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白き星に祈りを込めて  作者: ななしとせ
第6章 赴くは仲間と共に
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第38話 ファティア

 出発準備を終えた全隊員達が隊庭に集合し、その前にディーファが立っていた。

 普段ならここで作戦の詳細を説明するのだが、今回は簡単な挨拶と説明で済ませ、直ぐに全員を各車両に乗車させ出発させる。

 とにかく今のディーファ達には僅かな時間すら惜しかった。


 ・


 先頭は第一中隊、次いで第二中隊と、ディーファ達の大隊の順で、最後尾は第三中隊だった。


 動き始めた車の中で、ようやくディーファは椅子の背もたれに背中を預け、全身の力を抜いた。

 昨日から一睡もせずに働き続け、ようやく得られたひと時の休憩だった。


 詳細な進路等は既に指示済みで、国境を越えるまではのんびりできるだろう。もちろん異形体の襲撃でもあれば話は変わるだろうが。


 そんなことを考えながらディーファはぼんやりとしていた。

 ふと視線にマリニアの執務館が映った。

 目を凝らすと、窓際に立つマリニアの姿が見えた。

 彼女は寂しそうな顔で手を振っていた。


 その瞬間、ディーファは胸に熱いものを覚え、柔らかく微笑んだ。

 ようやく日が登り始めたが、辺りはいまだに冷たい。

 そんな中の寂しい出隊だったが、それでも今のディーファの心は暖かい。

 彼女には敬愛するマリニアがいればそれで良かった。


 ・


 そんな中、異変は唐突に起きた。

 それは第ニ中隊の出隊し、大隊が隊舎の外に出ようとしていた矢先の事だった。


 突然、隊庭の中心が青く輝き始めた。

 その青い光は円の形で輝くと、やがて複雑な魔法術式を描き始めた。


 この異変にいち早く気が付いたのはディーファだった。

「全車両停止、緊急降車!隊庭に向け警戒体制!」

 ディーファの指示に従い、急停止した全車両から、隊員達が一斉に降車した。


 彼等は即座に小隊ごとに防御隊形に密集すると、ほぼ一斉に全員が武器を構えた。


「各自防御術式詠唱!三は大隊前密集体型!」

 三とは第三中隊で略称で、命令を受けた第三中隊は駆け足で迅速に動き出すと、瞬く間にディーファ達大隊の盾として展開した。


「高密度の魔力、転移だ!油断するな!」

 ディーファが叫ぶ最中、隊庭の魔法術式がさらに眩い光を発し、中から人影が現れ始めた。

 その数はおよそ100、人影は皆ディーファ達と同じく魔力強化体の姿で、そして同じサイカ軍の制服を着ていた。

 目を凝らしたディーファは、先頭に立つ者の顔を見るなり安堵の息を漏らした。良く見知った者だったからだ。


「全員警戒解除だ。安心しろ味方だ。休めのまま待機だ。間違っても攻撃するなよ」

 構えられた銃が一斉に降ろされ、隊員達の緊張の空気が一気に和らいだ。


「やあやあ我が愛しのディー、久方ぶりの姉妹の再会なのに、随分と手荒い歓迎じゃないか」

 先頭の青髪の女性が大袈裟に手を振りながら、ディーファへと歩いてきた。

「大変失礼しました。お久しぶりです、ファティアお姉様」

 突然の姉の訪問に、デイーファは静かに頭を下げた。



 PT・アルマ・アルファ・ファティア

 彼女はディーファ達魔力強化体第一世代の三番目に製造された個体

 つまりディーファの姉にあたる存在

 そして第一都市を守る魔力強化体第一大隊の大隊長だった。


「聞いたよ!何でもスコルプを滅ぼした異形体の討伐に向かうのだってね。心配のあまり駆けつけてしまったよ!」

 ファティアは演技の掛かった口調で言うと、優雅な動きで両腕を広げると、ディーファを力強く抱きしめた。


 ・


 これより少しだけ前の話だった。

 今回の異形体討伐計画では、アレフは参加員に含まれてはいた。

 形上は彼の作戦立案で、しかも今後もフィロの情報が不可欠な以上、アレフの参加は必須だった。


 ところが、今のアレフの立場は微妙だった。

 何故なら彼は獣人部隊を率いる身だが、その編成はまだ終わっておらず、また訓練不足で戦力としては数えられない。


 そのためディーファとしては、彼単独で一時的に大隊編入して連れていくつもりだったが、彼の予期せぬ行動で変更を余儀なくされた。

 アレフが作戦参加希望の獣人達7名を連れて来たからだった。

 これは作戦実行の決定直後、アレフが獣人達の宿舎に下へと赴き、そこでミャオと7名の獣人を選抜してきたのだった。


 アレフの説明を聞くなり呆れたディーファだが、獣人達の参加を何も言わずに承諾した。

 獣人達が足手まといになるかと懸念もしたが、アレフへの信頼がそれを上回っていた。

 彼が連れてきたのだから、何か意味があるのだろうと。


 ところが、流石にアレフを含め8名の増員は想定外で、彼達が乗せる新たな車両が必要だった。

 そのためディーファはこれを第三中隊長マグに任せた。(押し付けたとも言う)

