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白き星に祈りを込めて  作者: ななしとせ
第5章 共に在りて
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第30話 鬼教官アレフ

 正午の少し前のことだった。


 外はまだ寒く、訓練場の霜柱はまだ溶けきっていない。

 そんな芝生の上に若い男女達が倒れていた。


 彼等は魔力強化体第二大隊の隊員達で、皆、例外なくうめき声を上げてのたうち回っていた。

 そんな彼らの様子を冷酷に見下ろすのがアレフだった。


 どう見ても悪魔そのものだった。


「立て!」

 アレフが冷たい声で怒鳴りつけた。

「これが最後だ、立て!さもなければ晩飯抜きだ!」

 彼等はよろめきながら立ち上がろうとするが、疲労困憊のせいか動きは遅い。


「さっさと動け、二列横隊だ!」

 アレフの号令の直後、彼らはよろめきながらもどうにか横二列の形に並んだ。

 彼等の息は荒く、その表情は苦痛に満ちていた。しかしそれ以上に恐怖が強く滲み出ていた。


「休め!」

 僅かに間を置き、真白い隊庭にアレフの号令が響いた。

 即沢に全員が両脚を開き休めの姿勢をとった。


「さて・・・」

 そんな彼等をアレフは不満げに睨みつける。

「七回だ。分かるな?今日お前達が死んだ回数だ。お前達は私に七回殺された。たつた一人に、それも一矢すら報いずにだ」

 それは殺気すらこもる冷たい声だった。


 恐怖に耐えきれず何名かが目を伏せたが、それをアレフは見逃さなかった。

「目を逸らすな!戦場で目を逸らせば死ぬぞ!連帯責任だ!全員屈み跳躍100回だ、やれ!」

 アレフの命令に不満を漏らすものはいない。下手に反抗すれば、漏らせば、どんな恐怖があるか知りたくもないからだ。

 彼らに出来ることは、粛々と与えられた罰をこなすことだけだった。


 ・


 アレフはマリニアから二つの仕事を受けていた。


 一つは、治癒魔法術式の教示

 これはウェネスへの滞在と食料供給の交換条件だった。

 教える相手は、魔力強化体第二大隊の選抜された隊員達で、今目の前で屈み跳躍をしている者達だった。


 もう一つの仕事は、亡命した獣人の管理だった。

 彼等への住居の割り当てや各種配給の調整や連絡等、つまり世話役だった。


 マリニアとミャオとの会談後、アレフは直ぐに獣人達全員と面接した。

 これは個々の性格や個性、好み、要望等の個々の情報収集するためだった。

 次にその情報を基に、獣人達の生活基盤となる編成を行った。


 編成は6名単位で、出来うる限り関係が良好な者同士で組んだ。

 その中から1名を組長として、自身の組の取りまとめや各種連絡等の役割を委任した。

 また獣人全体の代表をミャオとし、優秀と思われた何名かの獣人達を割り当て、彼等に各組長を統率させる事にした。


 これはアレフは一人では管理しきれないと判断した上での、秩序維持や各種連絡の必要事項に必要な時間と労力の効率化のためだった。


 それが昨日の日中の事で、夜にはもう一つの仕事、治癒魔法術式の教示のため、その訓練の計画の作成を始めた。


 設定された訓練期間は15日、これはシェイドとの話し合いで決まった事だ。

 しかし本来治癒魔法術式の習得に15日という期間はあまりに短い。高度な技術と知識が必要なため、本来なら一年をかけてゆっくりと教えるべきなのだ。


 普通なら不可能だ。ならば普通以外の方法を取れば良い。

 そこで作られたのが狂気の訓練計画だった。


 本来なら却下確実な代物だが、アレフはディーファを騙す形で押し通した。

 具体的には、事務処理で力尽きていた彼女を押しかけ、疲れて頭が働かないことを利用し、言葉巧みに騙して許可を取り付けたのだった。


 かくして、翌日から地獄すら生ぬるい訓練のような何かが始まったのだった。


 ・


 訓練開始直後、アレフの目の前で、倒れた訓練生達が苦しみでのたうち回っていた。

 それほ、控えめに見て生き地獄としか言いようもない有様だった。


