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白き星に祈りを込めて  作者: ななしとせ
第6章 赴くは仲間と共に
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第39話 古きモノと人

 ディーファが見守る先、アレフとファティアとが対峙していた。

 いつもの自然体で朗らかに笑うファティアに対し、何故かアレフの表情は明らかに緊張していた。


 両者が見つめ合う中、先に切り出したのはファティアの方だった。

「こんにちは外宇宙から来た異邦人さん。私はファティア、ディ-の姉さ。彼女が色々とお世話になったそうだね。感謝するよ」

「・・・私はアレフ・バンデット、初めまして(ワカツ)モノよ」

「へえ・・・外の世界では知れ渡ってるのかな」

 アレフの言葉を聞くなり、ファティアは驚きの表情を浮かべた。

「ワカツか、忌まわしい言葉だね。僕達があいつらと同類と考えると虫唾が走る。まあいいや、君とは少し深い話をしたいね」

 いつの間にアレフとファティアとの間を、不安な重苦しい空気が流れていた。


 空気の変化を察し不安に身を強張らせるディーファに、ファティアは陽気な笑顔を向ける。

「ねえディー、少し外してくれないかな?彼と秘密の話がしたいんだ」

「えっ・・・しかし」

「頼むよ」

 懇願する姉の目を見てディーファは一瞬たじろいだ。目の内に剣呑な光が宿していたからだ。



「大隊長、どうかその様に」

 戸惑うディーファがアレフを見つめるが、より戸惑う事となった。

 彼もまた爛々と光る瞳でライファを睨み付けていたからだった。


 このまま両者を引き合わせれば、何かしらの厄介ごとが起こるだろう、ディーファは直感していた。

 しかしあくまで直感、断る理由にはならない。

「分かりました・・・」

 漠然とした不安を感じながらも受け入れるしかなかった。


 ・


 ディーファが離れるなり話を切り出したのは、当然ファティアの方からだった。

 彼女は笑顔だが、その目は笑っていない。まるで獲物を狩る前の品定めだった。


「さて異邦人、どうしてこの世界に来た?目的は何だい?」

 軽い口調だった。

 しかしその内には威圧感があった。瞳は紅く輝き、殺意すら感じられる。


 アレフは何も答えない。首を傾げ考える素振りだけを見せるだけだった。

「とぼけるつもりかい?答えなよ。沈黙は許さないよ。何か言わないと殺すからね?」

「・・・くっ」

 アレフの腰が僅かに曲がった。今の彼には全身を押し潰さんばかりの圧力が掛かっていた。


「それがやり方か。暴力がすべでを解決するとでも思うか」

「実際そうだろう?力があれば大体何でも出来る、創造も破壊もね」

 睨みながら笑うアレフを、ファティアは見下すように笑っていた。


 アレフには凄まじい圧力が掛かっていた。

 魔法術式ではない、未知の方法でだ。

 鍛え上げた者でも耐え難く、常人なら足潰れ死ぬだろう。


 そんな中、アレフは膝を屈さず立っていた。

「理由などない。ただの偶然、成り行きだ。私は古代装置の暴走で別の宇宙に飛ばされた。だから故郷に帰る。それだけだ」

「古代装置に飛ばされた?ああ、ミテの枝族の時空機の事かな?それよりも君、人間にしては大分強いね、色々と」

 平然と立つアレフを、ファティアは関心の表情で見つめた。

「・・・まあいいさ、取り敢えずは信じようか」

「それはありがたいことで」

 そう言ってアレフは笑った。瞳に剣呑な光を宿したまま、獲物を狩る肉食獣の笑いを浮かべていた。

「では、信じて下さりやがりありがとう、と土下座でお礼でもいたしましょうか?」

「あははは、いらないさ。そんなもの何の役に立たないからね。僕が求めるのはね、君がこれ以上勝手をしない事、ただそれだけさ」

「残念ながら、ご希望には応えられそうにありはしませんな。そのつもりもないがな」

 アレフの口調は途中から荒々しく変わっていた。


 その事に気が付いたのか、ファティアが呆れ顔で首を振った。

「僕を傲慢と責めるのなら、先にまず鏡を見る事だね。君も大概だよ。まあ妹への恩もあるし、今は大目に見てあげるけどね」

「時間がないので、手早く願いたい。結局何が言いたい?」

「分かってるだろう?君のような外の存在なんて邪魔なだけなんだ。さっさと消えてくれ」

 言い終えた途端、圧が更に強まり、アレフの全身を押し潰さんとのしかかった。


 この時、ファティアの瞳は爛々と赤く輝いていた。

 ソレはまるで人ではない、いや確実に人ではないナニかだった。

「この戦いが終わるまでは待とう。その後は消えなよ。そうすれば殺さない。優しいだろ、僕は?」

 拒絶を許さぬ絶対的な命令だった。

 しかしアレフは赤い瞳を睨み返すと、笑ったまま首を降った。

