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白き星に祈りを込めて  作者: ななしとせ
第7章 スコルプ異形体討伐作戦
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第56話 月の約束、彼人は戻りたもう

書く時間がない・・・

 かの時、彼人は誓いを果たしたもう。

 されば、我らも誓いを果たそう。


 其は次の約束、未来へと紡ぎゆかん。


 かの日、我らは風追人を拒み、

 傷負人とし空へと追放した。


 されど優しき彼人は我らを許し、

 そして銀の月への約束したもう

 いつか我らの元に戻らん、と。


 友よ、

 同胞(はらから)

 銀の大地が(ともがら)


 彼人の思いを忘れるな、

 彼人の涙を無駄にするな。

 それこそが我らが贖罪だ。


 皆が御魂に、

 かの尊き誓いを刻み、

 そして紡ぎ伝えよ


 永遠(とわ)


 『レグルス建国記第二章「銀砂の集い」より抜粋』


 ・


 救出に駆け付けたアレフ達だが、数の上では不利だった、

 アレフ達は負傷して戦えないシェイド達を含めない数が4、対してアメリア製魔力強化体達の数は10と、倍以上の数の不利があった。


 しかし一見不利に見えた状況は、わずか半瞬で一変した。

 アレフが敵と対峙した瞬間、三つの命が消えていたからだ。


「錆落とし程度にはなるかと期待したが、これでは肩慣らしにもならん

 足元に転がる真っ二つに分断した敵達の死体を見下ろしながら、アレフはつまなさそうに呟いていた。


 奇襲認識できた者はいなかった。

 気が付けば瞬間移動したアレフの側で、敵達の身体が真ん中から割れて崩れていた。

 それだけだろう。


 実際のところは、瞬時に間合いを詰めたアレフが、胴体への横流し、刃を返しての袈裟斬り、そこから踏み込んでの逆袈裟斬りの三連撃、これが瞬きよりも早く打ち込まれていた。