 差し出された犠牲・・・選抜された訓練生は9名だった。

 各小隊から1名ずつで、内訳は男性6名、女性3名

 彼等に与えられた訓練は、全員一斉、手加減抜きでアレフと戦う事だった。


 そして彼等の戦いは一瞬で終わった。

 単身で徒手空拳のアレフに対し、全力の彼等は完膚なきまでに叩きのめされたのだった。


 勝負か始まった瞬間、彼らの視界からアレフの姿が消え、次の瞬間、ある者が鳩尾突きで肋骨を粉砕され、隣の者が下腿部への蹴りで骨をへし折られた。

 これに魔法術式で詠唱を始めようとするが、後ろからの締め技で意識を奪われた。

 その近くの詠唱を唱えていた者は、喉に突きくらい呼吸困難で昏倒し、拳を繰り出した物は避けられたと同時に肘に関節技を掛けられ逆方向に折られた・・・


 そんな一方的な蹂躙の結果、無傷のアレフが重傷を負った訓練生達を冷たく見下ろしていた。


 この一部始終を魔力強化体全員が見ていたのだが、彼等はほぼ全員皆顔面蒼白でドン引きしていた。


 そのまま重傷者を放置するわけもなく、アレフが治癒魔法術式で治療を始めたが・・・

 背後で怒鳴り声がした。

「なんでこんな馬鹿な訓練許可したのよ!」

「だっ、だずげで・・」

 振り返れば、憤怒で顔面真っ赤に染めたクリスが、訓練を許可した戦犯ディーファの首を締め上げていた。


 ・


 アレフに加虐趣味はない、多分。

 必要だからやったに過ぎないのだろう、そうしておこう。

 訓練の短縮を求められたから厳しいのも仕方ないと考えていた、周りの者がどう思うかは別として。

 問題なのは彼が想定する訓練生の限界値が、世間一番とは天と地の差がある事だった。



 彼がこの様な蛮行・・・行動を取ったのは一応理由がある。

 一番の理由は上下関係を叩き込むためだった。

 治癒魔法術式は命を扱う危険な術式だ、教えを厳守出来ない者には絶対に教えられない。

 訓練員達の態度次第では優しくしても良かったが、訓練を明らかに甘く見ていたので、一番最悪の地獄に叩き落とす事にした。

 拳での絶対服従、経験上、これが一番手取り早く確実な方法だった。


 次の理由が実験台・・・被験者の確保だった。

 治癒魔法術式の行使には、当たり前だが怪我人が必要となる。

 軽い切り傷程度なら自傷で作れるが、骨折等の重傷だとそうもいかない。

 だから訓練員に近接格闘の教えるながら傷を負わせ、それを治癒魔法術式で直す事にした。

 これなら近接戦闘の稽古と同時に、怪我した物達に治癒魔法術式を身を持って教えることができる。

 アレフとしては画期的な訓練方法なつもりだった・・・普通は思い付いても実践はしないのだが。


 そして最後の理由だが、もし仮にだ・・・

 仮に選び抜かれた者がいたとしよう。きっとその者は高い誇りを持っているだろう。

 しかしその者が得意分野で、完膚なきまでに叩きのめされたらどうなるか?

 おそらく誇りは粉微塵に砕かれるだろう。その上身体に耐え難い傷と苦痛を受ければ、心など簡単にへし折れるだろう。


 さて・・・

 もしそんな絶望した者に救いの手を差し伸べたらどうなるだろうか?

 心も身体(骨)も折られた者が、甘い言葉をささやかれ、その上治癒魔法で身体を癒されたらどうなるだろうか?

 もしかしたら心酔してしまうかも知れない。

 なおこれを世間一般では洗脳と呼ぶ。古来より伝わる由緒正しい?人心掌握する方法だ。

 つまりはそう言うことなのだろう。


 心酔すれば痛みなど多少は耐えられるだろう。彼等の地獄は始まったばかりだった。


 ・


 一の訓練は百の座学に勝り、しかし万の訓練は一の実戦に及ばず。

 それが数多の実戦を経験したアレフの信条だった。


 訓練の主な内容は、必要最小限の座学と最大限の格闘の実戦と治癒魔法術式の実践だった。


 そんな彼の指導は苛烈極まった。

 近接戦闘訓練では怪我を前提に容赦なく叩きつぶし、その怪我は訓練者自身に治癒魔法術式で直させる。

 その繰り返しだった。

 もちろん、始めから治癒魔法術式使えるわけもないので、初めの何回かの治療はアレフが行った。その後、訓練生の上達状況を見極めつつ、少しずつ自身に治療をさせるようにはしていた。