「勝手にさせてもらう。どうこう言われる筋合いはない」

「・・・君は本当に強いね。馬鹿だけど」

 ファティアの圧力が一段と強まり、空間が僅かに歪み始めていた。


 彼等の間を音もなく空気が歪む。

 そこは何も立ち入れない。

 圧力と恐怖と、そして狂気に満ちていた。


「抗うのは愚行だよ。破滅と創造、それが僕の名だ。それが理解できないほど阿呆でもないだろう?」

「阿呆だよ、自覚もしている」

 ファティアからの様々な力に、しかしアレフは微動だにしなかった。

「阿呆に伊達、それと僅かな良心、それが私の全て、だから答えは変わらない。言わせるな。そちらこそ、無為な長生きで痴呆になったか?」

「無為それに痴呆だと?この僕が?何も知らないくせにふざけるなよ」

 アレフの指摘に、ファティアの頬がピクリと動いた。

「それは僕達を殺したあのクソどもの事だ。一緒にするな」

 僅かにでも気を抜けば途端に意識を失う程の圧力の下、アレフはなおも平然と睨み続けていた。


「時間がないといったくせに、話を随分と逸らすじゃないか」

 ファティアの表情から笑いが消え、極寒を思わせる無表情へと変わった。

「君のような者達は沢山いたが、皆後悔しながら死んだよ。その行いは無知な蛮勇、勇気とは真逆だ。知ってるかい?それは大罪なんだよ。罪には罰を。蛮勇という罪への罰は、惨めな死だ」

「ではお前達の犯した罪はどうなる?特別だからと罰を免れると?」

「罪ってどっち・・・ちっ、さて一体何のことだい?」

「戯れに人を作り捨てた。加護を失った者達の末路は悲惨だ、滅んだ星を嫌というほど見させられてきた」

「それか。言っておくけど、僕達は捨てていない。捨てるものかよ。この星がこうなったのは元々はあいつらが・・・いや・・・・君が正しい、哀しいほどに。確かに罪だ」

「どうせ償うつもりなどあるまい」

「今は存在する事自体が罰そのものだよ。まあ君の望む償いとは違うかな?」

 ファティアの非情な宣告に、しかしアレフは愉快そうに目を見開き笑った。

「償いは求めない。今は人の世だ。役割を終えたモノなど不要、未来永劫に眠っていろ」

 同時にアレフから凄まじい殺気が発せられた。


 それはかつてアレフが異形体や獣人達に使った、魂縛りと呼ばれる殺気で相手を硬直させる技

 しかしアレフがこの時の発した殺気は、かつての時とは比較にならぬ程に強い。

 襲い掛かる圧倒的な殺気の奔流

 しかしそれを全身に受けてもなお、ファティアは顔色一つ変えず平然としていた。


 互いが互いに不可視の圧力を掛ける中、アレフは平然とした足取りでファティアへと歩き出した。

「アレフ、君はそんなに死にたいのかい?」

「殺せるなら殺せ。その方が好都合、あいつへの良い復讐になる」

 ファティアは歩み寄るアレフの全身を凝視する。

「あいつへの復讐?それは君をそんな身体に変えた奴のことかな?珍しいね、呪いと祝福を二つも受けるなんて」

「どちらも悪魔の呪いだ。そんなものは要らない」

「悪魔?それは理解できない理不尽を押し付けるための想像された概念だ。実在しない」

「つまりお前たちのことだ」

「現実逃避はやめなよ、僕はここにいる。分からないなあ?僕達を呼ぶには、たった一つの言葉で事足りる。君はその言葉を知っているのに、どうして使わない?」

「信じたくないからだ。創造してけれた感謝はあるが、恨みの方が大きい」

「人間が存在するのは僕たちのおかげなんだよ。恩を受けたくせによくも言う」

「どれも押し売りだ。人間など、上司の胡麻すり用としか見ていなかっただろうが」

「はあ?ふざけるなよ」

 徐々に膨らんでいたライファの殺気が一気に弾けた。


 風が消え、音が消える。

 それなのに空気は重く、恐怖の牙がアレフの全身を突き刺す。

「ふざけるしかなかろう。本気にするにはあまりに悪質過ぎる」

「ちっ、否定できないのが悲しいところだ」

 口落ちそうに舌打ちするファティをよそに、アレフは静かに笑っていた。


「誤解するなよ、僕達姉妹はあいつらとは違う。全ての愛をどれ程子供達に注いできた。僕はともかく、姉妹達への侮辱は許さない」

「では、どうしてこの星をここまで追いやった?この白い星のどこに愛がある?」

「・・・痛いところをつく」

 ファティアはアレフを睨みながら激しく歯軋りをした。


「言ったろう?愛していたさ。そのせいで僕達は道を違えた。皮肉なモノだよ、人への愛が僕達姉妹を引き裂いた。それで僕は何もかも失った」

「失った?」

「そうさ失ったよ!姉達に失望し、人間に失望した、もう何もない!何もないんだよ!分かるか?僕達は勝手に全部押し付けられ、そして失敗したからと殺された!ようやく目覚めたと思えば、この星はこんな有り様で、だから姉達とも袂を分つハメになった。僕にはもうディーだけだ!分かるか、この絶望が!」