 誰も反応できず、そして身体を分断された三つの命が消えた。

 それが僅か半瞬の間に起きた出来事だった。


「これからお前達を殺す。抗え、人として生きた証を見せてみろ」

 アレフは白刃を正眼に構え、冷たく告げた。

 対峙した者達は動けない、まるで蛇で睨まれた蛙の様に。動けば死ぬ、生物としての本能が告げていた。


「つまらんな」

 アレフが切先を下げ構えを解き、わざと隙を見せた。

 その瞬間、敵達は弾けるように後方へと散開した。

「全力で来い、せめて錆落としにはなってみせろ」

 散開しながらも圧縮詠唱で始める敵達の姿を見て、アレフは薄暗い微笑みを浮かべた。


 アレフの後方以外に散った敵達の詠唱が終わり、三方から一斉に魔力弾を撃ち込まれた。

 火炎、雷撃、風属性等と、数多の魔力弾が、上下左右からに迫りくる。

 どれもが一発も食らえば死、良くても致命傷になるだろう。

 とても防げる質量ではなく、普通なら回避する他ない。

 それなのに、アレフはその場から動かなかった。


 微動だにせず静かに息を吐く。

 次の瞬間、幾重もの光の弧が描かれて、同時に全ての魔力弾が二つに割れ消滅した。


 一瞬静寂が支配した。

 あまりに現実離れした光景に、何が起きたか理解できなかったからだ。

 敵も味方も関係なく、ただ目を見開くしかなかった。


 魔力弾を斬り裂き消滅させることは、理論上は一応可能だ。

 魔力弾の核を正確な角度で斬りつければ良いのだが、それには高度な技術が求められ、実質不可能に近い。

 もし失敗すれば爆発した魔力弾の爆風を喰らうか、直撃を食らう。

 挑むにはあまりに危険が大きすぎる。

 それはあまりに馬鹿げた行為で、そしてあり得ない結果だった。


「全力を出せ。この程度では腐れ天使どもの方がまだマシだ」

 その失望とも怒りともつかぬ声と共に、アレフがゆっくりと歩き出した。

 再び構えを解き、隙を晒した状態だった、


 彼等は死を悟っていた。

 既にこの場は殺し合いではなく、ただ一方的な屠殺場と知っていた。

 それでも抗うことをやめるわけにはいかず、無闇に魔力弾を撃ち続けるしかなかった。


 ・


 シェイドは目の前の光景を眺めながら、薄れゆく意識を懸命に保とうとしていた。

 大量の出血でよく見えない瞳には、かすかに魔力弾を落とし続けるアレフが映っている。


 たった一人が、たった一振りの刃が、数多の魔力弾を次々と切り裂いてゆく。

 全て、全てを、逃すことなく全てを。

 それはまるで物語のような一幕だった。


 子供の時に聞いた英雄が剣で悪者を倒していく

 美しい刃の旋律が次々と困難を切り開く

 それは荒唐無稽な御伽噺

 しかしそれはいま目の前に現実として存在する。


「あれは・・・英雄だ」

 そう呟くジェイドの瞳から涙が伝い落ちていた。


「しゃべらないで!今大事なところですから!」

 シェイドの耳元に怒鳴り声が響いた。

 僅かに視線をずらすと、そこには懸命に治癒魔法術式を施すイリスがいた。

 彼女は泣きながら怒っていた。


「すまなかっ」

「黙って!」

 イリスはシェイドの言葉を怒声で断ち切ると、黙々と治療を続けた。

 彼女の両手には白い治癒の光が宿り、致命傷だった傷を少しずつだが塞いでゆく。

 辛うじて死は免れた、とシェイドは安堵し、同時に不安を覚えた。


「クリスは?俺はいいからクリスを!」

 まだ治療はろくに進んでいないだろう。しかし自分よりもクリスが大事だった。

 彼女にこそ助かって欲しい。

 そう思った瞬間、頬に強烈な痛みが走った。

 イリスの強烈な右拳だった。


「え?」

「クリスさんなら大丈夫です。順番を決めるのは私です。次しゃべったら殴りますからね!」

「いやもう殴っ、がっ」

 話す途中で今度は左拳がぶつけられた。

「黙って下さいね?」

 にっこりと地獄の笑みを浮かべるイリスを前に沈黙したシェイドはコクコクと頷き続けた。


 こんな上司への態度など、一昔前の彼女には考えられなかった。

 しかし今の彼女は正しい。治療者の決める順位は絶対で、上司でも横やりは許されない。

 成長したんだな、とシェイドは心の中で呟きつつも、強すぎる女性陣が増えたことに一抹の不安を覚えた。


「まだ途中ですが、クリスさんの治療に移ります。まだ最低限の止血しかしてないので、絶対に動かないで下さいね!絶対ですよ!」

