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白き星に祈りを込めて  作者: ななしとせ
第7章 スコルプ異形体討伐作戦
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第51話 抗う者

疲れました・・・

 同じ身体能力、同じ魔力の者同士が戦ったらどうなるのか。

 果たして互角の戦いとなるか?

 答えは否、勝敗とはそう単純なものではない。


 例え互角だろうと、装備の差、経験の量、現場の状況が、更には運が複雑に絡み合い、勝敗の明暗を分ける事になる。

 単純な力の差が勝敗を決めるほど、戦場は甘くない。


 シェイドは互角の魔力を持つ敵、アメリア製魔力強化体達と対峙していた。

 体格もほぼ同じなので、身体能力もそう大差はないだろう。

 しかし相手の数は3体、対するのはシェイドだけ。瀕死のクリスは戦える状態ではない。


 圧倒的に不利な状況だった。

 だからシェイドは賭けに出た、経験量が最も実力差となって現れる戦いをする事に。


 ・


 敵の魔力強化体達を目視した瞬間、シェイドは即断し動いていた。

 僅かな迷いが生死を分ける事を痛い程知っていたからだ。

 シェイドは素早く相手との間合いを詰めると同時に、『肉体強化』の圧縮詠唱をしていた。


 真ん中の敵との間合いに入る直前、完成した『肉体強化』を展開し、四肢の力を限界まで強化する。

 それから右手の短剣を神速で一閃し、最初の獲物の頸動脈を骨ごと切り裂いた。


「ガフッ!」

 空気が漏れるような断末魔を響かせ、首を半ば切断された敵が崩れ落ちた。

 辺りに鮮血が飛び散る中、シェイドは次の獲物に飛び掛かっていた。


 次は女性の魔力強化体だった。

 隊の誰かに少し似ていたが、今の彼にはまったく関係ない。

 呆気に取られた敵の懐に飛び込むと、今度は短剣を心臓へと突き刺した。


 しかしこれは躱された。短剣が刺さる瞬間、敵が咄嗟に上半身をひねったからだ。

 突きを外したシェイドに、今度は敵からの反撃、短剣での右袈裟切りが振り下ろされる。

 これをシェイドは読んでいた。訓練で何度も経験した相対に過ぎず、だから避けるのも容易い。

 そのまま体勢を崩した敵の心臓を貫いていた。


 心臓を貫かれた敵が、口から鮮血を撒き散らして崩れ落ちていく。

 残る敵は一体、数は五分となった。


 戦いの流れはシェイドにある。それでも彼は焦っていた。後ろには瀕死のクリスがいる。

 早く治療をしなければ彼女は死ぬ。

 一刻も早くここから脱出したかった。


 シェイドは心臓に突き刺した短剣を抜こうとした。しかし深く刺しすぎたためか、短剣が抜けない。

 誤算だった。僅か迷い、短剣を諦めるまで、僅かな迷いが生まれた。

 そしてその迷いが、致命的な隙を生んだ。

 短剣から手を離した時には、巨大な火球が目の前に迫っていた。


 最後の敵が発動させた『火炎弾』の魔法術式だった。

「しまった!」

 叫びながらシェイドは自身の迂闊さを呪った。

 火球を避ける余裕などない。

 シェイドは咄嗟に魔力を目の前に収束させ、即席の魔力障壁を展開した。


 いわゆる無詠唱術式だった。即座に展開できるが、その代償に精度も力も格段に落ちてしまう。

 当然、無詠唱のひ弱な障壁では、火球を完全に防ぐことは出来ない。

 火球がぶつかりた瞬間、障壁は容易く粉砕され、余波がシェイドの左肩に直撃した。


「ぐぁっ!」

 シェイドは叫び声と共に顔を歪めた。

 熱すぎる灼熱は神経の許容を超え、熱さを感じない。混乱した神経が極寒の苦痛を与えた。


 それでもシェイドは幸いだった。

 直撃すれば爆散しただろう。それなのに肩を焼かれただけなのだ。

 障壁が威力を削いだため、焼かれた左肩もまだ辛うじて動く。このまま生き残れば完治も可能だろう。


 激痛を堪えジェイドが走り出した。

 最中に、再度火炎弾を撃ち込まれるが、シェイドは紙一重で躱しながら駆け寄っていく。


