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白き星に祈りを込めて  作者: ななしとせ
第6章 赴くは仲間と共に
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第40話 熟と未熟の傍観者

 魔力強化体第二大隊の行程はすこぶる順調だった。

 これなら時間内に都市スコルプに到着し、孵化前の異形体達を無事討伐できるだろう。

 とは言え、途中、偶発的に遭遇した異形体と何度か小規模戦闘ががあった。いずれも短時間で被害を出すことなく撃破し、日程に遅れは生じなかった。

 これはディーファとアレフしか知らない事だが、実は

 フィロが部隊周辺の広範囲索敵しており、そのおかげで部隊は進路上の異形体達をほぼ不意打ちで討伐することが出来たからだった。


 こうして各部隊はほぼ休憩抜きの無停車状態で進行していた。


 そんな中では運転手と哨戒員を除き、隊員達はやる事がない、つまり暇だった。

 殆どの者は眠るなり、読書をするなり、雑談をするなりして時間を潰す。

 しかし小隊長以上の幹部は別で、暇は少なかった。

 彼等は現場運用の詳細を詰める必要があり、各隊との連絡を取りながら何度も検討を行っていた。

 当然、ディーファ達大隊も例外でなく、むしろ最も多忙だった。

 ディーファ達の決定を受け、下の部隊が更に詳細を検討するのだから、当然一番早く決定を下さなければならない。

 だから出隊から丸一日経てもなお、ディーファ達は休憩抜きで調整を行っていた。


 ・


 ディーファが乗る大隊指揮車で、乗車人員は全8名だった。

 大隊員のディーファ、シェイド、クリス、イリスの4名と、そして交代を含めた運転手、哨戒員の4名だった。


 そして今、車内は険悪の空気で満ちていて、ディーファとイリスは涙目で震えていた。


 原因はシェイドとクリスだった。

 彼等は出隊間際の些細な意見の食い違いで口論となっており、その事が今も尾を引き仲が険悪化していた。


 彼等はどちらも私事を仕事にはあまり持ち込まない。

 それでも漏れ出すものは隠し切れず、互いへの嫌悪感がピリピリとあたりの空気を張り詰めさせ、車内を極度に緊張させていた。


「なんだよこれは!」

 突然、ジェイドが怒声と上げた。

 対象はクリスだっだが、彼女は平然としていた。代わりにイリスが目を伏せるが、それをディーファが優しく抱きしめていた。


「なあクリスちゃんよお、流石にこれはないじゃねえか?211分隊の分隊長はまだ新任間もないんだぞ?これじゃあ無理だ。もう少し考えて配置しろよ」

「あら考えてるわよ、誰かさんよりはね」

 苛立ちを隠さないシェイドをからかう様に、クリスは子馬鹿にした笑顔で笑った。


「へえ?考えてこんなものなの?随分と時間を有効活用してるねえ?」

「そうよ。あなたほど暇ではないからね。ちょうど良いわ、暇な誰かさんの方で修正してくれないかしら?私と違ってさぞかし優秀なのでしょうからね」

「おいおい、開き直って全部押し付けかよ。大した伝令様だなあ?」

「あら?やっぱり無理だったのね。ごめんなさい、少し荷が勝ち過ぎたわね」

「はあ?やってやるよ、そんなもん簡単だ。間違いを素直に認められないどっかの勘違い女と一緒にするな」

「勘違い女?あらシェイド、あなたって女だったの?そんな事より達者なだけの口より先に手を動かしてくれないかしら?そんなだとバレット以下よ?」

「ちっ・・後で覚えてろよ」

「もう忘れたわ」

 それから少しだけ睨み合うと、彼等は作業を再開した。

 以降、彼等は視線を合わさず無言だった。