 収まらないイリスの剣幕を前に、完全に気押されたシェイドは頷くしかない。

「だから動くな!」

「かっ!」

 しかしあまりにしつこく頷いていたので、結局また軽く殴られたのだった。



 ・


 敵の魔力強化体達の3名を瞬く間に屠り、残りは7名だった。

 戦いといえば聞こえは良いのだが、実際は既に勝負は決まっているに等しい状況だった。


 たった1人の化け物(アレフ)が戦場を支配し、その他敵はただ排除を待つ存在でしかない。

 勝敗など始めからない。化け物が現れた時点で、敵対者達の運命は死だけだった。


 それでも哀れな獲物達は争いを捨てきれない。抵抗を止めれば即座に殺されるのだから、至極当然だろう。

 必死の思考の末、彼等は左右そして中央と分かれた。

 中央の3名が一方で化け物(アレフ)を引き付け、左右に分かれた1名ずつで怪我人達を狙うことした。

 仲間を狙う事で化け物の隙を少しでも作りたいのだろう。


 しかし左右に分かれた敵に対し、真っ先に反応したのが獣人達だった。

 彼等はアレフからシェイド達の護衛を命じられていた。

「来るぞ!あたしは右、レンは左、絶対に通すなよ」

「うっす!」

 即座に獣人のキテラが指示し、もう1名の獣人レンと同時に素早く動き出した。


 敵は素早く圧縮詠唱を行い、頭上に火球の魔法術式を展開する。

 それと同時に大楯を構えた獣人達が、怪我人達を守るように前へと飛び出た。


 詠唱が終わり巨大な火球が動けないシェイド達へと放たれる。

「盾正面!阻止だ、怯むな!」

「あいあい!」

 全身を守る様に大楯を構えた獣人達が立ち止まり、その場で全身に力を込める。


 その直後、火球がそれぞれの盾に直撃した。

 爆風と爆発、そして轟音が辺りに響き渡った。


 静寂が支配した。

 魔力を持たない獣人に火球の直撃に耐える術はない。

 敵は相手の死を確信した。


「レン!生きてるか!」

「姐さん、こんなの屁でもないさー!」

「姐さん言うな!」

 煙で視界が晴れない爆心地から、獣人達の声が響きます渡った。

 薄れゆく煙の中には、無傷の獣人達が立っていた。


「レンお返しだよ、丁重にしてやんな」

「あいあい、慌てず急いで乱暴にね!」

 たじろぐ敵達の姿を見て、キテラ達がニヤリと笑った。

「突貫!」

「ウラァ!」

 気合の声と共にキテラたちが飛び出した。

 獣の力を秘めた獣人の凄まじく速く、そして猛々しい。

 それが大楯という鉄塊を凶器に突撃した。


 先にぶつかったの巨躯のレン、彼は狼の獣人だった。

 人を超えた狼の怪力が巨躯に合わせ、これを真正面から大盾もろともに敵に叩きつけた。


 それは圧倒的な暴力だった。単純極まりないが、それだけに防ぐのは難しい。

 レンの巨体ごと大楯をぶつけられた敵は、いとも容易く吹っ飛ばされていた。


 敵は転がり、転がり、そして転がり続けた。

 何度も跳ねながら床を転がり続けて、ようやく仰向けの体勢で止まる。

 まだ辛うじて意識がある敵が僅かに痙攣している。おそらく立ち上がろうと必死にもがいているのだろう。



「どっせい!」

 気合い共にレンが跳躍し、そして全体重を乗せたかかとを敵の鳩尾へと叩きつけた。

 ゲフッ、と敵が息を漏らす。

「うらぁ!」

 間髪入れずにレンが前爪が、動けない獲物の喉を斬り裂いた。



 レンに僅かに遅れ、キテラもまた敵に突っ込んでいた。

 彼女は小柄な猫の獣人で、レンに比べて力がかなり劣る。

 そのため彼女の体当たりでは、レンの様に敵を吹っ飛ばすことは出来なかった。

 とは言え彼女もまた獣人、そのキ膂力は魔力強化体の平均を軽く超える。

 その力を全開で叩き付けられれば、吹っ飛びしなくても、体勢は大きく崩れる。

 体勢を直す暇も与えず、キテラは何度も体当たりで大楯をぶつけ続ける。

 途中で敵が何かの魔法を撃つが、大楯がすべて弾き飛ばし、キテラの進撃を妨げない。

 ぶつかり、ぶつかり、何度もぶつかり、ついには後ろの壁に背中を叩きつける。 

 グフッ、と敵が予期せぬ衝撃に動揺したところに、正面からぶつかった。

 これで敵は壁とと大楯とで挟まれ、完全に身動きが取れなくなる。

「これで!」

 気合いの声を上げ、キテラが腰から抜いた短剣で敵の心臓ごとを貫いた。


 ワオーーーーーン!

 シャァーーーーー!


