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白き星に祈りを込めて  作者: ななしとせ
第5章 共に在りて
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第31話 思惑

 人は力に惹かれる。

 力とは様々だ。知力であり、筋力であり、権力とであり、いずれも自身を超える力に惹きつけられる。

 惹かれるとは憧れであり、好意であり、時に畏怖となる。


 魔力強化体とて例外ではない。それどころか、常に戦いに身を投じるせいか、敵味方問わず強者に憧れる傾向が大きかった。


 そんな彼等なので、第二大隊内の順位の話題になると必ずと言って良いほど白熱した議論になる。そのせいで殴り合いになる事すら珍しくなかった。


 ・


 大隊で誰が最強か?

 これまでは満場一致で大隊長ディーファだった。

 彼女はこれまで負けなし、反対する者は皆無だった。


 そこから先の順位は意見が別れる、

 大方の意見では、第二位が第一中隊長バレット、第三位がほぼ同数で第二中隊長フラムと第三中隊長マグといった感じだ。


 最近この順位に奇妙な動きがあった。

 アルフの存在だ。

 彼は魔力強化体でない。一応はこの部隊の一員で、第一位のディーファに勝ったらしいが真偽は定かではない。

 しかし彼の訓練を見る限り、相応どころではない実力者なのは間違いない。

 とは言え、彼の強さの詳細で、隊内順位のどこに入るかは誰も答えられない。現状では保留だった。


 ・


 この隊ではもう一つの第一位がある。

 最強を越えた最恐の第一位だ。

 この議論を白熱する事はない。答えは既に決まりきっていて、議論することすら恐ろしいからだ。万一彼女の耳に届こうものなら、壮絶な地獄を味わうことだろう。


 アレフの地獄の訓練、確かにそれも恐ろしい。しかし彼女の地獄とどちらを選ぶかと聞かれれば、きっと悩み抜いた末にアレフの方を選ぶだろう。

 それ程までに、彼等は彼女の恐怖を骨の髄まで刷り込まれていた・・・


 ・


 最恐を前にアレフは屈服していた。

「一体何を考えてるのですか!」

 第二大隊舎に恐怖の声が鳴り響いた。

 それは大隊長伝令クリスの声だった。


 大隊執務室で、アレフは床の上に正座している。

 その前に、鬼の形相のクリスが仁王立ちしていた。 

「何ですか、こんな馬鹿げた申請は?認められるはずがないでしょうが!」

 怒鳴りつけるクリス、その前でアレフは油汗を流しなから縮こまっていた。


 アレフは横で椅子に座るディーファに視線で助けを求めた。

 答えは無視だった。

 視線に気が付いていが、素知らぬ顔で露骨に視線を逸らした。

 下手に助けて巻き添いを喰らうのはごめんだろう。


「どこを見ているのですか?」

 助けを求めたアレフの様子を、クリスは見逃さなかった。

「私を無視とは良い度胸ですねえ?そう言えばこの前壊れた関連資機材について説明がまだでしたねえ?良い機会ですからご説明をして貰えませんか?ええ、今直ぐに」

「いや、あのその・・・」

「あと時間外訓練について会計から問い合わせがありました。これについても説明して下さい。それと・・・ついても。あと・・・」

 そんな責苦が延々と続くのだった。


 勝負にすらならない勝負は、アレフの完全敗北だった。


 ・


 魔力強化体第二大隊大隊長伝令クリス


 伝令の仕事とは部隊間の連絡を伝達する事になる。

 大隊長伝令の彼女の仕事とは、ディーファの命令を各部隊に伝え、また各部隊からの各種情報を整理しディーファに報告することだ。


 しかし彼女の仕事はそれだけではない。


 以前も述べたが、この隊には雑務を扱う専門員がいない。

 基本的にはその手の仕事はシェイドとクリス、そしてディーファ(おまけ)の3名だけで行っている。

 行う仕事は各部隊への連絡調整の他、各種隊内書類の管理、備品の運用管理、日程管理等と隊管理等多岐にわたる。


 本来なら多くの員数を割くべき業務だが、それをクリスはシェイドとの2名だけで完璧にこなしてきた。(ディーファは役に立っていない)