 それだけで済めばまだマシだったのだが、こんな事最低で5回は繰り返された。

 意を決したディーファが注意しようと試みた事もあったが、彼等に睨まれた圧に耐え切れば、すごすごと引き下がってしまう有り様だった。


 この手の衝突は実はそれほど珍しくない。

 彼等は公私問わず舌戦を繰り広げてため、ディーファも最初はあまり気にしていなかった。

 しかし回数を重ねるにつれ、いつもとは違う険悪さを感じ始めていた。

 このままでは決定的な決裂にもなりかねないと心配したのだが、ディーファは有効な打開策を思い付かず、結果として精神を極度に疲弊させたのだった。


 ・


『放っておけ』

「え・・・・・」

「あの・・・」

 堪らず助けを求めたディーファだっだが、アレフの素っ気ない返答にイリス共々絶句した。


 小休止時間になった瞬間、ディーファとイリスは逃げ出し、通信機でアレフに助言を求めた。

 そして返ってきたのが先ほどの放置宣言で、ディーファとイリスはしばらく絶句した。


 ディーファとイリスは不安そうに目を合わせた。

「頼む、このままでは辛い。なんとかしてくれ」

「アレフさん、どうかお願いします。何とかならないでしょうか?」

『と言われてもなあ・・・』

  考え込むアレフだが、返答まで少し間があった。

『イリス、君が出来ることは少ない。まずは我慢することだ。あとはシェイド達の仕事の不足があれば、補助するぐらいで構わない。君の場合はそれだけで充分だ」

「は、はい」

 特にすることがないと安心したのか、イリスはほっと胸を撫で下ろした。


 安心するイリスの様子を見て、ディーファが期待の笑みを浮かべた。

「よし、それなら私はどうすれば良い?」

『・・・はあ』

 期待に反し、返ってきたのはため息だった。


『君はもっと努力しろ。どうしようもないなら助けるが、それまでは安易に私に頼らず、まずは自分で考えろ』

「おい!なんかイリスと露骨に対応が違うぞ!酷くないか?」

 期待を裏切る返答に、ディーファは非難の声を上げた。


『当然だ。責任者と部下だ。やるべき事も変わる』

「もっと優しくしろ、泣くぞ」

『泣くな・・・イリスと同じだ。とにかく余計な事はするな。色々あるが、それでも彼等は仕事をこなしている。それだけで良しとしろ。下手に手を出せば確実にこじれる」

 助けを請うディーファに対し、アレフはどこまでも冷淡だった。


「つまり我慢して放置してろと。それしかないのか?」

『ない』

「助けろよ、我慢するのも辛いんだぞ。お前には情けというものがないのか・・・」

『それもない』

「酷い・・・」

 非情の返答を前に、ディーファは力無く崩れ落ちた。


『仮に私が口出したとしてだ、シェイドがどう思うか考えてみろ。収拾がつかなくなるぞ』

「ぬっ・・・それは不味いな。冗談抜きで作戦自体が瓦解しかねない」

『そもそも部下に頼りきりなのが問題だ』

「頼む、正論で殴るのは止めてくれ。ううう」

 アレフの容赦ない指摘に、ディーファはうめき声を上げた。



 確かに言う通りだ。

 シェイド達の雰囲気は険悪だが、作戦の立案自体は順調に進んでいる。

 アレフの言う通り、余計なことをする必要もない。


 ディーファはそう考えて無理やり納得したのだが、それでも引っかかった。

 責任者としてこれで良いのだろうか?と。


「私に出来ることはないのか?責任者として未熟なのは分かっている。それでもなんとかしたいんだ」

『責任者だからこそ、まずは見守れ。一線を越えそうなら、止めてやれ。場合によっては全部かなぐり捨ててもだ。それから叱って導いてやれ。出来る事などそれくらいなものだ』

