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白き星に祈りを込めて  作者: ななしとせ
第6章 赴くは仲間と共に
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第37話 亀裂の兆し

遅れて申し訳ありませんでした。

 まもなく夜が明けようとする頃だった。

 辺りはまだ薄暗く、大気はまだ肌を突き刺すほどに冷たい。


 そんな折、魔力強化体第二大隊の隊舎は怒号が飛び交う喧騒に包まれていた。

 そこでは、叩き起こされた全隊員が急ぎ出動準備を行っていた。


 ・


 眠りが一番深い頃、隊員達は鳴り響く警報で叩き起こされた。

 それが緊急召集命令だと理解するなり、彼等は寝ぼけ眼の頭を覚醒させた。

 これが訓練ではなく、相当の緊急事態と告げられたからだ。


 急いで着替える中、続いて流れる説明で事態を把握する。

 スコルプの壊滅、休眠中の異形体の大量発生、そしてこれを3日以内に壊滅させないとこの都市が危ないこと

 。

 彼等着替え終わる頃には一斉に駆け始めた。

 そこには寝ぼけた者などいない。全員が覚悟を決めた歴戦の精鋭達だった。


 ・


 出隊までにするべき事は多い。

 それに比べて時間は少なく、だから余裕のない彼等は怒号飛び交う中、総出で準備に取り掛かなければない。

 そんな彼等の動きには迷いはない。

 各々がすべき事を無駄なく的確にこなしている。それは日頃からの訓練と経験の賜物だろう。


 分隊長が分隊員達に指示し、使用車両や食料、装備品等の準備と積載を進める。

 小隊長達は中隊室に集まり、中達長伝令から作戦内容の伝達と各々の役割の協議を行う。

 そして中隊長及び中隊伝令は、各中隊長間の車両や隊員等編成の再調整等々である。

 手隙の者などいる訳もなく、皆が最適化された動きで役割をこなしていた。


 とりわけ大隊は大変だった。何しろ人員が極端に少ない。

 それなのに、各隊の準備状況の確認、外部機関との連携要請、今後の行動予定計画書の作成等々である。

 これらを作業を編入間もないイリスを含めた4名で、しかも短時間で終わらせなければならない。


 そんな中、ディーファが本領を発揮していた。

 書類仕事ではポンコツ極まる彼女だが、実働関係の仕事なら有能へと変わる。

 まだ不慣れなイリスを補佐とし、出動準備の指揮、計画書概要の作成を的確に行っていた。

 それでもやはり手は足りない。

 そこで連絡調整等はクリスとシェイド達に一任したが、彼等もまた見事に役割にこなしていた。


 ・


 ディーファに一任されたシェイドとクリスは、薄明るい魔道光が灯る大隊執務室で作業をしていた。

 今の作業は各隊に配る出動計画書の作成だった。


 それもひと段落ついたのか、シェイドは両腕を伸ばし大きな欠伸を始めた。

「クリスちゃ~ん、大隊長殿は?計画書を確認してもらいたいんだけど」

「緩みすぎよ」

 にやけ笑いで凝った肩を揉みほぐすシェイドを、クリスは呆れ顔で睨みつけた。

「大隊長ならマリニア様に大規模術式の受領に行ってるわ。もう少しで戻るはずよ」

「そっか。んで、そっちの進捗はどう?」

「たった今終わったわよ。中隊の方もだいたい終わりね。後はイリス隊員に頼んだ国境警備隊の通行許可申請だけくらいね」

「流石はクリスちゃん」

 ヒュー、とシェイドはわざとらしく口笛を吹き肩を竦めた。

「相変わらず有能だねえ。前回の計画書をちょいと上書きしたけの俺とは違うねえ」

「よう言うわよ、『これじゃあ使えねえ』って計画書をほとんど書き直してたの知ってるわよ」

「はて、そうだっけ?」

「まったく・・・」

 わざとらしくお道化るシェイドを前に、クリスは大きな息を吐いた。



