第58話 咆哮
書くのが遅くてすいません・・・
『誓おう。
必ず帰ってくる。
全員を連れ、必ず帰ると。
だから誓って欲しい。
絶対に死なないと。
共に命を守り抜き
死なず、死なせず、
必ず全員生き残る、と。
帰ろう、全員で
生きて仲間の元に帰ろう』
あの時、誓いは交わされた。
それは何よりも尊い約束
彼等は必ず果たすと決めた。
それなのに・・・
彼等は動けなかった。
恐怖に震え、動けない。
されど、彼等の心は折れてはいない。
賛成な誓いが支えていたから。
神の摂理に挑み斃れようと
心の剣は未だ折れず、
流れる涙は熱く冷めず
熱さは勇気となり彼等を動かそう
かの誓いを果たすために
・
どうしてだろう思い出す・・・
死ぬはずだったウェネス遠征
あれは本当に・・・本当に寒かった。
俺達獣人に明日なんてなかった。
今日を生きのびるのが全てだった。
痛くて、腹が減って、寒くて・・・
今だけで精一杯だった。
俺は耐えられた。
だけど俺の子供は駄目だった。
あの子は泣きながら痩せ衰え死んだ。
泣き声すら出せずに死んでいた。
俺は何もしてあげられなかった。
俺の生きる気力を失った。
俺だけじゃない、獣人は皆同じ様な有り様だった。
誰もが大事なものを失い、
誰もが絶望し、生きることを諦めていた。
そんな無能な俺達をあいつらは捨てた。
役立たずは死んでしまえ、と
ゴミ同然に放り出された。
こうして俺達は死ぬ事になった。
誰もが悲しみ泣いていた。
だけど俺は安心した。
これでもう楽になれる
苦しさからの解放される
そう思った。
結局、絶望してたのは変わりないな。
だけど絶望をぶち壊した奴がいた。
レグルスだ。
あいつだけは諦めなかった。
あいつは希望を見せてくれた。
俺達は犠牲になって若い奴らに未来を託す
それが希望だった。
ちっぽけな希望だ。
可能性なんてないに等しい
だけどそれはあまりに眩しくて、
だから俺達は最後の希望にすがった。
あの時の戦いで死ぬ、そう決めた。
だけど死に様ぐらいは選びたい。
だからレグルスの盾になって死ぬことにした。
あの時・・・
俺はあいつを庇い、降り注ぐ炎に全身を焼かれた。
とんでもなく熱くて、嫌になるほど痛かった。
これで楽になれると思いたかった。
だけど駄目だった・・・
俺は死にたくなかった。
死に掛けた時に思い知らされた。
俺の気持ちは全部嘘だった。
死にたかった?
違う、生きたかった。
希望を信じていた。
違う、本当は無理だと思っていた。
ぜんぶまやかし、何も良いことなんてない。
だけどそれだと情けなさすぎて
自分を騙し続けていた。
体を焼かれながら絶望した。
熱い、痛い、苦しい
悲しい、怖い、ヤダ、ヤダ、ヤダ
死にたくない、生きたい、
誰か助けて下さい・・・
助けなんかあるわけない。
だからさ、もう死のうって・・・・諦めた。
「死ぬな!戻って来い!」
・・・声が聞こえた、優しい声だった。
光が・・・・見えた。
とても綺麗で・・・暖かい光だ。
痛みが少しずつ消えた。
熱さも寒さもなくなった。
まだ死んでない、まだ生きてるって分かった。
目を開けたら、目の前にあの人がいて、
「良かった・・・本当に良かった」
ってさ、泣きながら俺を抱きしめてくれた。
俺は獣人なんて下劣な存在だ。
姿だって血だらけ泥だらけの酷い有様だった。
そんなこれを、あの人は優しく抱きしめてくれた。
俺は初めての温もりを知った。
涙が止まらなかった。
胸がとんでもなく熱かった。
生きてて良かった、って初めて思った。
なあレグルス、聞こえるか?
俺さ、生きてるよ。
やっぱりさ、お前の言った通りだ。
希望はさ、本当にあったんだ。
・・・なのに馬鹿野郎が!
あんたは先に死にやがって!
俺はやっと笑えたんだ。
子供達もさ、幸せそうに遊んでるんだよ。
なあ羨ましいだろ?
あんたには・・・
あんたには、今の俺達を見て欲しかった・・・
なあレグルス
あんたは先にくたばりやがった。
だからこれは罰だ、聞け、
頼むから聞いてくれ。
頼まれたんだ。
生きてくれ、って頼まれんだ。
なあ、あの人に頼まれたんだよ!
命を救ってくれたんだ!
