表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き星に祈りを込めて  作者: ななしとせ
第7章 スコルプ異形体討伐作戦
53/76

第48話 発つ者、見守る者

『あははははは!そうか、殺し損ねたか!存外あの男も腑抜けよなあ!』

「え?」

 画像付通信機から響く大爆笑に、シェイドは耳を疑った。

 爆笑の主、つまり通信相手はヴァネス都市長マリニアだった。

「笑い事ではありません。完全に外交問題です。一体どのように対処されますか?」

『外交問題?知るか、んなもん放置だ』

 シェイドからの真剣な面持ちでの問いに、マリニアは笑い涙を拭いながら答えた。


『ウェネスの命運を掛けた作戦に比べれば、些事も些事、時間と資源とついでに酸素の無駄だ』

 その時のマリニアは、意地の悪い笑みを浮かべていた。


 ・


 交渉破綻後、大隊は大騒ぎになった。

 正確には、騒いでいたのはシェイドとクリスだけだが、それでも一大事なのは変わらない。


 完全な交渉決裂だけならともかく、アメリア側の使者の殺害未遂すら起こしたのだ。

 もはや大隊如きがどうこうできる次元を超えていた。


 困ったシェイドはマリニアに相談する事にした。

 本来なら上司のディーファの役目だが、この緊急時では頼りない。

 結局彼がやるしかなかった。

 なおクリスはお説教中である。今頃、アレフ(巻き添いでディーファ)は壮絶な地獄を味わっているだろう。


 そんな経緯があり、通信機でマリニアに事の顛末を説明したシェイドだが、返ってきたのは冒頭の大爆笑だった。


 ・


「では、この件でのお咎めは無しと?」

『当然だ。アレフを処分なんてしてみろ、おお怖い怖い、私は獣人達に殺されてしまうやもしれん。それならいっそ許しやって恩を売ってやるのが『お得』であろう?』

「お得ですか・・・」

 面白そうに答えるマリニアを前に、シェイドは浮かない表情を浮かべていた。


『なんだシェイド、私の沙汰に不満か』

「いえ、不満はありません。ただ疑念が残ります。アメリア側の抗議は必至、そのため形だけでも何かしらの処分した方が良いかと思ったものですから」

『知るか。言ったろうが、抗議なんぞ無視だ無視』

 シェイドの懸念をマリニアは一蹴した。


『敵国のたわ言なんぞ受ける道理もない。弱味を見せれば増長させるだけだ。完全な無視、これが最良よ』

「は、はあ」

『それにしても笑わせてもらったぞ。まさかアレフがここまで面白い結果を残すとはな。予想以上の成果だ』

「えええ?・・・失礼しました。アレフさんは交渉を完全に破綻させ、使者を殺しかけました。それが望ましい結果だったのですか?」

『まあな。破綻なんぞ最初から分かりきって。まあそうなる様に仕向けてはいたがな。問題は破綻させる手段だ。蹴り飛ばすぐらいは期待していたが、殺しかけるとは期待以上だ。良きかな、良きかな』

「今回の獣人の一件について、アメリアへの理想的な脅しになったと?」

『そうだ。今のアメリアは獣人達の非道な扱いが明るみになったために、国内外から相当に非難されている。そんな最中、獣人達を更に侮辱した愚か者を殺したとして、非難する者がいると思うか?』

