第41話 静けさの中で
シェイド達がディーファのウザ絡みに耐えていた頃、別の場所もある意味で緊張に凝り固まっていた。
原因は、鬼気迫る表情のアレフが、とある特殊な作業をしていたからだ。
彼は大盾に手にして、表面に何やら細かい細工を施しる。
それが僅かな綻びも許されない作業と分かるから、周囲の者達は何も出来ず、ただじっと身を潜めるしかなかった。
しかしそんな緊張の中、第三中隊長マグだけが歓声を上げていた。
普通なら中隊長の業務は各種調整等と多く、休む暇などない。
しかし馬鹿、脳みそ総筋肉と呼ばれる中隊長達の中、彼女だけは例外で、優秀な能力をいかんなく発揮し、数多の仕事を早々に終わらせた。
それで彼女は暇になった。
彼女は暇を嫌う。しかし暇だった。
それで何を始めたかと言うと・・・
「う~ん、このモフモフたまらんですなあ~~~、あ~~癒される~~~」
猫の女性獣人キテラの背中に抱きつくと、彼女の顔ににひたすら頬ずりをしていた。
「ひえ~~~」
キテラは揉みくちゃにされるがままだった。
女性同士だからと言って、倫理的に如何なものとは思えるのだが、上司のマグ相手に対抗するのも気が引けた。
「レ、レン、助けろ、お願いだ」
耐えかねたキテラが、隣の若い犬型獣人レンに助けを求めた。
しかし彼は気まずそうに目を逸らした。
「・・・姐さん・・・ごめん」
「そんな・・・」
こうなるとキテラは諦めるしかない。
アレフなら止めてくれるかもしれないが、今の彼は何かの作業に没頭している。それが自分たちのためだと分かるから、邪魔をしたくはなかった。
「げへへ~~良いではないか~~」
「や、め、て、く、だ、さ、い!」
「良いではないかー」
流石に耐え切れなくなったキテラが引き離そうとしたが、しかしマグは予想以上の腕力でキテラにしがみ続けていた。
そんなほのぼの?とした光景の中、アレフはひたすら作業を続けていた。
・
アレフは魔道具を作っていた。
その魔道具とは獣人達を守る盾で、魔法術式の刻印で魔法耐性を付与するものだった。
術式の付与とは、対象に術式を刻むことでなされる。
それは極めて非常に精密な作業なので、揺れる車両内で作業など出来ない、普通なら。
しかしアレフはこの様な環境に慣れているのか、特に揺れを気にせず作業を進めていた。
「おんやあ?」
そんな黙々と作業するアレフを見て、キテラの耳を甘噛みするマグの瞳が怪しく光った。
新しい標的を見つけた目だった。
「アッレフさ~ん、アッレフさ~ん、その盾って全属性への抗魔処置する予定のやつだよねえ~?」
マグの質問にアレフの作業を止まずにうなずいた。
「今回の討伐で使用する予定です。緊急の作成なので、どうかご理解ください」
つまりは大事な作業だから邪魔しないでくれ、との丁寧な返事だが、それにマグは明らかに不満な表情を見せた。
「アレフさ~ん、確かにあたしは上司だよ。けどさ、そんな他人行儀は嫌だなあ。だから丁寧語禁止~、これ命令ね~」
「・・・え?」
いきなりのマグの命令に、アレフの手が止まった。
「えっと・・・分かりました」
「だから丁寧語禁止」
「分かり・・分かった。しかしかまわないのか?軍の規律が保てなくなると思うが?」
「うんうん、大じょーぶだよー」
「・・・そうか」
勢いよく何度も頷クリスマグの姿に、アレフは頭を抱えていた。
軍隊という生死を掛ける組織では、命令系統の遵守、つまり上官の命令は絶対となる。そしてその前提として、上下関係の厳密な保持が必要条件となる。
しかし上司と部下が緩い関係となってしまえば、絶対遵守の規律など守れなくなる。
「規律とか面倒なの気にしないで良いよー、今更だからねー」
そんなアレフの至極当然の疑問を、しかしマグは右手をパタパタと振って笑い飛ばした。
「そうだよね、レクト?」
「駄目です。マグ中隊長はもう少し威厳を持って下さい」