初めて温もりをくれたんだ!
子供達に笑顔をくれたんだ!
だから俺は、あの人と誓いを交わしたんだ!
俺は誓いを果たす。
そうしたいんだ!
しなきゃならないんだ!
なのに!なのに!なのにだ!
あの女が怖いんだよ!
ブルっちまって動けねえ!
くそったれが!
レグルス!なあ頼む!
俺に力をくれ!
あんたの勇気を分けてくれ!
立ちたい!
戦いたい!
守りたい!
頼む!
諦めなかったあんたの力を、勇気を!
俺達に分けてくれ!
頼む!・・・頼む
・
「ぐっ・・」
彼は涙を流して歯を食いしばる。
問おう、絶対の恐怖に打ち克つものとは何か?
それは誰かを想う純粋な思い
それしかない。
彼は純粋に仲間達の無事を願い、
他界を果たしたいと思った。
それはどこまでも純粋な願いだ。
胸の奥から熱い思いが湧き出る。
打ち克とう、と。
震える身体に獅子の鼓動が宿る。
凍える御魂は猛き脈動に熱を帯びる。
怯えてた瞳に光が宿る。
それが勇気
怒りでも憎悪でもない
紛れもない勇気だ。
猛く、勇く、熱くあれば、
いかな恐怖なれど、ただの塵芥と霧散しよう。
凍える刻は、瞬く間に崩れ去る。
恐怖など真の勇気を前には存在しない。
そして勇者達が立ち上がる。
「大隊長を守れ!」
彼は咆哮した、天へと。
突き抜ける勇き想い
それは、集う者達もまた同じに抱く。
熱き想いが、猛き胸をたぎらせ、強き瞳を輝かす。
数多の刃が降り注がれる。
それでも彼等は駆けて行く。
ありったけの勇気と、熱き希望を胸に。
幾重もの雄叫びが響く。
そして獣人達の戦いが始まった。
・
戦う彼等はその手に絶対を握っていた。
それは大切な人から渡された大楯だった。
それは防御魔法術式を施された大楯という。
効果は一度しか見ていないが、あの人が渡したのだからと、彼等は絶対の信頼を置いていた。
彼等は、大楯の取っ手を力一杯に握り締め、動けないディーファへと駆けつけた。
「基準、大隊長!」
猿の獣人が号令し、それに続いて残ると獣人達が一斉に獣人達が四方からディーファを取り囲む。
「全方位隊形、取れ!」
猿の獣人が号令し、まずは彼が大楯を頭上へと構えた。
続き、残る4名の獣人達が大楯に体を隠す様に構える。
それから彼等はディーファを中心に密集すると、それぞれの盾を重ね合わせ、隙間が消える。
彼等は強固な箱となった。
「防御!」
「「「「おう!」」」
獣人達が力の限り吠えた。
直後、万を超える黒い刃が、彼等へと降り注いだ。
・
鼓膜が砕けそうな程の轟音が鳴り響く。
衝撃に雪と土煙とが撒き散らされ、何もかもが破砕されていた。
そんな中、彼等だけは生きていた。
その手の大盾を精一杯握りしめ、突き刺す狂刃の雨に耐え続けていた。
黒い刃には強大な魔力が込められている。
並みの盾で受けたなら、容易く貫かれ死んでいる。
しかし彼等の大楯は守り抜く。
欠けず、傷つかず、貫かれずに、
ただひたすらに守り続ける。
永劫とも感じられた時間
実際は1セクタに満たない短い時を経て、ようやく黒刃の雨が止んだ。
空を覆う黒球は消え、晴れた夜空に薄れゆく星が姿を見せている。
しかし大地は真逆だった。
辺りは白い水蒸気と土煙とで覆われ何も見えない。
「たかが獣と思っていた。彼等は何故動けた・・・」
煙の中から沈むライファの声が鳴った。
直後、彼女を中心に突風が吹き荒れ、全ての煙を一瞬で薙ぎ払った。
「・・・え?」
視界が晴れた先の光景を見るなり、ライファは我が目を疑った。
そこには大盾を構える無傷の獣人達の姿があった。
まるで先ほどのディーファとの戦いを、立場を変えて再現した様な状況だった。
「有り得ない・・・でも事実、受け入れましょう」
ライファは薄く笑みを浮かべた。
「展開!」
猿の獣人の号令が高々と響く。
ガチャリ、と盾同士をぶつける音が鳴ると同時に、箱型の隊形が一斉に解き放たれる。
「横一線隊形、取れ!」
間髪入れない号令で、獣人達はディーファの前へと走り出すと、ライファと対峙し横一列へと並び立つ。
そして並び終えた彼等は、大盾の下縁を、ドンッ、と一斉に地面へと叩き付けた。
