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白き星に祈りを込めて  作者: ななしとせ
第6章 赴くは仲間と共に
50/76

第45話 風追い人

なんだか消えたはずの44話が更新され、なぜか二つに増えておりました。

古い方は削除させて頂きました。

「これは・・・どうしたものか」

 ディーファは盛大なため息を吐いた。


 遠方には、泣きじゃくるイリスと慰めるアレフ達がいる。

 ディーファは無意識に胸を抑えていた。


 ・


 大隊長という立場は孤独だ。

 基本的に誰とも平等に接する立場上、特定の隊員と馴れ合うわけにはいかない。

 それに規律を重んじなくてはならない。たとえ無礼講と(うた)う宴会であれ、羽目を外してはいけないのだ。

 つまり平等な立場で規律を正す立場だ。

 しかしそんな者が宴会にいては、隊員達も楽しむに楽しめない。完全に台無しだ。


 だからディーファは気を遣い、宴会から退避した。

 どこか離れた丘の上辺りから宴会を見守っていよう、とそう考えていた。

 

 その退避先に、何故かアレフとイリスがいて、先程の光景を繰り広げている。

「・・・」

 ディーファは途方に暮れた。


 見ていたのは、アレフが短剣を手渡し、それを受け取ったイリスが泣き出したところからだ。

 状況はほぼ正確に把握していた。

 師弟の仲麗しい感動的な場面だと。

 それなら問題ない。ないはずだ、と。

 そう自分自身に言い聞かせた。


 奇妙な感覚を覚えていた。胸が締め付けられる感覚で、最近時々感じる様になっていた。

 それだけではなく、今回は何故かみじめさも感じていた。

 理由が分からない。訳がわからない。


 早く逃げ出したいのに、足が動かなかった。


 ・


 アレフは無言で空を眺め続けていた。その側では、イリスがアレフを見つめている。

 ふとアレフの瞳が見えた。それでディーファは姉アーティアを思い出した。


 姉も同じ瞳をしていた。

 彼女は今も監禁され、孤独な日々を過ごしている。

 面会許可を得られて会いに行くと、いつも寂しい瞳で何処か遠くを見つめていた。


「・・・ちっ」

 ディーファは憤慨していた。

 寂しがるアレフを許せなかった。自分達という仲間がいるのに、どうして寂しがるとだと。

「いい加減にしろ!」

 気が付けば叫んでいた。


 突然のディーファの叫びに、イリスは困惑し、アレフは落ち着いた様子でジト目をしていた。

「ディーファ大隊長・・・これはその・・・決してやましいことなどしていませんので・・」

「覗き魔」

「うるさい!たまたまだ!」

 非難がましい視線を向けるアレフに、赤面したディーファが睨み返した。


「やましい事?そこのヘタレにそんな度胸などない!」

 覗きは事実だけに、ディーファは半ば開き直っていた。

「は・・・はあ・・・」

「逆ギレか」

「そこ、うるさいよ!」

 呆れ顔のアレフに、顔を真っ赤にしたディーファが怒鳴り返した。


「この隊長殿はもう空気を読むとか出来ないのか?」

「あー、なんかすみません。この方はそう言うの苦手なので・・・」

 ぼやくアレフに、イリスが申し訳なさそうに応えた。

「あっ、でもでも、素直でとても素敵な方ですよ」

「素直?単純の間違いでは?」

「えへへ・・・それはなんとも」

「そこ!私を無視して盛り上がるな!いいからとにかく私の話を聞け!聞くんだ!」

 ディーファは話を強引に進めた。


「ゴホンッ・・・おいアレフ、あれを見ろ」

 ディーファはわざとらしく咳払いすると、丘下の宴会広場を指差した。

「お前は仲間だろうが!いるべき場所はここではない、あそこだ!」

「・・・え?」

 ディーファの言葉に、アレフが言葉を失っていた。

「来い!イリスもだ!これは大隊長命令だ!」

 ディーファはアレフの手を握ると、半ば強引に引きずり始めた。

「ちょ、待て」

「待つかよ、馬鹿野郎が。勝手に孤独と決めつけるな」

「・・・参ったな、怒りはそっちか」

「当然だ」

「・・・降参だ」

 それでアレフは抵抗は止めたが、それでもディーファは手を離さず、アレフを広場まで強引に引っ張り続けた。


 ・


 宴会の場は騒然とし、それから完全に沈黙に包まれた。

 ディーファ大隊長がいきなり鬼の形相で現れからだった。


「あー、気にするな」

 これに慌てたディーファが弁明を始めた、

「騒いでても良いぞ!何でもないからな!続けろ!」

 ディーファの指示に、皆が困惑して顔を見合わせた。

 それからしばらくは沈黙状態だったが、少しずつ皆が話し始め、やがて元の喧騒へと戻っていた。