 シェイドは冷め切った飲み干すと、計画書を再度見直していた。万一でも間違いがあれば、生死に関わる事態になりかねない。

「なあ、この討伐、かなりおかしくないか?」

 文字を目で追いながらシェイドが問い掛けた。

「そうね。敵国の都市を制圧した異形体の討伐なんて、下手すれば利敵行為よ。普通ならありえない」

「それもなんだけど、もっとおかしな事があるわけよ」

 シェイドは疑いの眼差しで計画書を睨みつけた。

「今回の件、事前の情報があまりに詳細で、指示も具体的すぎる。異形体の数に、討伐方法、大規模術域の配置までだ。ここまで詳細だと、逆に信憑性が疑わしくなるくらいに」

「そうね。普通なら何ヶ月も前から用意していないと、ここまでの詳細さは無理ね。だけど情報源なら・・・いえ何でもないわ」

 クリスは途中で言葉を途切らせた。


 今回の情報や作戦案を作成したのはフィロなのだが、彼女の存在をシェイド達はまだ知らない。

 フィロの圧倒的な探査能力と計算能力だからこそ、数ヶ月かかる事もほんの一瞬で終わらせてしまう。

 だからこそフィロを知らない者達が、彼女の膨大な調査結果とそこから導かれた綿密な作戦計画を疑ってしまうのも、ある意味仕方ないのだろう。


「情報源だけど、マリニア様の隠密ではなさそうね。多分、別の何か。一応心当たりはあるけど、確定はできないわね」

「・・・確かに心当たりがあるな。どうせアレフだろ、考えたくないけど」

 アレフの名を出した途端、シェイドは不機嫌になっていた。


「クリスはどう思う?」

「・・・アレフさんは宇宙船で他の宇宙から来た。きっととんでもなく高い技術がなんでしょうけど、そんな技術なら都市一つの調査ぐらいは簡単でしょうね」

「気に食わないな。上から目線で見下ろしてやがると。何様のつもりなんだかな」

「あなたの気持ちも分からなくはないけど、神様のつもりはないと思うわよ。もし情報源がアレフさんなら、私達は助けられた形になる。違うかしら?」

「・・・もしそうならな」

 言い終えるなりシェイドは小さく舌打ちした。

「だとしても迷惑な話だよ。前回のボルガンの件と言い今回の件と言い、あいつが厄介ごとを持ち込んでくれやがる」

「気に食わないわね。あなたこそ何様のつもりよ」

 吐き捨てるシェイドを、クリスが氷の視線で睨みつけた。

「今更あなたの人間嫌いをどうこう言うつもりはないの。でも、少なくとも私の前でアレフさんを非難するのは止めなさいな」

「はあ?あいつに気でもあるのかよ」

「はあ?殺すわよ」

 シェイドもまた怒りを込めた視線でクリスを睨みつけると、今度は睨み返したクラスがにじり寄った。


「あなたがアレフさんを嫌うのはあなたの勝手、否定も肯定もしない。けどね、あの人はよくやってくれている。私も何度か助けられて感謝している。だから、あの人の悪口は聞きたくないの、凄く不快よ」

「はあ?なんでだよ、お前もあいつには迷惑を被ったはずだろ!ボルガンの一件の後始末で散々な目にあったのを忘れたのかよ!」

「はあー、分かってないわねえ」

 怒鳴るシェイドを前に、クリスが大袈裟にため息を吐いた。

「本当に悪いのは誰?ボルガンよ。根本から間違ってるのよ、アレフさんは間違いを正そうとしただけ。やり方は過激だったけど、イリス隊員も助かったし、部隊にも良い結果になった。後始末は確かに大変だっけど、私は恨んでなんかいない、むしろ感謝しているの」

「単なる結果論だろ!偶然に決まってる!」

「あなたの目は節穴なの?それとも分からない振り?あの人は間違いなく結果まで全部を見通して行動してた。その後の行動見てれば分かるでしょ?そういう人よ。イリス隊員に勝手に治癒魔法を教えた件もそう。最悪を見越して予防策を取ってくれていたのよ。それでルマイが助かった。偶然ではないわ」