「一線を越える?いや、あいつらならそれは絶対にない。だがそれだと、あいつらが見守るしかないのか?」『そうなるな』

「頼む、あいつらをなんとかしたい。正直あいつらがこのまま仲違いしたままだと嫌だ。それと困る」

『嫌が先か。らしいと言えばらしいな。そう心配しなくても丸く収まるはずだ。安心しろ、多分」

「そんなんで安心できるか!」

 ディーファは思わずツッコミを入れた。


『敢えて憎まれ役を買って、シェイド達の結束を高めさせるという手もある。器用さが求められるが、出来そうか?』

「自慢じゃないが私は不器用だ。お前から見て出来ると思うか?」

『・・・すまない、絶対に無理だな』

「謝るな、少しは否定しろ!」

 アレフの容赦のなさに、ディーファが顔を真っ赤に叫んだ。


『すまん、すまん』

 通信機越しにアレフの失笑が響いた。

『だがまあ、大隊長が取るべき手段ではないな。上手くいっても今後の関係に支障が出る』

「だったら言うな。もっと良い考えを出してくれ」

『あのなあ、もう少しは自分で考えたらどうだ?』

「ぬっ、それもそうなのだがな・・・ちょっと待て」

 ディーファはうんうんと頭を抱え始めた。


「降参だ、助けろ」

『諦めが早すぎる』

 直後のディーファの降参に、アレフが抗議の声を上げた。

「分からないものは分からない。私が考えたところで、逆効果にしかならないぞ」

 完全な開き直ったディーファだった。

『・・・そもそも心配する必要はないのかもな。ある意味ケンカだが、本当の意味でのケンカでないと思うがな』

「ケンカではない?お前は何を言ってるんだ?こちとら目の前であのケンカを体験させられてたんだ。本当に怖かったんだからな」

『開き直るなよ』

「うるさい!」

 ディーファが一喝した。

 部下が怖いとは情けない限りだが、些細な事でしかない。あの恐怖は体験した者にしか分からない。


『視線を変えれば見え方も変わる。恐怖だったものが、実は単なる喜劇に見えたりとかな。今回もそれだ。はたから見れば何というか・・・まあ男女で良くあるあれだな』

「どう言う意味だ?」

 ディーファは首を捻った。

『犬も食わないという事だ』

「はあ?犬が何だって?」

 更に首を捻った。何一つ理解できない。しかしその横では何かを察したのか、イリスがしきりに頷いていた。


『つまりな・・・』

 訝しむディーファに、アレフは半ば呆れた声で説明を始めた。


 ・

 ・

 ・


 説明見聞き終えた時、ディーファは渋い顔で頭を張っていた。

 その横では、相変わらずイリスがうなずき続けている。


「えっと・・・言われてみれば思い当たる節はある。仮にそうだとして、巻き込まれる方としては溜まったものではないぞ」

 ディーファはため息を吐きつつ、半ばヤケクソに頭を掻きむしった。

『で、どうする?やり返してみるか?このままやり過ごすのもありだが』

「もうヤケだ、やってやる。たまにはやり返してやらんとな。駄目だったら責任取れよ?」

『責任は責任者が取れ。とは言え問題あるまい。シェイドとクリスは兄弟みたいなものなのだろ?互いに肉親に近い存在なら、悪い様にはならないはずだ』

「はずだ?軽く言ってくれるな。下手打ったら直撃を喰らうのは私なのだぞ」

『実際軽いからな、絆の重さに比べればな。家族、そして戦友の絆は重くて硬い。そう簡単に壊れはしない』

「確かにそうだが、何かこう、上手く騙された気がするな」

『気のせいだ』

「まあいい、騙されてやるか。ささやかな復讐のために」

 アレフの力強い断言に、ディーファは瞳を閉じ考えた。

「ふふふふふ!ひひひひひ!」

『?ディーファ、なんだこの音は?異形体の襲撃か!』

「ひひひひひひひ!」

「イリスです。えっと、今のは大隊長の笑い声です」

『え?どう考えても人外だぞ?』

「いひゃひゃひゃひゃ」

 アレフの間抜けた声に、ディーファの奇声が重なった、


「一矢報いるのが相当嬉しいようで、タガが外れたみたいです・・・あの、逆に事態が悪化してませんか?」

「うひひひひひ、うひゃひゃひゃひゃ!」

『なんかすまない・・・もう少し優してやれば良かった。まさか壊れるとは』

「次からはそうして下さい、はい」

『本当ですよ、全くこの馬鹿は』

 最後の声は乱入したフィロの声だった。