マグの問い掛けに、隣りに触る部下レクトは渋顔で首を振った。
彼はマグの伝令でマグの命令を伝える立場なのだから、統制の上下関係が保てない事は文字通り命取りになりかねない。
マグに威厳を持ってもらいたいのは、至極当然だろう。
「そんなの要らないよ。ちゃんとした事言えば皆んな言うこと聞いてくれるからねえ」
しかしそんなレクトの思いも、マグの気楽さの前には無意味だった。
「・・・」
「・・・」
互いに顔を見合わせたアレフとレクトは、奇妙な親近感を憶えながら、ほぼ同時にため息をついた。
・
マリニアとハンスさん・・・
クリスとシェイド・・・
マグ中隊長とレクト・・・
成る程、この国では女性の尻に敷かれるのが文化なのか。
と、かなり失礼な結論を考えつつ、アレフは粛々と作業を進めた。
しかしそれをマグが邪魔をした。
「ねえ?」
「後でだ」
「だからね?」
「少し待ってくれ」
厳密には邪魔ではなく質問なのだが、集中したいアレフにはどちらも変わらない。なので変わらず作業を進めるため、完全にから返事で対応していた。
「無視すんなー!」
とうとう業を煮やしたマグが、アレフの眼前に滑り込んできた。
「ねえ、ねえ、教えてよー!」
「・・・勘弁してくれ」
視界をマグの顔に遮られ、今度は流石に作業の手が止まった。
「悪いが邪魔だ。どいてくれ」
「いいじゃーん、教えてよー」
そう言ってアレフはマグの顔を押しのけようするが、マグの抵抗は強かった。
「本当に余裕が時間がない。明日までに7枚が必要だ、終わったら幾らでも答えるから、今は見るだけにしてくれ」
「ちょっとだけだから!」
「命に関わる事だ。頼む」
「んっん~~~~仕方ないなあ~~~分かった、約束だよ、絶対だかんね~~~」
「分かった、約束だ」
満面の笑みを浮かべるマグに、アレフは苦笑気味に頷いた。
それからのマグは、これまでと打って変わっておとなしかった。
彼女はアレフの邪魔にならない距離で、彼の作業を興味津々と見つめていた。
そんな彼女を、アレフもそのままにさせている。
つまり車内は平和に包まれていた。
「なるほど・・・部分的な空間歪曲での受け流しか」
それはマグの他愛のない独り言だった。
しかしアレフは目を見開き、作業の手を止めた。
「術式を解読したのか?暗号もかけているのに」
この時の彼は驚きに目を開き、マグを見つめていた。
「あっごめん。邪魔しちゃったかな?」
「構わない。それより質問に答えてくれ。暗号化した術式を見ただけで解読したのか?」
「うん、そうだよ~」
事も無げに頷くマグに、アレフの目がますます見開かれた。
・
魔法術式の付与には、簡易なものから高度で難しいものまで様々ある。
そしてある一定の高度なものになればそれは門外秘となり、技術流出防止のため術式自体に暗号化が施される。
今回アレフが作っている大楯も例に漏れず、万一敵への鹵獲を考慮し、かなり念入りに暗号化処置が施されていた。
それをマグは見ただけで看破した。
しかも今回アレフが用いた術式は、空間干渉系のかなり特殊なもので、しかも術式体系は他宇宙のもので根幹から全く異なる。
それを短時間で看破など、普通なら絶対にあり得ない。
アレフは3000年を超える日々を生きたが、それでもこれは初めての経験だった。
・
「へっへ~、凄いでしょ~」
「凄いと言うか・・・凄く・・凄いな」
語彙を失ったアレフを、マグは嬉しそうに小さな胸を張った。
「イリスちゃんより凄い?」
「イリスも凄いが、君はずば抜けている。君程の優秀な人材は他にもいるのか?」
「んっ、んっ~~、多分いないかなあー?私って訳ありだからねえー」
アレフの問いに、何故かマグは少し困り顔で苦笑した。
「アレフさんなら・・・大丈夫かな?ん~ん~ん~・・・考えて見れば、アレフさんなら問題ないか、言えば味方になってくれるだろうし・・・知りたい?」
「いや機密なら言わなくても構わない」