「それは・・・分かるわけがない」

 これまで強気を通したアレフだが、ここで言葉が詰まった。

「当然だ。分かると答えれば即刻殺していたよ」

「誤解していた。愛がないと言ったことを撤回する」

 そう言うとアレフは頭を下げた。

「胡麻擦り云々は完全な過ちだった。貴方達姉妹を侮辱したことを謝りたい。申し訳なかった」

「・・・許そう。そもそもあいつらの君を誤った考えに導いたのは、間違いなく僕達の同族のせいだからな」

 そう言うと、ファティアは疲れ顔でため息を吐いた。


 突き刺すばかりの殺気はいつの間にか霧散していた。


「潮時だ。少し迷ったけど、やはり君は殺そう。君は知り過ぎている。僕には少々都合が悪い。幾つか妙な祝福を受けてるようだけど関係ない。僕の勝手な都合で悪いが、君を殺す」

 ファティアに少し疲れた笑み浮かび上がっていた。

「長寿の祝福、そして不死の呪いか。掛けたのはあいつか。あの酔狂な大馬鹿か。成る程、大した力だけど、今の僕でもどうにかなくはないな」

「殺してもらえるのか。それは暁光、是非とも願いたい」

「おいおい、つまらないなあ君は。少しくらいは怯えてくれよ」

 ファティアは呆れ顔で大仰に首を振った。


「それなら殺すのはやめよう。君の望みなんか叶えたくない。だから、殺さず苦しめ続けよう。四肢を千切って封印するなり、溶岩に放り込むなり、それでも君は死ねない。さて、どっちが良い?」