 意外だが、教え方自体はかなり親切丁寧な部類だった。

 実践し、そしてそれを分かりやすく説明する。一度教えた事でも、大切なものは何度でも説明した。

 そして教えた事は反復させ、間違っていれば直し、疑問があれば理解しやすく補足説明した。

 一見滅茶苦茶ではあったが、押さえるべきところは押さえてはいた。無茶ではあったが。


 そのせいか訓練が5日を過ぎても脱落者はいなかった。

 それどころか、訓練生達のほぼ全員がアレフも舌を巻く程の速さで成長していた。それは元々優秀だったのが大きいだろう。


 そして5日目の地獄が終わった日には、訓練生達全員が初歩段階の治癒魔法術式を使えるようになっていた。


「そろそろ少し厳しくしても良い頃合いだな。この程度では流石に甘過ぎるな」

「え・・・・」

 そして5日目の訓練終了した時、アレフが呟いた一言に、訓練生達は絶句した。

「明日からは近接戦闘での手加減は止めておく。死にはしないが、内臓破裂ぐらいは覚悟しておけ。心配するな、後遺症は残らないようにしてやる」

「え?あの心配とかそう言う事では・・・」

「今日は解散だ!明日に備えてよく休んでおけよ!」

 そのまま立ち去るアレフを、顔面蒼白の訓練員達は呆然と見送ることしかできなかった。

 そしてアレフの姿が見えなくなった時、彼等は全員その場に崩れ落ちたのだった。


 余談だが、その日の深夜、巡回警備の隊員が、訓練生達が泣きながら治癒魔法術式の特訓する姿が目撃された、らしい。


 次の日から、更に苛烈な訓練が始まったが、幸いに死者はなく、何故か脱落者もなかった。

 これはアレフも訓練達の心身状態を把握し、絶妙に飴と鞭を狡猾に使い分けていたという側面もあるが、やはり訓練生達の精神力の強さが大きいだろう。


 そんな訓練もアレフ曰く「極めて順調」に進み、訓練生達は戦闘時の応急措置、極限環境下での実践訓練、そして治癒魔法術式を転用した特殊攻撃訓練等を順調?にこなしていった。


 そして時は訓練開始から10日が過ぎ、今日へと至る。


 ・


 アレフが、跳躍を繰り返す訓練員を眺めながら、

「まだ死なないな。4歩手前くらいか」

 とかなり物騒な事を呟いていた。


 ふと背後に視線を感じて振り向くと、そこには近寄ってくるシェイドの姿があった。

 一見してにこやかには見えたが、僅かに殺気に似た気配が感じられる。


 アレフは軽いため息と共に頭を描いた。

「少し外す。終わった者から休憩だ」

 歓声を漏らす隊員達を無視し、アレフはシェイドの方へと足を進めた。


「アレフさん、忙しいところすいませんね、少し急ぎの用件が出来ましたので」

 先に切り出したのはシェイドだった。

 やはり無理に作った笑顔のせいか、その頬は僅かに引くついていた。


「問題ない、そろそろ休憩の予定だった。それで用件とは?」

 何故か奇妙な緊張感が漂っていたが、アレフは敢えて無視した。

 今は時間が惜しく、厄介ごとなら早々に片付けたかった。


「そうですか」

 そう言うとシェイドは訓練員達へと視線を移した。

「大分激しい訓練ですが、やりすぎではないですか?」

 シェイドはアレスを半目で睨め付けた。

「生き残らせるためだ。どんなに辛くても、死ぬよりはマシだ」

「そりゃそうなんですけどねえ」

 冷酷な声での返答に、シェイドは露骨に顔をしかめた。

「生き残るために訓練で死んりゃあ、元も子もないんじゃないですか?運良く事故は起きてませんがねえ。何かあってからは遅いんですよ」

 抗議するシェイドの目は、半目から本気の怒りのものへと変わっていた。


 アレフが困り顔で頭を掻いた。

「それが用件か?」

「抗議が半分、残りは訓練内容の変更要請です。訓練期間を五日間延長するので、訓練内容を変更し、もう少しマトモな代物にして下さい。訓練期間が短かくするよう頼んだのは私ですが、流石にこれは許容できません。ですので、最低でも犠牲者が出ない訓練にして下さい」