「誓いを果たせ!」
猿の獣人が叫んだ。
「我等の誇りに掛けて!」
もう一度叫んだ。
「「この誓い、絶対に守りきる!」」
全員が唱和すると、彼等は、ドンドンドン、と右拳で大楯の裏面を叩き始めた。
心身を束縛した冷たい恐怖は、今やどこにもない。
あるのは熱い決意、それだけだった。
「おふざけ・・ではないわね」
獣人達を見るライファが、優しい瞳で笑っていた。
獣人達の拳打ちが鳴りやみ、猿の獣人が大きく息を吸い込む。
「阻止隊形、取れ!」
獣人達は、一糸乱れぬ動きで片膝をつく。
そして彼等は、取っ手を握る両腕に渾身の力を込め、上半身を大盾へと密着させ、全身を預けた。
「では守り抜きなさい。最後まで立っていられたら認めましょう、あなたたちの勇気を」
ライファが鋭い目つきで睨みつけた。
それは1番初めに恐怖を与えた視線と同じものだった。
視線で本能的な恐怖を与えて縛り付ける。それで彼等は動けなくなった。
それでも彼等は動いた。それは奇跡に等しい。
もう一度動けたのら、どうだろうか。
それは奇跡でない。何者にも頼らぬ彼等自身の力だ。
絶望的な恐怖を受け、それでも彼等は屈しない。
熱く、勇くある彼等の前に、恐怖など意味はない。
勇気は何者にも縛られない。
「何で今さら・・・」
ライファが泣きそうな顔で笑った。
「失望した、していたのに、今更こんなものを見せつける」
笑いながらライファは何度も首を振った。
「認めましょう、讃えましょう。あなた達の勇気を。そして示しなさい、その思いを」
ライファが右手を天にかざした。
すると彼女の頭上に、人程の大きさがあろう、巨大な5つの火球が現れた。
「生き抜きなさい勇者達よ」
怒声と共に火球が撃ち出され、凄まじい速度で獣人達の大楯へと衝突した。
彼等の大盾には、術式を受け流す空間歪曲術式が組み込まれているため、受けた術式そのものは受け流せる。
しかしその際に生じる衝撃に対しては、どうしても物理的な限界が生じる。
撃ち込まれた火球の衝撃は、盾の許容限界を超えていた。
術式の作用で威力は弱められてはいたが、それでも余波は相当なものになる。
その力は、人間や魔力強化体を遥かに凌ぐ膂力を持つ、獣人達でさえも抗いきれず・・・
彼等は弾き飛ばされ、軽々と宙を舞った。
獣人達が勢いよく弾かれ、全身をくるくると回転させ、空高くを舞い飛ぶ。
やがて空から雪原へと叩き付けられるが、勢いは収まらず、そのまま地面を転がり続けた。
ようやく回転が止まり、獣人達が雪原に横たわる。
もはや衣類はズタズタに引き裂かれ、全身が負傷し血と泥に汚れていた。
ただの一撃、たったそれだけで受けた被害はあまりに大きい。
しかしそれでも、彼等は大切な大盾を手放してはいない。
「立て!立つんだ!」
猿の獣人がうめき声を上げ、膝を震わせ立ち上がった。
「約束を守るんだ!」
続き女性の獣人も立ち上がり、震え声で叫んだ。
「絶対に死ぬな!」
五つの咆哮が重なり合り、全員が立ち上がる。
そして彼等は、強い決意の視線と共に、再び大楯を構えた。
「そう・・・それがあなた達の思い」
うつむくライファが手を降ろし、再び火球が撃ち出された。
火球は獣人達へと襲い掛かり、いとも容易く弾き飛ばした。
再び吹き飛ばされ、次々と雪原を転がり倒れる獣人達
しかし、
「あの人のために!」
「誓いのために!」
「くたばってたまるもんですか!」
「殺されても死ぬかよ!」
彼等は互いを鼓舞し、再び立ち上がった。
「あの人?それがあなた達の支えなのね。羨ましい」
それは泣き声だった。
そして三度の火球が放たれ、立ち上がる彼等を容赦なく吹き飛ばす。
衝撃で腕が折れられた者がいた。
ある者は、枯れ木に叩き付けられた。
片目からおびただしい血を流す者がいる。
岩にぶつかり、血反吐を吐く者さえもいた。
それでも、彼等は三度立ち上がり、そして吹き飛ばされる。
彼等が大地に横たわる。しかしそこに、くじける者はいない。
誰もが立ち上がり、そこに火球が襲い掛かる。
まだ盾を構えない者に火球が迫る。
その時、
「危ねえ!」
