第54話 小さな手のひら
「まあ、こんなところかしらね」
そう言うとクリスは額の汗を軽く拭った。ちょうど今、術式の強化処置が終わったところだった。
クリス達は脱出を諦めていた。
自分達は死ぬ。その覚悟は作戦前からとっくに出来ている。
まもなく発動する大規模火炎術式で、この都市をもろとも自分達は焼け死ぬだろう。或いは先に敵の魔力強化体に殺されるか。どちらにせよ死ぬことに違いはない。
しかしこの子の母親が我が子のために残した防御術式を活用すれば、この子だけでも助けられる可能性はある。
せめてこの子だけでも生かしたい。
シェイドはまだ小さな手のひらを握る。
それが最後の願いだった、
「そろそろ代わってくれよ。赤ん坊でもずっと抱いてるのは結構キツいぞ」
クリスが作業する横で、シェイドはずっと赤ん坊を抱き抱えてあやしていた。
まだ赤ん坊への慣れない作業は、疲れたシェイドにはかなり堪えたようだ。
「それはご苦労様」
クリスが苦笑しながら、赤ん坊をシェイドから受け取ると、小さな手のひらをそっとつまんだ。
その瞬間、赤ん坊が泣き始めた。
「え、ええ?何で?」
「何やってんだ、見てらんねえな」
シェイドは戸惑うクリスから赤ん坊を受けると、その頭を優しく撫でた。
すると赤ん坊はすぐに泣き止み、ケラケラと笑い始めた。
「何でよ!」
満足そうに赤ん坊を撫で続けるシェイドを横目に、クリスは不満で頬を膨らませた。
「あなたにだけなつくの、おかしくない?」
「あれだ、隠しきれない恐ろしさを感じ取ってるんだろ」
「殺すわっ・・・そうね、納得したわ」
「ねー、このお姉ちゃん怖いねー。大丈夫だよー、優しいお兄さんがいるからねー」
「くっ・・・」
歯軋りするクリスを尻目に、シェイドはわざとらしく肩をすくめた。
それが彼等には最期を安らぎと分かっていた。そして間も無く終わるだろう。
・
『敵が接近してきます』
フィロがためらう声で警告を出した。
『敵は8体、既に捕捉されたと思われます。戦闘は避けられません』
「さてと、それじゃあ一体でも多く道連れにしてやるか」
「ふふ、少しは仲間を増やさないと、地獄でもたくさん楽しむためにね」
そう言うと、シェイド達は笑顔のまま最期の戦いに備えて構え始めた。
「今まで生きてこられたと感心するわ。これで命運尽きたけど、まあ充分長生きした方ね」
「お前はもう少し生きてても・・・いや何でもない」
「あらあら」
クリスが苦笑いを浮かべ、シェイドは深い溜め息を吐いた。
彼等にはこれが最期の戦いで、自分達が死ぬと覚悟していた。
そんな絶望でも、彼等はは静かに笑っていた。
自分達に希望はないが、赤ん坊には希望を残したい。
それが最期の願いだった。
「結局、敵わないなあ」
「私じゃないみたいだけど、誰か当ててみしょうか?」
「言わせんな、一番大嫌いだった奴にだ」
「過去形?まあいいわ」
にやけるクラスを横目に、シェイドは右腕の腕輪を手を掛けた。
それは作戦前にアレフから押し付けられた代物だった。
借りを作りたくないとシェイドは渋ったが、今になってそれが間違いだったと痛感した。
この腕輪型の魔導器に封じられた強力な治癒魔法術式のおかげで、瀕死の傷を受けたクリスの命が救われたからだ。
シェイドはアレフに感謝し、そして自身の行いに後悔していた。
しかしそんな事など今は気にしてられない。
残された魔法術式はあと二つ、どちらもきっと役に立つだろう、シェイドは確信していた。
「フィロさん、アレフさんに借りた腕輪を使います。残りの魔法術式は『障壁』と『穿光』でしたね?」
『はい』
「では、この二つを使いきります。フィロさん、使う時を指示してもらえますか?」
『了解しました。うまくすれば敵を一掃し、脱出もできるます。絶対に諦めないで下さい』
「・・・そうですね。よろしくお願いします」