 そう話すシェイドの口調には、所々でトゲと怒りが表れていた。

「すまないがそれは無理だ。いまさら予定を変えれば、全体に齟齬が生じる」

 睨み付けるシェイドを前に、アレフは平然と首を振った。


「それに犠牲者も出ない。そのための安全対策、初歩の初歩だ。万全の対策を取り、危険の三歩手前で止めている」

「三歩手前どころか、全力で踏み越えてるんですよ!」

「全て想定内だ。本当に踏み越えたのなら、怪我人どころの話ではなくなる。だが現状では誰も死んでいない」

「そんなの結果論、運が良かっただけです!」

 ジェイドが荒げた声を上げた。

「それに内容も厳しすぎるんです。手心ぐらい加えろと言ってるんですよ!」

「要らぬ手心で死んだ者達を星の数ほど見てきた。生き残らせる事こそ命題だ」

「それで殴られ骨を折られ、血反吐撒き散らせと?そんなの陳腐な根性論の押し付けだ!」

 これまで一応は丁寧な言葉で話していたジェイドだが、興奮のせいか荒い言葉になっていた。

「根性などクソ喰らえだ。本当の地獄は根性程度では乗り切れるほど甘くない。必要なのは努力の積み重ねと経験、そして希望だ。私は彼等を偽りの地獄に落とし這い上がらせる。この先、本当の地獄に直面した時でも死なせないためにだ」

 相手の怒りを前に、しかしアレフは動じない。その様子にシェイドは大きく息を吐いた。


 負けを認めるしかなかった。

 自分は興奮し、相手は冷静のまま。まるで駄々をこねる子供とそれをあやす大人だ。

 もちろん子供は自分の方だ。


「・・・分かりました。それでは予定通りでお願いします、絶対に犠牲者なんて出さないようにして下さい」

 シェイドは出来るだけ強く睨みつけた。

 それが精一杯の反撃だが、一矢報いてはいなただろう。

「了解した」

 やはり冷静なアレフを前に、シェイドは疲れきったため息を吐いた。


 ・


「一つ疑問があるが聞いても構わないか?」

 疲労で肩を落とすシェイドに、今度はアレフが尋ねてきた。

「構いませんが、手短にお願いします」

 まさか質問されるとは思わなかったシェイドは、わずかに首を傾げた。


「聞きたいのは、隊全体の訓練についでだ。中隊訓練を見させてもらったが、正規の訓練を受けたようには思えなかった。教導隊などに指導は受けてないのか?」

「教導隊?ああ、訓練を施す組織のことですね。似たようなものはありますけど、訓練を受けたことはありません。あなたが私達を素人の寄せ集めと言いたいのならその通りですね」

 シェイドはめんどくさそうに天を仰いだ。


「ある意味では素人よりよろしくない。正規の訓練を受けるべきだ。訓練の依頼は出来ないのか?」

「可能ですが、つもりはありません。意味がないからです。戦闘能力は私達は彼らよりも上、今更教わることなどありません」

「戦えない老兵からでも学べる事は多い。今からでも依頼した方が良い。例えば訓練時の安全対策だが、これには経験者の指導が必要だ。それ以外にも経験の蓄積がものを言うことは多い」

「その為に訓練教本があるのでは?調べてわかることなら、教えてもらわなくでも問題ありませんよ」

「文字は文字、絵は絵だ。似ていようと実物にはなり得ない」

 不機嫌そうなら答えるシェイドを前に、アレフは考えるように腕を組んだ。


「本当はですね、教官を招いて手ほどきを受けた事はありました。ただ正直役に立たずでしたし、色々問題も起こしたので、丁重にお帰りいただいた経緯があります。なので以降は必要ないと判断し、独学で訓練をしてます」

「それでももう一度依頼するべきだ。独学は時間と労力を無駄に浪費しがちになる。失念していた、始めに確認するべきだった」

 そう答えながら目を細めるアレフに、シェイドはしかめ面で首で振った。


 ・


 3年前に魔力強化体第二大隊は発足した。

 当時の隊員達は皆若く、最年長の大隊長のライファですら15歳、隊員平均年齢は14歳に満たなかった。

 当然、彼等は軍隊としては素人だった。

 ある程度の教養を受けてはいたが、それだけでは軍人は務まらない。

 そのため教導隊により訓練を受けてはいた。


 しかし問題は直ぐに発生した。

 理由は魔力強化体達が優秀過ぎた事だった。

 彼等は肉体能力も魔力も生まれ付き高く、訓練前から教導隊の者達を超えていた。


 教わった事は直ぐに覚えた。それだけなら良いのだが、反復させれると教える側よりも条達してしまっていた。

 覚えるのが早いため、教わる事はすぐになくなった。

 途中から彼等は、自身が教える側を超えたことを悟ってしまい、そこから互いの間に小さな不和が生まれた。


 小さな不和はやがて大きくなり、些細なことから口論となり、口論はやがて暴力となる。

 最終的には教導隊の一方的な私的制裁が発生した、お互いの関係は打ち切られた。


 以降、訓練は魔力強化体第二大隊が独自で考え、運用してきたのだった。


 ・


「失礼を承知で言う。この隊の訓練はまるでなっていない。構成も順序もちぐはぐで、安全対策が不完全だ。これでは必ず重大な事故が起きる」

「・・・」

 言い放ったアレフに、シェイドは何も答えなかった。


「教本はどんな優れていても所詮文字の羅列でしかない。文字と絵では生きた知識が表せない。どこかで大切なことが抜け落ちる。これまで訓練で事故が起きてなかったか?」

「・・・起きました」

 シェイドは悔しそうに目を伏せた。


「何も分からなくて手探りでした。それで危険性を見逃し、死者を出してしまった方があります。その後も安産対策は工夫してきましたが、何回か考えてきましたが、何回か死なせてしまいました」