「そっかー知りたいよねえ」
「いや別に」
「ちょい耳借りるねー」
渋るアレフを完全に無視し、マグは彼の耳元で囁き始めた。
「これは絶対に内緒の話、知ってるのはディーファ大隊長とマリニア様だけよ。もし破ったら、あたしは消えてちゃうからね~」
「・・・わかった。約束だ」
消える、その一言でアレフは概ねの事情を察した。
聞くべきではないし、聞けば確実に巻き込まれる、
それでも聞くことにした。それが助けを求める声だと、分かっていた。
「あのね、私は普通の魔力強化体とは少し違ってね、実は魔力だけじゃなくて、頭脳も強化された個体なんだよ~」
聞き終えたアレフは目を伏せ、首を振った。
予想しうる限り、最悪の答えだった。
アレフは幾度も経験し知っている、
人間は人を超えた存在を許さないと。
自らが最高の支配者と信じる傲慢さが故に。
万一人を超えた種がいれば、人はそれを必ず排除する・・・
「だからね、バレットにーちゃんやフラムねーちゃんと違って、あたしは少しだけ頭が良いんだよ。ま~その分、ちょこっと戦いが苦手だけどね~」
「・・・そうか」
明るく囁くマグとは対照的に、アレフは辛うじて声を絞り出すしか出来なかった。
この秘密を漏らすつもりはない。もし漏らせば、彼女は確実に殺されるだろう。そんな未来など望まない。
「私の他にも頭脳を強化された子達がいたんだよ~、だけどいつの間にかいなくなっちゃったんだ。だからね、あたしが最後の個体なんだ」
恐ろしい事実をマグは無邪気に語った。
やはり人は許さなかった。
マグも口にはしないが分かっているはずだ、仲間が処分という名目で殺された事を。
それなのに明るく振る舞うマグの姿を、アレフは直視できなかった。
ただ俯き、静かに拳を握り震えていた。
「すまない・・・」
いつの間にか言葉が漏れ出ていた。
「謝んないでよ、アレフさんはな~んも悪くないからね~」
「それでもだ」
「違うからねー。それでね、あたしもいなくなりそうだったけど、マリニア様が記録を改ざんしてくれたんだ~。だからあたしは助かったんだ。これ、にーちゃん達にも絶対内緒ね」
「・・・約束する」
アレフはようやく震え声を絞り出した。
「そんなこんなで、あたしだけね、ちょこっとだけ頭が良いから、術式も結構簡単に読めるんだ~」
マグはおぞましい事実を語り続けた。
声が僅かに震えていることに、アレフはようやく気付けた。
それでも彼女は笑っていた。きっと良き家族、良き仲間が、彼女を支えてくれたからだろう。
それはどれほど尊い奇跡なのか・・・
「手伝ってくれると助かる」
アレフはまだ未加工の大盾をマグへと差し出した。
「良いの?やったー!」
喜ひはしゃぐマグの姿を、アレフは眩しそうに見つめていた。
これでまた一つ離れたくない理由が増えた・・・
アレフは少しだけ後悔した。
・
日が暮れ前でようやく休憩となり、全隊が1ヶ所に場所に集結していた。
数回の小休止のみで、日中ほぼ進み続けたため、目的地のスコルプまでは、残り所要2セッタ(約3時間)ほどだった。
異形体覚醒の予定時間まではまだ20セッタ程余裕がある。
ここで一晩休憩して英気を養い、明日夜明け前に出発する予定だった。
既に日は暮れ始めていた。
広場に設置された照明の下では、隊員達は炊き出しや打ち合わせ等で忙しく動き回っている。
そんな様子を、アレフは停車した車の中から眺めていた。
外に出たいのはやまやまだが、今の彼には動けない理由があった。
「・・・何をしている」
絶対零度の冷たい声が響いた。
背筋を震わせたアレフが振り返ると、そこには頬を引くつかせるディーファの姿があった。
「見ての通り、急ぎで魔法術式の刻印作業をしている。説明はしていたと思ったが?」
「それは知っている」
そう答えるアレフを、ディーファは絶対零度の視線で睨みつけた。
「聞いているのは、お前が膝に乗せているそれは何だ、と言う意味だ」