「行ってこい!」 

「ぐはっ!」

 ディーファは、宴会の中心へとアレフの背中を蹴りつけた。

「あ、アレフさん!」

「イリスも行け。アレフと踊ってこい。お前らならお似合いだ」

「え?あっはい」

 イリスがアレフはと駆け寄ると、恥ずかしそうに彼の手を握った。


 見渡せば、周囲には手を取り合う男女達が踊っている。

 その中にいれば、踊らないわけにはいかない。

「・・・踊ろうか」

「はい!よろしくお願いします」

 流れに身を任せ、彼等は器用に踊り始めていた。


「手間がかかる朴念仁だ」

 ぎこちなく踊るアレフ達を眺めながら、ディーファは静かに嘆息した。

 やるべき事をしたはずなのだが、何故か満足感はない。どうしてか胸がもやもやし、苛立つ気持ちが湧き出てきた。


 何がどうしてか分からない。あの男に関わると、自分が分からないことが多過ぎる。


 ディーファはチクチクする胸を強く叩いたが、余計に痛くなるだけだった。

 無意識のため息が心に染みた。


 ・



「大隊長、何やってるんですか?」

 ディーファの背後から、聞き覚えのある声が聞こえた。

 振り返れば、呆れ顔のシェイドとジト目のクリスが立っていた。


「なんだ、お前達か・・・・」

「なんだとは随分なお言葉ですね」

 ぶっきらぼうなディーファに、シェイドが皮肉混じりに答えた。


「どこか具合が悪いのでは?お顔の色が優れないようですが」

 これは心配したクリスからだった。シェイドの方はあまり心配そうにはしていない。

「問題ない、暗いからそう見えるのだろ」

「本当に?だってさっきから胸を抑えて」

「大隊長なら大丈夫さ。それより、先程イリス達を連れてましたが、何かあったんですか?」

「何も・・・」

 強引に会話に割り込むシェイドを、苛立ちが抑えられないディーファは八つ当たり気味に睨みつけた。


「アレフの馬鹿がな、イリスと丘の上で引きこもってやがった」

「あー、それはそれは・・・」

「えっと、もしかしておかしな事をさせないために連れて来たのですか?」

「逆だ、逆だ。あの朴念仁は何もしやがらない。あのままでは何の進展もない。だからイリス共々ここに引っ張ってきた。一緒に踊れば少しは進展するだろ」

 ディーファの説明を聞き終えたシェイド達は、鎮痛な面持ちで頭を抱えた。

「それって・・・」

「親切心は分かりますが・・・はあ」

「何だ?何かいけなかったか?」

 首を傾げるディーファの前では、何故かシェイド達が憐れみの目で見つめていた。


「・・・自爆?」

「しー!こっちの朴念仁も気づいてないから」

「?お前ら何を言ってる?」

 困惑するディーファを前に、シェイドはわざとらしく肩を竦めた。

「いいんですか~?イリスちゃん達の仲を後押しして?出遅れますよ」

「出遅れ?・・・・・・・・・・・あっ・・・なるほどなるほど・・・つまりそう言う事か」

 ディーファの瞳が見開き、その瞬間にニヤついていたシェイドの顔が凍り付いた。

「馬鹿シェイド・・・余計なことを・・」

 恐怖で動けないシェイドをよそに、クリスは何度も首を振り続けた。

 満面の笑みを浮かべるディーファの瞳は、まるで笑っていなかった。


 クリスはシェイドの事を完全に諦めた。

 彼女が記憶する限り、その笑みは大型異形体に浮かべたものと全く同じ、完全に狩人の瞳だった。

 張りつめる空気の下、哀れな獲物と化したシェイドはガタガタと震えていた。


「・・・・なあシェイド?もう一度聞くぞ。私が何に出遅れるのかな?まさか誰かさんとの仲とか言わないよな?さあ遠慮せずに言ってくれたまえよ?それと死ぬ?」

「え、死ぬ?あ、いえ。その深い意味はありません、はい」

「つまり死にたいと?」

「いや・・・あの・・・その・・」

 地獄の底から響く様な低い声に、シェイドが冷や汗をダラダラと流していた。


「つまらん・・・止めだ止め!」

 ディーファが深呼吸すると、張りつめた空気が一気に緩んだ。

「こんな事で貴重な部下を失うわけにもいかんからな」

「・・・助かった」

 同時に、緊張から解放されたシェイドが崩れ落ちる様にひざを落とした。

「怖ぇ・・・・マジ怖ぇよ・・・やっぱ大隊長やべえ・・・」

「あんたが馬鹿なだけよ」

 ブツブツと呟くシェイドに、呆れ顔のクリスが耳打ちした。


「言っておくが恋愛沙汰なんぞに興味はないからな。マリニア様もだが、何故か誰彼とがアレフとの仲を取り持ちたがる。シェイド、まさかお前もそんな真似はしないよなぁ?」

 目が全く笑わない問い掛けは、恫喝に等しい。

 顔面を蒼白にしたシェイドは何度も頷き続けた、


 ・


「私の事はどうでもいい。お前達の方こそケンカはどうした?」