 僅かに服と髪とが焦がるが微塵も気にしない。

 シェイドは既に抜き終えたも予備の短剣を、間合いに入った敵の喉元へと突き刺した。


「がふっ・・・」

 くぐもった声と共に最後の敵が崩れ落ちる。

 倒れた時には既に絶命していた。


「はあ・・・はあ・・・早くしないと」

 敵の全滅を確認したシェイドは、急いで瀕死のをクリスへと駆け寄った。


 火炎弾の直撃を受けた左肩が激しく痛むが、今はそんな事はどうでも良い。すそ

 まずは胸を貫かれたクリスの救命処置

 それから脱出しよう。


 後はイリスの治癒魔法術式で・・・

 いや、彼女の腕では無理だ。

 気が進まないが・・・あの男に、アレフに頼むしかない。

 でも、それで全てがうまく収まる。

 ・・・そうだ、それで良い。


 そう自分自身に言い聞かせ、焦りに高まる感情を必死に堪えた。

「待たせたな!今止血するからな!頑張れよ、絶対助けるからな!」

 しかしどんなに呼びかけようと何の反応もない。

「おいクリス!返事しろよクリス!」

 しかしクリスの呼吸は止まっていた。


 ・


「噓・・・だろ」

 気が付いた瞬間、シェイドの瞳が大きく見開かれた。

 呼吸もなく、手首にも脈拍がない。心停止状態だった。


 シェイドは顔面を蒼白とさせた。

「急がないと、まだ間に合う、大丈夫だ」

 急いでクリスの胸に手を当て、心肺蘇生を行おうとした。

『やめて下さい。心臓付近の大動脈が損傷してます。その処置は出血を促すだけで逆効果です』

「だったらどうすればいいんだよ!」

 冷静に状況を伝えるフィロに、シェイドは涙を流しながら怒鳴りつけた。完全な八つ当たりだが、焦りを理性が制御できなかった。


『どうか落ち着いて下さい。敵の魔力強化体が多数接近しております。今少しお声を静かに』

「どうでもいい!クリスがいない世界なんてどうでもいい!くそったれが!くそったれが!」

『クリス様を助けられる方法があります。そちらを実行して下さい』

「え?」

 シェイドの瞳が再び大きく見開いた。


『方法はアレフがあなたに押し付けた腕輪です。その魔導器には強力な魔法術式が三つ内蔵されています。それを使って下さい』

「その手があったか!」

 シェイドは左手首の腕輪を凝視した。


 腕輪を借りた時に説明は受けていた。興味がないので殆ど聞き流していたのだが。

 それでも印象深かったのある程度は覚えている。


 腕輪に封じられた三つの強力な魔法術式

 一つ目は攻撃用、敵を薙ぎ払う穿光

 二つ目は防御用、強力な結界を張る多重障壁

 そして三つ目は、


「重傷時の・・・緊急治癒」

『直ぐに使って下さい。まだクリス様が助かる可能性はあります』

 絶望に暮れる中の微かな光に、シェイドの瞳から涙が伝い落ちていた。


『しかしその術式は治癒魔法術式の一つ、扱いは非常に困難です。先に申し上げておきます、成功の確率は低いです。しかし他に手段はありません。やりましょう』

「畜生、治癒魔法術式・・・なんで俺は習っておかなかったんだ」

 シェイドは自身の行いに後悔した。



 習得する機会はあった。

 アレフなら希望すれば教えてくれたはずだ。

 時間はあったし、自分の立場を考えば習得すべきだった。

 しかしその機会を自分で捨てた。理由は彼が、人間が嫌いだったからだ。何も教わりたくなく、受け入れたくなかった。

 全部自分勝手な理由、その報いを受ける時が来た・・・

『あなたはあの人(アレフさん)の優しさに甘えているのよ』

 ケンカの時のクリスの言葉が心に突き刺さった。



「俺は馬鹿だ」

 シェイドは自身の頬を殴った。何度も何度も殴り続けた。

「人間なんて大嫌いだった。だけどあの人を嫌って拒否した。なのに、あの人はそんな俺達のために・・・何だよ、なんだよ俺、馬鹿だよ、なんでこんなに・・・」

『殴りたいのなら後でご勝手に。しかし時間がありません。蘇生処置は時間との戦い、どうか早急にご決断を』