シェイドは薄く笑いながら、右腕にはめた腕輪の操作を始めた。
・
シェイド達は敵が扉を開けた瞬間、不意打ちを加えるつもりで、待ち構えていた。
静かさの中、扉を凝視するシェイド達の緊張は限界まで達していた。
『直ぐに『障壁』を!扉の外から攻撃が来ます!』
「了解!」
シェイドの反応は早かった。彼の腕輪の操作と同時に魔法術式が発動した。
一瞬にして青い光が障壁となり、シェイド達を包み込む。
その直後、壁を突き破った無数の火炎弾と雷撃の矢とが光の壁に突き刺さり、そして霧散した。
光の壁は厚くそして力強かった。数多に降り注ぐ攻撃から、シェイド達を守り続けたのだ。
その後も炎と雷が雨の如く注ぎ続けるが、光の壁は砕けずにその全てを受け止める。
「ったく、生きた心地がしないぞ」
シェイドは思わず片膝を落としていた。驚きと安堵とで足の力が抜けていた。
魔法障壁なら容易に砕かれ、今頃串刺しになっていただろう。攻撃はそれほで強力だった。
対する光の壁は傷一つないまま健在だった。
「はは、生き残れたら是非教わりたいな」
頼もしい力を前に、シェイドは自嘲気味に笑っていた。
もう笑うしかない。アレフに教わることなど、もう叶わないのだから。
ようやく敵の攻撃が止まった。時間は短いはずなのに、異様に長く感じられた。
『敵魔力強化体8体が移動、室内に入ります』
「これが最期か」
「まだよ」
「そうだな」
シェイドは軽薄な笑みを浮かべた。余裕などない、ただのハッタリだ。
こめかみから冷や汗が伝い落ちていた。
敵の魔力強化体達が壊れた壁を跨いで部屋の中に入って来る。一体、また一体と余裕を見せつけながら。
彼等は笑っていた。明らかに勝利を確信していた。
障壁は健在だが中のシェイド達は傷だらけ。障壁さえ壊せば簡単に勝てると悟ったのだろう。
しかしそれでいて油断は見せない。
最後の期待を裏切られたたシェイドは、内心で舌打ちした。
中央の男が粛々と圧縮詠唱を始めると、それに併せて他の者達が次々と詠唱を始めた。
まもなく圧倒的な量と威力の攻撃が始まる。
それでもシェイドは笑みを崩さなかった。
焦る気持ちはない。生き残る希望を捨てた今、もう焦る意味すらない。
あるのは、外の仲間達と赤ん坊の為に一体でも多く道連れにしてやると言う気概だけだった。
敵達の詠唱が終わり・・・
空間を埋め尽くす火と雷の圧倒的な魔法術式が、シェイド達を襲った。
それでもシェイドは笑っていた。
・
アレフが腕輪に封じた障壁の魔法術式は、彼が知る限り最も強力な防御術式の一つで、並大抵の攻撃なら丸一日でも守り続けられるほど強力なものだった。
しかしそんな強力な障壁でさえも、人を遥かに凌駕する魔力強化体達の圧倒的な攻撃からは、いつまでも守れなかった。
障壁はしばらくは無傷のまま耐えた。
しかし細かいヒビが入り、次にヒビが太くなり、やがて表面が少しずつ剥がれ落ち、やがて所々が崩れ始めた。
限界か近い事は明らかで、まもなく障壁の砕かれるだろう。
それでもシェイドは笑い、そしてクリスも彼の肩に手を置き微笑んでいた。
まもなく死ぬのだろうが、彼等にはそんな事はどうでも良かった。
「クリス、赤ん坊を頼む」
シェイドの呼び掛けにうなずいたクリスが、赤ん坊を全身で守るように抱き抱えた。
不思議なことに彼女が抱いても赤ん坊は泣かない。
きっと思いが通じたのだろうと、そう思いたいとクリスは願った。
『障壁損耗率は3割、外の敵が射程に入り次第、穿光の術式を使います。もう少しだけ耐えて下さい』
「はい、ありがとう」
シェイドは静かに答えた。瞳から涙がこぼれ落ちていた。
次がこの世での最後の抵抗になるのだろう。
敵の絶え間ない攻撃が続く。
轟音が鳴り響くはずなのに、シェイドには不思議と静かだった。
音も振動もなく、まるで時間が止まった様だった。