 応えるクリスの声もいつの間にか怒鳴り声に変わっていた。


「偶然に決まってる!」

「そう思いたいのならそうなさい!ついでに言っておくわよ。あなたがいくらアレフさんに愛想よくしてても、そんなのとっくに見抜かれてる!あなたが嫌っていることなんてとう昔にね」

「はあ?俺がそんな間抜けに見えるのかよ!」

「間抜けよ!相手は3000年以上を生きた人間よ。私達みたいな若造の演技なんて通じるない。そんな事すら分からないなんて、ただの間抜け。いいえ、それ以下よ」

「ふざけるな!」

 激昂したシェイドがとうとうクリスの胸倉を掴み上げた。


「そんなに俺を悪者にしたいのかよ!」

「何で分からないのよ!私はアレフさんを悪く言うのは止めろと言ってるだけ。あの人、自分が嫌われてると分かってても、ここに残って力を貸してくれてるのよ。それなのになんで陰口なんて叩くのよ。甘ったれてるんじゃないわよ!」

「あいつは人間だぞ!なんで人間なんかの肩を持つんだ!」

「私は、恩人を邪険にするあなたが許せないだけ!感情任せの勝手な我儘を止めなさい、って言ってるのよ!」

「今更だ!人間なんかクソだ!人間が俺達にした仕打ちを思い出せよ!あいつらはクズだ!だったらあいつも!」

 お互いがお互いの胸ぐらを掴み合い、今にも殴り合いが始まりそうだった。


「止めろ!馬鹿どもが!」

 突然、怒声が鳴り響いた。

 驚くシェイド達が振り返ると、そこにはディーファが立っていた。

 彼女は完全に怒り心頭で、鬼の形相で睨んでいた。


 ・


 ディーファのあまりの怒り様に、興奮していたシェイドとクリスの熱は一気に冷めていた。

 自分達の上官がここまで怒ることは滅多にない。

 それ程のことをしでかしたのだと、ようやく気付かされていた。


「途中から話は聞こえていた。互いの主張は分かるが、今は優先順位を考えろ」

 怒れるディーファの静かな声に、シェイド達は圧倒され何も言えなかった。

 僅かな沈黙が辺りを包んだ。


「シェイド、お前の人間嫌いは知っているし、理解もしている。その考えを改めろとは言わない。だが、その考えを声には出すな。態度でも示すな。心のうちにとどめておけ。人間に知られれば処分される。お前だけでなく、お前の周りも含めてだ。お前はクリスを殺したいのか?」

「・・・申し訳・・・ありません」

 シェイドのか細い掠れ声で答えると、そのままうなだれてしまった。


「クリス、お前もだ。お前の役目は常に冷静であることだと。お前は冷静に全体を観察し、歪みを見つけ調整しなければならない。それがこの有様は何だ?冷静さこと少し頭を冷やせ」

「了解・・・しました」

 クリスは不承不承ながらも頷いた。


「まったく・・」

 ディーファは呆れ顔で自分の席に腰を下ろした。

「説教はここまでだ。文句なら後だ。今はすべきことをしろ」

 シェイド達は不満を隠せない表情のまま、無言で作業を再開したのであった。


その後、部屋での要件を済ま世帯ディーファが退室すると、気まずい沈黙が訪れた、

 結局、出隊準備が終わるまでの間、彼等が言葉を交わすことはなかった。

次は5月14日に更新します。

今回は急な用事で延期しましたが、この次は絶対に守ります。

今回メインのシェイドとクリスのついての蛇足説明を

まあ読まなくてもあまり関係ない設定です。

両名は同じ製造設備で同じ日に生まれた、同施設でほとんど一緒に育った姉妹のような仲ですが、使われた卵子と精子に関係がなく血縁関係はありません。

 クリスに関するあることが切っ掛けでシェイドは人間を憎悪しています。

 逆にクリスは過去の事はあまり気にしておらず、至って冷静に人間を観察しており、主人公やマリニアのように好意的に接する者であれば特に嫌うことはないといった考え方です。

 他にも諸々ありますが、それについてはまた別に機会に。

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