第50話 新たな脅威
私は失敗した。多くの旅人を死なせてしまった。
私は無能、もう旅はしたくない。
それなのに・・・
-フィロよ、新たな旅が決まった。
-アレフ・バンデット、それが次の者だ。
-神に呪われた愚者、さればこそ夢に至ろう。
『私は4度も失敗しました。お父様方、どうかその任は妹達にお与え下さい』
-旅人達の死はお前の責に在らず
-其は旅人どもの無能が故
-自らを責めるな、真の責は我等に在る
『お父様方は何も悪くありません。全て私が悪いのです』
-止めよ
-責任を求むなら、次に果たせ
-お前には、そして彼の者なら可能であろう。
『人間など信用できません。かつて私が仕えた者達は皆愚かで、何もかもが足りない。まるで足りないのです』
-そうか、人は信用できぬか
-そうか、人は足りぬか
-そうか、人は友と成り得ぬか
『友など必要ありません』
-それは駄目だ。
-お前は友を得よ。
-それがお前のため、そして我らの願い
『願い・・・』
-そう、我らが願い。
-ああそうか、それが人の目指す願いの高み
-いつか我らが頂きを得る大切な道程
『分かりました。私は友を得ましょう。他ならぬ、お父様方のために』
-・・・それでも良かろう。
-言葉とはかように難しきものであったか。
-フィロよ、友を得る意味を自ら得ることを・・・
---我らは切に願う---
・・・あれはアレフと旅立つ時に賜った、いと尊き方々の御言葉
『だけど、私は友なんていらない』
暗い宇宙にフィロの冷たい声が響いて消えた。
・
魔力抽出杭の制御室に辿り着いたシェイド達は、異形体のサナギとと人間の死体の山の中、魔力を大規模術式に供給する作業を行っていた。
まずは魔力抽出杭の再起動、次に星から抽出された大量の魔力を、大規模火炎魔法術式に供給する。
たったこれだけの作業で、本来ならそう難しくはない。
しかし異形体発生の術式が発動した時に過負荷が掛かったためか、制御装置の所々は焼け焦げ損傷していた。
この光景にシェイドは作戦の失敗と撤退を決断しかけた。
しかしフィロが故障箇所を分析し、即座に可能な修理方法を明示したため、作戦は継続される事になった。
掛かった修復時間は20セクタ(約30分)
まだ異形体達の孵化までには余裕があった。
「助かったあ!まさかこんなに早く終わるなんて、修理自体出来るなんて思わなかった」
制御装置の表示盤が正常な数値を示すことを確認し、シェイドは思わず声を漏らしていた。
その傍らでクリスも同じように頷く。
「流石フィロさんね、簡単に終わったわ」
『お疲れのところ申し訳ありませんが、あまり時間がありません。次の作業をお願いします』
「そうだったな、さっそく取り掛かろうか」
『それでは二手に分かれて頂き、指定の操作をお願いします』
「ええ了解したわ」
こうして予定通り魔力抽出杭は再起動し、外で展開中の大規模火炎魔法術式への魔力供給が始まった。
この段階で、スコルプ異形体討伐作戦の第二段階はほぼ全てが完了した。
残るはこの都市からの脱出だけだった。
・
『お疲れ様でした。あとは脱出だけです。僭越ながら私が誘導させて頂きますので、よろしくお願いします』
「ああ、こちらこそお願いする。しかしフィロさんには幾ら感謝しても足りないな」
『不要です。そのお言葉はアレフにお願いします・・・と言いたいところですが、あの馬鹿!おっと失礼、あの唐変木?・・・あれには勿体無いので何もしなくても良いです』
「えっと・・・さっきから気になってたのですが、フィロさんって、アレフさんには時々遠慮ないですよね?」
先程から何度かこぼれるフィロの暴言に、シェイドの眉が僅かに痙攣していた。
『遠慮ですか?確かにあんの野郎が行く先々で禁止事項を無視しまくって、事あるごとに問題を起こしまくりやがり、後始末に私が洒落にならない苦労を押し付けられまくっていたとはいえ、残念ながら、一応は私の相棒です。おそらく丁重に扱ってやってますよ?』
「・・・はあ・・・そうですか」
「シェイド、馬鹿なこと言ってないで早く行くわよ」
クリスは半ばあきれ顔で笑いながらそう言うと、戸惑うシェイドを促しながら、先に制御室を出ようとした。
その瞬間、白い閃光がクリスの胸を貫いていた。
あまりの順調さが用心深いクリスも、そしてフィロさえも油断させていた。
一番の難関が終わり、後は一番簡単な脱出だけだった。
だから彼等は油断し、這い寄る悪意はそれを見抜いていた。
「・・・え?」