「・・・すまない」

 シェイドは殴る手を止めると、魔導器の腕輪に左手を乗せた。

「覚悟を決めたよ。やるよ、やってやる」

 選択の余地などなく、答えなど決まっていた。

「フォロさん、力を貸して下さい」

『あなたの勇気に最大の敬意を。微細な出力調整は私が行いますので、シェイド様はクリス様の正確な身体の状態を思い浮かべ、治癒の方向性を導いて下さい』

「感謝します・・・」

 シェイドは大きく息を吐き出すと、封じられた魔法術式を発動させた。


 同時に、腕輪から白い光が放たれ部屋中を染め上げた。


 ・


 嫌いながらも興味はあった。だから治癒部隊の訓練は見ていた。うろ覚えながらも、アレフの説明は覚えている。


「大事なのは正確な知識だ。血管、内臓、筋肉、神経、骨格など人体を正確に把握し、治癒の力を正確な方向にを導かなければならない」


 ・・・ああ、それなら問題はない。


 腐っても軍隊にいる身だ

 多くの身体を見てきた、多くは死体だが。

 女性の身体も色々と調べた。理由はまあ察して欲しい。

 クリスに知られて白い目で見られたのはキツかったがが・・・

 馬鹿な思い出だが、今はそれがありがたい。知識は力だ。


「必要なのは、正しい指導と経験の積み重ねだ。正しい指導者の下で、失敗を繰り返しながら適切な経験を積むことが大切だ」


 経験はない。だから後悔している。

 それでも止まるつもりはない。

 取り戻そう、今これからだ。


 クリスを愛している。

 そんな気はあった。失いそうなって確信した。

 クリスは自分の半身だ。全てにしたい。

 もう二度と離れたくない。


「一番大事なのは助けたいと思う気持ちだ。強くて想え」

 その想いだけは誰にも負けない。クリスを絶対に助ける。


 溢れる白光の中、シェイドはひたすらにクリスを想い続けた。


 ・


 部屋を満たしていた白い光は徐々に収束し、やがて薄暗くなった部屋を静寂が包み込んだ。

「・・・クリス・・・起きてくれよ、なあ頼むから」

 シェイドは涙声で呼び掛け続けた。

 返事はない。だから何度も呼び掛け続けた。


 治癒魔法術式により、クリスの傷は完全に塞がっていた、ただし表面上はだ。内臓まで治せたかは分からない。

 治せたとしても、死んでしまっては意味がない。


 シェイドはクリスの身体を強く抱き締めた。

「なあおい、返事をしてくれよクリス・・・」

 涙声で呼び掛けるが、しかしクリスの返答はない。


「冗談はやめろよ!いい加減に目を覚ましてくれよ!」

 クリスの破れた胸元から白い肌が露出していた。

 傷は全く残っていない。完全に治せたと感じていた。

 そう信じたかった。しかしクリスは目覚めない。


「頼むよ・・・なあ頼むよ・・・もうあの時みたいな思いは沢山なんだ。お前を失いたくないんだ・・・なあ目を覚ましてくれよ・・・」

 シェイドは溢れる涙を拭くことも忘れ、クリスの体を抱き締めて泣き続けた。


「・・・痛いわよ」

 弱々しい声がシェイドの耳に響いた。


 驚きみ開くシェイドの瞳に、弱々しく笑うクリスが映った。

「クリス!良かった!生きていた!良かった!」

 シェイドは涙に顔をクシャクシャにさせながら、もう一度クリスの体を、今度は力一杯抱き締めた。

「馬鹿・・・痛いって言ってるでしょうが・・・」

 弱々しいクリスの抗議に、しかしシェイドはさらに強く抱き締めた。

「頼む・・・もうどこにも行かないでくれよ・・・頼むから・・・」

 恥も外見も何もかも投げ捨て、シェイドは声を上げて号泣した。


「馬鹿ね・・・どこにも行くわけないでしょう」

 そんな情けない姿を晒すシェイドの頭を、クリスは微笑みながら優しく撫で続けた。 

お盆やら仕事やらで色々忙しい日々でした。

まさか更新がここまで延びるなんて・・・

次は27日更新予定です。

次は守りたいです・・・

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