 マグは文句を言いながらも、自身が乗る中隊指揮車を、20名以上乗車可能な大型車へと変更し、全員を乗せることにしたのだった。


 そんな経緯で、アレフは獣人達と共に第三中隊車に乗り込んでいた。

 昨夜から働き詰めで疲れていたのか、揺れ始めた座席の上で目を閉じていた。


 そんな矢先、突然アレフが目を開いた。

「フィロ、状況報告」

『隊庭中心に大規模転送魔法です。予想転送数は102です』

「・・・とうとうお出ましか」

 小声でのフィロの返答に、アレフは不快そうに舌打ちをした。


 その瞬間、隊庭の中心で青く輝く魔法術式が現れた。

「全車両停止、緊急降車!隊庭に向け警戒体制!」

 鳴り響くディーファ緊急降車命令に、アレフは獣人達を促し車から飛び降りた。

 そして直ぐに獣人達に指示を出し、中隊長のマグを守るように展開させると、自身はその先頭で身構えた。


 転送魔法術式の青い光が一段と瞬く輝き、中から沢山の人影が現れた。

 そしてその先頭を歩く青髪の女性に、アレフの瞳がが驚愕に見開かれた。

「青髪か、司るは破壊と再生・・・」

 ギリギリと歯軋りするアレフの肩は、明らかに震えていた。


「フィロ、通信限界距離まで離脱。指示があるまで通信と探査行動を禁止だ。最優先、急げ」

 小声で呼びかけるその声も僅かに震えている。動揺を抑えきれていなかった。

「もし交信が途絶えた場合、賢者の元へ帰れ。報復は考えるな、再調査もだ」

『了解・・・間違いなく相手は人外です。無理はなさらぬように」

 アレフの口ぶりから事の重大性を察したのか、フィロは素直に命令を受け入れ、通信を打ち切った。



 人間の魔力最大値は明確に定められている。

 そして、この最大値は魔力強化体も人間と変わらない。

 どんなに鍛錬しようと、如何なる処置を施そうと、定められた最大値を越えることは出来ない。

 この法則は絶対で、アレフとて越えられない。

 何事も例外はあるのだが・・・


 転送魔法術式の魔力消費量は莫大で、人間では10名が限界とされ、100名以上の大量転送など理論上不可能である。


 そもそも転送魔法術式は転送先指定等の問題で制御が困難で、使える者は極めて少ない。

 アレフですらフィロの演算補助抜きでは、滅多には使わない。それほど非効率かつ困難なのだ。


 それほどの厄介な魔法術式を用い、人間の限界の10倍もの者を転送させるなど、明らかに人間の限界を越えた所業だった。



「人あらざるモノか」

 アレフは超越者の名称を呟くと、青い髪から視線を逸らした。

 視線を合わせてはいけないと感じていた。

 合わせれば、アレは気が付くだろう。

 そうなれば争いになるかも知れず、勝ち目はないだろう。

 視線を逸らした前では、真っ青になった獣人達が恐怖で全身を震わせていた。

「ラーナ・・・」

 いつの間にか、かつて殺した少女の名を呟いていた。


 ・



 ファティア、流石はディーファの姉だけあって、彼女もまた絶世の美女と言えるほど美しかった。


 特徴的な青髪は流れるように光り、肩の高さで切り揃えられいる。

 瞳は切れ長で細く、優美な眉と共に僅かに吊り上がっている。

 顔立ちは中性的でありながらも、女性的に魅力が醸し出される。

 背丈は女性としてはやや高く、それでいて肉付きはやや細い。

 細身の中性的な美女、それが第一印象だった。


 そんなファティアが、今はディーファを抱きしめていた。

「君を助けに来たんだよ」

 彼女はディーファの耳元で囁いた。