誰かが間に割って入り、代わりに吹き飛ばされた。
腕を折られた者は、前歯で盾の取っ手を噛んで構える。
そして火球に吹き飛ばされ、その衝撃で前歯を全て砕き折られた。
口から流れる大量の鮮血、
それでも、
「あははは!いひぇる!まふぁいひぇる!」
彼は笑いながら立ち上がった。
互いを支え合い、重ねる盾で火球を受けた者達がいた。
彼と彼女は、共に並んで吹き飛ばされた。
隣で倒れる彼女に、立ち上がろうとする彼が肩を貸す。
「いけるか?」
「当然・・・でしょ」
彼等は共に支え合い、膝を震わせ立ち上がった。
彼等は何度も立ち上がる。
しかしその度に幾度も、幾度も、幾度も、幾多も
ゴミくずのように吹き飛ばされ、
しかし、その度に立ち上がる。
そう、その心は決して折れはしない。
「もういい!もう立つな!私なら大丈夫だ!だからもう立つな!」
あまりの凄惨な光景に、ディーファは涙を流し叫んだ。
しかし彼等は止まらない。
彼女を守るのは彼人との誓いのため、
だからこそ、彼等は止まらない。
その理由がない。
「まだよ、まだ終わってない。立ちなさい、あなた達は勇者なのだから。思いはまだ届いていない」
もやは怒りを通り越したのか、ライファは立ち上がる獣人達を滑稽と笑い、何度も火球を撃ち続ける。
しかしそれでも彼等は折れず、立ち上がり続けた。
それから・・・
一体、どれ程の時間が経ったのだろう。
一体、どれ程獣人達は吹き飛ばされ、その度に立ち続けたのだろう・・・
無限とも思えた繰り返しは、しかし獣人達が力尽きればそこで終えよう。
始めに、両手両足を折られた獣人が立ち上がれなくなった。
次に、それを庇い続けた獣人が力尽きた。
それから、おびただしい出血をしていた者が動けなくなり、
猿の獣人が、大地に頭を叩きつけられ意識を失った。
そして・・・とうとう最後の獣人も力尽きた。
もう誰も動けない。
しかしまだ誰も死んではいない。
そう、まだ誓いは破られていない。
だから・・・
だからこそ、彼等は大盾を握り続ける。
その大盾さえも、所々が欠け、大きく歪みひしゃげ、もはや原型など、見る影もない。
しかし彼等は諦めず、立ち上がろうとする。
その様子を、いつしか攻撃は止めたライファが、静かに眺めていた。
その瞳からは涙が落ちていた。
・
夜明け間近の薄明るい空の下、静寂が満ちていた。
「・・・私は何をしていたのかしら」
誰も動けない中、ライファが白い吐息を漏らした。
「少しだけ・・・ほんの少しだけ心が動かされました。これまでのあなた達への侮辱を謝罪します」
そこには嘲りも偽りもない。
それはとても静かで、そして厳かな声だった。
「勇気ある者達よ、あなた達の心は、この星を滅ぼす下劣な人間よりも、遥かに高潔なもの。敬意に値します」
ライファは穏やかな声で告げると、右の手の平を天にかざす。
すると、先程とは比較にならない程巨大な火球が頭上に出現した。
もう獣人達は動けず、ディーファもまた動けない。
このままでは、全てが終わるのだろう。
「気高き魂を持つ者達よ、私ライファから貴方達へ死を与えましょう。これは断罪としてではなく、誇りある戦いを見せた勇者達への手向けです。
もし貴方達の魂が彷徨い苦しむことがあれば、赤髪のラーナを呼び、私の名を告げなさい。
彼女の腕が、貴方達を安らぎへと誘うでしょう」
僅かな間、ライファの瞳に迷いが生まれ、そして消えた。
「今日この日を私は忘れない。永遠に悔いましょう。さようなら」
ライファが天にかざした手を振り下ろそうとする。
「ちっ!」
気合いと共に銀のは刃が解き放たれた。
放ったのはアレフだった。
彼はライファの前に忽然とその姿を現すと、神速で居合切りを放っていた。
その顔は憤怒で、瞳からは涙が零れ落ちていた。
・
時が遥か流れた遠い未来まで、
この刻を、この光景を彼等は紡ぎ続ける。
大地が白から銀へと変わり、いつしか青へと帰ろうとも、彼等は語り継いだ。
『かの時、彼人は誓いを果たしたもう』
そう、いつまでも・・・
キャラクターの心情に差異があったため、大幅に書き換えました。ご了承下さい。