「ご立派だな。それもまた愛の形だと言うか。理解に苦しむ」

「理解は求めない。大のために小を殺す。それだけの話だよ。気掛かりなのは、ディーを泣くかせてしまう事かな」

 アレフとファティアは睨み合い、掛ける圧力を極限まで高まっていた。

 彼らの周囲の空間だけが明らかに歪み、殺意に満ちた視線がぶつかり合う。

 この先始まるのは、凄惨な殺し合いだろう。


『駄目だよ、ファティア

 その人は僕の恩人だ』

 少女の声が何処からか聴こえた。


 ・


 アレフとファティアの瞳が同時に見開いた。

 同時に彼らを取り巻く殺気が完全に霧散していた。


「その声は君なのか・・・ラーナ」

 ファティアの全身が震えていた。歯を食いしばる頬は歪み、瞳からは涙が伝い落ちていた。

「ラーナ!ラーナ!何で君の名を言える?君は滅んだのではないのか?それともまだ?いや、君の力は彼の中に。それは滅んだと同じ。何故?」

 何もない空間に問いかけるファティアだが、返答はなかった。

 怒りか焦りなのか、眉間にシワを寄せたファティアは、

 アレフに詰め寄るなり胸倉を掴み上げた。

「答えろ!ラーナに何をした!」

 掴み上げられたアレフは抵抗する素振りを見せず、静かにファティアを見つめていた。

「・・・・アーティアごめん、それが彼女の遺言だ」

「遺言・・・だと」

 答えるアレフの顔は涙を堪える様に歪んでいた。

 まるで激しい痛みを耐えるような、そしてその姿はあまりに弱々しく見えた。


「彼女に何をした!何が起きた!言え!」

「彼女は無力だった自分を後悔していた。何も出来ない自分に絶望していた。私は彼女に頼まれ・・・殺した」

「貴様!」

 その瞬間、ファティアの殺気が再び爆発的に膨れ上がった。

 胸倉を掴まれたアレフは、そのままで何も抵抗しない。ただ哀しそうに笑うだけだった。

「だったら望み通り殺してやる!何度でも!何度でも!」

『止めて!』

 ファティアが小節を振り上げた瞬間、再び少女の声が響いた。


『私が望んだこと。私がこの人の優しさに甘え、この人はそれに応えてくれただけ。いいえ、そのせいで私はこの人を傷付けた。お願い、この人を傷付けないで』


「君は・・・そうか・・・」

 ファティアは胸倉を掴む手を離すと、力が抜けたかのように両膝をついた。

 そしてそのまま両頬に伝う涙を拭い始めた。


「分かったよラーナ、君の願いを無碍にしない」

 ファティアは空を仰ぎ呟いた。

 ありがとう、と声が響いた様な気がした。


 ファティアは立ち上がりアレフを見つめた。

「約束通り、君に手は出さない。好きにするが良いさ。ただし条件付けさせてもらう」

「・・・聞こう」

「妹を、ディーを守れ。それだけだ」

「悪いが別のものしてくれ」

「はあ?」

 即断で断るアレフを、ファティアは怪訝な表情で睨みつける。

「・・・この期に及んでケンカを売ると?僕はもうラーナを泣かせたくないのだけど?」

「それはすでにマリニア様と約束済みだ。条件なら別にしてくれ」

「・・・馬鹿だこいつ・・・頼むから空気を読めよ」

 ファティアは鎮痛な面持ちで頭を抱えた。


「馬鹿で愚かだが、筋は違えないか。成る程、ラーナが甘えたのも分かる気がする。そう言う者達は総じて絶対に裏切らない。だから彼女は君を信用したのか」

「何が信用だ。私は彼女を殺した。裏切ったのも同然だ」

 アレフは再び顔を歪め目を伏せた。

「彼女も酷なことをしたものだ。それが君の傷か・・・今度時間がある時にでもラーナの事を教えて欲しい。疑問もいくつか残ってるしな。嫌なら・・・いや是非とも頼みたい」

「分かった・・・私も誰かに話したかった」

「そうか、では約束だ」

 言い終えるとファティアは自身の部隊の下へと去って行った。


 ・


 ディーファの心配をよそに、アレフとファティアとの話し合いは何事もなく終わった・・・ように見えた

 実際は一瞬即発の殺し合い寸前だったのだが、ディーファ達は何も見えず、何も感じられなかった。



「おいアレフ、ファティアお姉様と何を話した?」

「秘密事項だ。少し休ませてくれ」

 戻ってきたアレフにディーファが聞いたのだが、彼は素っ気なく断ると、疲れた足取りで車の中に戻ってしまった。


「何があったのですかねえ?」

「さあな?それよりもシェイド、直ぐに戻る。それまで待機しててくれ」

「はい?」

 戸惑うシェイドを残し、ディーファはファティアへ走り出した。


「ファティア姉様!」

「どうしたんだいディー、早くしないと遅れてしまうよ?」

 駆け寄るディーファの呼びかけに、ファティアは満面の笑みで振り向いた。

「ファティア姉さま、お願いです!どうかアーティア姉様ともう一度話し合ってください。お二方が仲を違えるなど見ていられません」

 ディーファの切なる願いに、しかしファティアの顔から笑みが消えさった。

「仲違いか。僕はのぞんでにあのだけどね。ただアーティアお姉様とは考えが合わなかった。だから仲が決定的に決裂する前に僕の方が勝手に離れただけだよ。まだ嫌ってはいない。だか心配しないでおくれ」

「心配するに決まってます!」

「静かに。他に聞こえてしまうよ」

 ファティアはディーファの優しく耳元で囁きかけた。

 しかしディーファは寂しく笑うアーティアを思い浮かべ、その瞳を悲しみに曇らせる。

「それでも、お願いです。一度だけでも構いません。アーティアお姉様にお会いして下さい」

「・・・分かったよ」

 ファティアは優しく微笑むと、泣き出しそうなディーファを両腕で優しく抱き締めた。

「他ならぬ可愛い妹の頼みだからね、今度マリニア様に頼んでアーティア姉様に会わせてもらおう」

「ありがとうございます!」

 目を輝かせ喜ぶディーファを見つめるファティアは、目を細めてその頭を愛おしそうに優しく撫でる。

「ライファ姉さんの事も大丈夫さ。きっとあの時・・・昔の姉妹に戻れる。それが夢なんだ。ルティアだっていつか目覚める。だから君も早く・・・」

「早く?」

 不思議そうに見つめるディーファをファティアは力いっぱいに強く抱きしめた。

「いや、今のままで良いんだ。もう少しだけ今のままでいてくれ・・・こんな今でも僕は嫌いじゃないんだ」


 この世の何よりも愛する妹を抱きしめたまま、ファティアは空に輝く銀の星を寂しそうに見つめ続けた。

次は23日の更新予定ですが、その前に20日にプロローグを全部差し替える予定です。

それと逐次これまでの投稿分も改訂予定です。

特に1万字以上の箇所は読みにくいので、前後編で区切り読みやすくしていきます。

ラーナについては、アレフとの話が全部出来ていますので、いずれ近いうちに投稿します。

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