 レン、そして僅かな遅れキテラの勝利に雄叫びが響き渡った。


 これが・・・

 後の魔族と呼ばれる者達への、獣人達の優位が決定した瞬間だった。


 ・


 アレフの相手は5名だった。

 彼等が出来ることは限られていた、

 近接戦闘では確実に瞬殺をされる。かと言って遠距離戦でも攻撃を悉く落とされる。

 勝ち目などないが、逃げる事も出来ない。

 結局、直ぐには殺されない遠距離からチクチクと牽制するしかない。

 それは終わりの見えない絶望だった。


 少しずつでも近づく化け物(アレフ)に、ガムシャラに様々な魔法弾を撃ち込み続ける。当然意味がない。

 途中で真っ二つに割れた魔法弾が消滅し、それで斬られたとようやく気が付ける。

 分かるのは一瞬の刃の光、斬撃の軌跡などまるで見えない。


 一歩、また一歩とソレが近づいてしまう。


 彼等には、あとどれくらいでソレの間合いに入ってしまうか分からない。分かるのは、入った瞬間、確実に斬り殺されることだけだ。

 その思いがよぎった時、彼等は震えていた。


 アメリア製の魔力強化体は、ディーファ達サイカの魔力強化体と事なり、始めから感情を持たないように設計された。本来、彼等には喜怒哀楽はない。

 得体の知れない感情、つまり恐怖を感じていた。

 設計など関係ない。生物としての本能が、生来あるべき感情を引き摺り出す。

 恐怖の化身が近づくごとに、彼等は顔面を徐々に蒼白へと変えていた。


 それでも彼等は抵抗した。それは無謀なのだろうが、見下す資格のある者などこの世に数少ない。

 2名が『暴風』の魔法術式を発動させた。

 生存本能が編み出した、咄嗟の足止め策だった。


 凄まじい爆風が化け物の足を止めた。効果は確実にあった。感情がないはずの彼等が、僅かな希望に歓喜の笑みを浮かべていた。

「悪くない」

 ソレは口端を吊り上げ笑っていた。


 足止めされた化け物に、残ると3名がここぞとばかりに魔法弾が撃ち込み続けた。

 しかし結果はこれまでと変わらない。冷静沈着に白刃を振るうソレが、淡々と魔法弾を斬り落とし続ける。


 意味がないと諦めたのか、魔法弾の雨が止んだ。

 1名が『暴風』の魔法術式に加わり、更に激しい風を浴びせる。

 後退することを期待したのだろうが、しかしソレはその場から動かない。

「それが限界か」

 ただ眉が訝し気に上げ、そしてつまらさそうにため足を吐いていた。


 残る2名の敵達が通常詠唱を始めた。

 通常詠唱は圧縮詠唱よりも詠唱が長いが、威力は格段に増大する。

 暴風で接近を時間を稼げたのだから、その間に強力な術式で倒すつもりだった。

「可なり、そもむべなるかな」

 目の前で膨れ上がる強力な魔力を前に、ソレは刃を鞘へと納める。

「いざや応えん」

 アレフは納めた刀の柄を握り、中腰へと構えた。



 彼等にはとっては永劫と思える長い詠唱が終わり、ようやく頭上に巨大な雷球が出現した。

 これなら何とか出来るかと、彼等は期待した。

 雷なら刃で斬れない。斬ったところで刃はすり抜け、強力な電流で焼き付かせるだろう。

 この規模が直撃すれば、身体中の水分が一瞬で蒸発し、消し炭だけが残るだろう。

 彼等が展開した雷球は、それだけの魔力が込められていた。


 普通なら危機的な状況、それなのに彼は居合の構えをしたまま動かない。

「命を賭す者達に命を持って報いよう。今は仇も恨みもなく、ただ一人の咎人として」

 彼は高々と告げ、

「魂の解放」

 その言霊が解放された時、世界が変わった。


 ・


 かつてある神がその御霊を模して人間の魂を作り出した。

 しかしその魂はあまりに脆く、瞬く間に崩れ去った。

 試行錯誤の末、神は模造の魂に固い殻を被せ、こうして人間な魂が作られたのだった。


 ・・・では魂の殻を破ったのなら、人は僅かでも神に足り得るのだろうか。

 消えた神は応えず、ただ人だけが知る。


 人は模造の神へとなりえない、

 人は人なのだと。


 ・


 模造の魂へと成り下がり、アレフは狂おしいまでの魔力を解放した。

 吹き荒ぶ魔力の渦に、敵の術式の暴風が相殺され、そして圧倒される。


 それはあまりに暴力的で、猛々しく、そしておぞましいほどに冷たい。

 敵も味方もない。勝利した獣人はもとより、意識朦朧としていたシェイドでさえも、その光景に圧倒され、そして硬直した。


 皆が目を剥いて見る先で、ソレは吹き荒ぶ魔力の中心での構えていた。

「無垢なる刃よ、我が咎を許すな」

 ソレは静かに言の葉を綴る。

 刃を納めた鞘に莫大な魔力が集まり、内から漏れ出る光で赤く輝き出した。

 それは真っ赤に染まる血のような輝きだった。


 同時に、どうにか持ち直した敵達が、完成した巨大な雷球を無我夢中で撃ち放つ。

 それをアレフは静かに見つめる。

「武人達よ、その勇気を心に刻もう」

 迫る雷球を前に握り手に力を込めた。


御華霧(みかぎり!」

 言霊と共に鞘から刃が抜かれ、赤い光刃が解き放たれ、前方の空間を横薙いだ。


 赤い蹂躙だった。抗えるものなどない。神すら斬れるかもしれない。


 巨大な雷球はそよ風のように薙ぎ払われ、一瞬で光の中に消えた。

 光は全てを消してゆく。床も空気も空間も、そして5体の魔力強化体達さえも。

 光の中に飲み込まれ、彼はチリ一つ残さず消滅した。


 光の蹂躙が去り、残されたのは壁の残骸と朽ちた床、それだけだった。

「御魂よ、どうか安らかに」

 息を荒げるアレフが刃を納め、静かな祈りを捧げる。


 静かだった。

 勝利の歓声はなく、ただ重苦しい沈黙だけが辺りに満ちる。


 小さな吐息、それからアレフは見えない空を見上げる。

 その瞳に哀しみが満ちていることには、誰も気付かない。

 あるの冷たい沈黙だけだった。

次は16日更新予定です。

予定は未定です・・・更新出来たらいいなあ・・・

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