 それを可能にしたのは、彼女の優れた事務処理能力と管理能力をさることながら、それ以上に対人交流能力の優秀さに寄るところが大きい。


 つまり彼女はそれだけ隊員達から頼りにされ、同時に慕われていた。


 この隊の総数は約300名、それほど大きくはない。しかし軍隊という組織上、大隊長のディーファが平隊員と接する事は少ない。

 対して伝令のクリスは、仕事の都合上、全隊員との交流を取っている。

 隊員の顔、名前、所属を覚えるのが必然で、同時に戦闘能力や性格、健康状態等諸々の把握もしていた。


 その結果、彼女は全隊員の手綱を握る存在となった。言わばディーファを表とすると、クリスは影の支配者となっていた。


 しかしそれを嫌う者はいなかった。

 何故なら隊員達は皆少なからず、彼女の世話になり、その優しさに救われてきた恩があるからだ。

 恋愛感情を抱く隊員も決して少なくはない。


 しかし優しいからこそ、怒った時の反動は大きい。

 その怒りに耐えられる者はいない。アレフもまた例外ではない。


 怒った彼女はとにかく怖い。

 理屈抜きで怖い。説明も困難な程に怖い。

 大型異形体でも平然と戦うディーファでさえ、怒ったクリスの前に逃げ出した事は数え切れない。(その度に必ず捕まった)クリスの前では完全に無力だった。


 隊員達への優しさと、しかしそれ以上の恐怖の持ち主

 それこそが最恐の支配者クリスだった。


 ・


 部屋の中は張り詰めた緊張感に満ちていた。

 やはり正座のアレフは、滝のような汗を流しながら恐怖の時をひたすらに耐えていた、

「大体、抗魔法術式付与の大盾50枚など一体何に使うのですか?」

「えっとですね」

 アレフが答えるために見上げるが、一瞬で伏せた。見上げた先には、鬼の形相があったからだ。


 得体の知れない怪物からも逃すに対峙した彼だが、今は心底逃げたかった。

 世界を滅ぼす邪神よりも怖かった。


「アレフさん、何を黙ってるのですか?」

 そんなアレフの動きに気が付いていたのか、クリスのこめかみが引き攣っていた。当然アレフには見えてない。

「いや・・・あの・・・新設の獣人部隊の装備にと思いまして・・・えっと、駄目でございましょうか?」

 異様な圧力に押されたせいか、おかしな敬語になっていた。


「当たり前です!」

 バンっ!とクリスが机を叩く音に、正座のアレフが僅かに跳ねた。何故かディーファも椅子ごと跳ねていた。


「そんな高価なもの、購入できる訳ないでしょうが!隊が干上がってしまいます!」

「すいません、すいません、無知で申し訳ありません。その、あの、それほどに高価なのでしょうか・・・」

「そういう事ですか。これは私が間違っていたのかもしれませんね」

 ひたすらに謝るアレフを前に、クリスは苦々しげに額を抑えた。

「あなたは異邦人でしたね。それなら知らないのも仕方ないですか」

 クリスは肩を竦ませ大きくため息を吐いた。

 その前では脂汗を流すアレフが、ブンブンと頭を降っていた。


「合金製の大楯でしたら安価です。50枚程度なら隊の予備から直ぐにお渡しできます。ですが魔力付与されたものとなると非常に高価になります。隊の予算では10枚も注文すれば破産します」

「それ程でございますか。それでは隊の誰かに魔力付与をお願いは出来ませんか?」

「はい?私の話を聞いてなかったのですか?」

 僅かに緩んでいたクリスの表情が、元の鬼の形相に戻った。

「そんな都合の良い者などいません。魔力付与付与が出来るのは専門の職人だけです。その職人自体も極めて少ないのです。当然、彼等に製造を委託すればとても高価になります」