「分かりませんが、それほど多くはないかと』

『そう言う事だ。そんな輩をアレフが戒めたのだ、世論一般は拍手喝采だ。ならばそれに乗らん手はない。アレフを許して私も賞賛させてもらうとしよう』

「図々し・・・失礼しました。マリニア様の深遠なるお考え、大変な学びとさせていただきました」

『お前の本音の漏れる癖、いい加減治さんと。ともかく、この件は今後私が全て取り仕切る。だからお前達は責務にのみ励め』

「ご深謀に心より感謝します」

 深々と頭を下げるシェイドに、マリニアは露骨に顔をしかめた。

『かような事になったのも、あの馬鹿(ウルバス)の後始末をお前達に押し付けたがためよ。頭を上げるべきはこの私だ。どうか許して欲しい』

 そう言うと、画面越しにマリニアは深々と頭を下げた。

「・・・畏れ多い事でございます。どうか頭をお上げ下さい」

「其方の寛容に感謝する。ところでディーファはどうした?何か余程のことがあったのか?」

「それは・・・その・・」

 シェイドは言葉に詰まった。

 まさかクリスの説教地獄の真っ最中とは言えなかった。


 ・


 その頃、ディーファとアレフは正座をしていた。

 目の前にはクリスが鬼の形相で仁王立ちしている。

 ある意味で見慣れた光景だったが、当人達にはいつまでも慣れない地獄だった。


 使者の殺害未遂、この結果にクリスは激怒し駆け出した。

 そして顔を真っ青にしたディーファとアレフの襟首を掴むと、問答無用で正座をさせ、説教を始めていた。


 魔力強化体第二大隊で怒ったクリスは最強、勝てる者はいない。

 地獄の様な説教の中、マリニアかはの『お咎めなし』の沙汰を伝えられたが、それでもクリスの説教は時間ギリギリまで続いていた。


「アレフ!聞いているのですか!」

「ヒィッ!はっ、はい!」

 先程の鬼気迫る迫力はどこへやら、顔面蒼白なアレフ

 がひたすら頭を下げていた。


「ディーファ!そもそもあなたが監督してないのが・・何惚けてるのですか!私の目を見なさい!」

「すいません!すいません!すいません!」

 と、上司なのに部下にひたすら頭を下げるディーファ


「決めた、このお方には絶対逆らわねえ」

「やばい、絶対やばい」

「私死にたくない・・・」

 遠くからこの惨劇をつぶさに見守る獣人達は、皆が涙目になっていた。

 なお、これ以降、獣人達はクリスを『姐さん』または『姐御』と恐れ敬い、クリスはこれを心底嫌がっていたそうな。


 このように紆余曲折はあったものの、異形体の討伐計画はほぼ予定通り進行していた。


 ・


 作戦名:スコルプ異形体討伐作戦

 この作戦は主に三段階で進行する。


 第一段階は大規模術式の構築

 これは、スカルプ周辺に分隊単位での部隊員が指定場所に展開し、個々で分解された術式の一部を構築する事で、最終的に大規模術式を完成させるものだった。


 人口60万人もの大都市を焼き払う術式となれば、極めて巨大になる。

 個々で構築するのはほぼ不可能なため、隊員達で分担して構築する必要があった。

 そのため第一段階の時点でほぼ全隊員が動員されたため、次の段階で投入可能な者はディーファ達大隊員だけしか残らなかった。


 次の第二段階は、術式発動用の魔力確保

 大規模術式には、それに見合う大量の魔力が必要になるが、この部隊全員の魔力を使っても桁が二つほど足りない。

 それほどの巨大な魔力を得るためには、魔力抽出杭を使うくらいしか手段がない。

 そのためこの段階を遂行するためには、異形体休眠中の都市に潜入し、魔力抽出杭を再起動させ、大量の魔力を供給する必要がある。


 これは危険な任務だった。

 都市内部には覚醒間近の異形体20万体が眠っている。

 フィロの分析ではまだ余裕があるそうだが、個体差を考えればいつ目覚めてもおかしくない。

 目覚めてしまえば戦闘は確実で、作戦そのものに大きな影響となる。

 そのことを踏まえると、難易度はこの第二段階が最大だった。


 最後は第三段階で、大規模術式の起動だった。

 全隊員の安全圏への脱出後、大規模術式発動を発動し、都市の異形体達を焼き尽くす。

 これで作戦終了だった。


 この作戦では、やはり第二段階が最大の難点だった。

 しかしこれに従事する隊員はシェイドとクリスしかいない。

 この事は宴の席でもディーファが反対していた。

 しかし段階でほぼ全員が不在な以上、これが唯一の選択肢であり、彼等に取った苦渋の選択だった。


 一応アレフの同行も検討されたが、すぐに却下された。

 理由はディーファの護衛のためだった

 この作戦での最大の懸念はライファの存在だった。

 彼女な力は少なくともディーファと互角か、それ以上

 そうなるとライファが攻めてきた時、ディーファだけだは心持ちなく、アレフの護衛が必須だった。そのため彼を護衛から外す事は出来なかった。


 結局残ったシェイドとクリスだけで第二段階を行う事になった。

 そして作戦の第一段階は順調に進む中、まもなく第二段階が開始されようとしていた。


 ・


 ソレは遥か空から見下ろしていた。


 雪雲の中、黒い長髮をたなびかせるモノは、スコルプを滅ぼした張本人ライファだった。


 彼女は風になびく髪を抑えながら、地上の一点を見つめ妖艶に微笑んだ。

 その瞳に写るのはこの世界で最も愛おしき存在

「ディー!来てしまったのね。本当はあの化け物共をウェネスを襲わせたかったのに、とても、本当に、とてもとても残念。それにしても、どうしてこんなに早くスコルプの事を知ったのかしら?」

 フィロの存在を知らないライファは、細やかな疑問にわずかに眉をひそめた。


「・・・ああ、あれのせい。なによあれ?」

 瞳に見知らぬ男の姿が映ると、ライファは美しい顔を醜悪に歪めた。

 訳のわからない輩が最も愛しい存在の側にいるのが許せない。


「異なる因果律?それに祝福と呪い?与えたのはどこの阿保神よ?・・まさかアイツ?それなら・・・そういう事ね」

 ライファが何かに気が付いた瞬間、男とライファの視線が交差した。

 普通なら見えるはずもないあり得ない距離、しかし男は明らかに見えていた。


「あはははははは、神の戯言に巻き込まれるなんて、哀れな異邦人ね!」

 ライファは狂おしいほどに笑った。

 愛おしいさと狂気と憎悪に、その瞳が禍々しく輝いた。


「なんて忌まわしき存在!存在自体が大罪、神々と同じだ。殺してあげる。お前の首を愚かな神々への鏑矢としましょう!」

 吹き荒ぶ突風の中、ソレは禍々しく笑い続けていた。

次は25日更新予定となります。

区切りを良くするため、少し短くなりました。

なお、主人公はしばらく出番がなくなります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