そう言うと、ディーファはアレフの膝の上に頭を乗せるマグを指差した。
彼女はヨダレを垂らしながら、気持ちよさそうに眠っていた。
「えっと」
どう見ても怒り心頭な目をディーファを前に、アレフは困惑を隠せずにいた。
「何だと言われても、第三中隊長のマグだ。彼女に作業を手伝ってもらったが、途中で疲れて寝てしまったのだが」
「・・・手伝わせたのか?」
「本人たっての希望だ。駄目だったか?」
「いや、本人が構わないなら問題ない。そうかそれで疲れて・・・いやいやそういう事じゃない!」
ディーファは一旦は納得しかけたが、直ぐに思い直し、再びアレフを睨みつけた。
「だからお前はマグに何をしていると聞いてるんだ!」
「疲れた彼女に膝を貸してるだけだ」
「んなもん、見れば分かるわ!」
「分かってるなら聞く必要はないのでは?」
「そう言うことを言ってるのではない!」
やや控えめに叫んだディーファは、それからスヤスヤと眠るマグを指差した。
「こんな暗い中、大の男がうら若い乙女を膝枕、それは倫理的にどうなんだ、と言っている」
「はい?」
ディーファの指摘に、アレフが本気の困惑で首を傾げた。
「まずいのか?」
「まずいだろ。間違いがあったらどうする?自重しろ」
「間違い?遊び疲れたお子様を爺さんが優しく見守っている、つもりだった。間違いなど起こりようもないぞ?」
「ん?お子様なのか?」
「まあ歳の桁が二つ違うからな」
「そうなるのか・・・ん?」
今度はディーファが首を傾げた。
「いや待て、それだと私はどうなる?いやいやいやいや」
ディーファがアレフを睨み付けた。
「確かにマグは小柄で幼くは見える。しかしあれでも16歳だ。お子様というには無理がある。嘘は良くない。少しはやましい気持ちがあったはずだ、吐け」
「そうなのか?私は3000歳超えだ。16歳なんて子供以下だ。おかしな気持ちなど抱きようもない」
「・・・子供以下か・・・ほう、ほう」
嘘偽りのなく答えるアレフに、ディーファは本気で不快な表情を浮かべた。
それから目が吊り上がり、更には額に青筋が浮かんでいる。そして全身は明らかに震え始めている。
どう見ても完全に怒っていた。
「ちなみに・・・私は18歳だ。マグとは二歳差、つまり私も子供以下になるな。ああそうか、よう~~~~く分かった、子供以下なんだな、そうなんだな!」
「いや・・・それは相手次第だが・・・・なあなんで怒ってる?」
「怒ってない!ああ私は怒ってどいないぞ!何せ子供以下だからな!」
「待て、絶対怒ってる」
「うるさい!私は怒ってないぞ!」
ディーファは完全に怒りながら、自分が怒っていることを否定した。アレフがいくら指摘しても、完全に火に油を注ぐだけで、ディーファの怒りはさらに増していく。
そんな不毛なやり取りが延々と続いた・・・
「・・・無理だ」
負け戦を悟ったアレフは抵抗を諦めた。
・
それからしばらくして・・・・
どうにかしてアレフはディーファを宥める事に成功していた。もう一度やれと言われても出来ないだろう。
「マグから、彼女自身の生まれを聞いた。マリニア様に救われた一件の事もだ。この事は誰にも話さない、約束する」
「驚いたな、まさかあの用心深いマグが話すとはな」
いつの間にか話題も変わっていた。アレフが上手く誘導したからだった。
「頭脳を強化された個体は彼女が最後で、その他の者は全員処分・・・殺されたそうだな」
アレフが膝の上で安らかに眠るマグの白い髪を優しく撫でた。
その瞬間、ディーファの頬が痙攣したが、幸いにもアレフからは見えなかった。
「言っておくが、この件はバレットやフラムも知らない。心配を掛けたくないからだ。お前も言うなよ」
ディーファは少し拗ねた声で言った。
「分かっている」
「言うまでもない、か。しかしお前はよほど信用されているのだな。少し予想外だ」
「過大評価だ」