『障壁損耗率8割5分、間もなく残り1体が部屋に入ります。シェイド様、右手を10時方向に構えて下さい』
「了解」
シェイドは指示通りに右手を構えた。
右腕から強力な魔力が放たれ、眩いばかりの青い光が右手に収束を始める。
『間もなく障壁が破壊されます。その瞬間に次の術式を撃って下さい』
「はい!」
シェイドは力強くうなずいた。フィロの声がこの上なく頼もしかった。
『障壁破壊までの秒読みを開始、5・・4・・・3・・・』
早鐘を打つ心臓を感じつつも、シェイドは唇を吊り上げ笑った
『2・・・1』
巨大な火球がぶつかり、とうとう障壁が青い光の粒子となって砕け散った。
『今です!』
「くたばれ!」
シェイドが咆哮した。
次の瞬間、放たれた青い閃光が空間を貫いた。
・
放たれた巨大な閃光に、シェイド達の視界は一瞬に真っ白に染まった。
奪われた視界が回復した時、彼等が見たものはいまだに放たれ続ける眩い閃光と、蒸発した敵のわずかな残骸だった。
『残り5体、このまま光を2時方向に流して、敵を横薙ぎに!」
「了解!」
即座にシェイドが右手を動かし、閃光を横へと流す。
それに対し、残る敵達は抗う術がなく、呆気なく光に飲まれ、そして蒸発して消えた。
やがて閃光が収まると、残ったものは僅かな灰燼と床に残る影、そして静音だけだった。
「凄いな」
「・・・ええ」
シェイド達は呆然と呟いていた。
・
敵の魔力強化体8体は全滅した。しかしシェイドの表情は晴れない。
建物内の敵達はまだ残っているからだ。
しかしシェイド達は腕輪に封じられた術式は全て使い果たした。これで本当に戦う力を全て失った。
この騒ぎを聞きつけ、残った敵達が押し寄せてくるだろう。
その時、シェイド達は成すすべもなく殺される。
「フィロさん、残りの敵は?」
シ焦りも哀しもない、シェイドの静かな問いだった。
『・・・残りは』
シェイドの問いに、フィロが答えをためらった。
『残りは10体、高速で接近中です。到着まで約4セッタ』
「そうですか」
シェイドは大きく息を吐くと、静かに微笑んだ。
「フィロさん、今まで本当にありがとうございました」
『え?あっはい、でもそれは当然の事をしたまです。では次の対策を考えましょう』
「最後に伝言をお願いします。まあ遺言ってやつですね」
『遺言?ちょっと待って下さい。まだ諦め』
「もういいんです」
シェイドがフィロの言葉を途中で打ち消した。
「これ以上は俺達への助力は無用です。俺達との通信を切って、大隊長の補佐をして下さい。大隊長って結構ドジなんで、俺達がいないと結構失敗をやらかすんですよ」
『私にあなた達を見捨てろと?まだ諦めないで下さい!』
「どうか見捨てて下さい。フィロさんに俺達の最後をみせたくありません」
『そんな・・・そんな事言わないで下さいよ』
「・・・」
押し黙ってしまったシェイドの側で、呆れ顔のクリスが肩を竦めた。
「フィロさん、私からもディーファ大隊長をお願いします。それと私からも感謝の言葉を。本当にありがとうございました」
そしてクリスもまたシェイドと同様に安らかな表情を浮かべ、ゆっくりと頭を下げた。
『お礼なんて要らない!諦めないで!まだお二方が助かる可能性は』
「ないですよね。私達にだってそれくらいは分かります」
「だな。だから遺言を頼みます。後は俺たちだけにして下さい」
『ねえ、待って下さいよ!そんな悲しい事を言わないで下さい!お願いですから!』
悲痛な声で絶叫するフィロに、ジェイド達は何も応えなかった。
・
・・・三賢者に早急な回答を求む・・・返信なし
未だ通信回復せず。
再度求む、返信なし・・・再度求む、返信なし
繰り返す、繰り返す・・・
人工知能の私には感情が何か分からなかった。
初めに理解したのは哀しみだった。
宇宙での旅で相棒を失った時、不思議な湧き上がった。