 力の抜けたディーファは盛大なため息を吐いた。

「いやあ」

「あはは」

 ディーファからの質問に、シェイドは恥ずかしそうに頭を掻き、クリスは申し訳なさそうに苦笑した。


「その件は申し訳ありませんでした」

 謝罪したのクリスだった。

「勤務を優先し一時休戦にしました。なお先に休戦を申し出たのはシェイドです」

「おい!それを言う必要ないだろ!」

「事実でしょ、それと今は休戦中よ」

「ちっ・・・大隊長、申し訳ありませんでした」

 クリスの指摘に不満そうながらも、シェイドもまた頭を下げ謝罪した。


「どうやら大丈夫そうだな」

 いつ通りの見慣れた光景にディーファは苦笑いを浮かべた。

「仕事に支障を来さないなら、休戦でも終戦でも構わないがな。とにかく程々にしてくれ」

「はい」

「申し訳ありませんでした」

「それはそうと、だ」

 シェイド達の恐縮する表情を見るディーファに、ふとある懸念がよぎっていた。

「明日の作戦だが、本当にあれで良いのか?お前達の他に適任者はいないのか?」

「いません。これが唯一の選択肢です」

 ディーファの問いにクリスが即座に横に振った。その横ではシェイドも無言で頷いている。

「そうか、では言うべき事はもうないな」

 嘆息したディーファは空を仰いだ。

「明日お前達は死ぬかもしれない。だから後悔は残すな。見張りは私がしておく。だからせいぜい今を楽しめ」

 シェイド達の返事を聞くより先に、ディーファは背を向け歩き出していた。

 これ以上言うべき事はない。早々に立ち去るのが無難だった。


 ・


 再びディーファは孤独になった。


「仲間だから一緒にいろ」だの、「宴会を楽しめ」だの言っておきながら、当の本人は完全に孤立している。

「説得力皆無だな」

 ディーファは密かに落ち込んでいた。


「今後は宴会なんてやめてやる」

「八つ当たりは止めておけ。とばっちりを喰らう部下は堪ったものではないぞ」

「うるさい、黙れ」

 背後からの声に、ディーファは振り向かずに言い返した。


「何しに来た、アレフ」

 ディーファが振り向くと、予想通りアレフがいた。彼は両手に飲み物を持っている。

「さっきのお礼を言いにきた。ありがとう。些細だがお礼だ」

「せっかくだ、もらってやる」

 アレフから差し出された飲み物を、ディ-ファは乱暴にもぎ取った。

「せめてもの恩返しに、明日は全力を尽くそう。存分にこき使ってくれ」

「ああん?元からそのつもりだ。使い潰してやるから覚悟しろ」

「お手柔らかに頼む」

「それは無理な相談だ」

 ディーファは器の中身を一気に飲み干すと、アレフを睨みつけた。

「それより、イリスはどうした?」

「他の隊員と踊っている。彼女は人気者だからな、私なんかが独占してはいけない」

「このど阿呆が。せっかくのお膳立てを無駄にしやがって」

 ディーファは眉間をひくつかせた。


「なぜ花を独占しない?花に虫が群がろうと、叩き落として愛でるのが甲斐性というものだろうが、このヘタレが!」

「違いない」

 いきり立つディーファを前に、アレフは自嘲の笑みを浮かべた。

「私はヘタレ、それにロクデナシだ」

「そうだロクデナシだ・・・いや待て、そこまで卑下するの流石にどうかと思うぞ」

「事実だからな」

 力なく笑うアレフに、ディーファはバツが悪そうに顔をしかめた。


「イリスはお前が好きだ。恋心を抱いている。気付いているよな?」

「一応は、な」

「なら、どうして受け入れない?お前、イリスとは一線を引いて接しているよな?気付かないとでも思ったか?」

「私には高嶺の花だからだ、もったいない。私は殺人鬼、最低の人間だ。生きていることすらおこがましい、そんな存在だ。そんな輩が彼女の傍にいるのは・・・絶対に駄目だ」

「まだ言うかよ、ど阿呆が!」

 俯いたまま沈黙するアレフに、ディーファは本気で怒鳴りつけた。


『私は沢山の人を殺した。百とか千とかそんな数ではなく、本当に数え切れない程の人を殺した』

 ディーファの脳裏に、かつてのアレフがよぎった。

「それはとっくの昔の話だろうな」

 ディーファは小声で呟いた。

 彼は自身の罪をいつまでも許さない。

 だから自分を最低と見下し、交わりを拒絶する。

 何処にいても孤独にしかなれない。

 救いようもないど阿呆だ。


「・・・もう自分を許したらどうだ?」

「それはできない」

「そういうの止めろよ、頼むから」

 ディーファの声は途中から震えていた。

「お前の過去など知ったことかよ。私が知っているのは、イデア達を救った恩人だ。殺人鬼?知った事かよ。私はない、お前が仲間を助けてくれたから仲間にした。だからお前は仲間だ。もう仲間なんだ」