「見てろ!あんにゃろう供が!」

『うわあ・・・』

「困りました」

『やってしまいましたねえ』

「ひゃひゃひゃひゃひゃ!」

 ドン引きするイリス達を尻目に、ディーファは不気味に笑い続けていた。


 ・


 休憩時間の終わりに戻ったらディーファ達を出迎えたのは、ジェイドとクリスの仏頂面だった。

「大隊長おかえりなさい。もう時間です、早く乗って下さい」

 と、先ずはシェイドが冷たい声で出迎えた。

「こんな忙しい時にどちらに?後で詳しく伺いますので」

 次に、クリスが棘のある声で歓迎した。

「いひ・・・そう急かすな。時間はまあ、お前達があまりいちゃつき過ぎなければこれまで余裕だろ」

「いちゃつく?」

「私がですか?大隊長?」

「いひっ」

 いつもならこれで恐縮するディーファなのだが、今回は余裕を持ってこれを受け流した。


 ・

 ・


『つまり単なる痴話ゲンカだ。好きな人に意地悪したくなるアレで、お互いがソレだ』

 ディーファが壊れる前、それがアレフの説明だった。

「・・・で、どうすれば良い?」

 ディーファの瞳が怪しく輝いた。

『放っておくのが一番だが、どうも互いに素直にならないようだ。背中押してやるのも面白いかもな。意外と面白い事になると思うぞ?』

「・・・詳しく・・・いひっ」

 説明を聞く途中から、ディーファは不気味に笑い始めていた。


 ・

 ・

 ・



「とは言え、お前達のイチャイチャも度が過ぎれば目の毒だ。これまでは我慢してきたが、流石にキツい。少し自重して・・・いや自重するな、面白いからもっとやれ」

「はいっ?待って下さい。誰がクリスとなんかイチャついてるのですか!」

「そうです!シェイドなんかごめんです。からかうのはやめて下さい」

「照れるな照れるな。分かっている。だから遠慮しないでイチャイチャしてろ」

 真っ赤になって猛抗議するシェイド達を前に、ディーファは大袈裟に肩をすくめて見せた。


「このままだと、隊での初の婚姻はお前達になりそうだな。皆で祝福してやらないとな。バレットなんか大喜びだぞ」

「大隊長?一体何を?・・・クリス、何かおかしい」

「誰かの入れ知恵ね、間違いないわ」

「何のことだかなあ?いやいや、しかし私も気が利かなかったものだ。何なら席を外そうか?私がいては出来ないこともあるからな。いや気が利かずに申し訳なかった」

「くっ・・・イリス?いやマグあたりの入れ知恵か」

「多分違う・・・参ったわね。なんて言うか、ウザい」

「何だ急に仲良くなったな?遠慮しないでケンカして良いぞ?見てて面白いからな。うむ、うぶというか新鮮と言うか、甘酢っぱい?というやつだな。あはははは」

「確かにウザい」

「・・・彼の仕業ね」

 戸惑うシェイド達をよそに、ディーファは豪快に笑い続けた。


 シェイドとクリスはお互い顔を見合わせた。

 しばらく見た目合うと、それからほぼ同時に赤面し、やはり同時に顔を背けた。

 ディーファの指摘により、過剰にお互いを意識してしまったせいだった。

 そしてその度にディーファがしつこく絡み始め、シェイド達をうざがらせる。

 だからシェイド達もケンカをやめ、黙々と仕事を始めるのだが、ディーファがまたしつこく絡み始める有り様だった。


「なるほど、なるほど。色恋沙汰も面白いものだなあ」

 そう話すディーファは何故か威張っていた。

 自分自身の事など棚の奥底に放り投げての発言だが、当の本人はまるで気付いていない。

 そんたディーファに対し、シェイドとクリス、そしてイリスまでもが露骨に目を背け始めていた。


 そんな事があり、当初の張り詰めた空気もなくなり、と言うよりはそれどころではなくなっていた。

 そしてイリスを加えた被害者3名達は、早く逃れるため迅速に作業を終わらせたのだった。


 後日、アレフがクリスに拉致され、それはもう物凄い説教を喰らうのだが、まあくだらない余談としておこう。

次は5月29日更新予定です。

ブックマーク、感想を頂けるととても嬉しくてモチベーションが上がります。

是非ともお願いします。

次は少し重くなる話のため、力を入れて書く必要があるため少しお時間を頂きます。

どうかご容赦を。

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