「マリニアから要請があったんだ。君の代わりにこの都市の守って欲しいってね。上層部は渋ってたけど、僕が説得して駆けつけたんだ。他ならぬ大切な妹のためだからね」

「あ、ありがとうございます。すいません、苦しいです」

「おおっと、すまなかったね」

 ファティアは腕の中で懸命にもがくディーファを、残念そうな顔で手放した。


 ファティアは名残惜しそうにディーファを見つめていたが、突然視線を外して大空を見上げた。

「あれが翼か、時空すら超えてくれるのかな?」

「あの・・ファティア姉様?空に何かあるのでしょうか?」

「なんでもないよ。不思議な鳥を見つけてね、ちょっと観察していただけさ。ルティアが好きそうだ」

「不思議な鳥ですか?」

 戸惑うディーファの問いに、ファティアは柔らかく微笑んだ。

「あんな翼なら、ライファが嫉妬に狂うだろうな」

「ライファ・・お姉様が?嫉妬とはどう言う意味でしょうか」

「単なる戯言さ、気にしないで良いからね」

「・・・分かりました」

「ああもうっ!可愛いいなあ!」

 納得できずちょこんと小首を傾げるディーファを、ファティアが再び力一杯抱き締めた。


「ディー!ディー!君は本当い可愛い。このまま持ち帰りたい!」

「あっ、あのファティアお姉様、おやめ下さい!隊員達が見ています」

「構うもんか。僕たち姉妹の絆を見せつけてやれ」

 羞恥に紅潮したディーファは僅かに抵抗したが、ファティアは意に介さず妹を離さなかった。


「ねえ,ディー聞いたよ」

 そんなディーファの耳元に、ファティアが紅く光る唇を寄せた。

「何やら面白い人間がいるのだってね?」

「えっ?」

 ファティアからの耳元への囁きに、ディーファが目を見開いた。

 驚き見上げると、どこか不気味に微笑む姉の顔があった。


 その瞬間、ディーファの背筋に悪寒が走った。

 見知ったはずの姉なのに、何故か違和感を感じずにはいられなかった。


「・・・これは失敗したかな?」

 不安そうなディーファのためなのか、ファティアは僅かに表情を崩し、今度は陽気な笑みを見せた。

「なんでも治癒魔法術式が使えそうだね。しかも外の宇宙から来た異邦人だってね?本当なのかな?」

「!どうしてそれを?」

「マリニア様は隠しているつもりだけどね、噂なんてどうしても広まってしまうものさ」

 疑いを眼差しを向けるディーファに、ファティアは大袈裟に肩をすくめてみせた。


「とは言え、まだ噂だけさ。実際、マリニア様の情報統制はよく出来てるよ。噂を聞いた中央のお偉いさんも、荒唐無稽だって信じてなんてないからね」

「えっ・・・その・・・」

「ねえディー、彼に会わせてよ?大丈夫、少しの間だけさ。どうしても見てみたいんだ、外の存在をね」

 そう言うと、ファティアはさらに強く抱き締めた。

「あっ・・・わかりました。だから離してください」

「おおっと、またまた見せつけてしまったね」

 恥ずかしがるディーファを、ファティアは笑いながら離した。 


 それからファティアは不気味な笑顔で視線を別の場所へと向けた。

 剣呑な光を宿す瞳には、アレフの姿が写っている。

「返答次第では殺すか」

 ディーファに聞こえないよう、ファティアは小さく呟いた。

本当は8000字予定でしたが長すぎると思い、きりの良いところで区切りました。

後半部は次の更新日の17日となります。

今回登場したファティアは、レグルスの呟きで出てきた、彼の部隊を一瞬で焼き払い彼を絶望させた者と同一の存在です。

メインキャラはこれで全部の予定です。

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