「教本自体を否定する気はない。それも必要だろう。だが、実際に体感して初めて理解できることは多い。実経験という生きた知識を積み重ねてゆく。そして大事なのは、それらを共有し、次の代にも伝えることだ。しかし途切れたか」

「・・・そうなりますね」

 アレフは両手を組むと目を閉じた。

 それから少し考えると、再び目を開けた。

「時間があれば、教本とこれまでの訓練計画、事故発生記録、それと隊舎の設計図を見せて欲しい。ある程度の助言ができるはずだ」

「全力で遠慮しておきますよ」

 シェイドは首を振った。その表情には嫌悪があり、明らかに拒絶していた。


「この際ですから言わせてもらいます。これ以上部隊に干渉しないで下さい。訓練の件はマリニア様のご命令ですので、仕方なく従っているだけです。思いつくのはご勝手ですが、そこから先は遠慮して下さい」

 再びジェイドの声には怒りが含まれていた。

「そうか」

 しかしアレフはまったく表情を変えなかった。

「気が変わったらいつでも言ってくれ。時間があれば手伝うつもりだ」

「・・・意外ですね。もう少し食い下がると思ってましたよ」

「無理強いしても反感を買うだけだからな。呼び止めてすまなかった、私からの用件はこれで終わりだ」

「そうですか、それでは私はこれで失礼したいと・・・・・・・あっやべ」

 思わずこぼしたシェイドを、アレフは不思議そうにみつめた。


「何かまずい事でもあったのか?顔色が悪いようだが」

 アレフの言う通りで、ジェイドの顔色はみるみる青白くなっていた。

「すいません・・・これを最優先で伝えるべきでした。クリスからの伝言です」

「えっ・・・」

 今度はアレフの顔色が青白く変わる番だった。心なしか全身が小刻みに震えているように見えた。


「・・・く、クリスさんはなんと?」

「えっと・・・」

 アレフとシェイド、彼等は違いに青白く震える顔同士を見合わせた。


「取り敢えず怒ってました。『この追加費用の説明に来い!』とです。早く行ったほうが良いです」

 ジェイドが震え声で答えた。

「・・・く、訓練なので遅くなると伝言を頼めないか?」

 アレフの声もまた震えていた。

「はあ?私に死ねと?」

「確認ですが、クリ・・・あの方はかなりお怒りでございましたか?」

「当たり前でしょうが。今度はいったい何しやがってくれたんですか。怒りの余波を食らった身にもなってくださいよ」

「申し訳ありません」

 いつの間にか攻守と立場が完全に逆転していたが、当の本人達は同様のせいでまるで気が付いていなかった


「これからが本当の地獄です。無事乗り越え下さいね」

 シェイドが微笑んだ。その瞳には本気の同情と哀れみが込められていた。

「骨を拾ってもらえるとありがたい」

「残れば良いですけど、消し炭でしょうねえ」「そうか」

「そうですね」

 何か壮絶な覚悟を決めたアレフと、それを憐憫の情で見送るシェイド

 先程まで対立していた彼等だが、今は互いを気遣う奇妙な空気が生まれていた。


「・・・今日は死ぬには良い日だな」

「ご武運を」

 アレフはジェイドと共に非常に長いため息を吐いた。

 この星に来てから一番深いため息だった。

仕事で時間がなく、文章の練りが足りませんでした。

笑ってください・・・

文章的にかなり不安が残るため、逐次訂正を入れる予定です。


新しい章となりましたが、ここは次の騒動の前のタメとなる日常パートが少し続きます。

説明が続きますが、どうかご勘弁を。


さて余談ですが、主人公が命じた屈み跳躍とは、ジャンピングスクワットとなります。

実際やってみると分かるのですが、まず10回やればで大抵の人が力尽き、20回やればまともに歩けなくなり、次の日は筋肉痛でえらいことになります。

 それを100回命じたのですから、彼の鬼畜ぶりは推して知るべきです。


次は21日更新予定です。

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