自重気味に笑うディーファとは対照的に、アレフの表情は暗く沈んでいた。
「私はそこまでの人間ではない」
「そこまでの実績を残したという事だ。どう思おうが構わんが、その事実は否定するな」
「マグの件を知り、これほど人間だったことを恥じたことはない。私に信用を得る資格はない」
「お前とは関係のなかった事だ。気に病むな」
アレフはディーファに深々と頭を下げた。
「すまなかった、どうか人間の愚かな過ちを許して欲しい」
「・・・お前のせいじゃない、だから謝るなよ」
渋るディーファを前に、アレフは頭を下げ続けていた。
「もう良い、頭を上げろ」
それはディーファの優しい声だった。
無言で頭を上げるアレフに、ディーファは優しく笑いかけた。
「以前、私はお前に胸ぐらを掴まれ、随分と怒られた事があったな」
「そうだな。あれはやり過ぎた。反省している」
「構わんよ、あれぐらいで良かったからな。あの時は怒っていたが、今はむしろその逆だ、感謝している。お前の言葉で私は目が覚めた。ありがとう、今更だが礼を言わせてくれ」
「・・・」
「マグの一件の時、彼女を助けたのはマリニア様だった。その時、マリニア様がおっしゃられた。『マグしか助けられなかった。悪いのは不甲斐ない私だ。どうか人間を憎まないで欲しい』とな。あの時、マリニア様は涙を流され、何度も頭を下げておられた。お前と同じだな」
「そうか、マリニア様が助けてくれたのか」
「あの方の涙を見た時、私はもう人間を憎めなくなった。まあ好きにもならなかったが、今はもう違うな」
ディーファは両手を広げると、夜空に輝く銀の星を仰ぎ見た。
彼女は嬉しそうに笑っていた。
「最近な、私はとある馬鹿に会った」
「馬鹿?」
「ああ、馬鹿も馬鹿、大馬鹿だ。そいつは、魔力強化体の私達を人間と同じだと言い張り、後先考えずに私達を守ってくれたんだ。馬鹿だろ?」
「それは・・・大馬鹿野郎だな」
「まったく馬鹿で、迷惑で、うざったくて、おせっかいで、だけど最高だ。そんな奴が人間にもいた。それが今は嬉しくて仕方がない」
「・・・私はそこまで価値があるのだろうか?」
「価値なんてクソ喰らえだ、私達はお前に救われた。それだけだ。そんなお前が今私に、許してくれと頼んだ。そうだな?」
「そうだ」
「なら答えは決まっている。許すに決まっている。理由?それはお前の頼みだからだ。お前のおかげで、お前がいてくれたからこそ、今の私達がいられる。嬉しいんだ、感謝しているんだ。だからアレフ、顔を上げてくれ。お願いだから、もうそんな哀しい顔はやめて笑ってくれよ」
「・・・ありがとう」
「それは私達の言葉だ。ありがとう、お前に会えて本当に良かった」
ようやく顔を上げたアレフに、ディーファは暖かく微笑みかけた。
「なあアレフ、今日もあの銀の星が綺麗だな。確かお前の星ではツキ?と呼んでいたな」
銀の光を全身を染めるディーファを前に、アレフは静かに頷いた。
「ああ月だ。しかしあの月は、故郷の月よりもずっと綺麗だ」
「それならこの世界には残らないか?もう少し綺麗な月を眺めるのも悪くないだろ?」
「確かに悪くない・・・だが、すまない」
「そうか・・・それは残念」
躊躇いがちに答えるアレフにディーファはため息混じりに苦笑する。
「だったら限界まで使ってやる。せいぜい覚悟しておけ」
「お手柔らかにな」
「手始めに明日は大隊警護だ、頼むぞ。要件はそれだけだ・・・じゃあな」
そう言い残すと、ディーファは名残惜しそうな面持ちのまま去って行った。
「それでも私は・・・許されない」
マグの静かな寝息だけが響く中、アレフは静かに呟いていた。
夜空には銀の星がどこか寂しそうに瞬いていた。
次は6月4日に更新となります。
本来なら早々に物語を進行させるべきなのですが、理由があって部隊内部の話を進めています。
その理由は完結した時に分かるかと思います。
どうかしばらくお付き合いをお願いします。