 優しそうだが絶対に怒っている声を前に、アレフは光の速さで俯いた。


 確かに、少し考えればわかる事だった。

 需要に対して供給が少なければ金額が高くなる。それが希少な魔力付与職人の仕事なら費用は跳ね上がるだろう。

 アレフには付与の希少性の認識が抜け落ちていた。

 しかしそれには理由があった。


「それなら私が加工するしかないか。問題は時間か」

 アレフを独り言のように呟いた。

 希少な魔力付与らしいが、彼自身でそれが可能ではあった。


 アレフが呟く中、クリスの話は続いていた。

「ご希望は全属性への抗魔属性の付与でしたよね?複数属性の付与は、反発したり打ち消されたりするので、そもそも不可能です。常識ですよ?」

「えっと・・・各属性に無属性の緩衝を入れれば複数付与も可能に。その分だけ術式が細密になるが、大楯の大きさならそれほど技術はいらないと思うのですが・・・」

「随分とお詳しいようですね。それではご自身でやってみては如何ですか?」

「あっはい、そうしてみようかと」

「何ですって?」

 その瞬間、クリスの瞳が怪しく輝いた。

「アレフさん、もう一度言ってもらえますか?」

「え?えっとですね・・」

 詰め寄るクリスにアレフは思わずのけぞっていた。

「そのですね、大盾への魔力付与加工を私でやってしまおうかと思いまして。一応経験があるので機材を貸してもらえればなんとか・・・」

「ほうほう・・・それは興味深いですねえ。本当に」

「え、いや、あの・・・」.

