、衝撃波と轟音がそこにある全てを破砕した。


「その時は認めましょう、神の高みへ辿り着けたと」

 立ち上がる黒いきのこ雲を見つめながら、ライファは泣きそうな声で呟いた。

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