「・・・それは」

「拒絶するな。命令ではないぞ、心からのお願いだ」

「・・・仲間か」

 ディーファの懇願に、しかしアレフは視線を合わせなかった。

「私はこの星を去る。そんな輩が仲間なんておこがましい」

「だからどうした。お前がいなくなっても、共に戦った事実はなくならない。違うか?」

「違わない」

「ならお前は私達の仲間だ。分かったと言え、言ってくれ」

「・・・分かった。これで・・・私は仲間になれたのか」

「そんな当たり前のこと聞くな。そんなのとうの昔からだ」

「そうか・・・そうだったな」

 頷いたアレフが曇り空を見上げた。

 その表情はディーファからは見えない。

「ありがとう」

 アレフの声は震えていた。


 ・


 ディーファとアレフはその場で他愛もない会話をしていた。


 喧騒に包まれていた広場が静寂に包まれた。

 少しして笛の音が静寂を破った。

 その旋律を聞いたディーファは、目をつむるとうっとりとした表情を浮かべた。

「風追い人の唄か・・・もう宴も終わりか」

 笛の音を楽しみながらも、ディーファは寂しそうに呟いた。


 広場の中心にイリスが立っていた。

 彼女は笛の音に合わせ、透き通るような声で歌い始めた。



 風追い人よ

 その旅路、何処へと

 果てなき道をただ独り歩み・・・

 旅の終わり道、切に願い

 いつの日にか辿り着ける風を

 永遠に求め・・・


 傷負い人よ

 今はただ眠りゆけ

 傷負う羽を温もりに休め・・・

 落ちるその涙、共に拭い

 どうか今は、待ち人の胸で

 安らかに眠れ・・・


 そういつの日にか、また会えると

 永遠の風に旅立つあなたを

 さあ笑い送ろう



 美しい旋律を奏でるイリスの歌が終わり、やがて笛の音も鳴り止んだ。

 同時に、辺りを続き割れんばかりの拍手が鳴り響いた。それに合わせ、アレフ達もまた拍手をしていた。


「このまま時が止まれば良いのにな」

 そう言うとディーファが柔らかく微笑んだ。

 月明かりに照らされる彼女は神々しく、そんな彼女を見たアレフは言葉を失っていた。


「なんだ、私の顔をジロジロ見て?おかしいなものでも付いてるのか?」

 ディーファが訝しげにアレフを睨みつけた。

「いや・・・少し感動していた」

「ん?ああ、そうか、そうか。どうだ、イリスの歌は素晴らしいだろう?」

「あ、ああ」

 何故か慌てるアレフを前に、腰に手を当てたディーファが胸を張った。

「だったら、この星に残れ!イリスの歌声はいつまでも聴けるぞ」

「そう思いたくなる程良い歌だが、さふがにそれはな」

「まあそれはさて置きだ、この歌はな、昔から戦いの前夜に歌うの慣習になっている」

「何かの縁起担ぎか?」

「そんなところだ。歌の意味だが、一説では風追い人は兵士、風は戦争の例えだそうだ」

「それは少し不安な感じがするな」

「そんな事はないぞ?戦争で兵士が負傷し、それを恋人が故郷で出迎える。やがて傷を癒した兵士を戦場に戻る時、恋人と再開を約束して旅立つという内容だそうだ」

「あまり報われてない気がするが?」

 ディーファの説明にアレフは首を傾げた。