 怪しく笑うクラスだったが、硬直したアレフは視線を晒さずにいた。

 その横では頭を抱えたディーファがガタガタと震えていた。


「確認しますが、全属性の抗魔力付与加工ですよね?効果も一時的ではなく、永続的にですよね?」

「あっ、はい。その通りですございます。どうかご許可をお願いします」

「非常に興味深いですね。少し検討してみます」

 アレフの懇願に、クリスは少し考える様子を見せていた。


 ・


 クリスとしては願ってもない話だった。

 検討すると言ったのは交渉の為の嘘だ。

 高度な技術が実質無料で手に入る好機なのだ、見逃すつもりはない。

 幸いにも、何故か怖がっている。適度に脅し・・・説得し、出来るだけ技術を手に入れたい。

 腕の見せ所はこれからだった。

 同時にそれは、アレフの更なる不幸の始まりだった・・・


 ・


「それでですが、ちょ!待ちなさいディーファ!」

 突然クリスが振り返ると、こっそり逃げようとしていたディーファの顔面を鷲掴みにした。


「これからが大事な話なのに、肝心のあなたがいなくてどうするの」」

「あががっ、もげる!もげるから!」

 ディーファは叫び続けた。

 降参する、と持ち上げるクリスの腕を何度も叩くが、彼女を握力は緩まなかった。


「もう逃げないでくださいね?じゃないと砕きますよ、骨」

「やめっ!逃げてないから。用事を思い・・・あいたたた、分かった、分かったから。逃げましたから、離して、お願いですから」

「あら白状しましたね?少しお仕置きが必要かしら?後でお話がありますから、覚悟しておいて下さいね?」

「え?ぐがっ!」

 ゴキュッ!とディーファの顔面から鈍い音が響き渡った。

 もがいていたディーファの動きが止まり、クリスに吊るされたまま垂れ下がっていた。


「申し訳ありません、少しやりすぎましたね」

「あが・・・」

 クリスが手を離すと、解放されたディーファが地面に崩れ落ちた。完全に白目を剥き、口から泡を吹いていた。


「あ、あの、宜しければ治癒魔法術式で直しましょうか?」

「余計な事はしなくて良いですからね、魔力と時間の無駄ですから」

 怯えるアレフに、クリスは満面の笑みで応えた。どう見ても目が笑っていなかった。


「先程のお話の続きをしましょうか。残念ながら大隊長はお休みですので、私の権限で進めさせてもらいます」

「お休み?」

「ええ、お休みですが何か?」

「・・・いえ」

 アレフはディーファの惨状から目を背けた。道連れはごめんだった。


 ・


「教えて下さい。貴方は自身が要求したものをご自分で作れるというのですね?」

 クラスの質問にアレフは無言で頷いた。


 魔力付与加工の技術を得るには、数十年の経験が必要とされる。しかもその技術は部外秘とされる事が大半で、職人の数は少なく増えることもない。

 アレフはそんな希少な技術を持っていた。


「にわかには信じ難いですが、あなたなら分からなくもないですね」

 クリスは呆れる様に呟いていた。

「確認したいのですが、制作には何が必要になりますか?それと期間もです。許可出来るかはそれ次第です」

「・・・まずは作業用の機材か。そんな特殊なものではなく、一般的な精密作業用のもので十分だ」

 クリスの質問にアレフは少し考え込んでから答えた。

 その表情からは先程での怯えは消え、引き締められていた。

「簡素化したものなら、触媒はありあわせで済む。時間も空き時間を使えば、1日一枚は作れるはずだ。慣れれば加工時間も短くなるだろうから、50枚なら一ヶ月でなんとかいける」

「素晴らしい!」

 パンッ!とクリスが手を叩いた。

 その時の彼女は笑っていた。その唇は奇妙に吊り上がり、どう見ても怪しい笑みだった。


「了解しました、許可しますね。整備室をいつでもご自由にお使い下さい。早速必要なものを用意しますので、今日から初めて下さい」

「あっはい・・・え?今日から?」

「そうですよ。力仕事なら筋肉馬鹿・・失礼、バレット中隊長を使って下さい、どうせ暇ですから。何なら死なない程度に実験台にしても構いませんよ」

「えっと、今日からですか?」

「ええ、そう言いましたよ。何か不都合でも?」

 クリスの圧が強すぎる笑顔を前に、アレフのこめかみから冷や汗が流れ落ちていた。

「あっ・・・はい、承りました」

 彼女の抵抗し難い圧力を前に、もはやアレフは降伏する他なかった。


 それからもアレフの尋問は続いていた。

 笑顔のまま話を続けクリスの目は、やはり笑っていなかった。


「治癒魔法術式に魔力付与、素晴らしですね。これからも是非ともこき使い・・失礼、お力を貸して頂きたいのです」

「あの、何やら不安な言葉が聞こえたのですが?」

「気のせいです。それでですね、他にも特殊な技術をお持ちでしたら、是非とも教えて下さいね」

「えっと・・・色々と手一杯で時間がですね」

「是非とも申告して下さいね」

「あっ・・・はい」

 結局、クリスには全く抗えないアレフだった。


 ・


 それは僅かなはずなのに無限に感じられた時間だった。

 そんな無限地獄を乗り越えたアレフだが、これ以上残るつもりなどない。

 だからそそくさと執務室から出ようとしたが、背後からごそりと音が聞こえた。

 どうやら目を覚ましたディーファが起き上がった様だった。

「あら起きたのですか?」

 クリスの声だった。

 彼女の鋭い殺気にアレフの背筋に鳥肌が立っていた。


「ディーファ大隊長、よくお眠りになられてましたね?早速ですが先程逃げようとした事についてお話があります。それと私達に内緒で訓練計画の決裁をマリニア様に通したことについても。他にも色々とありますので覚悟して下さいね」