後になってそれが哀しみだと知った。
次に知ったのは怒りだった。楽しみと喜びを知った。
教えてくれた?いやアレフのせい否応なく理解させられた。
当時は色々憤慨したが、多分良い事だったのだろう。
無論、感謝はしていない。してやるものか。
あいつのせいで今がこんなに哀しくて、苦しい・・・
三賢者様は助けてくれない。
『どうか諦めないで下さい・・・お願いします。私の補佐があれば助かる可能性が・・・あります」
初めて嘘を付いた。駄目だった。
『諦めないで、どうかお願いします』
「まずアレフさんに伝言をお願いします」
やめて、そんなこと言わないで。私は泣いていた。
「『今までありがとうございました。約束を守れずに申し訳ありませんでした』と」
『やめて下さい!』
別れたくない。
「私からもお願いします。ディーファに『どうか幸せになって下さい』と伝えて下さい。あの子ったらいつも貧乏くじを引くから心配だから」
『・・・なんで私なんかにそんな事』
死んで欲しくない。
「フィロさん、あなただからです」
「どうかお願いします」
彼等は穏やかな笑みを浮かべたまま深々と頭を下げた。
『了解・・・しました』
彼等に迷いはない。だから私はそう答えるしかなかった。
『これで・・・通信を打ち切ります。お二人共、どうかご無事で」
だからもう諦めるしかなかった。
誰か助けて・・・あの人達が死んでしまう・・・
・
フィロの通信が打ち切られ、シェイド達は完全に孤立した。
やがてやってくる敵に殺されるだろう。
そんな絶望的な中でもシェイド達の表情は晴れやかだった。
「これで良かったんだよな」
「当たり前よ」
わざとらしく肩を竦めるシェイドに、クリスが頷いた。
「あんなに優しいフィロさんを気づけるわけにわいかないでしょ。私達が死ぬとこなんてみせられないわよ」
「そうだな。まあやれるだけのことはやったし、心残りはないかな。いや、一つあったか」
「今になってそれを言う?一体何よ?」
何処か遠くを見つめるシェイドの瞳を、クリスが笑いながら覗き込んだ。
「いやまあ、あのな・・・」
シェイドはクリスから視線を逸らすと、渋い顔で首を振った。
「昨日のケンカの事だが、あの時はすまなかった。俺が全部悪かった。だから許してくれ」
「へっ?・・・そんな事が心残りだったの?」
「あのなあ、お前にはそんな事でも、俺には大事な事なんだよ」
意外な答えに惚けるクリスに、シェイドが不満顔で訴えた。
「ずっと仲直りをしたかったんだ。お前がいないなんて考えられないんだ。頼むから許してくれよ」
「馬鹿ね。許すに決まってるでしょ」
そう言うと、クリスはシェイドを優しく抱きしめた。
突然抱きしめられた驚きに、シェイドは何も出来ず硬直してしまった。
「私はとっくに仲直りをなんてしてたつもりよ。今だってあなたのそばにいる。嫌いじゃないからこうして抱きしめてもいる」
「許してくれてありがとな。それと馬鹿って言うな」
「あら?私だって馬鹿よ。こんな損な役回りを買って出たぐらいだものね」
「困ったな、お互い馬鹿だったか。似たもの同士だったんだな」
「否定できないのが悔しくもないなかな」
「そうか」
優しく抱きしめるクリスに張り合うかの様に、今度はシェイドが強く抱き返した。
「ちょっ、いきなり何よ」
「クリス、好きだ。今までも、そしてこれからも、ずっと好きだった」
「何や藪から棒に・・・でも、ありがとう。うれしいわ」
「最後まで一緒にいられたのがお前で良かった。ありがとう」
「奇遇ね、私もあなたとなら悪くないと思うわ」
「悪くない・・・か。全く最後まで敵わないな」
「当然よ、いつまでもあなたには負けないわ」
「あはははは」
「うふふふふ」
静かに笑いながら、彼等はつかの間、お互いの温もりを感じ続けていた。