「この歌は約束を希望にする歌だ。生き残り恋人に会う約束、それが絶望を乗り越える希望になる。希望があるから生き延びようとする。それを忘れないための歌だ」

「約束が希望か。私にも友に再会する約束がある。その約束に何度救われたことか」

「救われたのなら、約束は守れ。それが希望をくれた友への恩返しだ。そのためにも、明日も生き残れよ」

「そうしよう」

「ああ、そうしろ・・・・・・・・ど阿呆が」

 ディーファはアレフと視線を合わせると、それか視線を逸らして小さく呟いた。


「もう一つ意味がある」

 ディーファは一際輝く銀の星を見上げた。

「風とは決して届かない夢、つまり風追い人とは叶わぬ夢を追う旅人だそうだ」

「どういう事だ?」

「叶うぬ夢を追いかけた旅人は、やがて夢破れた傷負い人になる。しかし恋人によって傷を癒し、やがて恋人から離れて行ってしまう。こっちの解釈には約束はない、永遠の別れ歌だそうな」

「それは・・・救いがないな。残される恋人が可哀想だ」

 ディーファの説明にアレフはもう一度首を傾げた。

「確かにそうだが、私はこの解釈も嫌いではない。夢を懸命に追い掛ける者は輝いている。その場にとどめて夢を終わらせるよりも、後押しして行かせてしまう。そんな恋人の気持ちも分からなくもない」

「だがかえってこないのだぞ?私はには分からない」

「そいつは結果しか見てないからだ。大事なのはどうしてそうしたかという過程だ。夢を懸命に求める者がいた、だから応援して送り出してやった。大事なのはその気持ちだ」

「大事なのは気持ち・・・」

「私だって同じ立場なら、多分同じことをする。きっと笑って送ってやるさ」

「そうか・・・」

 アレフは何かを思い出すように頷いた。


 ・


 それは遠い昔の事だった。

 アレフには妻と子がいて、ささやかな幸せな日々を送っていた。

 ある日、妻が彼を送り出した。

『あなたの求める強さを追いなさい」と。

 彼は迷い、そして旅立つことを選んだ。

 それは家族を捨てる事なのに、旅立つ時に妻は笑って見送った。

 これまで何故妻が笑っていた分からなかった。

 しかしようやく妻の気持ちを理解した。

(私は愛されていた・・・)

 三千年年の時を経て、彼は妻の愛を知った。


「今日この日を感謝する。私は生きていて良かったと心の底から思えた。ありがとう、ディーファ」

 大罪を裁かれた日から何千年を経て、彼は始めて生に感謝した。


 ・


「・・・お前も風追い人だな」

 ディーファがぽつり呟いた、アレフに聞こえないと願いながら。


 アレフに大切な約束がある。無二の友との再会だ。

 故郷は宇宙を超えた先にあり、帰還は困難だろう。

 それでも彼が諦めず、いつか辿り着く。

 そう信じている。


 だから彼を送り出そう、笑いなが・・・

 笑いたい・・・そう思いたかった。


 銀の星はいつしか雲に隠れ、空は漆黒に包まれている。

 そんな空を見上げながら、ディーファは冷たい息を呑んだ。

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