「まっ待て!待って下さい!」

 ディーファの懇願が聞こえた瞬間、アレフは脱兎の如く逃げ出していた。

 背後からディーファの悲鳴が聞こえたが、決して振り返らなかった。

 そんな勇気などなかった。


 今日も隊内最恐は平常運転だった。



 ・



 それはその日の日没後の、とある隔離された施設の中だった。

 そこは窓がない。四方が壁に閉ざされた扉一つだけ密室だった。


 そこに都市長マリニアは訪れていた。

 目的はディーファの姉、アーティアを問い詰めるためだった。


 マリニアが訪れると、アーティアはいつも静かな微笑みで出迎えた。

 優雅な動作で一礼をしたアーティアだったが、対するマリニアは挨拶もせずに睨みつけていた。

「・・・アーティア、今日来た理由は分かるな?」

「承知しております。マリニア様がご壮健で何よりであります」

「私達の間柄だ、挨拶は不要だ。本題に入るぞ」

 返すマリニアの声はドスの入った低いものだった。

 睨み続ける視線には、明らかな殺意がこもっていた。


「ライファが生きていた。アーティア、お前はそれを知っていたはずだ。何故知らせなかった!」

 マリニアが怒鳴りつけ、それから少しだけ沈黙が支配した。


「確信できなかったからです」

 アーティアは静かな声で言うと、それから寂しそうに微笑んだ。

「ご存知の通り、私達姉妹は魂の奥深くで繋がっています。しかしこの肉体に縛られてから、繋がりは曖昧になったのです。確信が持てない以上はお知らせすべきではないと判断しました」

「戯言だ、そんなに妹を庇いたいか。あの虐殺者を」

「つもりはありません。ライファの考えは彼女だけのもの。私達はもう別の道にいます」

「所詮お前達は・・・いや、分かっていることだな。もう良い、この件については不問、いや忘れてやる」

「ご温情痛み入ります」

「温情?そんなものはない、もう冷めきった」

 丁寧に頭を下げるアーティアの姿に、マリニアは目を細め不快な表情を浮かべた。


「マリニア様、それでライファはどうなったのでしょうか?」

「アメリアに裏切り、獣人達と共に攻めてきた。そして魔力強化体三名を殺害して何処ぞに消えた」

「そうですか。亡くなった方々のご冥福をお祈りします」

「黙れ!お前達の慰めなどいらない!人間を舐めるな!」

 マリニアは美貌を崩すのも厭わず激昂した。

「お前達は何なんだ!そんなに人間が憎いか!そんなに滅ぼしたいか!そんなに!そんなに!」

 マリニアが怒り任せにアーティアの胸ぐらを掴み上げた。

 それに対し、アーティアは抵抗しなかった。ただ悲しそうな顔を伏せ、マリニアの成すがままに任せていた。

「私の望みはこの星の命が紡がれること、それだけです。それはライファも変わりません」

「その命に・・・私達はいないか」

 マリニアは何処か疲れた声を出すと、掴んでいた手をそっと離した。


「アーティア、私とお前は平行線だ、何処までも交わらない。もう干渉してくれるな。それだけが望みだ」

「我が愛しのマリニア、幼かったあなたがここまで育てったことを喜びましょう。同時に悲しくもあります。それでもあなたが愛しい子に変わりありません」

「恩はある、感謝している。だが、それ以上に憎んでいる。お前達を解放するべきではなかった。たとえこの星が滅ぶとわかっていてもだ」

「私は愚かで無力でした。結局私の考えでは道はなかった」

「だからライファが裏切りったと?沢山の隊員達を殺して消えたと!何様のつもりだ!」

「ただの・・・罪を犯した愚か者です」

 答えたアーティアが哀しそうな瞳から、涙がゆっくりと伝い落ちていた。


「私の手札は尽きました。もう何も望めません。静かに朽ち果てるのを待つだけです。あなたの邪魔になる事はないでしょう」

「分かっている、そんな事は分かっていた」

 アーティアの涙を前に、マリニアは明らかに動揺していていた。


「すまなかった・・・アーティア、お前は・・・そなたとライファとに関わりないことは明白だった。そなたを責めたのは私の誤りだった、許して欲しい」

「構いませんよ。マリニア、ライファと私は道を違えました。彼女の考えはもう分かりません。分かることと言えば、彼女の望みぐらいです」

「・・・以前も聞いたな」

 マリニアはいつもの冷たい美貌でアーティアを見つめた。もう動揺は消えていた。

「もう一度聞こう、ライファの望みとは何か」

「全てはディーのため、彼女が全てを取り戻し、本当の名前を呼べる様が彼女の願いです」

 寂しそうに告げたアーティアは微笑みながら涙を流した。

文章の見直しを行うため、次の更新は3月30日となります。

あと2話程隊員達の日常が続き、その後、物語が動く予定です。


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