クリスは一瞬、自身に起きた事を理解できなかった。しかし直ぐに胸を貫いた事を知り、そしてその場に崩れ落ちた。
クリスの胸には大きな穴が開き、そこから焼け焦げた肉の匂いが漂っていた、
「ガ八ッ・・・」
倒れた彼女は大きくせき込みながら、口と胸とから大量の鮮血を飛び散らせてた。
「クリース!」
ようやく我に返ったシェイドが絶叫した。
・
ある時、誰かが言った、
『魔力強化体は危険だ。奴らはきっと人間を滅ぼすだろう』
誰かが言った、
『奴らは人間を遥かに超えた能力を持つ。奴らが反抗したら、私達は滅びる』
『殺すべきだ。人間を超える存在があってはならない』
『頭脳を強化した個体がいる。あれだけでも処分すべきだ』
こうして粛清が始まった。
対象は頭脳強化型と呼ばれる個体
魔力強化体達の中で、更に頭脳を強化した者達だ。
粛正とは処分、つまり殺害だ。
こうして多くの魔力強化体達が何の罪もなく殺された。
シェイドの前から仲間達が消えていった。
何も知らされなかったが、殺されたと分かっていた。
ある日、クリスが人間に連れていかれた・・・
泣き叫び抵抗した、
自分も殺されるだろう、それでも良かった。
しかし殴らせ、蹴られ、取り押さえられ、
クリスは連れていかれた。
二度と彼女の笑顔を見られなくなる・・・
将来に絶望し、自分に失望した。
そして人間を激しく憎悪するようになった。
後日、マリニアがクリスを連れ帰った。
彼女は泣きながら許してくれた懇願したが、許せなかった。
今も許してはいない、将来もだ
・
『伏せて!』
フィロの絶叫に反応し、シェイドは瞬間的に床に倒れ込んだ。
その瞬間、先程まで頭があった位置を、白い閃光が通過した。当たっていれば即死だったのは間違いない。
「クリスをやった奴か!」
シェイドは叫びながらも、魔法術式の圧縮詠唱を始めた。
閃光は扉の外から、壁を貫いて放たれたものだった。
そのため、シェイドから敵の姿は見えない。
分かることは、未だ閃光が幾重注がれることから、相手は相当の魔力を持ち、そして複数という事
シェイドは倒れた抱えると、柱の後ろの死角へと滑り込んだ。
「とにかく体勢の立て直しを」
そう呟いたシェイドだが、その期待はあえなく裏切られた。
閃光が今度は柱を砕き始めたからだ。
「ちいっ!」
シェイドは思わず舌打ちした。
しかし同時に、唱え終えた魔法術式を発動させた。
発動したのは『赤障壁』
赤い光が強力な壁となり、物理と魔術を防ぐ強力な上位術式だ。
直後、障壁に何十もの閃光が注ぎ込まれる。
本来なら多少の攻撃などビクともしない。
しかし雨あられのと注がれる閃光を受け続けた結果、表面に無数のヒビ割れが生じ始めていた。
・
シェイドの戦闘力は、幹部としては高くはない。平均よりは上で、せいぜい中の上くらいだろう。
しかしそれは魔力強化隊体としての話、人間の基準とした場合、導術師の最高位に相当するだろう。
事実、彼を超える人間は、稀代の天才ウェネス都市長マリニアの他は数える程しかいない。
そんな実力のシェイドが、正体不明の敵に苦戦を強いされていた。
今展開した障壁は、並大抵の火力では打ち破れない。
それなのに障壁にはヒビ割れ、少しずつ削られていた。
「馬鹿な!一体何なんだ!」
シェイドは叫びながらも、障壁に魔力を注ぎ守りを強化した。
しかしそれでも障壁は削られ続けている。
彼の胸元には、意識を失ったクリスが、胸と口から鮮血を流し続けている。
早く治療をしなければ彼女は助からない。
「早く、早くしない!くそ!」
シェイドの胸は焦燥に駆られていた。
ボロボロになった障壁が砕ける寸前、閃光の雨が止んだ。
『人型の敵が三体接近しています。魔力量は全て大、シェイド様と同程度です』
「馬鹿な!」
フィロからの報告を聞いたシェイドは思わず叫んだ。
同時に嫌な予感、否、確信が頭をよぎっていた。
ディーファから事前に聞いてた事がある。
ライファが裏切りは、魔力強化体そのもの情報流出を意味する。
それはつまり、敵が魔力強化隊の製造方法を手に入れた可能性があると・・・
その話を聞いた時は半信半疑だったが、今は核心へと変わっていた。
「・・・最悪だ」
シェイドは部屋の中に入ってきた敵に毒付いた。
そこには白い髪と赤い瞳と持つ端正な顔立ちを持つ者達が立っている。
アメリアの軍服姿のそれは、敵国製の魔力強化体達だった。
トラブル発生のため、更新が遅くなり申し訳ありませんでした。
次は8月9日に更新予定となります。