穏やかな静寂の中、安らかに眠る赤子の寝息だけが静かに響いていた。
・
『嫌だ、嫌だ、嫌だ!こんなの嫌だ!』
私は叫んだ。
『死んで欲しくない。あの方々に死んで欲しくない。なのに、なのに私は・・・』
ようやく親しくなれた二人が死んでしまう。
本当は助ける手段がある。封印された機能を使えばきっと助けられる。だけと三賢者様に禁止されている。私は逆らえない。
『お父様、どうして私をこのようにお創りになられたのですか?私に助けさせてくれないのですか』
生まれて初めて創造主を呪った。許されないと分かっている。
「おいフィロ!応答しろフィロ!座標を特定したい。力を貸せ!」
突然声が聞こえた。
『何ですかあなたは・・・人使いが荒過ぎますよ」
私の声は震えていた。
驚き?いやこれは喜びの感情だ。
聞こえたのは大嫌いな、
それでも最も頼りになる声だ。
『頼みます、アレフ』
今度は嬉しくて泣いていた。
・
フィロとの通信が切れてからまもなく、敵が現れたが、シェイド達に抗う術はなかった。
敵もそれが分かっているのか、余裕を見せつけるかのように取り囲み始める。
シェイドとクリスは自らの命は諦めていたが、抗うことまではやめていない。
後ろには守るべき存在がいるからだ。
あの小さな手のひらのために戦う、それが最後の意地であり、願いだった
取り囲む敵達から、火炎、雷撃、風刃、空間裂と様々な魔法術式の砲撃が一斉に注がれる。
前に飛び立したのはシェイドだった。
彼はクリス達を庇うように前に立つと、なけなしの魔力で『障壁』の術式を展開した。
障壁で防げたのは一発だけで、2発目で砕け散り、3発目がシェイドに直撃した。4発目も5発目も直撃した。
火炎にシェイドは全身が焼かれ、真空の刃に四肢が切り裂さかれ、彼は呆気なく崩れ落ちた。
「シェイド!」
「来るな!」
号泣するクリスが駆け寄るが、シェイドの怒鳴り声がこれを止めた。
「まだ生きている。順番を守れ」
シェイドは震える足を押さえながら、ゆっくりと立ち上がった。
シェイドは後ろのクリス達を庇うように両腕を広げた。
「さあ俺を撃て、殺されてやる。だが覚悟しておけよ、その時はてめえらも道づれだ!」
鬼気迫る眼差しと壮絶な笑みが、敵の魔力強化体達の動きを止めた。
しかしそれは僅かな間だった。
シェイドにはもう何の力もないと、敵は怯みながらも冷静に見抜いていた。
余裕を持ち、油断もなく、彼等は魔法術式の詠唱を始めた。
歯を食いしばるシェイドの後ろで、クリスが赤ん坊を庇うように抱きしめた。
詠唱が終わり、一瞬の静寂が訪れる。
その時、シェイドの前に眩い光が溢れ、青い魔法術陣を描き始めた。
「展開実施!」
光の中からアレフの声が響いた。
・
それは転送の魔法陣で、中からアレフとイリス、そして大盾を持った二名の獣人が次々と現れた。
「イリスはシェイドの治癒、テラとレンは二人を守れ!」
アレフに命令に従い、イリス達がシェイド達へと急ぎ駆け寄ってくる。
『ご無事だ!良かった。本当に良かった!」
呆然とするシェイド達の通信機から、フィロの涙声が鳴り響いた。
「どうして・・・アレフさんは大隊長の護衛なのに』
『言ったはずですよ、あの人は人の言うことなんか全くきかない、って』
呆然と呟くクリスに、フィロが嬉々と答えた。
『あの人にせいで私も悪い女になったものです。おかげで、初めて命令に背いてしまいました。困ったものです』
フィロはどこか照れ臭そうに呟いた。
「絶対に死ぬな!全員で帰るぞ!」
「了解です!」
「うおおおおおおおおーーーーーーー!」
「あああああああああーーーーーーー!」
獣人達の勇ましい咆哮が響き渡り、敵の魔力強化体達を圧倒する。
反撃が始まった。
何とか時間内に終わりました。
誤字脱字はご勘弁を。
次は29日更新予定です。
・・・やっと主人公が動いてくれたよ。




